23.隙があればサボりたい
晴れやかな空と気持ちいい朝の日差しの中、オレは王城裏のだだっ広い訓練場に立たされていた。なんか学校のグラウンドを思い出すな。
違うところといえば、広場の端々に射撃用の的やダミーの人型があることくらいか。あのダミーってなんて言うんだろ。
オレ達は開始時間ぎりぎりに到着したけど、誰一人として文句をいう者は居なかった。むしろ、子供達には応援するような視線が感じられた。そして文句を言ってないだけで、オレには敵対的な視線向けられていた。
目の前には大勢の騎士。もう何人居るのか分からんわ。こんな大勢居るのに、全体の十分の一にも満たないらしい。この場に居ない奴等は、警備や仕事、僻地に居て参加が不可能とかそういった理由で居ないらしい。
目の前の騎士達。その前に立つようにオレ達は立っている。そして、オレの横には四騎士が並んでた。
部隊毎に短い挨拶をした後、キアルロッドが長々とした話をする。こういうところはやっぱり四騎士なだけあってしっかりとしてるんだな。あと、王国騎士最強なだけあって、キアルロッドは王国騎士団団長だった。初めて知ったよ。
その後にスターフが、オレ達が参加することを全体に伝えた。
王国四騎士なだけあって、スターフは王国騎士団副団長だった。初めて知ったよ。ってかキアルロッド以外の四騎士全員副団長だったよ。初めて知ったよ。
オレ達の挨拶は皆黙って聞いてた。統率の取れたその姿に圧巻だわ。オレならこそこそ話ししちゃうもん。校長先生とかの長話をだるいと思うタイプだからな。
「これより、王国騎士団強化訓練を始める!!」
スターフが気合の入った声を上げ、全体に緊張が走る。
窮屈な空気がより締め付けられて、固体化するんじゃないかって位にぎゅうぎゅうになってる。
オレ達以外はな!!(シアスタだけは緊張していたわ)
なんで皆平然とオレ達を受け入れてんだよ!! いや、子供達を温かく受け入れていることくらい見りゃ分かるが、せめてオレに誰か文句を言ってくれ!! ほとんど全員オレに嫌な視線向けてんじゃん!! 嫌味さえ言ってくれたら、適当な文句をつけて怒った振りしてこの場から去るチャンスが生まれるのにぃ!!
コロロが連れてきたからか、皆忠実に受け入れてるじゃん……ホント統制とれてんなぁ。
だがまだだ。これから訓練さえ始まれば、四騎士から見えないところでオレへのいじめが始まるはずだ。チャンスを狙おう。皆、オレをいじめてくれ。その分全力で反抗してやるから。
「まずは訓練場の走りこみ二十週!!」
スターフの言葉と共に、ザレイトが前に出て、訓練場の外周に沿って走り始めた。……あの巨大な盾を持ちながら。
「マジかよ……」
スピードはそんなに速くないけど、だからこそドシンドシンと聴こえてきそうなその走る姿の後ろを、騎士達は部隊ごとに並んで走り始め列を成す。
その騎士達もフルプレートで各々の装備を持ちながら走っている。
「スターフ、ここは任せてもいいかい?」
「なんだキアル、珍しく走るんだNA」
スターフは訓練だからなのか、口調が少し普通になっている。
「何? 普段は走んないの?」
「そうそう。俺はここで皆に激を飛ばす役割で、スターフは最後尾に付いて皆のケツを蹴り上げんの」
「コロロは?」
「コロロは自由に動いて遅れている奴や協調性の無い奴を注意する」
「一番負担大きいじゃん……」
このまだまだ続く列全体を見んのかよ……。体力お化けってレベルじゃねーぞ。
「人に厳しく、自分にはもっと厳しく。であります」
「志天井知らずかよ……」
「でも、今日の間はコロロは子供達に付いてあげて。ペースはそっちに任せるよ」
「私達だって付いていきます!!頑張ります!!」
