24.隙があればサボりたい2
「まだまだあるよ~。見たことも無い魔法もしくは魔道具。例えばイキョウの枷外しとかラリルレのあの壁とか、ソーエンの空を翔るやつとか。まぁ、俺が知らないだけかも知れないけど」
「そうだよ。世界は不思議に満ち溢れてんだよ」
「だよね。俺達相手に手加減できる奴等が使うくらいの魔法やスキルさ。俺が知らないのも当然だ」
「その考えは手加減していること前程の思考だろ」
ここまでキアルロッドが手加減という言葉を使うって事は、コイツの中でオレ達が手加減している事はもう確定のことらしい。もしくは確信とまではいかなくても九十%位はそうだって思ってる。
残りの十%はオレの肯定の言葉を持って補完されるはずだ。
「ま~ね。あくまで俺がそう思い込んでるだけだから。でも、今から言う事だけは事実だよ」
「なにさ」
「あのソーエンの武器。あれはパッと見で分かるくらいに異質なもので、なおかつ強い。あんな高威力の魔力を純粋に打ち出す武器は始めて見たよ」
キアルロッドがちょっとだけ真剣な顔になる。恐らく、相当危険なブツだってことで警戒&心配をしてくれているのだろう。
確かにソーエンの銃はこの世界には無いものだから、この世界の住人が知っているはずは無い。
「気をつけなよイキョウ。貴族達はソーエンがザレイトに勝った理由をあの武器のおかげだって考えて、多分今後、秘密裏に捜りを入れると思う。もしくはもう捜り始めてるかもね」
「………捜られて見つかるようなもんじゃないから別に問題ないけど、仲間のことをこそこそと嗅ぎ回られるのは嫌だな……おっと靴の中に石が。あちゃー、これは時間掛かるわー。ちょっとキアルロッド先行ってて」
オレは唐突にしゃがみこんで、何も入り込んでいない右足のブーツのヒモを解き始める。
もちろん今言った事は嘘だ。このぴったり履いているブーツに石なんて入るはずが無い。
「はいよ。早く取って、追いかけてきなよ」
キアルロッドは素直にオレの言葉を信じてくれて先を走って行く。――様に見えるけど、今までのことを思うとキアルロッドなりに何かを察してくれて、オレから離れていったようにも思えるから、なんとも食えない奴だ。
っと今はそんなことよりも。
「……もしもしソーエン」
「なんだ」
キアルロッドが少し離れたから、オレはボイスチャットでこっそりとソーエンに連絡を入れる。すると、思ったよりも早く応答があった。
今キアルロッドから聞いたことを急いで伝えなければ。
「起きてたか。今キアルロッドからソーエンの銃に付いて忠告を受けて」
「そのことか。解決したから気にするな」
……ん?
「事態解決が早いっすね。どゆこと?」
「朝食を取るために廊下を歩いていた際、怪しい気配を複数感じてな。片っ端から片付けて吐かせた」
「あっ……そぅ。でもまだ他にも」
「安心しろ。その片付けた奴を全員引き連れて王に直談判しに行った。もう問題は無い」
コイツ、自分に降りかかる問題を強引に解決しやがったぞ。
しかも朝っぱらからアポなしで王に直談判とか……。これ大丈夫か?
「別な問題発生したりとかは……してないよな?」
「問題ない。発生したらまた対処すればいいだけの話だ」
「……この件関係全部お前に任せて良い?」
「ああ。任された」
一連の事件発生から解決までを聞いたオレはチャットを切って、丁寧に中を覗いていたブーツを履きなおし空を仰ぐ。
あっちのことはあっち。今は今。そしてこの問題に関してはマジで終わった気がする。
ソーエンだって子供じゃないし、オレが気にしているほど事を大きくしているはずが無い。
オレはそう自分に言い聞かせてまた走り出す。今はただ無心で、キアルロッドに追いつけるように走ればそれでいい。
「よう。……って、どうしたそんなくたびれた様な顔して」
「仲間がな。心強いなって再認識してただけだ……」
「……? いい仲間なんだね?」
ことの成り行きを全く知らないキアルロッドは、疑問の顔を浮かべながらそう言う。
「それはそうだけど……」
いい仲間には違いないけども、良いものにも悪いところはある。
その悪いところが隠れるほど良いところが多いから一緒に居られるんだけど、今回はその悪いところをちら見してしまった気分だ。
ソーエンは物事の考えが、後先考えない直線的な思考回路をしている。だから上手くいくときは上手くいくし、上手くいかないときは事態を最悪まで悪化させるハイリスクハイリターン思考回路だ。
でもよくよく考えると、今回はあの脳筋解決法が最短で一番良い方法だった気もする。そう思うとソーエンはよくやった方では?
