05.冒険者登録は難しい ★
この都市は広く、大きく分けて北区、南区、東区、西区、中央区の語つに分かれている。と、おっさんは言っていた。便宜上分けているだけで、四方の区は多少違いはあれどもどこも似たような町並みらしい。
中央区は、例の代表の家兼公務員の仕事場の塔と、この町の主要機関が集まっているところだとか。
衛兵の詰め所は北、南、中央区の三つに存在していて、オレ達が捕まっていたのは南区の詰め所だった。
冒険者組合は東区にあると教えてもらえたから、詰め所の入り口でおっさんに見送ってもらった後は町をブラブラしながらのらちくらりと向かっている。
この世界の時間は分からないけど、屋台の人たちが一仕事終えた顔をしながら仕込みを始めているから、頃合としては恐らく昼過ぎくらいだろう。
通りに面している場所はどこもかしこも店舗や露店、屋台が並び活気にあふれていた。目を動かすと角が生えている大男や獣耳が生えてる者などがいて、話の通り人間だけの町ではないんだなってすぐに分かる。
多種多様に合わせるためか主要な道は広くなっているらしい。オレとソーエンの身長は百八十センチちょい位あるのに、それでも見上げてしまいそうなくらい大きい人もいた。
「これをくれ」
「へいよぉ!!」
緑色で一つ目、巨体の男から、ソーエンはフランクフルトらしきものを受け取る。何の肉だとか、どんな名前の食い物だとかは考えないことにしているらしい。
オレとソーエンは長時間の拘束で腹が減っていたから、さっきから適当な屋台を選んでは買い食いを繰り返していた。そのせいで歩みは遅い。
材料や名称を考えても仕方ないので思考は放棄しておく。腹に入れば何でもいいから、細かいことは考えない。
「大将、オレも一本頂戴」
「あいよちょい待ち!!」
オレは大将から、謎の肉の串焼き『名称不明焼き』を受け取って支払いをし、食べながら屋台を離れる。
「やっぱ肉はうめーな、何の肉かは知らんけど。あっ!!」
ジューシーな肉の味を堪能している最中に、手から小気味良い音がした。もう聞き慣れた音になりつつあるけど……やっぱり串が折れてた。
「チッ、またか」
ソーエンもオレに続いて小気味良い音を鳴らし、同じように串を折ってしまう。
「この世界の木は脆いものばかりだな」
ソーエンは苛立ちの目を串に向けながらぼやいていた。
さっきからずっとこうだ。
スープを飲んだ屋台では、飲み終わったら器とスプーンは返却してくれと言われていたのに、木のスプーンを折っちゃった。
店の人は、古くなっていたから弁償はしなくていいよって言ってくれたからセーフ。でも、やっぱお店の人ごめんなさい。
まだ誰にも咎められて無いからセーフ。まだ大丈夫。
「しっかし、飯で銀貨二枚分くらい使っちまうとはなぁ」
銀貨一枚で、普通の生活をしていれば一週間は過ごせる額らしい。この世界の物価や普通の生活は分からんけど、それでも一週間分を一時間足らずで使い切ってしまうのは贅沢なことだっては理解してる。
「俺もそれくらいは使ったな。腹が減っているとはいえ、これほど食に金を使うとは」
オレもソーエンも、元の世界の頃より沢山食べている。
どうやらこの身体は、現実の身体とは違ってとても燃費の悪い肉体らしい。
「ゴミはどうするよ」
「またボックスにでもしまっておくか」
牢屋の中で、煙草の吸殻をどうするか話していた時に気がついたんだけど、ソウルコンバーションテールに存在しないアイテムもアイテムボックスに問題無くしまええた。
だから今はゴミ箱代わりに使っている。
あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら買い食いに買い食いを重ねて、ゆっくりゆっくり大通りを進むこと一時間くらい。
「ようやく冒険者ギルドらしい建物に着いたなぁ……うわぁーお」
とある建物を見て、オレは思わず声を上げる。
おっさんは、冒険者ギルドなら行けば分かると言っていた。
そんなわけあるかと思ったけど、それでもあのおっさんの言うことだからと一応信じて、もし分からなければ通行人に聞こうと思っていた。
でも――。
「本当に行けば分かるとは思わなかったわ……」
似たような町並みの中に、一際でかい建物があった。多分3階建てくらいかな?
