3.アマミレイア
時が経つのは速いもので、俺の新たなる誕生から一年が経とうとしていた。視力を始めとする様々な身体部位は急激に成長しつつも、未だ成人のそれとは比べ物にならず、俺はそのコントロールに四苦八苦していた。
とはいえ、一年も経てばだいぶ分かったこともある。
新しい父の名はミリゴルス、母の名はイパタネーア。ここは王都から随分離れた森の中であり、一家四人だけで森の幸を利用して暮らしている。また、たまに通る行商人とも取引を行っていた。
そして――新しい姉、アマミレイア。
生まれたその日から薄々感じていたことであったが――
ヤバい。
とにかくヤバい。
ヤバすぎる。
ありえん。
チート。
とにかく何がそんなにヤバいのかというと、まずまだ四歳なのに一人でドラゴンを狩ってくる。いや、ドラゴンだけじゃなくてどんな生き物でも魔物でも、彼女の手からは逃れることができない。
「ママー!今日は猪と虎とドラゴンが捕れたよ~!」
とか普通に言ってる。ヤバい。
「あらあら、アマミレイアちゃんはすごいわねぇ」
「はっはっは、アマミレイアが生まれてから、何もしなくても食べ物には困らなくて助かるなぁ」
そして両親は人里離れたこんなところに住んでいるせいで多少価値観が壊れてしまったのか終始この調子である。この前も、
「ご、ごめんください……ぎょ、行商の者ですが……何かご入りようの物はありませんでしょうか……」
などと行商人が現れたことがあった。警戒感の高さが半端ない。いったい俺が生まれる前に、この家でどんな経験をしてしまったのだろうか。……まぁいろいろと嫌な想像はつくが。
「あら、それじゃあ、香辛料をちょっといただこうかしら。お代は……このレッドドラゴンの皮でいい?」
「ひっ、はっ、はいぃ、いつもお世話になっておりますぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
という具合に、明らかに行商人が挙動不審になりながら帰って行くのを、両親は特になんとも思わずニコニコと見送っていたのだった。
なので俺は思わず、
「父さんも母さんも、あれ絶対もっと高く売れるしもうちょっと交渉したほうがいいんじゃないの!?明らかに行商の人、もうけすぎておかしくなっちゃいそう、って顔してたよ!?」
と突っ込んでしまった。しかもこれが転生してから初めて発声した言葉だった。あまり不審に思われたくないから、頑張って普通の赤ん坊のふりをしていたのに台無しである。だが、両親の反応はこれまた少し――少し以上、ずれたものだった。
「あら!ルビルートちゃんが喋ったわ!」
「よかったなぁ!アマミレイアは今ぐらいには魔導書を読み込んでいたから、成長が遅くて心配していたんだが」
「そうねぇ、これで一安心だわ」
「まったく、よかったよかったあっはっは」
それはお姉ちゃんが異常なだけだろう!!と突っ込みたくなったが、俺に対して違和感を持たれないほうがいいので、なんとか押しとどめた。お姉ちゃんのおかげで、どうやら俺の演技は全く不要だったようである。そして行商人にぼられてるのではないかという俺の疑問はスルーされてしまった。せめて実際に獲物を捕まえるお姉ちゃんだけでも疑問を持ってくれればよかったのだが、当のお姉ちゃんは、
「しゃ、しゃ、しゃ、喋った!るぅ君が喋った!喋るるぅ君もめっちゃ可愛い可愛いかわゆすぎるぅぅぅ~♡♡♡今夜はお祝いだね!!あたしドラゴン百頭狩ってくる!!」
などと悶えながら俺に抱き着いてきたのでますます話にならなかったのだった。そして姉よ、ドラゴン百頭狩っても食べきれないことに気づいてくれ。
――そしてもう一つ、言わねばならないことがある。
すでにお気づきなのかもしれないが……この、チートの称号がこの上なく相応しい俺の新しい姉は――
俺にぞっこんの、強烈なブラコンなのである。