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第75話 眠れるオートマタのレイゴウ(4)

「私のことを知っているのなら教えろ」

 ゼロが睨み付けてくる。

 誤魔化しても意味がないようだった。

 俺はポツリ、ポツリと事実であるが、確信からズレたことを呟く。

「会った事ならある。俺は旅が好きだからな。だけど、ここでだ。数年前ここに立ち寄った時に」

「立ち寄った時に? それは……」

「この街が眠れる街だった時だ」

「成程……」

「あの時のことは誰だって思い出したくないだろ。だから俺も話したくなかったんだ」

 眠れる街という名前を知っているのは、今となってはごく僅かだろう。

 この街を訪れた者か、この街に詳しい者から噂話を聴いたことがある者ぐらいしかその名称を知らないはず。

 だから、この街でゼロと出会ったということは瞬時に理解できたはずだ。

 他の街のどこかで、ゼロと俺が出会っていないことを証明できた。

 以前会った時にもゼロは出自に対して強烈な拘りがあった。普段冷静に徹しているゼロが、激高する程に。

「だが、いつ出会った? あの時は誰も外を出歩いていなかった」

「それは……」

「民間人じゃない。あの時私が関わったのは少数だった。私の名前よりも、そちらの名前を訊いた方が良さそうだ」

 質問というよりかは、今から拷問が始まりそうなぐらいの殺気を浴びせてくる。

 どうしたもんかと内心頭を抱えていると、死角から別の殺気を感じた。

「飛び退けっ!!」

「…………っ!!」

 ゼロの身体を押して後ろに下がると、俺達が立っていた場所に刃が突き刺さった。地面に突き刺さった刃がワイヤーで引き抜かれると、等間隔の刃に繋がっていく。複数の刃が連結され収まると一つの剣になった。

 鞭のようにしなり、刃の殺傷能力を持つ蛇腹剣。

 発射威力が強まるように、丸型の空気圧縮装置が刀の両側に備え付けられている。

 観たことのないタイプの武器だ。

 俺が知らない間に、また新型の『メイドインバベルミラージュ』が開発されたのだろうか。未知の開発武器の使い手もまた、俺が知らない相手だった。

「クロック……貴様……何のつもりだ」

 クロックと呼ばれた女性は、明るい髪色をしていて一束の三つ編みをしている。不敵に笑う彼女の顔にはソバカスがあり、最近できたであろう細かい傷跡があった。常に戦いに身を投じていることが見て取れる彼女の背後には、部下らしき者たちが沢山いる。

 彼らの装備や服装は間違いなくミストヤードのものだった。

「何のつもりはこっちの台詞なんだけど。ゼロ様。私が止めなきゃ、裁判にかける前にその罪人殺してたんじゃない?」

「貴様こそ、罪人ごと私を斬ろうとしていなかったか?」

「手元が狂っていたら申し訳ありませんね。七光りの光が眩し過ぎて見えなかったかな?」

「…………」

「…………」

 バチバチに睨み合っている。

 仲間同士だというのに、殺意剥き出しなのを隠そうともしていない。

 さっきから静かにしていたアンが、小さい声で説明を始める。

「派閥だよ。今ミストヤードは真っ二つに割れていてねぇ。長官派ことゼロ派の体制派閥とクロック派こと革命派閥にね。長官は、厳しい人間だから反発する人間が多いらしくてね。若い人間を中心にクロック派が増えているらしいよ。これもまた平和になってミストヤードに入る人間が増えたせいかねえ」

「……なるほどね」

 魔族の脅威が無くなったら、まず内政に注力するのはどこの地域も一緒か。

 国を強くするためには、国内の武力を高めることだと考えてミストヤードの人数を増やすことにしたってところか。

 人数が増えれば思想も複雑化し、組織内で分裂したってことか。

 以前のような一枚岩ではなくなったということだろう。

「というか、さっき助けてくれても良かったんだけど」

「貴君の自己解決能力に私は懸けたのだよ」

「面倒くさかったんだな、そうなんだな」

 三人のスキルレベルを盗み観る。


 アンの総合スキルレベル 60

 クロックの総合スキルレベル 69

 ゼロの総合スキルレベル 20


  クロックのスキルレベルが高いのに比較して、ゼロのスキルレベルは数年前から全く変わっていない。しかもアンとクロックは魔術スキルに全振りしているのに、ゼロは不人気スキルの武術スキルに全振りしている。ゼロとクロックが、まともに戦えばゼロがぼろ負けするだろうな。

 実力差がハッキリしているのに、立場は格下のゼロが上なのか。

 クロックが不満を持つのも分からなくはない。

「そこの二人が例の列車強盗か。私が一緒に連れて行ってあげましょうか?」

「手柄を横取りするつもりか。お前は私の後ろに付いてくるだけでいい」

「誰がついていくか。おい、お前ら。ここらを片付けた後はスチームパンクへ急ぐぞ」

 クロックは、事件の後処理の為にここまで来たのか。

 口は悪いが、もしかしたらいい奴かも知れない。

 結果的には俺を助けてもらったし、ゼロも助けたのじゃないだろうか。

 まだ罪が確定していない容疑者に私刑を加えたら、ゼロの立場が危うくなる。

 ゼロはそんな俺の考えなど一切持っていないようで、素早く踵を返す。

「……勝手な奴だ。……それから、貴様、礼は言わんぞ」

「あ、ああ」

 俺が付き飛ばした件か。

 遠回しだけど、わざわざ口に出して強調している時点で褒めてないか。

 ここにいる連中はみんな好意を表立って告げるのが苦手なんじゃないだろうか。

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