そこまではいい。ここまでならただ大きな建物ってだけだ。
…………この牙何? 建物の正面から二本、ドデカイ牙生えてんだけど…?
明らかに、元の世界ではありえないもの主張してくるから、嫌でも眼に入ってしまう。
「何か入りたくなくなってきたわ……ぶっちゃけこえーよ。何考えて建物から牙生やしてんだよ」
もうこれを見ると、凶暴なイメージしかない。建物にも、こんな建物を仕事場所にしている冒険者にも。
「背に腹は代えられない。行くぞ」
「めっちゃ入りたくねぇ……喧嘩とかになったらめんどい……」
「返り討ちにすればいいだけだ」
そう言って、ソーエンが入り口の扉を押して堂々と入って行く。だからオレも仕方なくついていく。
ギルドは、建物の見た目通り中は広く、右手にはテーブルや椅子、向かって奥はカウンターでそのまた奥は事務を行う机があり、左の壁には無数の張り紙がしてある。
広い空間の割りに人はちらほらとしか居なくて、建物の見た目の割りに落ち着いた雰囲気が漂っていた。絡まれたりして問題を起こす心配があったけど、杞憂に終わったのは良いことだ。
オレは冒険者登録の仕方を聞くために、広いカウンターにいる3人いるうちの、一番優しそうで綺麗なお姉さんが座るカウンターへと進む。他意は無い。真ん中だったから一番近かっただけだ。
「すんません。オレ達登録したいんですけどー」
「畏まりました、ご登録ですね」
受付さんは、ぱっと見クールでミステリアスなオレ達を、笑顔のまま対応してくれる。
冒険者って言うくらいだし、こんな風な格好をした人にも慣れているのかな?
「そうそう、よろしくお願いします」
「はい。必要書類をお持ちいたしますので、少々お待ちください」
受付のお姉さんは落ち着いた雰囲気で、後ろの事務スペースから書類を取るために立ち上がる。
後ろ姿を見て気づいたが、綺麗なブロンドの髪が後ろで折り返して束ねられていた。
「初めて生の金髪見たわ。綺麗過ぎて髪で光魔法打てそう」
「腹の中は闇魔法かも知れないがな」
「お前それは失礼すぎんだろ……」
ソーエンの女嫌いはこの世界でも健在か……。
「お待たせしました。文字は書けますか?」
受付さんが奥の事務氏ペースから、紙と羽ペンを持って戻って来た。
文字を書く、かぁ。どうなんでしょ。自分達でも分からない。
言葉も文字も、ソウルコンバーションテールの自動翻訳機能が働いてくれている。この機能は、全世界で幅広く遊ばれる理由の一つを担っているくらいのとんでも機能で、技術は秘匿されているらしい。世界を超えても機能するとは、開発も思っていなかっただろうな。
文字は日本語に変換されて問題無く読めるけど、書くのは日本語でしか行えない。
言葉ではなく、文字での日本語が通じるかどうか、ここで試しに書いてみるか。
「書けるけど、少し言語が違うかもしれない」
「同じく」
「大丈夫ですよ。この都市は様々な方がいらっしゃるので、我々受付は語学が堪能な者が担当しております。どうぞ、ペンと登録用紙です」
「ありがとう」
カウンターに紙が置かれ、続いてペンを手渡される。試しに紙を触れてみると、手触りはザラザラとしていて粗かった。
ペンのほうは羽ペンで、紙の横に置かれたインクに付けてから書くようだ。
まずは名前を書くか。
オレは羽ペンにインクを付けて、紙へと手を運ぶ。
さぁ、翻訳機能よ。どうか翻訳してくれよ――――。
「えぇ……。マジかよ……」
手から聞き覚えのある小気味良い音が聞こえてきて、オレは目を疑う。
名前を書こうと思い、力を込めてペン先を紙に置いた。あくまで普通に当たり前に、いつも文字を書くときのように。だってのに予想外にもペンは無慈悲に折れてしまった。
串といいペンと言い、さっきから簡単に色々折っちゃうけど……これってこの世界のものが脆いってより、他の原因がオレ達にあるような気がしてならない。
