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第70話 スチームパンクの中の名探偵アン(10)

 無人駆動多脚砲台のセンサーの光がギョロりと動く。

 エネルギーを収束する音がする。

「レーザーが飛んでくる!! 後ろに回っていろ!!」

「! 成程。我が身を囮とするのだな」

 乱入してから先ほどまでの攻防で、行動パターンの予測がついた。

 多脚砲台は近くにいる人間を優先的に攻撃する。

 なら、レーザーを避けられる俺が、前に出て囮になればいい。

 早めに動き出すと照準がズレ、後ろに逃げたアンに当たるかもしれない。

 十分引き付けてから避けなければならない。

「今だ!!」

 レーザーがすぐ横を通過する。

 振り返ってアンの無事を確認するが、床に手を置いている。

 床を糸にすれば自在に動かせる。

 そのスキルを使って、今度は俺じゃなく、無人駆動多脚砲台の足元に落とし穴を作った。

 脚が上がり、そのまま無様に転がると思いきや、二本の脚の先からワイヤーが飛び出した。

「なっ!」

 射出されたアンカーは天井に突き刺さり、振り子のように多脚砲台は機関内に着地した。

 俺が知らない間に、警護ロボもどうやら搭載されている武器が相当増えたらしい。

 一筋縄ではいかないらしい。

「左に避けろ!! 迷探偵!!」

 機械ならば電気に弱いはず。

 手元からバチバチと、静電気の何十倍にもなる音が鳴る。

 雷の槍『ショックランス』を掴んで投擲する。

 雷系のスキルより、炎系のスキルの方が汎用性が高いため使用頻度は少ないが弱いわけではない。

 だが、

「なんだ!?」

 ボンッ!! と多脚砲台の装甲から飛行ユニットが飛び出す。

 ヴヴヴと鈍い音をさせながら、広がった四つの飛行ユニットを結ぶように薄っすらと壁のようなものが出来上がる。

 雷槍『ショックランス』は、その壁に激突すると勢いを失くしていく。

「バ、バリア!?」

 雷槍と共にバリアは弾ける。

「こ、こんなものまで搭載しているのかよ!」

 驚いている俺の真横を、貨物であった木箱が高速で通り過ぎる。

「ハッ!!」

 アンがその辺に転がっている木箱に糸を付けて、ぶん投げたのだ。

 粘着性のある糸も出せるらしく、しっかりと糸と木箱がくっついている。

 だが。

 衝突した木箱が盛大に壊れただけで、多脚砲台はビクともしていない。

「装甲が厚い……!」

 多脚砲台の砲台がアンに向く。

 ガシャガシャと動作し、俺とアンの間に割り込んできた。俺の『縮地』を最短距離で移動できないような場所取り。これじゃあ、俺の助けが間に合わない。

「くっ」

「避けろ!!」

 放出されたレーザービームがアンに直撃する――その瞬間、アンが、ガクンと膝が折れたように身長が下がった。レーザーは頭をかすめるようにしながら、壁を貫通してエネルギーが収束する。

 避けられたのは、自身の立っている床に穴を開けたからだった。

 流石にエネルギー体を糸にできないだろうし、あの速さの糸に手を合わせることさえ不可能ならば、まずはできるところを糸化して、咄嗟に避ける判断。名探偵を名乗るだけのことはある。

「うおっ!」

 と、感心していたら、穴を広げ過ぎたせいで足が地面に当たったようだ。そのまま足を当て続けていたら、肉が裂け骨が折れ、さらには機関車からオサラバしていただろう。

「ほっ!」

 穴の横に両手をついて空中前回りをして、しっかりとちゃんとした床に着地する。

 足が滑って落ちないように、円を描いていた空洞は物凄い速度で塞がっていた。

「助手に言われなくとも、このぐらい余裕だね」

「嘘つけ。もう少しでお前の足持っていかれるところだったぞ」

 ふん、と腹に力を込めて『スプラッシュ』を使う。

「機械なら水をぶっかければぶっ壊れるだろ!!」

 予想通り防御のための飛行ユニットが飛び出すが、そんなの関係ない。バリアを張ったとしても、あれで防げるのは炎や雷といった類のスキルだけ。水ならば貫通して機械をショートできるはずだ。