朝からのことでマイナス思考になっちゃってたけど、そうだよ、ソーエンは方法はアレだけど早期解決させたじゃん。そう思うことにしよう。
「さっき言った事は肝に銘じておいてくれ。出来る限り、あの武器がソーエン以外に渡らないようにしてもらえると助かる」
キアルロッドは妙に念押ししてくるな。ソーエンの銃はこの世界の外から持ち込んだ物だからどんなに捜りを入れられようと、この世界で見つけられるはずは無い。
それに魔法銃は常人なら一発も撃てないし、物理銃は弾が無いと撃てないから奪われたところで問題は無い。
さらに、ソーエンは銃を常時ボックスに仕舞ってるから奪われる心配が無い。つまり、何の問題も無い。
「何でそんな警戒してんの?」
「俺はね、あの武器が一般に流通すれば世界が変わるって考えてる。もちろんあの試合を見た貴族もね」
「んー、確かになぁ」
キアルロッドの言った事はソーエンの銃に留まらない。今回顕著に魅せたのがソーエンだったからターゲットにされているだけで、オレやラリルレの持っているアイテムや装備だってこの世界からしたら異常なものだ。
「でも大丈夫。あれは魔道具みたいなもんだからおいそれと見つかるようなもんじゃない」
「なら良かった。でも、一応このことはソーエンにも伝えておいて」
「りょーかい」
安心してくれキアルロッド。オレの仲間はもう事態解決を済ませているから。
「あと謝んなくちゃならない事があって、実を言うとね。昨日の試合はさ、王がイキョウ達を試してたんだよ」
「試す? 王が?」
「……イキョウ達が、噂に聞く仮面集団の正体なんじゃないかってね」
普段通りの表情でその言葉を言うキアルロッドの声には、いつもの悠然とした様子が一切感じられなかった。
「仮面集団?」
「知らないの? アステルに住んでるはずなのにそんなはず無いよね。スノーケア様直属、正体不明の仮面集団のことだよ」
キアルロッドは依然として同じ様子で話を進める。
すっとぼけてはみたけど、そりゃ知ってるよ。だって本人だもの。
ソーキス、もとい貪食王騒動の際に、オレ、ソーエン、ラリルレは全力を出すために<仮面舞踏会>と言う、正体を完全に隠すアイテムを使って対処に当たった。一連の事件は、オレとソーエンが死んだこととソーキスのこと以外はそのまま住人の記憶に残っている。
双子に頼んだ記憶改竄は、オレとソーエンが死亡から復活したことと貪食王がカフスの姿になったことについての改竄が限界だったようで、改竄後の記憶はカフスと仮面部隊が貪食王を討伐したというものへと変わっていた。
でも、双子は良くやった方だ。本当に良くやった。そのことに関しては本当に感謝している。
「ほえあー、概要は知ってんだけどな? でも謎過ぎてオレみたいな一般市民からしたら御伽噺にも等しいわぁ。噂ってどんなの?」
オレは噂についてはよく知らない。
ぼろが出ないようにって、わざわざその話関連の話題が出たら避けていたからな。
「仮面集団。その正体はカフス様しか知らず、分かっていることとすれば、未知の武器で強力な連撃を放つ虚無の仮面。生きとし生けるものを癒す微笑の仮面。命を顧みずに自らを犠牲に囮をした嘲笑の仮面、の三人が構成員ってことくらいだね」
未知の武器・強力な連撃。虚無の仮面はソーエンか。
癒す。微笑の仮面はラリルレだな。
最後は……消去法でオレか? いや、誰だよ。見ていた者と本人の心中で乖離があり過ぎんだろ。あんときのオレは不可抗力で追われてただけで何もしてなかったからな?