「ふむ、緊張しているのか。俺が手本を見せてやろう」
オレがペンを折って困惑している様子を見て、ソーエンは偉そうにペンを取り、そして――パキッっと。
「……チッ」
ソーエンもオレと同じく、名前を書こうとしてペンを折ってしまう。
「あらあら、申し訳ございません。もしかしたら古くなっていたのかも……ちょうど新品がありますので、そちらをお持ちしますね」
受付さんは焦った笑顔をしながら、また奥の事務スペースにペンを取りに向かった。
ホント、すんません……。
「……なあソーエン。オレさぁ、薄々思ってたんだけど」
このペンを折る前から思っていたことがある。薄々、そう、薄々なんだけど、それでも確かに思ってたことがある。
「なんだ」
「これって、オレ達の筋力のせいじゃね?」
そう、オレ達の肉体は今ゲームのときのもの。そしてレベルは、今回の最新アップデートで上がった上限の三百五十には達してないものの、オレは三百二十でソーエンは三百二十一だ。職業的には筋力が高いわけじゃないけど、これだけレベルが高かったら、それなりに筋力は上がっている。
さっきから物を壊す原因になっているのは、もしかしたら強すぎる筋力のせいなのかもしれない。
「力を抜くことを覚えなきゃまずいなこりゃ。今後の生活に支障がでるかもしれない。ってか今出てる、顕著に見え始めてる」
「次は全力で力を抜く」
「全力でするなバカ、無力に行け」
「お待たせしました。今度は新品のペンですのでご安心ください」
戻って来た受付さんは、にっこりしながら代わりのペンをオレ達の前に差し出す。
新品、新品かぁ……迂闊に壊せねぇぞこれ……。
「新品だってよ。分かってるよな?」
「ああ」
オレ達は顔を合わせて頷き、ゆっくりとした所作でペンを受け取った。慎重に、壊さないように。
「……?」
オレ達の様子を見た受付さんは、にこやかながらも疑問も浮かべている。でもそんなこと気にしていられない。
今のオレ達には余裕が無いんだ。向き合うべきはペンであり、他に気を散らせてはいけない。
「まずは……オレから行くぞっ」
「焦るな。落ち着いて行け」
オレはさっきと同じような所作で、でも極力脱力しながらペンにインクを付ける。
「そうだ。いいぞ、そのままだ、やればできる、お前は天才だ」
ありがとうソーエン。お前の応援でオレは羽ばたいていけるよ。
感謝は、言葉ではなく心で行う。言葉を出している余裕は無い。
ソーエンの声援を受けながら、まずはイキョウのイを書くために紙にペン先を置く。
「よし、今お前の手は羽だ、羽ばたかせるんだ。優しく空気を撫でるように」
だんだん何言われているのか分からなくなってきたけど、応援の気持ちは伝わってくる。
分かったよ。オレ羽ばたくよ、ソーエン。羽ばたくとこ見てて♡
応援の気持ちを胸に抱いて、イの一画目を書き始めた……その瞬間――ッ。
「布団が吹っ飛んだ」
ソーエンがめちゃめちゃ下らない駄洒落をぶっこきやがった。
「ップフ」
そして笑ったオレの手には不可抗力で力が入ってしまう。
そのせいで無情にも折れてしまう羽ペン。紙の上を無慈悲に転がるペン先。潰れて染みになったインク。たった一言、たった一瞬で、オレの努力は、いや、無力は水の泡となった。
「お前……マジでふざけんなよッ。緊張しているときにそれはずるいだろ!!」
「すまん。どうしてもちょっかいを出したくなってしまった」
ソーエンはやりきった感を出しながら言う。このおちゃめ親友野郎がよ……。クールぶってぶっきらぼうでトゲトゲしい態度をしてるくせにマインドは男子やろうが……。
「あぁ……新品が……」
「見ろよお前!! 受付さん笑顔で泣きそうになってんぞ!!」
「それは申し訳ないことをした。俺がお前の汚名を返上しよう」
「自分で汚しといて綺麗にしてやるとか何から目線だクソ野郎!!」
しかもお前が申し訳無いとか殊勝な心持ってる訳ねぇだろ!!
