第77話 眠れるオートマタのレイゴウ(6)
「貴族……殺害? どういうことかな? ミス・クロック。彼は昨日このバベルミラージュに来たばかりだよ?」
アンが当然のことを尋ねてくれる。
クロックは顔色一つ変えずに、俺を指差した。
「昨日の晩、貴族であるアドラー様は殺害された。この列車強盗の手によってね」
「アドラー? あいつか?」
アドラーっていうのは、確か昨日往来で自分の所有していたオートマタに杖を振るっていた貴族だ。
あの貴族が何者かに殺され、そしてその罪を誰かの陰謀によって俺に擦り付けられそうになっているっていうのは理解できた。
アドラーは確かに悪人だったが、殺すほどの恨みが俺にあった訳じゃない。
それは、アンの言う通り、俺が来たばかりの人間だからだ。
殺害動機があるなら、この街の住人でしかない。
それに、俺にはアリバイがある。
昨日はゼロにここまで連行され、そしてこの牢屋で拘束されていた。
脱獄できなかったことで、逆にアリバイが作られている。
そんなのアリバイを立証してくれるミストヤードの連中が一番分かっているはずだ。
なのに、いきなり処刑?
こちらと問答一切なしにこの処置は何者かの思惑が動いているとしか思えない。
「彼の貴族には機械人形がついていたはずだが、目撃証言でもあったのかな?」
「…………連れて行きなさい」
アンがミストヤードの男連中に引っ張られる。
普通の質問をしただけなのに、クロックは焦っているようだった。
俺はただ訝しむだけだったが、アンは天啓が閃いたようだ。
「そうか! その反応で犯人は分かったぞ!! 犯人はその機械人形だな!! 機械人形が主人である貴族を殺したのか!!」
「早く連れて行って!!」
クロックが声を荒げたのは、図星だったからか?
アンが連れて行かれてしまって、推理の続きは聴けなかったが十分だ。
名探偵アンは真実を暴いてくれた。
「機械人形が主を殺す? そんな、まさか、そんなことあり得るはずがない」
オートマタは、絶対に主人に逆らえないように製造されている。
逆らう意思は持てないように作られているのだ。
「あり得ないわね。何せ――彼女も壊れたのだから」
俺がクロックに詰めよろうとしたら、手錠についていた鎖が引っ張られた。
「お前らッ!! あのオートマタを壊したのか!?」
「……彼女は自壊しているような状況だったわ。そう見えるように機械人形に小細工をしたのもあなたでしょ?」
「話が通じないな。俺には犯行は不可能だったんだ。あんたがアリバイを証明してくれるだろ?」
「…………」
だんまりか。
「自壊って、自殺ってことか? まさか、自由意思を持てないはずの機械人形が……」
主人を殺す意思はオートマタには持てない。持てたとしても、実行するためのプロテクトが発動する。プロテクトを突破しようとすると、熱暴走が起き、機械人形としての処理限界を迎える。
そのせいで自壊したのか。
それとも主を殺した咎に耐えれずに、自分で自分を壊したのか。
どちらにしても、ただのオートマタではない。
「まさか、悪の帝王の遺産だったのか? 彼女が?」
貴族の一人であったアドラーが所持していた機械人形が、悪の帝王の遺産だと民衆に知られてしまったら、不信感が高まる。
表向きでは悪の帝王の遺産は完全廃棄しているのだ。
それが、未だに普通に市場に流通していて、貴族が持っていたのだ。そしてその機械人形が事件を起こした。未だに権力を持つ貴族が機械人形によって殺された。その不手際を責められるのは、ミストヤードだ。
この事件が明るみになった暁には、ミストヤード解体もあり得る。
「あなたのスキルは何?」
「何だって?」
「この国は他国からすれば宝の山よ。奪おうとする者は絶えない。だから入国と同時にスキルを鑑定される決まりになっているの。私達住人も定期的にスキルの確認を行っている。この街でスキルを鑑定していないのは、その鑑定をする暇がなかったあなたしかいない」
「スキル鑑定していなかったら何だ。それが関係あるのか?」
「あるわね。あなたならば、この監獄から脱獄して、貴族を殺すスキルを持っているかもしれない。透明になったり、空間を飛び越えるスキルを持っていたりするかも知れない。あなたは、スキルを封印する手錠も掛けていなかったしね」
俺は思わず軽く笑ってしまった。
穴だらけの仮説だ。
推理にすらなっていない。
アンの方がよっぽど理に適った推理ができる。
「そんな便利なスキル持っている訳ないだろ。今すぐ調べたどうだ?」
「やらなくていいの。あなたは処刑されることに決まったんだから」
スキル鑑定しても、俺にそんな便利なスキルがないと決めつけている。
むしろ、そうであって欲しいとさえ思っているようだ。
こいつらは俺が犯人ではないと分かっている。
「……お前ら、貴族殺害事件を未然に防げなかったことの責任を取らされるのを恐れて、俺を犯人に仕立て上げる気か?」
クロックが合図を送ると、俺は両脇にいたミストヤードの奴らに肩を抑えつけられる。
抵抗できない体勢にさせられると、クロックに頬を殴られた。
「グッ!!」
「口を慎みなさい」
脇に抱えていた蛇腹剣を抜くと、俺の首元にまで持ってくる。
クロックの瞳に色はなかった。
「もう決まったことなの。あなたに裁判は必要ない。そうだ、今日は好きなものを頼むといいわ。死刑囚には自由意思で、一日囚人が好きな食べ物を食べさせる決まりになっているの。それが決まりだからね」