ヤル気満々シアスタは、騎士達と同じメニューをこなしたいようだ。
その言葉を聞いた、今オレの前を走っている騎士達はなんか無性に気合が入った気がした。
「だーめ。この後の訓練のときにへばっちゃ意味ないでしょ?」
「でも、皆さん頑張ってますし……」
その言葉を聞いた騎士達は、さっきの奴らよりも気合が入った気がした。
「あいつらは特別製、ってかへばってからが本番。な!! お前ら!!」
「「「「はっ!!」」」」
キアルロッドの言葉に他の騎士が呼応する。
「あいつらが鍛えるのは、限界からどれだけ動けるか。皆自分の限界を知ってるの。君達はまず自分の限界を知るところからだから。そうだね……今日の目標は、自分の限界を知って、少しでも超えてみようってところかな」
「分かりましたキアルロッドさん!!」
「「がんばる」」
「やれたらやる~」
「頼もしいね。頑張れよ若人」
シアスタの気合の入った返事から段々気合が抜けていく返事になっていってたけど、一応はコイツらなりに頑張る気ではいるらしい。
「でも……コロロさんは良いんですか? 多分私達遅いですよ……」
シアスタは不安そうにコロロに問いかける。
「問題ないであります。むしろ、シアスタ殿達が強くなるために力を貸せるならいくらでも貸しましょう!!」
なんていい奴なんだコロロは。オレ以外にはな。
「じゃ、オレもコロロと一緒に――」
子供達のペースに合わせんなら多少は楽になるからラッキー。
「何言ってんだイキョウ。お前は俺と一緒にケツに付け」
「は? もしかして昨日負けたこと根に持ってんの?」
オレは言って後悔した。騎士団全員がオレを睨んでくる。睨むくらいなら直接来てくれよ。
「違う違う。だってイキョウは俺に付いてこれるでしょ?」
「全く嬉しくない信頼をしてくれてありがとう」
スタミナはステータス値に書いてないから、自分がどれくらい動けるかは、数値じゃなくて感覚で判断するしかない。でもまぁ、これくらいなら難なくこなせる。それにオレの装備は軽装だから、他の騎士に比べれば楽なもんだわ。
どうせここでごねたところで結果は変わらないようだし、頃合を見て限界のフリして休もう。
動けると動きたいは違うのだぁ……。走りたくないのに走るのは、肉体よりも心のスタミナの方が消費が多そうだし。オレはオレの心を大事にしたい。
……にしても、何でキアルロッドはこんなにオレを高く評価しているんだろう。
「じゃ、そろそろ行くかな。さっきも言ったけど、コロロは子供達のペース配分よろしく」
騎士達の列はもうほとんど形成されていて、まだ走り始めていない騎士は残り僅かだった。
「はいであります。最初は軽く走って徐々に配分を決めますね」
「はい。よろしくお願いします」
シアスタの返事が終わり、少し経つと騎士が全員走り始め終わったから、オレとキアルロッドはその後ろに付くために走り出す。
「頑張れよーお前らー」
オレは振り向いてひらひらと手を振りながらシアスタ達に言葉を掛けるとそのまま前に向き直る。
「お、余裕だねー」
「まだ始まったばかりだからな」
今に見てろよ。もう少ししたらへばった振りして派手に転んでやるからな。
騎士達の後ろに付いて分かったけど、皆同じ姿勢で一糸乱れずに走っている。
「こうして見ると圧巻だな。全員糸で繋がってんじゃないか?」
「それ褒めてるの?」
「褒めてる。めっちゃ褒めてる」
「そうか、ありがとう。皆、褒められてるよ~」
キアルロッドがそう言うと、前方の騎士達全員から舌打ちが聴こえた。
「王国騎士ガラ悪くない?」
「あれね~、訓練中に体力を一番使わない罵倒の仕方なんだよ。俺も昔は、むかつく激が聴こえてきたときによくやってたな」