「まぁ任せておけ」
偉そうな事をのたまいながら、今度はソーエンがペンにインクを付ける。
「邪魔するなよ」
ソーエンはフードの奥にある目でオレを睨みつけてくる。その様相は真剣そのものだ。その視線だけで人を射殺していまいそうなほどに。
「へいへい、不服だけど一応はな」
オレの返事を聞いてから、ソーエンは視線を戻してペン先を紙につける。
どれ、仕掛けるか。
「力を抜き杉謙信」
「フッ。……ふぅ」
ソーエンは折れたペンを見つめてため息をついた後、こちらに視線を向けて何か言いたそうにしている。
さすが親友。絶対に反応すると思ったぜ、ざまぁみろ。
「おいバカ、邪魔しないと言ったはずだろう」
「言ってませーん、不服としか言ってませーん。一切了承してませーん。そっちの勘違いですぅー」
オレは全身で馬鹿にしたポーズをとり、ソーエンを煽り散らかす。
先にやってきたのはそっちなんだからな!! やり返すに決まってんだろ!!
「喧嘩か」
「上等だァ!! 表出やがれ!!」
オレ達は闘争心を燃やし熱く燃え上がる。もう誰にも止めることは出来ない。たとえこのアステルが火に包まれようがオレ達の争いを止める事は不可能だかんな!!
表に出るためにオレとソーエンが入り口に身体を向け歩き出そうとした。売られた喧嘩は買う。買わなきゃならない。だからギルドの外で決着を付けようとした。けど。
「弁償してください」
その冷たく激しくしかし静かな声に、オレ達の歩みは止められた。
「記入は私が代筆するので、べ・ん・しょ・う・してください」
恐る恐るカウンターに身体を向き直して、受付さんの顔を見る。
……怒っていた。笑顔ではある。でも笑ったままの眼は怒りを向けながらこちらを見ていた。
怖い。この人何か圧が凄い。まだ若いのに迫力が凄い。
「ソーエン、一時休戦。喧嘩は中止。やるべき事をやるぞ」
「……ふぅ、やれやれだ」
受付さんの恐ろしい笑顔を見たオレ達に出来る事は唯一つしかない。怒られたくないオレ達がやるべきことはコレしかない。
「「ごめんなさい(すまん)」」
腰を90度に曲げてお辞儀をしながらの謝罪だけだった。
この件は全面的にオレ達が悪いです。バカをかましました。そんなバカなオレ達には、許してもらえるように謝罪するしか、残された選択肢はありませんでした。
ほんとマジすんませんでした。
そして弁償として提示された金貨一枚を、謝りながら渡した。
弁償すれば許されると思ってたわけじゃないけど、金貨渡してもやっぱり受付さんの怒りは消えていないようで、笑顔が怖い。
その顔に逆らう気なんて一切無い。だから代筆をこちらからもお願いして、名前や年齢など、さっきおっさんから受けたような質問をいくつか答えて紙に書いてもらった。
その最中も、受付さんの言葉や態度はものすごく丁寧だったけど雰囲気が冷たく、まるで尋問を受けているよ気分になった。
ある程度の質疑応答が終わり、次は――。
「レベルはおいくつですか?」
レベルを尋ねられた。
こっちの世界でもレベルってあるのか。でも、この世界の基準が分からないから、正直に答えてもし大騒ぎされると、仲間捜しに支障がでそうだし……。
いや? 大騒ぎしてもらって仲間に情報が届くようにしたほうがいいのか?
んー、でも、逆に低すぎる可能性も捨てきれない。
どうしよう。規準が分からないまま、自分のレベルを公開するのは危なくないか?
でもなぁ、だからと言って隠すと、それはそれで怪しまれそうだし……。
とりあえず正直に答えてみよう。
「三百二十」
「ふざけないでください」
オレの言葉は、受付さんの笑顔で一蹴されました。
少し顔が強張ってる気がする。さっきとはまた違った笑顔だけど、でも顔が強張っている。もしかしてまた怒らせたのか……?
