7.盗賊
「るぅくん、お弁当にしようか。いろいろ美味しそうなものを見たから、お姉ちゃんお腹すいちゃった」
とある山を抜け、街道に降りたあたりで、お姉ちゃんにそう提案された。反対する理由もないので、俺はお願いする。
「うん、お姉ちゃん。おいしいの狩ってきてね」
「むっはー!!!るぅくんに期待されちゃったぁ♡任せてねるぅくん!とぉっても美味しいお昼ご飯を手に入れてくるからね!!!!!!!!!!」
当然のように俺たちは現地調達である。お姉ちゃんは上機嫌になりながら、先ほどまでに入っていた山に分け入っていった。あの様子なら、今日の昼ご飯も期待できそうだ。
だが、そんなわずかな隙に――
「ヒャアッハッハ~!!!!!!ガキが一人で旅とはずいぶん不用心じゃねぇかぁ!!」
「有り金全て置いてってもらおうかぁ!安心しな、素直に従えば命は取らねぇよ!!!!!」
お姉ちゃんが入っていったのと、ちょうど逆の方角から、わらわらと男たちが飛び出してきた。
傷跡がたくさんあったり、禍々しい刺青をしていたりと見るからに悪そうな男たちがナイフを構えつつ数人で俺の周りを取り囲んだ。いわゆる盗賊とか追いはぎとかいうやつだな。初めて見た。さて、どうするか……
「えっと……その……僕に手を出したら、大変な目に遭うんですけど……信じてくれませんよねぇ……」
「あぁん?ガキが何寝言を言ってんだよぉ?」
「親分、ちょっと痛い目をみさせて、わからせてやりやしょうぜ!」
俺の親切な警告は、残念ながら盗賊たちには無視されてしまった。
「ほぉら、大変な目に遭うんだってぇ?遭わせてみろよぉ」
刃物をこれ見よがしにくるくると振り回しながら、盗賊団は迫ってくる。仕方ない。俺は覚悟を決め、思いっきり叫んだ。
「お姉ちゃああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「なんだぁ、仲間がいるのかぁ?」
「ほっとけ、ガキが一人増えるくらいだろ――おぐはぁっ!!」
「ぐはっ!」
「ばごっ!」
「ごごがっ!」
流星のように、一つの暴力が現れたと思ったら盗賊団を根こそぎ滅ぼしていった。それが何なのかなんて、考える必要もない。
「お姉ちゃん!」
「るぅくうぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんん!!!!!!ごめんねええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!怖かった?怖かったよねごめんね大事なときに傍にいなくてお姉ちゃんホントに情けないよもうお姉ちゃん失格だね自害してお詫びするから許して――」
「いや自害はしないでお姉ちゃん。大丈夫だから」
このお姉ちゃんなら本当に自害しそうで怖い。
「て、てめぇ何もんだ……」
盗賊の一人がそんな風にうめいた。この姉のことだから全員殺してしまっていたのではないかと思っていたので少しほっとした。そんな男に、お姉ちゃんはぞっとするような冷たい視線を返した。
「はぁ?あたしの弟にして、地上の至宝であるるぅくんに手を出そうとしておいて――人間並みに質問することが、許されると思ってんのかなぁ?殺さなかったからってナメてもらっちゃぁ困るんだよね。あたしがあんたたちを殺さなかったのは、単に殺すことすら生ぬるい罪をあんたらが犯したからだよ?ね、これを見てみよっか?」
そう言ってお姉ちゃんは自らの何倍も大きいドラゴンの首根っこを押さえながら、盗賊団の前にぶん、と振り下ろした。ドラゴンがぎゃあ、と情けない鳴き声を上げる。お姉ちゃんの存在感が大きすぎてうっかり見落としていたが、先ほどからお姉ちゃんはこのドラゴンを抱えたまま、盗賊団をなぎ倒していた。
「これはあたしたちの昼ご飯にするつもりだったブルードラゴン。刺身にするつもりだったからまだ生きてる――ということはさぁ、こいつにあんたたちを生きたまま食わせることもできるって寸法だよねぇ。ドラゴンの口の中はいいよぉ、強い消化液で生きたままどんどん溶かされていくんだぁ、先にドラゴン歯を折っておいたら容易には死ねない、言ってる意味がわかるよね?さぁ、誰から食べられたい?最初の方が楽に死ねるかもよぉ?」
いよいよ禍々しくまるで魔王かラスボスかのように盗賊たちに迫るお姉ちゃん。我が姉ながらめちゃくちゃ怖い。
「ひぃっ、や、やめろ、やめてくれぇ」
「く、狂ってやがるぅ」
「ば、化け物が――」
「ほぉら、そういうのはいいから、誰から食べられるかってあたしは聞いてんの」
お姉ちゃんは一切の妥協を許さないような冷徹な瞳で盗賊たちを見つめ、究極の選択を迫った。