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第52話 Fランク冒険者トロイトのダンジョン探索(13)

 息を切らしてトロイトを探す。

 初心者で、なおかつあのスキルレベルのトロイトだとまず勝てない。

 死んでいる可能性だってある。

 もう少し俺が早く駆けつけることができていれば、こんな不安になることもなかった。

 何度も『縮地』を使って、彼女の後姿を見つけることができた。

 だが、周りには誰もいない。

 交戦中だと思っていたが、静かなままだ。

 辺りは戦闘があったように、生々しい戦いの傷跡が残っている。

 そこでトロイトは座り込んでいた。

「トロイト」

 ビクッ、と明らかに動揺した。

 声をかけただけで、そんなにビビるものか?

 反応がない。

 どうしたんだ。

「だ、大丈夫だったか!?」

 ごくん、と何かを飲む音がする。

 なんだ?

 何か食べていたのか?

 この緊急時に?

 なんだろう。

 振り向かれたら、とんでもないことが起こりそうな気がする。

 だが、ここで今トロイトがどんな状態なのかを知らないと一生後悔する予感がある。

 死んで――ないよな?

 変なことになっていないよな?

 血だらけになっていないよな?

 肩をつかんで一気に振り向かせる。

 トロイトの顔には――――ベッタリと液体がついていた。

「よ、よかったですうう!!」

「うおっ!」

 鼻水がベッタリとついていた。

 こいつ、もしかして泣いていた?

 何かを飲んでいたのは、唾?

 それとも逆流した鼻水とかか?

 なんにせよ、目立つところに傷はないようで安心した。

 違った意味で大変そうだけど。

 涙の洪水起こっていますけど。

「怖かった、怖かったです!! 遅いですよ!! 師匠!!」

「ああ、悪かったな……」

 猛省しなければならない。

 裾をつかんで、うっ、うっ、と顔を隠して泣く。

 相当怖い思いをしたんだろうな。

 でも、よく助かったな。

「あいつは?」

「そこですよ」

 震える指の先を見やると、そこにはシャッタッフの変わり果てた姿があった。

「なっ――」

 なにせ原形を留めていない。

 肉体はドロドロに溶けているところもあるし、溶けていない箇所も食われたような跡がある。

 死体を見慣れている俺でさえ顔がしかめるほどの凄惨な遺体になっている。服でかろうじてシャッタッフだとわかるが、下手したら誰か分からないほどだ。

「実はモンスターの大群に襲われたんです」

 そうか。

 大変だったな。

 ダンジョンっていうのは、何が起こるか分からないもんだが、まさかこんな結果になるなんて。

 傷跡は明らかにモンスターによるもの。

 辺りにはモンスターがいないし、トロイトはモンスターによるダメージはもらっていないようだ。

 もしかしたら、シャッタッフとモンスターでうまいこと相打ちになったのかもな。

 でも。

 なんだか可哀そうだな。

 初心者狩りをしていたシャッタッフは因果応報といった感じだけれども。

 それでも、こんな死に方ってないだろ。

 心を入れ替えて、また一冒険者としてやり直してほしかった。バウンスと一緒に、またこのラビリンスダンジョンを潜ってほしかった。

 だけど、死んでしまっては、もうどうしようもない。

 あらゆるスキルを持っている俺でも、死者を蘇らせることはできない。

 生きていてほしかったな。

 個人的には、だけど。

 どんな死にざまだったのか。

 もっと詳しいことを聴きたいのは山々だが、俯いているトロイトに根掘り葉掘り聞くほど無神経ではない。

 助かっただけでも良しとしないとな。

「無事で良かった」

「……はい」

「立てるか?」

「は、はい! 大丈夫です!」

 上げた顔はいつも通りだった。

 けれど、

「ゴホッ、ゴホッ!!」

 せき込む。

 やっぱり、まだ休んでいたほうがいいかもしれない。

「あんまり無理するなよ」

「大丈夫ですって! ちょっと変なものが口に入っただけです」

 埃でも口に入ったのかな。

 ダンジョンって大体どこでも埃っぽいからな。

 そのせいで呼吸器系の病気になることが多いらしい。

 特に、何度もダンジョン潜っていると。

 マスクが欲しいよな、こういう時に。

 異世界じゃほとんど見かけないからな、マスク。

 作っているところもあるらしいけど、使う時は大きな病気の時だけと決まっている。日本人みたいにちょっとした風邪の時に使うことは少ない。

 予防にもなるから積極的にマスクつければいいのに、マスクをつけながら往来を歩いていると、やっぱり周りの視線が気になるからつけられないしなー。

 まあ、軽症ならスキルで完治できるから、マスクなんて必要ないかもしれないな。

「師匠だって、早く先に進まなきゃいけない理由があるんですよね。だから、大丈夫ですよ」

「ああ、そうだな」

 無理をしているが分かる。

 止めてやりたいが、気持ちを無駄にしたくない。

「先に進もう」


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