 なのに、ギュルギュルと飛行ユニットが回転し始める。よくよく見ると、先ほど放出された飛行ユニットとは別種類のようで、ユニットの先端に触手のような部品がうねっている。水分を吸い取るものだと気が付いたのは、飛行ユニットに『スプラッシュ』が呑み込まれていくのを眼にしたからだ。

「ああ!?」

 飛行ユニットの中に水が全部吸い込まれる。落ちた飛行ユニットは床に転がり、バチバチと電気を発しているから壊れているらしいのは分かるが、スキルを防がれたことには変わりない。

「ど、どうやってこんなの盗んだんだよ!!」

 一度起動したら、そこらの盗賊風情が相手取るには荷が重すぎる。

 起動停止している時に、こっそり盗んだとしか考えられない。

 そんな高性能な多脚砲台からアンカーが射出される。

「うおっ!」

 避けたアンカーは天井に突き刺さる。

 脚を使った移動よりも速い速度で迫って来る多脚砲台は、ガコン、と砲台をアンに狙いを付ける。

「やばいっ!!」

 エネルギーが収束されて放たれたら、アンは一巻の終わりだ。

 それなのに、動き出さない。

 いや、微細に動いてはいるが、動けないのだ。

 異音を発しながら、砲台が動こうとするが上手くいっていないように見える。目を凝らすと、砲台の近くで僅かにキラリと何かが反射した。

 糸だ。

 一見すれば見えないほどに細くされた鉄の糸が、いつの間にか多脚砲台を雁字搦めに縛っていた。砲台どころか、全身を動かすことすらできない。お得意の飛行ユニットで状況を打開するために装甲を開閉しようとするが、糸が隙間に挟まっているのか、虚しくガコッ、ガコッと鈍い音がするだけだ。

「蜘蛛というものは、気づかない内に獲物を糸で絡めとり、動けなくするものだ」

 アンの動きが鈍いと思っていたが、動きながら糸を出していたからだったのか。効率的に糸を巻き付けるために、ただ一方向に避けるのではなく、毎回違う場所へと避難していたのは、このためだったのか。

「人でも気が付かないほどの糸を張っていた。まして、機械なら猶更気が付かないだろうね」

 気づかぬうちに糸で絡めとられる。

 まさに蜘蛛のような所業だ。

 機械は強い。

 そこらの人間よりも遥かに高性能で、あらゆる武器を搭載していた。まさに最先端技術の結晶のような多脚砲台だった。

 痛覚がないから、迷わず最高の状態で戦闘できる。

 だけど、だからこそ糸に気が付けなかった。

 多脚砲台は糸を力で断ち切ることを諦めた。固定された砲台から、レーザーを放つ。それによってまとわりついていた糸の一部が燃え尽きる。自由になった砲台で、アンを狙う。

 どうやら、多脚砲台の最優先殲滅対象は変更されたようだ。

 中二病を発症している頭のおかしい迷探偵だと思ったが、俺なんかよりよっぽど頭の回転が速いらしい。その無駄な足掻きさえも『先読み』していたようだ。

「っ――!!」

 爆発音にたじろぐ。砲台は固定されていた。その位置さえも計算に入れ、そして、レーザーが放たれることも予想していた。だから、転がって用済みになっていた飛行ユニットに、わざとレーザーを放たせたのだ。

 その飛行ユニットは、俺のスキルである『スプラッシュ』の水を吸収したユニット。水事態はなくなったわけではない。ユニット内部にはちゃんと水が溜まっているのだ。それをレーザーで破壊したところで、水が装甲の表面にかかり、糸に水が滴るだけ。

 しっかりとした勢いで水をぶっかけたわけではないから、それだけで機械内部に水が浸入して破壊されるわけではない。

 多脚砲台の糸に水が滴っていることが重要だ。

 この糸は云わば、アンが造ってくれた導火線だ。俺はただこの水に濡れた導火線を伝うスキルを使ってやればいい。

 恐らく一度きりのタッグスキル。

 名付けるならば、


「『スパークスレッド!!』」


 水に濡れた糸に電撃が走る。

 その先にいるのはもちろん、多脚砲台。電撃を浴びた多脚砲台は、内側から爆発して粉々になった。


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