それに――。
「その何とかの仮面て名前誰が決めたんだ?」
こんな穿ったような名前付ける奴らなんて、あのパーティしか心当たりが無い。でも、まさかあいつ等がそんなほいほい人に話すなんて――。
「絶・漆黒の影ってパーティが付けたんだとさ」
――やっぱりな!! やっぱりあのパーティしかないと思ったよ!!
「なんでも嘲笑の仮面に心を打たれたらしく、今色んなところでこの噂を拡散中だってさ」
あのときだ!! 貪食王に追われてる最中に、厨二言語でオレが喋ったからあの厨二集団はオレを気に入りやがったな!! 情報を集める立場の癖してなに情報拡散させてんだよ!!ふざけんな!!心打たれて拡散するってどういうことだよ!!
「どうしたのイキョウ? 眉間にしわが寄ってるよ?」
「……自分の住んでいる町に付いて知らないことだらけで落ち込んでいただけだ。気にスンナ」
「分かるよ、難しいよな~。俺も王都のこと全部知れたらな~って思うね~……ま、安心してよ。昨日の試合でイキョウ達が仮面の集団じゃないって分かったからさ」
「何を持ってそう判断したんだよ」
そう判断してくれると、カフスとの約束的に助かる。でも、どうしてそう判断したかは知っておきたい。
「分からない。でもなんとなくそう思った。ま、決め付ける証拠も無ければ、否定する証拠も無いからこればかりは感覚だけどね。王も俺と同じ結果を出してたよ」
決定的な証拠が無いから確定は出来ない。だから己の裁量でそう判断した。キアルロッドはそう言った。
……多分これもあの仮面の効果なんだろなぁ。
今分かったことを整理しよう。
<仮面舞踏会>はその場での正体の隠蔽は出来ても、見聞きした者から発せられる情報の隠蔽は出来ない。
例えば、ソーエンの未知の武器と連撃。それは物理銃を用いた連射のことだ。ラリルレだって使用した魔法の効果は噂が流れている。
今は情報の少なさと、恐らく<仮面舞踏会>の効果で、正体がオレ達だって断定する事は出来ないようにはなっているんだろう。
ってことは今後、その見聞きした情報と証拠が、オレ達じゃないって逃げ道が作れないほど外堀を埋められてしまったら、必然的に仮面部隊の正体はオレ達だってことになってしまう。
そんなことになるのは相当な情報が必要なのかも知れないけど、それでも今後のリスクを考えて、必要時以外ではあの仮面は使わないようにしよう。じゃないと、カフスが心配していたように、オレ達に要らん火の粉が降りかかるかも知れない。
「どうしたんだい? 黙っちゃって」
「どうしたらオレ達みたいな奴らが、カフス直属の部隊と勘違いされるんだって思ってな」
こういうときに反射的にいい訳を言える自分の口に感謝しなけりゃな。
要らんところでぼろを出さずに済む。
「スノーケア様直々の書状。そして内容はイキョウ達を庇うような、でも楽しそうな文面。あのスノーケア様がだよ? 疑う理由としては十分だね」
「それだけで?」
「それだけでさ」
あのドラゴン、オレ達以外からはどう思われてんだよ。
これまでの経験でなんとなくは想像できる。偉大なるドラゴン・カフス=スノーケア様は神のような存在で、森羅万象に慈愛の心を持ち、唯一無二の存在としてこの世に降り立った神でおあせられるってところだろ。
全然そんな事は無いのにな。大変だな、あのグルメドラゴンも。
でも、まさかオレの救出の為にしたためて貰った物が疑いの材料になってたとは……。物事ってどう進展するか分からないもんだなぁ。
「ってことはコロロが言ってた、王様が裏で手を回してるってのもこのことに関係してる訳?」
「コロロ、口滑らせてたのね……。ま、そう言うこと。昨日の試合はそのことを調べるために行われたものだから、四騎士には様子見もかねて手加減させるって貴族達には伝えてあるよ」
「マジ? ってことは昨日の試合意味無いじゃん」
「そうでもないよ。貴族様でも盛り上がってたし、素直に子供達を賞賛してたよ」
「それ以外は?」
「……嘘偽り無く言うよ。実際のところ、コロロ、ザレイト、俺は本気を出してその上で負けた。このことを会場で分かっていたのは、四騎士と王様、それとニーアくらいだけどね。でも、そのこと知らなかったとしても、手加減した四騎士に勝ったって評判だけでも絶大なもんだから、今後イキョウ達に表立って手を出すような輩は出ないね。安心していいよ」
キアルロッドは走りながら平然と話す。どうやらキアルロッドには、昨日行った試合でのオレ達の本来の目的を見透かされているようだ。
コイツ、初対面の頃とは似ても似つかないわ。あのときは教会の同行者キアルロッドで、今は王国最強騎士の称号を背負うに申し分ないキアルロッドだ。
「アステルで会ったときみたいな、のほほんとしたキアルロッドはどこ行ったんだ……」
「あん時は単純に気が乗らなかった。それだけさ」
「気分で仕事のクオリティ変えんのかよ、王国最強」
その気持ち分からなくはないけどさ。モチベーションって大事だけどさ。
でも王国最強がそれで良いのかよ。いや、それで良いってことが平和な証拠なのか?