冗談じゃないんです受付さん。だからもう怒らないでください。
「冒険者になりたくてレベルを高く申告する方は今まで多く見てきました。ですが、嘘をついて苦労するのはあなた達なんですよ? 自分の命は大切にしてください。そもそもそんな高すぎるレベル、現実的に考えてありえません」
そしてその顔のまま受付さんは話を続ける。
どうやら適当なことを言っていると思われたらしく、軽く注意を受けました。
「もし自分のレベルが分からないようでしたらこちらで計るので、手を置いてください」
受付さんはそう言いながらカウンターの下から水晶を取り出し、そしてオレ達の前に置いた。
ほえー、この世界は水晶でレベル測るのか。ハイテクだなぁ。
カウンターの上に置かれた水晶は透明で、中心にぼやけた光が揺らめいている。
これで正確な数値を測れるのなら、さっきの三百二十を嘘ではないと証明できるし、さっさと手を置いて証明させてもらおう。
オレは言われた通り水晶に手を乗せ、どうやって表示されるのか気になりながら観察していると、中の光が変化し何かを形作り始めた。段々と光が集まっていき、集まった光は文字のような形態を表す。いや、これは文字じゃない、数字だ。この光達は数字になろうとしているんだ。
蠢く光の集束、そしてそれはオレのレベルを示すことになるだろう。手をかざした水晶は確かに数字を表した。確かにちゃんと数字が浮かんでいた。水晶には……歪んだ20が表示されていた。
……え、なんで?
「イキョウさんのレベルは二十ですね。その年で二十は普通なんですから、嘘を付く必要なんてありませんよ」
困惑しているオレを他所に、受付さんは嗜めるように優しく言ってくれる。
どうやら二十二歳だったら、これくらいのレベルは普通らしい。レベル二十は普通らしい。……おい待ってくれや、正しく表示してくれてないぞこのポンコツ水晶。
数字もなんか歪んでるし、もしかして壊れてるんじゃないか?
……でも、待てよ? オレ達のゲームにおけるレベル三百二十は、こっちの世界ではレベル二十に相当するのか?
そしたらなんて恐ろしい世界なんだ……。
「やべーぞ……ソーエン」
オレは自分が立てた仮説に打ち震えそうになる。
オレ達はとんでもなくハードな世界に来た可能性が……。
「なにがだ」
そういってソーエンが水晶に手を置くと、中の光は二十一という数字を形作った。
「はい。ソーエンさんは二十一ですね」
……ん? なんか仮説に引っかかるものがあるな。
そしてオレは別な仮説が、うっすらと頭に浮かび上がってきた。
「ねえ受付さん。ちなみにこの水晶っていくつまで表示されるの?」
オレは仮説を定説にするべく受付さんに質問をする。
「そうですね……。研究によると、元となったアーティファクトは三百十まで計れるらしいのですが、こちらの量産品三百はまでですね」
オレのレベルは三百二十、そして水晶が現した数字は二十。ソーエンのレベルは三百二十一、そして水晶が現したのは二十一。水晶が表示できる上限のレベルは三百。…………オーバーフローで一周して戻ってきてるじゃん。やっぱりポンコツ水晶で間違いなかったじゃん!!
せめて三百で表示してくれよ!! ってか、その元になったアーティファクトの方で測ってたらオレ達もっとレベルが下がってたじゃん!!
「ソーエン、オレ達これでいいの? 良く無くない?」
「不服だ。だが、俺達が弱くなったわけではない。心底不服だがな」
ソーエンはマジで不服そうな声を出してそう言ってくる。
オレだって不服だよ。出来ることならちゃんとレベルを証明したい。
だから受付さんには異を唱えたかったけど……。でもこれ以上喚いて機嫌を損ねるのはなぁ。不採用になりそうだし我慢しよう。
ソーエンも同じ考えだから受付さんに一切反論してないし。
仲間を捜しながら生きていく上で、これほど好条件の仕事はない。オレ達は冒険者になるしかない。だから受付さんの機嫌を損なってはいけない。
現状、オレ達が下で、受付さんが上なんだ。ここは大人しく言うことを聞こう。このレベルを甘んじて受け入れよう。
「クラスはどうしますか?」
「クラス?」
「はい。ギルドが定めた、陣形の立ち位置みたいなもので、自分の戦闘スタイルや得意分野に合ったものを選択していただきます」
頭を切り替えて、絶対採用して貰えるようにちゃんと話を聞こう。
クラスってのは、説明的にこっちの世界の職業的なものかな?
