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第40話 Fランク冒険者トロイトのダンジョン探索(1)

 永久中立国ラビリンス。

 その国の中心には、樹齢千年以上はありそうな大樹が聳え立っている。

 それ以外にも、あらゆるところに大樹が生えたままの自然豊かな国だ。

 空気が新鮮で美味しく、歩道が綺麗に整備されている。

 木々が多いせいで頻繁に枝切りをしているし、常に葉が落ちるだろうに、道は綺麗そのものだ。塵も落ちていない。

 ウィーベルより綺麗だ。この国の法律で、ゴミのポイ捨ては罰金に当たるからかも知れない。

「着いたー!!」

 ボキボキボキと、背骨を鳴らす。

 道中、スキルを使ってここまで来たのだが、なかなかに疲れた。

 やはり、最近運動不足らしい。

 ラビリンスは比較的ウィーベルから近いところにあったので、数日で着いたのだが今後の旅を考えると移動手段が必要だ。

 目立つからウィーベルでは乗り物は必要ないと言ったが、やはり馬の一頭ぐらいはないとしんどい。

 しかし、ここじゃ、調達できそうもない。

 馬どころか、商業施設も少ないのだ。

 ウィーベルのように屋台が並んでいない。

 この国の特徴は、世界で最も巨大な図書館と、大規模の冒険者ギルドだろう。

 道を歩いているだけで、この国について知れる。すれ違うのは、ここを縄張りにしている強面の冒険者と、学者のような見た目の観光客ばかりだ。

 この国の特色は、警察のような国が管理する組織は存在しない。

 それでも治安を保っているのは、世界でも有数の冒険者ギルドがあるからだ。

 何か問題が起こしたら、すぐに冒険者ギルドの荒くれ共の誰かが派遣される。

 警察のように規則にギチギチには縛られないから、やり過ぎることもあるらしい。

 それで成り立っているのだから、この国も凄い。

 揉め事を処理するだけじゃなく、落ちている枝葉の掃除や観光客の護衛なども一手に引き受けているらしく、活発に活動している。

「久々に来ると、やっぱり人多いよな。特に観光客が……」

 この国の巨大図書館が貴重な文化財として世界に認められている。

 そのため、現地の人間より、観光客の人間の方が人が多いように見える。

 世界各国から支援金が送られるらしく、建物の維持費などはそこから賄われているらしい。

 本の良さを理解できない俺としては、なんでこの国に価値があるのかはよくわからないが、世界的に認められている国だ。

 魔族との大戦の時も、この国は優先的に守られた。

 金があるので、冒険者ギルドも立派な施設であり、依頼達成の報酬金も他の国の冒険者ギルドの平均に比べて二倍ほどある。

 腕っぷしに自信がある冒険者が集まるから、学者が住もうと思っても住みづらいらしい。トラブル防止の為に、区画がキッチリ分かれていて、冒険者と、それ以外の住む場所が分かれているらしい。

「平和だな……」

 貧すれば鈍するというが、この国は潤っている。

 だからこそ、平和だ。

 この国はどこの国にも属さない。

 どの国とも同盟を結ばないし、他国と不可侵条約が締結されている。

 王政がないので、国のトップともいえる人物も存在しないのだから、そもそもラビリンスを『国』と称していいのかも怪しい。

 だが、学問を学びたい人間からしたらここは天国らしい。

 他の国にはない本がここにはある。

 一生かけても読み切れない蔵書がここにはあって、まだ誰も読んでいない本ですら何百冊以上も存在すると言われている。国に縛られていないということは、宗教や思想にも縛られていないことだ。他の国では、燃やされるべき禁書も多く隠されているらしい。

「あいつにとっても楽園なのかな……」

 知的好奇心の塊のような奴が居つくには、うってつけの場所だ。

 だけど、本当にそれだけか?

 平和になった世界を、あいつはきっと望んでいない。

 混沌とする世界を望む魔王よりも魔王らしい精神構造をしていたあいつが、ただここでのんびり本を読むために訪れたとは思えない。

 国家転覆どころか世界征服の準備をしていても、俺は驚かない。

 マリーが言うにはここで問題を起こしたようだが、一体何をしでかしたのか。想像するだけで頭が痛い。どうせろくでもないことに決まっている。

 何はともあれ、今必要なのは情報だ。

 マリーの口から聴いた僅かな情報しか、俺は知らない。

「うおっ!」

 後ろから誰かにぶつかられた。

 踏みとどまったが、後ろからぶつかってきた相手はそうもいかなかったらしい。

「うわ……」

 車にひかれた蛙みたいに地べたに突っ伏している。

 大きなリュックを背負っていて、中身がこぼれていた。

 ランタンとか、スコップとか、縄とか、薪とか、火打石とか、日持ちしそうにない食料とか、あらゆるものが無駄に詰め込まれていたようだ。

 駆け出し冒険者か?

「すい、すいましぇん。うっ、舌噛んじゃった!」

 顔を上げたのは、少女だった。

 俺よりも年下に見える。

 あどけない顔をした彼女は、あたふたしていてそそっかしい。

 旅の経験はあまりなさそうだ。

 この大荷物で地元の人間ではないだろうし、慣れているものならもっと軽装で旅をするはずだから。

 それでいて憔悴しきっている顔はしていない。

 むしろ、顔色はいい方だ。

 ちゃんと栄養のある食事はとっているように見える。

 ということはつまり、ラビリンスから短い距離をここまで移動してきた旅の人間ってところか。

 多分、ラビリンスに憧れてここまできた夢多きお上りさんってところかな?

 とにかく、落ち着きがなさすぎる。

 手を無駄にアワアワさせているのが気になるな。

 癖かな?

「だ、大丈夫か?」

「だいじょぉーぶです! お気遣いなく!」

「あっ、おい!」

「それでは! 縁があればまた会いましょう!」

 そう言うと、風のように去って行った。

 忙しい奴だな。

 しかも、また会うわけないのに、なんでまた会いましょうなんて。

 変な奴だな。

「いや、そうでもないか……」

 彼女が駆けこんでいった先にあったのは、冒険者ギルド。

 俺の行き先だったからだ。

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