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2.誕生

 その時は突然訪れた。

 前世では誕生の記憶を失ってしまったので、果たして同じ感覚だったのかは今はもうわからないのだけれど、とにかく俺は『ここから出るべき』ということを感じた。それは第六感のようなもので、俺は素直にその感覚に従った。頭の方へコントロールの難しい胎児の体をゆっくりと動かしていく。俺の周囲を包む母体の壁がうねり、波打つ中、俺はじわり、じわりと外へ向かった。

 ――そして、ついに俺は光を見た。

 久しぶりの光だった。赤子の視力ではまだ周囲はよくわからないが、とにかく光だ。俺は再び人間として生を受けることに成功したのだ。

 胎児から新生児へ、その瞬間、体の仕組みが一瞬で切り替わる。へそはもはや用をなさなくなり、代わって肺が酸素を得るための働きを始めることになった。


「おぎゃああああああああああああああああああああああああっ、おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」


 肺呼吸成功。空気の味を感じるのも、また久しぶりのことである。新品の肺にとって、それは刺すような痛みでもあり、同時に生の実感を与えてくれる喜びであった。俺の元気な産声を聞いて、俺を抱く手が少しばかりリラックスしたのを感じた。


「ようし、元気な男の子だぞ!」

「あぁ……よかった……嬉しい……」


 父親と母親だろうか。大人の男女の声が聞こえる。不思議なことに、日本語ではないにも関わらず、その意味がはっきりと理解できた。これが転生ボーナスか……ステレオタイプながら、俺は密かに感動した。なんとも不思議だが、学生時代英語に悩まされた俺にとっては快感でもあった。


「君の名前はルビルートだ。僕の息子よ」


 男の方が俺に語り掛けた。そして俺の名前はもう決まっていたらしい。ルビルートか、なかなかいい響きな気がする。


「ルビルート!るぅくんだね!かっこいい名前!」


 そしてもう一人、舌足らずな子供の声が聞こえた。女の子の声であるような気がする。


「アマミレイア、そう、弟のるぅくんだよ、仲良くしておやりね」

「うん!」


 無邪気に弟の誕生を喜ぶ姉の声がする。声の高さや、聞こえてくる位置から考えて、まだまだかなり小さい子供のようだ。三歳くらいだろうか。

 三歳年上の姉。うん、前世は長男だった俺にとっては、ちょうどいい塩梅な気がする。アマミレイアお姉ちゃん、か。仲良くできるといいな。


「パパ、ママ、お祝いに狩りしてきていい?」

「はは、ありがとう、アマミレイア。あんまり危ないことしちゃだめだよ?」

「大丈夫♡いつも狩ってるような獲物を駆るだけだから!」


 そう言うと、お姉ちゃん(アマミレイア)はとことことどこかへ行ってしまったようだった。まだ幼い子供に狩りをさせるなんて、大丈夫なんだろうか。ちょっと心配になりながら、新しい父母に代わる代わる抱かれつつ待っていると――


 がああああああああああああんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんん!!!!!!!

 ばきっ!!ばききっ!!ぐきぃっ!!!!ぐきぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!!!!!!

 ぐぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!だぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!ぎゃああああああああああ―――――――


 爆音と、断末魔の悲鳴のような音が聞こえた。


 ――な、なんなんだ!?


 しかし俺を抱く両親の手は、なんら慌てた風はなかった。


「あらあら、アマミレイアが今晩の夕食を取ってくれたみたいね」

「本当に、僕たち夫婦にはもったいないくらいのいい娘だね」


 ゆう、しょく……?

 あの爆音と、断末魔が夕食調達?


 なんだか俺は未知の世界に迷い込んでしまったような気分になった。そして、ほどなくしてアマミレイアは帰ってきた。


「パパ!ママ!見てみて~!レッドドラゴン捕れたよ~!るぅくんの誕生日のお祝いに、ステーキにして食べよ♡」


「あらあら、おいしそうなレッドドラゴンねぇ」

「アマミレイア、いつもありがとうな」


 新生児の視力のせいでアマミレイアが何を取ってきたのかわからないが、ズシン、ズシン、とやたら重々しげな音が鳴り響いている。なんだかとてもヤバい家に生まれて来てしまったことだけは、ひしひしと感じていた。

 ――俺の第二の人生は、いったいどうなってしまうのだろうか?


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