「何がある」
ソーエンはそのクラスのジャンルについて尋ねるべく、受付さんに質問をした。
そのソーエンの質問を受けて、受付さんはクラスについて丁寧に説明してくれた。内容としては――。
アタッカー:名前通り、敵を攻撃する役割。前衛アタッカー、中衛アタッカー、後衛アタッカーと種類があり、その三種類の内どれかを選ぶ。
タンク:敵をひきつけたり、中衛、後衛を守ったりするパーティの壁役。
レンジャー:索敵や罠解除など、パーティのリスクを減らす役割。
サポーター:回復や支援魔法などパーティの支援を行う役割。
と計6種の中から選ぶ。自分のスタイルと違う役割を選ぶと、クエスト中のや冒険者間でのトラブルの元になるらしく、正しく選べとのこと。
「だったら……オレはレンジャーかな」
「はい、レンジャーですね」
オレの職業的にはそれが一番合ってる。叛徒は攻撃役っていうより、嫌がらせの方面に明るいし。
「俺は中衛アタッカーだ」
ソーエンのビルドならそれ以外無いだろうな。
受付さんはスラスラと、オレ達の言ったことを紙に全部書いてくれる。最初から最後まで全部まかせっきりだった。
書類の代筆が終わると、最後に細かい注意事項と等級についての説明が始まった。
等級は一番下の6等級から始まり、1等級が最高だそうだ。一応ギルドが定めた規定の中に、例外的措置として0等級が存在するらしいが、今のところその例外は現れたことが無いらしい。
「そしてこちらが6等級のプレートです」
説明を終えた受付さんは、そのままシームレスにオレ達へプレートを差し出してくる。
えっ、いつの間にかオレ達のプレートが作られてんだけど……。ずっとオレ達の前にいたよな? 作っている様子なんて無かったぞ?
金属で出来たプレートには紐が通されており、滞在証と同じでネックレスタイプのもの。そしてそのプレートにはオレ達の名前とクラスがしっかりと彫られていた。
「プレートの素材はそれぞれ違っていて、六等級は鉄、五等級は青銅、四等級は黄銅、三等級は銅、二等級は銀、一等級は金となっております。自分の等級以下のクエストはどのようなものでも受けられますが、上は絶対にダメです。これで説明は以上となります。何か質問はありますか?」
これで説明は終ったようだ。
質問かぁ……気になることといえば……。
「ギルドはいつもこんなに人が少ないの?」
「お昼時なのでそう感じてしまうのは仕方ありません。ですが、クエストの受付が始まる朝と完了報告の夕方の時間はすごく込んでいるんです。現在、カウンターには職員が三人しかいませんが、忙しい時間は八人で対応していますよ」
「なるほどなぁ。広いカウンターがスカスカな訳はそういうことだったのか」
ギルドに入ったときから少し気になっていたことが解決した。
「クエストの受付は夕方までしか行っていませんが、完了報告は朝でも夜でも、いつでも対応していますのでご安心を。他には何かありますか?」
他にか……パッと思いつくこととすれば……。
「魔王とかっていたりするの?」
「御伽噺の存在ですよ。まだ冗談をおっしゃるんですか?」
おっと? 受付さんの圧がまた強くなったぞ?
