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第32話 女教師アンネの放課後(4)

 ウィーベルの墓場には、沢山の十字架が並んでいる。

 まだ死体があればいい方で、モンスターに喰われたり爆発に巻き込まれたりしたせいで埋める遺体さえない時だってある。

 それらを弔うための慰霊碑もしっかりと建てられている。

 死んでいった者達の魂がそこに宿るとウィーベルで伝えられている。

 魔王を倒すために一緒に戦った人達の墓もある。顔さえ知らずに死んでいった者達も、この地面の下に眠っている。

「どうしてお墓に?」

「どうしても、あなたとここに来たかったんです。ここでなら王様は嘘がつけないですよね」

「それは……」

 そうだ。

 一緒に戦ってくれた同志がここにいる。

 そんな人達の前じゃ確かに俺は嘘をつけない。

 アシュラとの話ならさっきまでいた城下町で十分だったはずだ。わざわざこの場所に連れてこられると、自然と口も重くなる。

「……どうしたんですか?」

 聴きたいことがあると、小さく前置きをすると、


「あなたが殺した魔王は今どこにいるんですか?」


 アンネ先生は振り返る。

 血走った眼をしていて、先程とはまるで別人のようだった。

「――え?」

「あなたしか知らないんですよ。魔王を殺した現場にいたのはあなただけだった。同じ仲間にもあなたは言っていないですよね? 魔王がどこに行ったのかを」

「ど、どういう意味ですか? 魔王は殺したんだからそんなのもういな――」

「いいえ。いるんですよ。どこかで生きているはずです。そしてあなたはそれを隠している」

 断言するような言い方で、語気が荒い。

 どうやらブラフや嘘をついている訳ではない。

 魔王が生きていることを確信しているようだった。

「なんで、それを、アンネ先生が?」

 そもそも、どうして魔王と対決したのが俺一人だと知っているのか。そんなことを知っている人間は限られているし、この言い方。アンネ先生がまるでその場に居合わせていたかのようだ。

 それに。

 魔王が今も生きていることを知っている人間は、この俺以外にいないはずだ。

「知っていますよ。あなたのことを調べましたから。徹底的にね」

 アンネ先生が俺の腕を触ってくる。

 ただ触るのではない。

 一本一本ゆっくりと、これから卑猥なことをすることを予感させる指の動きだった。

「ちょ、なにを――」

 アンネ先生は俺の手を取ると自分の胸に当てる。

 俺の手の上から、自分の胸を揉む。

 ほとんど自分自身でやっているだけなのだが、俺の手を使っているのが興奮材料になるのか気持ちよさそうに顔を歪める。

「あっ、あああっ! 強くやっていいんですよ。王様の手で」

 そういうが、俺は一切力を入れていてない。

 ただ弾力のある胸の感触を手から感じているだけだ。

 翻弄されて俺はどうすればいいのか分からないままだった。

 もう片方の手は服の内側に入れて、俺の腹をくすぐるように這わせる。

 指が蛇のようにうねって、その度にくすぐったい。

 さわさわ触って、そして離す。

 その仕草が妙に慣れていて、こういうことをやるのが初めてではないのが分かる。

「知りたいんです。あなたのことを。あなたの全てを」

 耳元で囁くその声にゾクッとした。

 なんだ、これ?

 本当にアンネ先生か?

 俺の知っているアンネ先生じゃない。

 アシュラのことを、他の生徒のことも一生懸命考えてきた人じゃない。

「その反応、やっぱりあなたしか知らないんですね? 魔王様はどこにいったんですか? 跡形もなく殺した? そんなあからさまな嘘はつかないでくださいね。魔王様は絶対に死なない。死んだとしても絶対に蘇る。それこそがあの方のパーソナルスキルであり、呪いなんですから」

 こいつ、もしかして完全に魔王派の人間か?

 人間側を裏切って魔王側についている人間だったのか?

「教えてくれるなら、私の身体好きに使っていいんですよ」

 はあ、と吹きかけてくる吐息が熱い。

「ちょ――」

 そのまま耳たぶを甘噛みされる。

「あはっ、いいですよ。初々しくて。教えてあげましょうか? 今まで感じたことのない快感を」

 アンネ先生の手が陶器を触るように俺の腰を触り、そして俺の股の内側に触れる瞬間、俺は勢いよく突き飛ばした。

「きゃ!」

「お前、誰だ」

 操られているのか?

 いや、それなら気がつくはずだ。

 操られている人間は、動きに違和感が出る。

 あまり話したことがない俺なら、その違和感に気が付かなかったかも知れない。だが、アシュラは違う。

 この人はアシュラの担任だったのだ。

 あのアシュラがずっと学校にいた人間が怪しい挙動を取っていたら、操られているかどうか分からないはずがない。こうして二人きりになどしない。

 つまり、これがアンネ先生の本性?

 口ぶりからすると魔王の信奉者のようだ。

 俺と二人きりになる機会を待って、ずっと普通の教師としてあの学校に潜伏していたのか?

「やっぱり、教えてくれないんですね。情報だと色仕掛けに弱いと思ったんですけど、そこまで抵抗するってことはもしかして、あなた自身も分からない? それとも知らない? だったらいいです。私が自分自身の力で、私達の王様を見つけだしてみせますから」

「私、達? お前ら一体……?」

 俺の質問に答えずに、にっこりとアンネ先生は笑って、


「あなたはもう死んでください」


 伸ばした腕で俺の身体を貫通させていた。

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