22.吸性寄生
「夜中にお腹空いてー、でも眠くてー、だから寝ながら食べてたー」
ソーキスは三大欲求の内、食欲と睡眠欲を満たすためにオレのベッドに潜り込んでたらしい。
腹減ったって、昨晩大量のカレー食ったろこいつ。
「てめぇ、またやりやがったな」
現状を見れば考えなくても分かる。コイツまた勝手にオレの魔力をまた吸いやがった。
「だってーお腹空いたんだもーん。それにー、ボクだけじゃないよー」
ソーキスがそう言って布団をもっとめくると……双子が抱き合いながら寝ていた。
「オレのベッド異形が潜みすぎじゃない?」
コイツら人が睡眠と言う無防備な状態に陥ってるときを見計らって魔力を吸いに来るから、布団に潜り込まれたところでまったく気づかない。そのせいでいつの間にかオレの布団はモンスターハウスになっていた。
別にコイツ等への警戒を解いているから気付かないわけじゃない。寝ているから気付かないだけなんだからね!!
「リリム殿とリリス殿に向かって異形と言ったのは見過ごせないのであります」
双子の正体がサキュバスだと知らないコロロは、友達が貶されたと思ったらしく外套を引っ張る力がより強まる。
「あ゛あ゛」
ソーエンが起きたおかげで止まっていた連行は、さっきよりも早い速度で再開されてしまった。
「ソーエン殿、イキョウ殿を少し借りて行くであります」
「好きにしろ。俺は寝る」
「嘘じゃん!!少しじゃないじゃん!!さっき一日って言ってた!!」
もうオレの抵抗する声に反応を示さないコロロは、歩みを進めてじわじわと扉の方へオレを引っ張る。
「くそっ!!最後の足掻きじゃオラァ!! <ロープバインド>!!」
オレは訓練なんてもので貴重な一日を潰したくはない。
だから最後の抵抗をするためにオレは<ロープバインド>を双子へ目掛けて放つ。
「「きゅっ」」
お互いを抱き合って寝てた双子は、そのまま密着するように縄に縛り上げられた。
今回はいつもの敵を拘束するような<ロープバインド>とは違う。あの、マザーファングボアを運んだときのように、オレはロープの端を持ち、そこから伸びているロープは双子を縛っている。つまり、オレを引っ張ればオレの持ったロープのせいで双子も引っ張られるって寸法だ。
「いいのかコロロ、このままオレを引っ張ればあの双子はベッドから落ちるぞ!!」
「最低であります……いくら訓練に参加したくないからって人質をとるなど」
やっぱりな。オレの思ったとおりコロロはお友達ってやつを大事にしている。だからこのままオレを引っ張って双子に怪我をさせるなんてことしたくないはずだ。
勝った!!オレの勝ちだ!! このままごね続けてやる!! そしてオレは穏やかな一日を送るんだ。
「えいっ」
腰の剣を抜いたコロロは、あっさりとオレの持ったロープを切り裂いた。
「お、おみごとでありますっすねぇ」
流石は四騎士。オレの持っていた市販のロープなんて屁でもないらしい。
「あなたに褒められても嬉しくないのでありますよ」
さっきよりも露骨に、コロロの表情には嫌悪が滲み出していた。
「やはり来て正解でした。いざ、訓練へ」
なぜかさっきよりもヤル気……というか殺る気に満ち溢れた声でコロロはオレを引っ張る。
万策尽きた……せめて部屋を出る前に双子の<ロープバインド>は解除しておこう。
解除すると同時にオレは部屋の外へ引きずり出された。ああ、清清しいはずの朝日が今はとても煩わしく感じる。
「おはようございます。イキョウさん」
扉を潜って朝日を浴びたオレを待ち受けていたのは、何故かいつもの装備に身を包んだシアスタだった。何故に?