「めっちゃ要らん豆知識ありがとな。意外と殺伐としてんな」
「ま、普段はめったに起きないけどね。それにこの罵倒って結構新しいから、昔からこうって訳じゃないんだよ」
「ほえー。めったに起きないこと今起きたけどな」
「ちなみにこの方法ね、俺が発祥」
「騎士団長の教えで最も要らないモノがこれだろ」
「ははは、言うね~」
キアルロッドはご機嫌そうに笑い声を上げる。
なんだろう。他の騎士や貴族はオレに敵対的ってのに、スターフとキアルロッドからは敵意を感じない。ザレイトについては良く分かんない。
「なぁ、キアルロッドはオレをなんとも思わないのか?」
「なんだ、意外と気にしてるんだね」
「気にしてるって訳じゃないけどさぁ。こうも皆敵対的だってのに、当の本人があっけらかんとしてんのが疑問なんだよ」
「昨日も試合が終わった後に言ったけど、俺はイキョウに負けたことを認めてる」
そう。昨日の試合終わった後、オレはキアルロッドから言葉を掛けられた。「気にすんな。過程はどうであれ負けは負けさ」と。そのときのキアルロッドの表情は穏やかで、とても嫌味や皮肉を言っているものとは思えなかったから、本心からそう言っていたと確信している。
「ま、戦う前から負けるんじゃないかなぁって思ってたけど」
その言葉すらもキアルロッドはご機嫌そうに言う。この男、なにがそんなに楽しいんだろう。
「それはいくらなんでもオレを買い被り過ぎだろ」
「いいや? 買い被りじゃなかったけどね~。実際、初撃かわされたしね」
「なんでそんなオレの評価高いの? オレそんな凄いところキアルロッドに見せてないよ?」
「ふーん。凄いところね……まるでまだまだ本気見せてないようじゃん」
キアルロッドが少し楽しそうな顔をする。……楽しいってより嬉しいって感じだな。何がそんなに嬉しいんだ?
「言い方が悪かったわ。評価されるようなことしてないに訂正させて」
「ま、いいけどね。俺がイキョウを高く評価してる理由はね。大雑把に言うと、余裕、身のこなし、手加減、謎の四つかな。説明要る?」
「よろしく」
今後の身の振り方の参考に聞いておこう。ただ走るのも詰まんないしな。
「オッケー。まず、余裕ね。アステルで捕まったときにイキョウは全然取り乱さなかったでしょ」
「結構本気で乱心してたけど?」
「あれでも甘いもんさ。普通教会なんて組織を敵に回したらあんなもんじゃ済まないよ」
それはオレが教会の実態をあんまり把握してないだけだぞ。どでかい組織ってくらいしか認識してない。
「あんな態度で居られるのは余程のバカか、自分が捕まるって分かってたやつだけさ」
オレそれ、どっちも当てはまってんだけど。
「それに、死刑って言われたときも実はそんなにショック受けてなかったでしょ」
「あとで助かるって分かってたからな」
「それでも死刑って言われてあれだけ軽口叩けるなんて、肝が相当据わってる証拠だよ。何か自分に芯が無いとあんなことはできない。それか、死なない奴くらいかな? ってそんなのありえないけどね」
キアルロッドは自分で言って自分で笑う。
その笑ってる方のやつ、正解なんだけど。
「ってかお前その言い方、オレの裁判途中から聞いてたろ」
「聞くどころか扉の隙間からこっそり見てたよ。入るタイミングを見計らってた。そしたらイキョウが枢機卿を殴っちゃうんだもん。あれ苦労したよ~。入るときに、私は今来ました。ここで起きた事は知りませんアピールすんの」
だから入って来た時に、わざとらしく枢機卿を捜してたのか。
大方、枢機卿が殴られたのを見てたのに止められなかった、って言う事実を教会に知られないようにしたんだろう。
「いやもっと早く入って来いや」
