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ロング・ロープ  作者:
1/2

出会い

走る、たった一つの目的の為に。頭の中は常に暗く濁っていた。殺意で満たされていた。それで充分、他に何もいらないと彼女は走り続ける。山奥で亀裂を飛び越えようとした時、飛距離が足りず落ちてゆく。何とか掴もうともがくが間に合わない。


「(終われないっ、こんな、こんなところで!)」


「ロング・ロォォォォプ!」


その掛け声と共に光る縄が彼女の腕に巻き付いた。彼女は暗い闇の底へ落ちずにすんだのだ。


「ふぅぅぅ、良かったぁ、間に合ったぁぁ。姿が見えたからその辺危ねぇよって言おうと思ってたらこれだよ」


光る紐を引っ張りあげながら男は言った。引き上げられた彼女は礼も言わずに駆け出そうとしたところを青年が引き止める。


「おいおいおい、ちょいまち。そんなボロボロでどこ行くんだよ。傷は癒しとけぇ?どんな小さな傷だって何を引き起こすか分かったもんじゃねぇんだから」


「・・・先、急いでるから」


「急いでるからって・・・疲れてるから落ちそうになったんじゃねぇの?」


「・・・」


「とりあえず、ここで休むのもなんだしついてこいよ。いい場所知ってんだぁ俺。」


青年はそういうと彼女の是非も聞かずに歩き始めた。・・・確かにここしばらく休むことなく走り続けていた。こんな調子で戦えるわけがない。そう思った彼女は渋々と彼の後を追った。そして着いた先は小さな酒場だった。青年は扉を勢いよく開け、まるで自分の家かのように言った。


「たぁだいまぁ!元気にしてたかお前らぁ!」


「あっ!浩太(こうた)兄ちゃん!おかえり!」


浩太と呼ばれた青年はおそらくここの従業員の子ども達に一瞬にして囲まれた。すると、1人の少年が彼女の存在に気付いた。


「あ!また兄ちゃんが連れ帰ってる!おじさんに怒られるよ?」


「・・・怒る気力すら湧かんわ、呆れたもんだよまったく。」


いつの間にか居た酒場の亭主らしき人物が呆れ顔で浩太を見ていた。店にいた客達も茶化している。


「おいおい、若い姉ちゃん連れ込んでどうしようってんだぁ?浩太ぁ?」


「ここはイチャつく場所じゃねぇんだぜ?」


「うるせぇ!酔っ払い共!この人はさっき助けたの!見て分かる通り傷だらけで服もボロボロだから風呂とか新しい服とか用意してやって欲しいんだ」


「へぃへーい。わかりやしたよ〜」


酒場の亭主は深く長い溜息を吐きながら慣れたように接していた。彼女はそこまでしてもらうつもりで来た訳ではと断ろうとするも、少女が駆け寄ってきて名前を尋ねてきた。


「ねぇねぇ、お姉さんはなんてお名前なの?私はね、春香(はるか)!春に香るで春香!」


「・・・私は、アマネ。」


「どーやって書くのぉ?」


「えっと・・・」


答えようとするアマネの言葉を遮り、亭主が用意が出来たと呼ぶ。少女達はこっちこっちと元気よく彼女の手を引きながら風呂場へと走っていった。付いて行こうとする少年達の首根っこを浩太が掴み、叱る。


「おいおいお前達。ここから先はレディーの花園だぜ?男は待機、というかお前ら仕事があんだろ。さっさと散った散った」


不満げにしながらも少年達は自分の持ち場に戻っていく。数時間後、装いを新たに出てきたアマネは先程とは打って変わって男性陣が見とれる程綺麗だった。


「・・・何よ、ジロジロ見て・・・というかなんで私サイズの服がこんな酒場にあるのよ・・・」


「そいつはな、お嬢ちゃん。この馬鹿が何の考えもなしに俺のとこに助けたやつを見つける度に連れてくるからだよ。毎度毎度そんな調子なもんだから、どうせ今回も連れてくるだろと色々と用意してんのよ。勿論、女もんは俺の嫁さんが用意したがな」


亭主は親指で浩太を指差し、遠い目をしていた。


「誰が馬鹿だよ誰が!」


「・・・店のツケ、そろそろ全部払ってーーー」


「はい!私めは大馬鹿野郎でございます!」


その光景を見てアマネ以外の全員が笑っていた。・・・昔はこういったことで笑っていたような気もしていたのにとアマネは考えに耽っていた。その夜、アマネは酒場で寝床を借りることとなった。


「(兎に角まぁ、出ていくにしても今日は休んでいきな。幸い部屋だけは無駄に多くてな)」


と、亭主に言われたからだ。しかし、本来の目的の為にもここで止まってはいられない。物音を立てないようにそっと扉を開けようとした時、誰かの手によって扉が開けられた。そこに居たのは昼間の少女だった。


「あなたは昼間の・・・」


「アマネお姉ちゃんも眠れないの?」


小さなぬいぐるみを抱きかかえ、眠そうにしながら尋ねる。


「・・・え、えぇ。だからちょっと散歩に出ようかなって」


「夜は危ないって浩太お兄ちゃんが言ってたよ?もし、眠れないなら私が一緒に寝たげる!」


どうやら春香はアマネを心配しているのと同時に独り寂しさに眠れなくなっているようだった。


「・・・・・・そうね。じゃあ、お願いできる?」


「うん!」


明るく頷く春香。その表情を見て、アマネは今日だけは忘れようと思いながら、春香と共に眠るのであった。

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