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第48話 Fランク冒険者トロイトのダンジョン探索(9)

 シャッタッフは、逃げ続けるトロイトの背中を追いかけていた。

 この追いかけっこはただの遊びだ。

 追いつこうとすれば、いつでも追いつける。

 それほどまでにスキルレベルの格差が存在する。

 それに、スキルである『ミスト』によって、眼は霧に覆われている。どれだけ走ろうが、手でつかもうが、霧なのだ。消し去ることはできない。

「ああっ!」

 肩に岩がぶつかる。

 さっきからトロイトはぶつかって、全身から血が出始めている。

 視覚を奪われた状態で、全力疾走する恐怖は尋常ではない。

 いつ、何にぶつかるかもわからないのだから。

 だが、そうするしかない。

 これは、捕まったら死ぬ、命を懸けたゲームなのだから。

 にんまりと口が歪むのを止めることができない。

 何故なら、人を傷つけている時が、一番自分が生きていると実感できるからだ。

 圧倒的上の立場から嬲り殺す。

 そうすることによってでしか、もう冒険者を続けることができなくなっていった。

 ダンジョンに潜ってから何日、何ヶ月、何年経ったのか憶えてない。

 いや、そんなはずはない。

 まだ一日、二日しか経っていないはずだ。

 それなのに、時間の感覚がおかしくなっていた。

 同じギルドのメンバーであるバウンスも、徐々に言動がズレてきていた。

 自分達は狂っている。

 それは分かっている。

 だが、どうしようもなかった。

 ラビリンスダンジョンを脱出しようとしたが、何度も阻まれるのだ。

 それも、ただの敵ではない。

 昔死んでしまった仲間によって。

 噂は耳にしていた。

 実際に被害に遭った仲間だっていた。

 だが、何かの間違いだと思い込んで、ダンジョンに潜り込んだらどれだけ殺しても蘇り、バウンスたちの前に立ちはだかってきた。そして、それが永遠に続くような感覚に陥った。明らかに何かがおかしい。

 ガラガラと自分の中かが崩れていくような音が聴こえた。

 もう、普通ではいられない。

 異常であってもいい。

 逃げられないのなら、ここにいつづけてやる。

 弱ければ、モンスターだろうが、冒険者だろうが関係ない。

 自分が生きていると実感できるのなら、どんな奴だろうが殺してやる。

 殺し続けるほどに壊れていくのが分かりながらも、殺さなければ余計に壊れてしまう。

 そんな悪循環から抜け出せなくなっていた。

 だが、もうでもでいい。

「愉悦――」

 頭がおかしくなる前から、シャッタッフは元来、人をいたぶるのが好きだった。

 ほとんどの冒険者がいわゆる『必殺技』のようなものを携えるのを目標としていた。

 だが、シャッタッフはその真逆の道をひたすら突き進んだ。

 習得していったスキルのほとんどは、対象者の力を下げる『デバフ』ばかりだった。

 ただ傷つけるだけじゃ面白くない。

 徐々に弱っていく姿を見るのが楽しかった。

 子どもの頃は手のひらよりも小さい虫なんかを、プチプチ潰して楽しんでいた。下半身だけ切断して、上半身だけ苦しそうに悶えている虫を観ているとそれだけで幸福感を覚えた。息絶えると途端につまらなくなって、他の虫も同じような目に合わせて爆笑していた。

だが、冒険者になってからはより強い者をいたぶるようになってやりがいも感じていた。

 そして、バウンスたちに実力を評価され、声をかけられた。

 後衛として一緒にやっていかないかと。

 世界に点在するダンジョンの中でもラビリンスダンジョンは特別で、そこでやっていけることで充実感を覚えていた。

 自信もついた。

 直接的な攻撃力に繋がるわけではない『デバフ』ばかりを習得する変わり者である自分を受け入れてくれた者達に感謝している。

 だから、もっと殺そう。

 恩返しをするためにも。

「『アシッド』」

 岩をも溶かす酸性の液を、斜め上前方にかける。

 丁度、トロイトに落石するように。

「きゃあああああああっ!!」

 眼が見えなければ逃げる術はない。

 土煙と共に、トロイトは生き埋めになった。


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