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第29話 女教師アンネの放課後(1)

「貴様、覚えていろよ」

 そう言ってセミラミスは去って行った。

 マリーとのキスを止められなかったこともそうだが、一騎打ちで負けたことを悔やんでいるようだった。最後の最後まで剣を鞘に納めることはなかった。

 マリーはマリーで自分の仕出かした大胆な行動からすぐに、我に返ってしまった。赤面して俺と顔をまともに合わせないまま馬車へと乗り込んでしまった。

 そして。

 台風のような彼女達が去って少しは一段落ができるかと思ったが、どうやらそうもいかないようだった。

 平和になった世界でもそれなりに大変なイベントがあるものだ。

 将来を左右する大事なイベントだ。

 その始まりの合図であるノックがされる。

「どうぞ」

「勇者様。先生が到着しました」

「ああ、今行く」

 サリヴァンを後ろに連れだって、俺は客室へと赴く。

 そこにいたのは、アシュラと、それからその担任であるアンネだった。

 アンネ先生は大きなカバンを持ちながら、いつも以上にキッチリとした格好でいた。

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 フカフカの椅子に座ると、先生と対面する。

 こうして俺の家である城にわざわざ先生にご足労願い、三人で話し合いをする。

 そう。

 これは家庭訪問だ。

 今日はアシュラの進路相談をするために、こうして来てもらったのだ。

「家庭訪問は初めての体験でしたけど、こうして家を何件も回っても慣れないものですね」

「そうでしょうねぇ」

 キョロキョロと視線を動かして、先生にとしては落ち着きがない。

 まあ、それもそうか。

 城に訪問する家庭訪問なんて聴いたことがない。

 俺が逆の立場だったら、先生よりもっと動揺していただろう。

 家庭訪問は俺の国策というか、アイディアだ。

 この国では学校で三者面談とか保護者達を集めての話し合いみたいなものはあったのだが、家庭訪問はなかった。

 家庭の状況を知るためにも家庭訪問が必要なのではないかと思い実施したのだが、家に来ることを想定していなかった。

 このところマリーとの会食の件もあって忘れていたのだが、これはこれで大事な一件だ。

 アシュラの普段の学校生活を先生から聞けるのは嬉しい。

 しっかりと話し合いをしていこう。

「国王様は教育に力を入れているようですね」

「え? そうなんですか?」

「なんでそっちが訊いているんですか」

「だ、だって……」

 アシュラにツッコミを入れられるけど、本当に分からないのだ。

 俺は言わばお飾りの王。

 国を実際に仕切っているのはサリヴァンなのだ。

 どこの馬とも知れないまだまだ若い小僧に、一国が任されるわけもない。

 生まれてきてから帝王学を叩き込まれた超エリートならまだしも、俺は一般家庭に生まれ育ったのだ。

 いきなりやれといわれて国政全てに関われるはずがない。

 異世界の知識はあるからアドバイス程度はできるが、ただそれだけだった。

 確かに、教育に関しては少しばかり口を出した回数が多かったけど、別に力を入れているとかそういう訳じゃない。学生だったから、それぐらいしか思いつかなかっただけだ。少しでもサリヴァンの力になりたかったし、国民ためになればと思っただけだ。

「家庭訪問なんてこの世界じゃなかった文化ですから。それに、生徒自身に掃除をさせる行為も……」

「あー、らしいですね」

 俺からしたら生徒が机を運んだり、箒で掃除をしたり、給食の準備をしたりと。

 そういう行為は生徒自身にされるのが当たり前、という感覚なのだが、どうやらこの世界では異常らしい。

 メイドや執事などの使用人を雇って雑務をやらせるのが常識らしいのだが、そうなると人件費がかなりかかるのだ。特に考えもなく、経費削減できるところから着手しようと思ってそうしただけで、教育に関して熱を込めて対策をしているというわけではない。

 だが、どうやら眼の輝きようから尊敬されているようだ。

 うーん、勘違いされていますねー。

「何かまずかったですかね?」

「生徒の自主性を育ているというのは教育者としては賛成です。ですが、運動会というものは少々問題になるかもしれません……」

「え? なんで!? 運動会ぐらいあってもよくないですか!? 楽しいですよ! やっぱり勉強ばかりしているのは生徒が辛いでしょうし、たまには息抜きだって必要ですよ。それに、たまには運動ができる子が活躍できるような場を用意してあげないと!」

 勉学ばかりじゃ勉強の出来る子だけが褒められる環境になる。

 だが、運動会という、運動が得意な子が晴れの舞台に上げられるようにしたら、もっと学校に行きたくなる子が増えるんじゃないかと思って、運動の時間を増やしたのだ。運動会だけじゃなく、普段の授業カリキュラムもだ。

 もっとも、単純な運動だけでなく、スキル向上の授業もやった。運動会ではスキルの使用もあるものにした。ルール無用にすると流石に設備や人間に被害が出そうだったので、怪我をしないよう制限を考えるのだが大変だった。だが、結果的には成功し、それなりに好評だったとサリヴァンから聴いていたんだけど。

 もしかして、外側からじゃ見えない綻びがあったのかな?

「ええ、確かに生徒の個性を見るというのは素晴らしいことです。問題なのは組体操や行進の演目です。あれの練習のせいで――この国が戦争を始めようとしているという噂が流れています」


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