「あれ? おはよう。なんでシアスタが?」
「私も訓練に参加するからですよ」
「昨日の夜に訓練の事をお話したところ、誰かさんと違ってシアスタ殿は進んで参加したいと言ってくれたでありますよ」
「わがままを聞いてくれてありがとうございます。コロロさん」
「わがままだなんてそんな。私もシアスタ殿と一緒に訓練することが出来て光栄でありますよ」
お互いがお互いを尊敬し合ってる。何て良い間柄なんだ。
「仲良き事は美しきかな」
「イキョウさん、私見てましかたらね」
シアスタがオレをジロリと見てくる。
「なにを?」
「リリスさんとリリムさんを人質に取ったことですよ。よくも私の仲間を!!」
「オレもその範疇に入ってるんですけど!?」
「あんな酷いことするなんて酷いですよ!!」
プンスコと起こるシアスタ。
シアスタは心底お怒りなのか、言葉が酷いことになってる。
「いいのシアスタ」「わたしたちは」「おこってない」「だから」「シアスタも」「おこらないで」
シアスタの怒りが朝にこだまする中、双子は部屋からふよふよと出てくる。
あれ? オレが許される方の立場なの?
「お二人が怒っていなくても私は怒ってるんですよ!!」
双子の言葉を聞いて少し怒りが収まったシアスタだったが、それでもまだ怒っていた。
これは……あれしかないな。
「ほいシアスタ。アメ」
「もーしょうがないですね。私の怒りは独りよがりなのでこれにて納めます」
アメを渡すとシアスタはあっさりと怒りを納めた。
コイツが怒りの分別付く子で良かった。
むしろこのアメが欲しくて怒ってたんじゃないだろうな? いや、それは無いか。友達の為に怒ってたんだしな。シアスタは良い子だな。いい子なんだよな? だんだん自分の心が信用できなくなってきたぞ?
「シアスタ殿、アメを舐めているところ悪いのですが、本当に時間が無いので少し急いで向かうでありますよ」
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫であります。急げば十分間に合うでありますから」
コロロはオレを強引に引っ張り、その後をシアスタが付いて来る。
すると何故か双子とソーキスも付いてきた。
「なんでお前らも来てんの?」
「昨日、コロロさんにお願いしたときにリリスさんとリリムさんも一緒に受けることにしたんです」
「シアスタがいくなら」「わたしたちもいく」
「ちなみにボクはお兄さんのベッドで誘われたー」
オレのベッドでいつの間にか双子とソーキスの密談が交わされていたようだ。
どうやら子供達も一緒に受けるらしい。昨日の試合を踏まえて、子供達なりに強くなろうとしてんのかもな。
「ちなみに私達が参加するならと、コロロさんがイキョウさんを誘うことにしたんですよ」
「ん?」
「そうであります。シアスタ殿の提案で、イキョウ殿の叩き直しを思いついたのであります」
「おや? ってことは、お前らが参加するって言わなきゃオレはまだ寝てられたの?」
「そういうことにはなりますが……なんというか、ぶれないでありますねあなたは」
「うっ!!」
ヤバイ、オレ今怒りそう。オレを訓練に参加することになったのはシアスタ達の言葉が原因だ。でもそれは間接的。悪意を持ってなった結果じゃない。でも、強くなろうとしたシアスタ達の真っ直ぐな志がオレの睡眠を邪魔したって事実に変わりは無い。ダメだ、ここで怒るのは違う。
「ふー、クールクーラークーレスト、冷静に冷静に」
煙草を吸って心をリラックスさせよう。
オレはボックスから煙草を取り出して、<ローヒート>で火をつける。
「魔法が使えるのでありますか」
「まぁな」
ふぃー、引き摺られながら吸う煙草は格別だぜ。
「ならば本日は剣の部と魔法の部の両方に参加できるでありますね」
「……オーノゥ」
煙草を吸っただけで訓練コース増やされた……。もう今日は迂闊に行動するのはやめておこう。
そしてオレは引き摺られながら、今日をどう乗り切るかを考えることにした。