「本当はすぐに入る予定だったんだけど、中を見たら面白いことになっててね。つい見続けちゃった」
「オレの裁判はエンタメするために開かれたんじゃないんだぞ」
「まま、捕まえられたしオールオッケーってことで。そそ、それでそんときのイキョウの身のこなし。あれは痺れたねー」
「あの枢機卿殴ったときのか。じゃ、そのまま身のこなしの解説よろしく」
「はいよ。あの動き、どっかで修行でも積んだの?」
「修行……っちゃあ修行かなぁ」
そりゃゲームで死ぬほど戦ったからな、モンスターも人も。負けるたびに、死ぬたびに勝つための試行錯誤を繰り返していたから修行っちゃ修行。
現実でも、まあ、色々あったしな。そのときの経験もあるんだろ。
「だよね。じゃないとあんな無駄の無い動き出来ない」
「言われるほど凄い動きしてないぞ」
「いいや、あれは教えられてすぐに出来るもんじゃないよ。それこそ死闘という経験と場数を踏まないと」
「経験と場数は、確かにトライ&エラーを繰り返したわ」
「いやーでも、本当あれはびっくりした。アステルで見たときや護送中は『弱そうだけど不思議な技持ってる奴』ってくらいにしか思ってなかったからね。重心はフラフラだし肩と腰と脚は脱力してるし、オマケに覇気が無い。武芸の嗜みが無い人でも直感的に分かるくらいにね。でも、教会のあれは驚いたよ。豹変振りが凄い」
重心やらなんやらは散々な評価だな。別に自分を強く見せたい訳じゃないから、どうでもいいけど。
豹変か……。心中は全くもっていつも通りなんだけど、体が勝手にって奴なのかな? オレ、なんかやっちゃいました?
「オレはただいつも通りに目の前の問題を処理しただけなんだが?」
「そんな豹変するほどいっつも問題を起してんの?」
「うーん、半分は間違いじゃないからなんとも返答し辛い」
戦い方は前々から知ってたけど、問題の処理の仕方はこの世界に来て学んだ。というか、目下学習中。
一つ目はバレる前に揉み消す。
二つ目はバレたら観念して謝る。
三つ目はそもそも問題を起さない。
今はこれを胸に抱いて生きてる。
「オレの問題話は今は良い。それより次」
「いつか聞きたいね。で、次は……手加減か。これはイキョウだけじゃなくてソーエンもそうだけど、戦い方の流れがおおらかなんだよね。ラリルレとロロも多分そうでしょ?」
「出た。分かる人にしか分からない表現。出来る奴って抽象的な表現するよな。あとそれ外れだかんな。手加減なんてしてないからな」
キアルロッドの言葉にオレは一瞬ドキッとして、その心臓を落ち着かせるように口を回す。
オレは捕まった日から今日までと、キアルロッドの付き合いが長い。だからキアルロッドがオレのことを理解出来ているのもまだ分かる。でも、他は一昨日に会ったばかり、しかも関わったのはほんの僅かな時間。そして戦いなんて一回しか見てない。なのに、手加減していることをキアルロッドは見抜いていた。恐るべき洞察力。流石は騎士団長の立場に付いている人間だ。
護送中のヤル気の無い姿とは似ても似つかないけど、どっちかって言うとこっちが素なんだろう。
「そうだね、イキョウの言う通り外れてるかもしんない。でも外れてないのかもしれない。こればっかりは、本人の口から聞かないと正解は分からないからね」
「だから外れって言ってんじゃん」
「そういうことにしておくよ。で、四つ目の謎について」
キアルロッドはオレの言葉を流して続きを話し始める。
あ、手加減のターンは終わりなのね。多分、オレがこれ以上口を割らないと思って、話を進めたんだろう。
「なんで手加減してるのかが分からない」
「そういうことにしておいてくれてないじゃん!!」
話題全然終わってなかったわ。




