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1.始まり

 俺、竜宮坂昼海りゅうぐうざかひるみはその日、コンビニへ買い出しに行っているところだった。

 取り立てて特徴のない、夏のある日。読み進めていたネット小説が一区切りついたので、気分転換をしようと思ったのだ。


「兄さん、コンビニ行くの?だったら僕もアイス買いに行くよ」

「にぃに~あたしもアイス買いに行く~!」

 すると弟と妹が、そんなことを言いながら一緒についてきた。喧嘩もすることはあるが、なんだかんだで可愛いものである。そして結局、みんな揃ってコンビニへ行ってそれぞれ買いたいものを買い、レジを通して、自動ドアから外に出ようとした。


「兄さーん!」

「にぃに、早く~!」


 先に出た二人がこちらを振り返りながら呼びかける。しかし――そのとき、俺は二人の後ろに見てしまった。

 遠くから、明らかに変な動きで一台の車が、ハイスピードで迫ってくることを。


「危ない!!」


 とっさに駆け出した俺が、両手で二人の体を掴み、そう叫びながら後ろに放り投げたのと――

 その車が、さっきまで二人がいたところに突っ込んできたのは、ほぼ同時だった。そして、俺は弟と妹の命を守ることには成功したが――反動で、さっきまで二人が立っていたところに、飛び込んでしまっていた。


「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「兄さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1!」


 二人の叫び声が聞こえる中、俺は痛みを、そして意識が急速に飛んでいくのを感じていた。

 そしてそのまま――俺は再び、この世界で蘇ることはできなかった。もしも次の人生なんてものがあるのなら――今度は年下のきょうだいを守る役じゃなくて、年上のきょうだいに守られたいなぁ、なんて、考えながらも。

 そんなことは、ありえないだろうと、俺の冷静な部分が思っていた。

 だから、彼女を作ってムフフなことをして就職して汗水垂らして働いて年収を上げて念願のマイホームを手に入れて気立てのいい妻と可愛い二人の子供に囲まれて過ごすという俺の夢はもろくも消え去り、後には何も残らない――


 ――そう、思っていたのだが。


 現実は、そう終わらなかった。

 まさか――転生なんて本当にあるんだな、というのが正直な気持ちである。

 俺は今、どうやら誰かの胎内にいるらしい。

 人間は死んだらそれっきりだと思っていた。異世界転生物語は好きだったけど、それはフィクションだと割り切って読んでいた。だって記憶や人格をつかさどる部位である脳が存在しなくなってしまう以上、人間をその人たらしめるものは消えてしまうとしか思えなかったからだ。しかしどうしたわけか、俺は今、前世の記憶と人格を保持したまま、誰かの羊水にぷかぷかと浮かび、へそにつながった管から栄養をもらっている。ネット小説で山ほど読んだような、典型的な転生パターン。

 ネット小説でよく見る理屈が本当に成り立つならば、若くして命を失ってしまった俺のことを、神様が不憫に思ってくれたのか――とにかく、せっかく拾った二つ目の命、精いっぱい使い切ってやろうじゃないか、俺はそう思いながら、誕生の時を待っていた。


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