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なるほど、確かに、宛て先は、星名邦枝様と母さん宛てになっており、差出人は、神出省日本課となっている。
そして読もうとして中を開いたその時、
突然、天井から、ファンファカファン、ファンファフーァンというファンファーレが流れてきて、やわらかな光が部屋に差し込んでくる。
そして、厳かな雰囲気をかもし出しながら、天井に突然開いた光り輝く穴から背中に翼を生やした大きさがちょうど学校の教科書くらいしかないおじさんが突然現れたというか・・・・・・降臨した。
うそでしょ?
ここで、今まで夢中で海老フライを食べていて、まったく僕と母さんの会話に興味を持っていなかった僕の妹であるところの小学六年生 星名美喜も、さすがに驚いたのか、
「うわ、ちっちゃいおじさん出た~~~!」
と言って目をまるくした。
そのちっちゃいおじさんは、いかにも郵便局員という格好をして帽子をかぶっていて、とてもまじめそうな顔をしている。
そして、おじさんは、宙に浮きながら、ゴホンと一回咳払いをすると、
「これより、神出省日本課から、星名邦枝様および星名光伎様へのメッセージをお伝えします」
よく響くとてもよいテノール声で話し出した。
「この度、神の子能力出現調査会において、神である天ノ(の)川陽人様のご長男 星名光伎様の神力の発現の兆候が観測されたため、現在、光伎様が通っている高等学校を転校し、神の子達が通う学校 神空学園への転入することを要求します。なお、これは、あくまで要求であって命令ではありません。しかし、この要求を拒否された場合は、神出省から、多少の制裁が与えられます。今回の制裁の内容は、日本にとても大きな天変地異、飢饉、大災害が起こります。もし、それを防ぎたいのでありましたら、明日から神空学園へご転入ください。ちなみに、どちらの学校にも転校・転入の手続きはもう済ましておりますので、安心して明日から、神空学園に通っていただいて結構です。神出省からの連絡は以上です」
「ほとんど拒否権ないじゃないか!!!日本、人質!!」
僕は、間髪いれずに思わず大声を上げてツッコンでしまった。
制裁のスケールでかすぎだろ。日本壊すって。
「いつ聞いても、田中さんの声はいいわね♪」と母さんがのん気に言った。
ふ~ん、あのおじさん田中さんっていうんだ。いい声をしている点には同感だった。
「えっ、母さん、このおじさん天使と知り合いなの?」
「うん、星名家の天使さんよ」
天使って・・・ああ、親父、神だからな・・いても別におかしくないか・・それに、天使って、おじさんだったんだ・・・まあ、羽は生えてるけど・・・・なんか、天使って、全員赤ん坊みたいイメージがあったから、何か残念だな・・
「邦枝様、お褒めいただき光栄です。そして、光伎様、美喜様、ご無沙汰しております。それから、邦枝様、残念ながら、陽人様は、まだお戻りにはなれないようです」
田中と呼ばれた天使は残念そういうに言った。
「そう・・」
母さんはとても寂しそうにつぶやくと、親父から、いなくなる直前にもらったという剣をモチーフにしたチャームがついたブレッスレットを握り締めた。
ああ、母さんと親父の連絡は田中さんを通してだったのか・・やっぱり、親父がいなくて、母さんはさびしいんだな・・・・
あれ、今、僕や美喜に対してご無沙汰しておりますって言ったよな。
「ねぇ、僕と田中さんって、会ったことあるの?」
「あるじゃない、生まれたときとかに」
それ、合ったに入らないよ、母さん・・美喜も生まれたときに合ったんだろうな・・
「それでは、もうお暇いたします。連絡は、星名家専属天使田中家 星名陽人様および神出省連絡担当天使 田中勝彦 でございました」
「はい、ご苦労様でした」
母さんが苦労をねぎらう。
そして、田中さんは、僕たち向けて、とても綺麗なお辞儀をすると、天井まで飛んでから、来た時とは逆に光り輝く穴を通り抜けて帰っていった。田中さんが通り抜けると天井に開いていた穴も消えていった。
「はい、そういうことで、光伎君は明日から転校しなければいけません」
「うん、お兄ちゃんは、明日から転校しないといけないね」
美喜も母さんに同調して言う。
くそっ、僕にだって、少しくらい選択の余地を与えてくれたっていいじゃないか・・神様お願いしますって、親父が神様か・・・・
しばしの思考時間・・・・思考によって、僕が出した答えは、
「しょうがないな。分かったよ。転校すればいいんだろ!」
僕は、釈然としない気持ちもあったが、あきらめて、そう言った。
神には、逆らえる訳が無い。
でも、日本、いや、世界の安全を守るためにはしかたないよね。だって、逆らった天変地異って・・・
告白待ちのみんなごめんよ、後のことは、メールで指示するから・・・
「で、なんだ、その、えーと、神空学園ってどこにあるの?」
「それは、ねぇ・・・・」
聞くところによると、そこは結構近かった。間違いなく電車を使わずに通える距離だ。今、通っている高校よりも近いくらいだ。その学校は、自転車を使えば、十分もかからない距離にあった、歩いても余裕でいける距離である。そんなに近くにあるのに、なんで、今まで名前を聞いたことがなかったんだろう。神様の力ってやつで隠されてでもいるのかな・・
「へぇー、そんな近くに神様の子ども達が通う学校があったんだ・・」
美喜がかなり不思議そうに言った。どうやら妹もそんなに近くにあるのに名前も聞いたことがなかったことを不思議に思ってるらしい。
「そう?たまにその学園の生徒が家の前を歩いているじゃない。あの制服、かわいいわよね」
「ああ~」
母から言われた言葉に反応して兄と妹で同時にそう言ってしまった。
確かに家の前をたまに見知らぬ制服を着た高校生らしき子達が、歩いている。気にしたこともなかった。僕も妹も聞いたことがなかったのは、神の力とかで隠されていたからではなく、単純に関心が無かったからだろう。
「まあ、一般に入試とかは行われていないらしいから、知らないのもあたりまえね。お母さんもお父さんに教えられるまで知らなかったし、それに基本的に、神様の子ども達しか通ってないらしいしね・・あっ、お父さんも高校生の頃は、神空学園に通ってたらしいわ」
「へぇ~そうなんだ」
僕は、そのとき、特に親父が通っていたことに関心を示さなかった。
これで、僕の転校についての会話は終わり、食事を終えて、部屋に戻ると、そこには、明日から通う予定の神空学園の制服が置いてあった。とても準備がいい。それを見て、僕は冷ややかに笑うと、告白待ちだった三人に申し訳なく思いながら、告白の計画のメールをして、そして、学校の皆に転校を伝えるメールや電話をして、十一時前には寝た。