どうやらこの世界にはファンタジーの王道である魔王はいないようだ。てっきりオレ達は勇者的な立ち位置になるべく召喚されたと思ったけど全然違ったらしい。いよいよなんで転移したか分からなくなってきた。
でも今はそんなことより……謝罪をしなければ。
「誠にごめんなさいすんません反省してます。他の質問浮かんだらその都度聞くことにしますので何卒よろしくおねがいします」
「……わかりました。ではクエストはあちらの壁に貼ってあるのでお好きなのを選んで、カウンターに持ってきてください。くれぐれも危険な物は選ばないようにしてくださいね、ダメです、持ってきてもバツしますからね」
受付さんはそう言いながら、クエスト貼り出しの壁を手で指す。
オレとソーエンは素早く一言お礼を言って、逃げるようにクエスト貼り出しの壁へと向かった。
貼り出しの壁はよく見ると、取り付けられた大きなコルクボードに紙がピンで留められていた。
それはもうコルクボードの縁が隠れてしまうくらいにびっしりと貼ってある。遠目からでは石造りの壁に紙がそのまま貼ってあるようにしか見えないほど、本当にびっしりと。
クエストはカウンター側は6等級のものが多く、入り口に近くなるに連れて上がっているとのこと。
オレ達は6等級のクエストが貼ってある場所の前に立ち、どれにするか決めるための話し合いを始めた。
「薬草採取とか簡単そうじゃない?」
「草など全て雑草にしか見えん。却下」
「安全な街道の馬車の護衛」
「護衛の知識は無い。そもそも安全と言っているのに護衛する必要はないだろう。却下」
「街外壁の補修員募集」
「むしろ壁を破壊してしまいそうだ。却下」
その後何度かオレが提案をし、ソーエンが却下する応酬を繰り返す。しばらくしてその応酬が止まるクエストが見つかった。
「ファングボアの討伐? 自動翻訳機能でファングボアって読めるってことは、牙の生えたイノシシって事か?」
「もしそうなら安直な変換だな。そもそもイノシシには牙が生えてるだろう」
「それはそうだけど……異世界だしなぁ。このまま話し合ってても埒が明かないし、これにしようぜ。報酬も美味いし」
1頭につき銀貨五枚と書いてあり、報酬に銅貨が並ぶ6等級のクエストの中じゃ異彩な空気を放っている。でも今のオレ達は金が無い。本格的に金欠という訳ではないけど、現状ではあまりに心もとない。
だったらこれを受けるしかないだろう。
ってことで、美味い報酬のファングボア討伐の紙を剥がしてさっきの受付さんの下まで持っていく。
「これでお願いします。何卒どうか」
なるべく怒らせないように、丁寧に受付さんに渡す。
「はい、こちらのクエストは……あっ」
オレから紙を受け取り、眼を通した受付さんは変な反応をした。それでも笑顔は崩れないあたり、この人はプロだ。プロの受付だ。
「どうした」
受付さんの様子を見かねたのか、ソーエンが質問をする。
「それがですね……ファングボアって足が速く、小回りも利くので捕獲や討伐の難度が高いんです。気性も荒いので、6等級の討伐クエストとしては荷が重いんですよ。加えてこちらのクエストは、討伐証を提示するだけではダメで、丸ごと一頭を納品する必要があるので……運搬にかかる時間や手間、そしてクエスト自体の失敗などを考慮すると、冒険者成り立ての方が初めて受けるクエストとしてはあまりオススメできません」
クエストについて解説をしてくれた受付さんは、続いてこちらがファングボアです、と言ってカウンターの下から本を取り出し、その中に書かれているイノシシの絵を見せてくれた。
マジでイノシシじゃん……。毛が荒々しいのとご立派な牙が生えたイノシシだよ。
「オレ達なら大丈夫だろ」
「そうだな」
なんでそんなクエストの受注対象が6等級に設定されているのかは分からんけど、オレ達二人ならそれくらいどうにでもなる。
「自信がお有りのようですが、決して無理はしないでくださいね。生きて帰ることが冒険者の最優先事項ですから」
オレとソーエンがお互いに確認を取ってると、受付さんからありがたい教訓を受け取けた。
因みにクエスト自体は、ファングボアさえ持ってきてくれれば誰でも換金してくれるそうで、いちいち受注する必要は無いとのことだった。
これって、誰でも受けていいですよってクエストだったのか。
「それと、お二人と同じで本日登録した子が一人、同じ行き先の森へ赴いております。もしお会いした場合には一声でもかけていただけると助かります」
「助かります……?」
「同期のようなものか。声くらいは掛けてやろう」
「んお? そうだな、そうすっか。見かけたら声かけるくらいでいいだろ」
子って言ったし、子供かな? 一人で向かうとか随分勇気あるな。
そんな事を考えながらオレは歩き出し、ソーエンと共に初クエストへ挑むためギルドの扉へ足を進める。
そうだ、色々お世話になったし挨拶をしてから出よう。
扉を開ける直前に足を止め、カウンターへ向きなおす。
「受付さーん!! いってきまーす!!」
オレはギルドホールに響くくらいの大声を出して、ソーエンはお辞儀をして挨拶をする。
「はーい、いってらっしゃい」
手を軽く振りながら答える受付さんからの返事を聞いて、オレ達はギルドを出た。