分っかんねぇ。国の事情分かんねぇ。
「まぁ。――――――ね」
ボソッとキアルロッドが何か言ったけど、オレには聞き取れなかった。そして聞かせたくないなら一々聞く必要はない。言いたかったら言え、言いたくないなら言うな、わざわざ含みの有るボソっというならこっちは何も聞かないからな。
「――ははは。それにしても、イキョウが居てくれると走り込みも暇になんないからいいね~」
「真剣にやってよ団長さん」
「やめろよイキョウ、お前にさん付けされんのなんか気持ち悪い。キアルでいいよ」
そう言えば、朝礼のときにスターフがキアルロッドのことをキアルって呼んでたな。
愛称みたいなもんか。キアルロッドって言うよりも口が楽だし、そう呼ばせてもらうか。
「分かったよキアル。で、いいのかよ。騎士団長が走り込みに暇とか言っててよ」
「「「ちっ」」」
えっ、キアルって愛称を呼ぶのも舌打ち案件なのかよ。
「ま、そろそろ暇じゃなくなるか。どう? イキョウが俺を愛称で呼んでも舌打ちがあんまり聴こえなくなったでしょ?」
キアルに言われて気づいたけど、確かにさっきの舌打ちは何だか覇気がなかったな。
「どうしたんだ皆? 舌打ちのし過ぎで口内炎でも出来ちゃったのかな?」
「理由は単純。疲労さ」
「もう? 早くない?」
「「「「「「チッ!!!!!!」」」」」」
「おい、コイツラ団長を愛称呼びされたときよりも自分達が貶されたときの方が舌打ちに元気あったぞ!!」
「皆元気あるね~。俺がケツ蹴るよりもイキョウの言葉のほうが気合入りそうだな。おーい!!皆!! このバンダナが、王国騎士は軟弱だなだってよ!!」
キアルは訓練場全体に響くような大声で、騎士全体に向けて言葉を発する。
「やめろォ!? オレそんなこと言ってねえ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「チッ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」
キアルの言葉は全員からの舌打ちを返礼としてオレに返される。と同時に、騎士全体の進行速度が若干上がった。
「やめてくれない!? オレへの風評被害加速すんだけど!!」
「こりゃいいや」
そう言うと、キアルは爆笑をして腹を抱えながら走る。
その笑いは心底楽しそうで、思わずオレもつられそうになるほど、とても楽しそうだった。その笑顔を見ると、オレもなんだか面白くなって、ついつい一緒になって笑ってしまう――――。
―――――なんて表現すると思うなよ!!
「何がいいんだよ!!あいつら走りながらオレのこと睨んで来んだけど!? お前らちゃんと前向けや!!」
流石は王国騎士。一糸乱れぬ隊列と歩調を保ちながらそれぞれオレに顔を向けて睨んでくる。あの眼光、ヘルム越しにも睨んでるって分かるぞ。
「あーはっはっはっはっは!!」
その騎士の姿を見ながらキアルはひたすら爆笑しながら、オレはそのキアルに文句を言いながら、ひたすらに走り続けた。
ただオレは見逃さなかった。途中から、何故かザレイトの肩にソーキスが乗っていることを。




