表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/78

第66話 スチームパンクの中の名探偵アン(6)

 第四車両。

 ようやく戻ってこられた。

 トイレなんか我慢しとけば良かった。

 そう思ったのは、第四車両に入って目に飛び込んだ光景のせい。

 死屍累々。

 第四車両の乗客、それから装備品からしてトレインジャック犯。

 全ての人間が倒れ伏していた。

 ただ一人の例外を除いて。

 死体の山の上で、ペラペラとホワイトアルバムを読み漁っている奴が一人。

 それこそがビブリア。

 やはりというか何というか。

 予想通り、やり過ぎていた。

 敵味方の概念がこいつにはないんだよなあ。

「死んでないだろうな……」

 一番近くにいた乗客の鼻と口の間くらいに、手をかざしてみる。

 うん。

 呼吸はちゃんとしているみたいだ。

「失礼だね。ちょっと眠ってもらっているだけだよ。僕のホワイトアルバムでね」

「だからって、乗客も眠らせることないだろ」

 ホワイトアルバムの連続使用。

 それによって人はあいつの作った世界に、ずっといることになる。

 ぶっちゃけ、出口を用意しないことだって可能だからな。

 ビブリアの気が済むまでか、気力が持つまではずっと閉じ込め続けることができる。

 こうやって傍から見ると、死んだように眠っているように見えるだけ。

 だが、本人たちは悪夢に苦しんでいるんだろうな。

「うううう」

 呻き声上げているし。

 可哀想に。

 流石のビブリアも手加減はしてくれているだろうけどな。

「静観しようと思ったんだけどね。自分よりも弱い相手に跪くのが嫌だったから、とりあえず『黄昏より深く』の人達には眠ってもらったんだけど、そしたら乗客達が今度は騒ぎだしてね。状況を聞かせろって、うるさいから同じく眠らせておいたんだ」

「ま、まあ。パニックにならなくて結果オーライか?」

 そりゃあな。

 自分達が戦闘できないなら、非戦闘員は強い奴に縋るしかないだろうしな。

 だけどまあ、興奮状態の乗客を丁寧に宥めるなんてビブリアにはできないだろうな。

 俺も説明なしで乗客を置いてきちゃったから、ビブリアと変わんないけどな。

「それより、その『黄昏より深く』って何だ?」

「盗賊団の名前だよ。目的はここに積み込まれている荷物の奪取。問題なのは彼らに雇い主がいるが、姿を見ていないことだね。手紙と共に多額の前金をもらったみたいだけど、密室の空間にいきなり現れたらしいね。僕のホワイトアルバムであっても、流石に記憶にないものをサルベージはできない」

「誰かに依頼された? しかも、密室でいきなり金と手紙が現れたって、それは――」

「十中八九、パーソナルスキルだろうね。強者がこの強盗事件に関わっているってことになる」

「荷物の中身は?」

「『レイゴウ』と呼ばれる機械人形のようだね」

「機械人形……?」

 機械人形。

 自律人形。

 オートマタ。

 名称はいくらでもあるが、精巧に造られた人工の人型人形のことだ。

 感情が伴い、見た目は人間と変わらないものだってある。

 あまりにもリアルすぎるため、機械人形自身も自らが人間だと思い込んでしまうケースだってあるらしい。

 あまりにもリアルすぎる機械人形に、人権はあるのかどうか。

 社会問題になるほどだ。

「しかも、ただの機械人形じゃない。かの高名なる悪の帝王の遺産らしい」

「あいつの遺産……?」

 悪の帝王。

 かつてバベルミラージュでそう呼ばれた奴がいた。

 そいつは悪党としてたくさんの人間を殺した殺人鬼だ。

 だが、それと同時に優秀な機械人形技師でもあった。

 奴の生み出した作品は、裏世界で高値で取引された。

 そして、ただの機械人形じゃない。

 奴の機械人形は戦闘に特化していた。

 恐怖心のない戦闘人形。

 その一体だけでも重宝された。

 それを奴は大量生産していたのだ。

 今思い返しただけでも恐ろしい。

 機械人形を売買した利益で作った金を使って帝王は犯罪を行うことができたのだが、出資者の中には貴族もいた。

 間接的に犯罪の手助けになったのが貴族だったのだから、大問題も大問題。

 俺達がバベルミラージュに来た時に、そういった問題も多少は解決し、そして彼の作品は破壊されてしまった。

 残りはないものだと思っていた。

 だが、それが残っていた?

 だとしたら、燻っている悪党達が再び立ち上がるかもしれない。

 それほどまでに危険な代物だ。

 死の商人が喜びそうな代物だ。

 絵画などの芸術作品と同じで、製作者が死ねば希少価値も出てくる。

「まだあいつの機械人形が残っていたのか……っ! 爆撃はどこで!?」

「第五車両の貨物室だよ。爆発が起こったのも、そして、ここで眠っている彼ら『黄昏より深く』もそこから雪崩れ込んできた。第五車両に行けば、恐らく機械人形もいるだろうね」

「貨物室か……」

 乗客人数が少ない『スチームパンク』が、いかにして運行しているのか。

 それは、乗客の賃金だけじゃ賄えない。

 貨物を運搬することによって、運行資金にしているのだ。

 だから車両を丸ごと貨物室として、荷物を運搬している。

 食料品から便箋まで。

 高速で遠距離を移動ができる乗り物がないので、運搬料はたんまり稼げるというわけだ。

 もちろん、お金さえ払えば乗客達の荷物も、貨物室に保管できる。

 その際、荷物チェックはザルだ。

 あまりに荷物を改めれば、貴族達の顰蹙を買うことになる。

 露骨に荷物チェックに時間をかければ、蒸気機関会社の立場はなくなるだろう。

 貴族ならば、一つの会社を潰すぐらいのことは簡単にできる。

 そのザル荷物チェックを利用して、誰かが貨物室に紛れこませたのか?

 そしてそれを、こいつら盗賊団が誰かに依頼されたってことか。

 経緯は掴めてきたな。

「行くぞ!!」

「…………」

「おい! 早く!!」

「僕はパスしておこうかな。彼らの監視もあるし」

 あーうん。

 ちょっと予想していたな。

 ビブリアの発言は。

「ちっ……。もういい。だけど、お前だったらここにいる全員を完璧にコントロールしながら、戦闘を行うことだってできるはずなのに……」

「不思議だよね」

「何が?」

「ここに転移してくる前の君だったら、僕の今の意見に賛同しただろうに、どうして、かな?」

 そうか。

 転移前の。

 かつて日本にいた俺の記憶も全部こいつは見ている。

 見た上で、こいつは何も態度変わらず喋って来るんだな。

「『誰かを助けても意味がない』っていう意見だよ。君だって身に染みているはずなのに、どういう訳か、この世界に転移してからの方が生き生きしている。おかしいよね? 君のいた世界の方がたくさんのもので溢れて、平和な世界だったのに」

「……俺はこの世界に転移されて良かったと思っている。俺はようやく『人間』になれたんだからな」

「そうか。ならいいや……行ってらっしゃい」

 そう言って目も合わさずに手を振ってきたビブリアは、笑っているようにも見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