5.提案
それから少ししたある日、俺の両親はお姉ちゃんにとある提案をした。
「アマミレイア、王都の魔導学院に行ってみるのはどうだい?」
「行商人からもらう魔導書だけじゃ限界があるでしょ?もっと魔法のお勉強できるわよ」
「えー?るぅくんと離れるのやーだ」
両親の提案は俺と離れたくない姉によって一蹴された。
王都の魔導学院とは、その名の通り魔法を学ぶものが通う名門中の名門校らしい。魔法の才能があって、魔導書などで理論を学ぶことも好きなお姉ちゃんには適しているのではと両親が提言してくれたのだが、弟ラブの姉の価値判断基準を変えるまでには至らなかったらしい。
「そう、アマミレイアは少し魔法の才能がありそうだから、伸ばした方がいいと思うんだけどね……」
少しではないと思うし魔法の才能だけではないし伸ばした方がいいかむしろわからないというか縮めたほうがいいんじゃないかと疑うレベルだが、親の感覚ではその程度らしい。むしろあんたらが王都に行って感覚を鍛え直した方がいいんじゃないのか。
「そうだ、魔導学院に入るときには従者登録が認められているらしいから、ルビルートも一緒に行けるんじゃないかしら!」
ぽん、と手をたたいた母の提案に、しかし姉はぞっとするような感情の籠らない冷たい眼を返した。
「――え?るぅくんを従者に登録するってこと?それってちょっとおかしくない?だってるぅくんは至高にして絶対にして最高に可愛らしいあたしの弟なんだよ?それをまるで召使みたいな立場に登録するなんてそれはもはやるぅくんに対する冒涜になっちゃうしるぅくんに対する冒涜ってことはそれはこの世界に対する重大な背信行為であって世界の規律をゆがめる究極の犯罪行為と考えられると思うんだ。まさかパパとママがそんなことを考えているなんて思いもよらなかったけど、その重大な危険思想が顕在化したとあってはあたしもそれ相応の対処を実の両親とはいえ執行しないと共犯者になってしまうんじゃないかと思うんだけどどうかなぁ?」
姉、目が笑っていない。けれどもおっとり両親はどこまでもおっとり両親だった。
「ははは、アマミレイアは本当にルビルートのことが大好きだねぇ」
「そんなに重く考えなくてもいいのよ。仲のいいお友達感覚の従者なんていっぱいいるらしいわ」
「――ふぅん、それならまぁ、いいかもしれないけど……るぅくんが軽んじられるようなことがあったら、あたし、何するかわからないよ? ――それから、もちろんすべて、るぅくんの同意があることが絶対にして最低の条件なんだけど……るぅくん、どうする?」
果たして母が言っている情報は本当なのだろうか。違ってた場合姉はどんな行動を取るのだろうか。俺は気になって仕方がなかったが、かといっていつまでもここに皆で暮らしているのも、ちょっとばかし退屈な気がしないでもなかった。情報にあふれた現代日本の記憶を持つ俺としては、やはり王都に行ってこの世界の様々な事物に触れてみたいという気が少し、むくむくと起き上がってくる。能力チートはできなかったがもしかしたら、ワンチャン、運がよければ、現代知識を使って何か面白いことができるかもしれないし、何より、お姉ちゃんの才能は明らかに、こんなところに埋めてしまうのはもったいない。
――まぁ、俺が頼めばお姉ちゃんもそこまで変なことはしないだろう。
俺はそう信じることにして、アマミレイアお姉ちゃんとともに、王都へ旅立つ決心をした。
「お姉ちゃん、僕、一緒に王都へ行きたい!」
「わかった!お姉ちゃんが連れてってあげるね、るぅくん!」
お姉ちゃんは二つ返事でOKした。本当に俺のことしか考えていない。……こんなんで王都に行って大丈夫なのか、逆にちょっと不安になってしまった。