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第28話 女騎士セミラミスは好戦的である(8)

 城壁にそびえ立つ門の前。

 朝の日光を浴びて、馬がブルルと嘶きながら気持ちよさそうに首を振っていた。

 マリーが、自分の国に帰国するための馬車が止まっていた。

 馬車は一頭だけではなく、たくさん並んでいた。護衛と騎士もたくさんいて外で待機していた。この人達城で見ていなかったけど、ずっと城の外で待っていたのか。何かあったらすぐに駆けつけて来れるようにいたのだろう。

「もう帰るのか?」

 マリーに向かって俺はそう質問した。

「ええ、まあ。色々ありましたからね」

「うん、まあな」

 確かに、色々あったな。

 土下座とか泣いたりとか、決闘したりとか。

 その後は自爆に近いスキル発動とか。

 弁償すると頑なに言っていたが、遠慮しておいた。

 俺やマサムネのスキルでどうにか修理できるだろうしな。

 ちなみに傷の治療は、城内に仕えているヒーラーにやってもらった。

 俺とて自己治癒力の強化などのスキルは使えるが、一日やそこらで傷を癒すとなると相応のスキルがなくてはならない。

 怪我を治すスキルというのは扱うのが難しく、下手したら余計に怪我を悪化させることだってある。俺も得意な方ではないので、緊急時以外は自分では使わないようにしている。

 専門家に任せたことで俺の傷も、セミラミスの傷ももうない。

 なのに、マリーが気まずそうにしている。

 やはり、昨日のことを引きずっているのだろう。

 こんなに早朝から出発するのは、顔を見るのも恥ずかしいからかな。

「取り乱して申し訳ありませんでした」

「いや、いいよ。こっちもだいぶ悪かったしな」

 そっと、視線が外れる。

 マリーの眼をまっすぐ見られないのは、セミラミスの身体を触っていた罪悪感があるからだ。

 いや、ほんとごめんなさい。

 そんなに謝られれるとこっちが恐縮してしまう。

「実は私が直々にわざわざここへ来たのにはまだ理由があるんです」

「え? まだあるのか?」

「はい。私がここに来たのは、あなた様にご報告しなければならないことがあったからです」

「ご報告?」

「ええ、そうです。現在、魔王を倒したパーティは私達以外行方知れずでしたが、その内の一人の目撃情報があったことをご報告致します」

「は、はあ!? 本当にか?」

「お静かに」

「あ、ああ……」

 ぐっと近寄ってくる。

 トップシークレットだからしかたないんでしょうけど、あの、近寄り過ぎて胸が微妙に当たりそうなんですけど。

 やっぱり近くで見ると質量があって眼が吸い込まれそうになる。

 何も考えずに、アレをたぷんたぷんしたい。

 いや、待て待て。

 煩悩退散。

 今は真面目な話をする時だ。

「確かな筋での情報です。『ラビリンス』に彼女がいるそうです」

「あそこに!? あの『永久中立国』にか? どうして? 誰が?」

 永久中立国ラビリンス。

 その名の通り、どの組織にも属さない国であり、永久不戦宣言をした世界唯一の国。

 国としての歴史は世界最古といわれている。

 かつて、魔王と人間との世界大戦の時、ラビリンスは誰も助っ人を派遣しなかった。世界の危機に我関せずといった態度を続けているせいで非難を買いやすい国ではあるが、それと同じぐらい愛されている国でもある。

 魔族に国を狙われた時は、各国から戦力を派遣されて保護された過去がある。自分達は他国のために何もしないのにだ。それだけ、ラビリンスには世界的価値のある遺産があるのだ。

 俺にとってはあまり価値なんてないが、偉い人にはあるらしい。

 あの遺産の何がいいのか俺には分からない。

 まだ宝石とか分かりやすいものの方がまだ理解できる。

「いや、あいつか……。そうか『ラビリンス』か。あいつしかいないな……」

「ええ、あの方です」

 あいつとか、あの方、と濁すしかない。

 もう、名前を言うだけで気分が悪くなる。

 確かにあいつならばラビリンスにいてもおかしくはない。

 あいつが好きそうな場所だからな。

 もしかしたらあいつは、俺が出会った中で一番性格が悪い奴かもしれない。敵でいてくれた方がいっそ、憎むことができたのに、とさえ思ってしまう。味方でいて助かったこともあったが、それ以上にピンチに陥ったことの方が多かった。だから名前を口に出したくない。

「目撃情報っていうのは?」

「詳しいことは分かっていませんが、彼女がまたラビリンスで問題を起こしているようです」

「まあ、だよな」

 あいつがいる場所、必ず事件が起きる。

 奴の知的好奇心のために、犠牲の山が築かれる。

 必ず事件を起こす。起こさずにはいられない性格だからな。

「情報ありがとうな。まあ、俺には関係ないけど」

「会いに行かれないのですか?」

「他の奴ならまだしも、あいつと会うのはごめんだ。あいつはどんな敵よりも敵だった。味方なのにな……」

 今思えば、どうして一緒に旅を続けられていたのか分からない。

 あいつは人間側についていたが、その本質はモンスター側に近かった。むしろ、他人が傷つくの見て愉悦に浸るタイプだったからな。

 あいつと再会したらまた何をされるか分かったものじゃない。

「だいたい、あいつに会う理由なんてないからな」

「そうですね。魔王を倒した今、かつてないほど隣国同士で緊張状態が続いています。これから魔族と人間ではなく、人間同士の領地争いが始まるかもしれません。そんな時にあの方がいたら、状況を引っ掻き回すとしか思えません」

「……確かにな」

「――ですが、それよりもまず危惧すべきことは、魔族との戦争です。真の意味で終わったとは到底思えません」

「だけど、あとは魔王軍の残党がいるぐらいだろ。しかも、ずっと沈黙を保っている」

「それが問題です。彼らはモンスターです。大なり小なり問題を起こすのが普通です。ですが、生き残った魔王幹部は小さな事件さえ一つも起こしていない。まるで、大きな事件を起こす準備をしているように……」

「嵐の前の静けさってやつか」

 ようするに、再び大戦が起こるかも知れないってことか。

 マリーは有事の際に必要な戦力を確保するための情報提供をしてくれたのか。

 だが、よりにもよってあいつの情報しか手に入らないとは。

「分かった。情報ありがとう。マリーも気を付けてくれよ」

「はい。ですが大丈夫です。私にはセミラミスがいますから」

「セミラミスか……」

 思うに、セミラミスはまだ実力を出し切っているように思えなかった。

 あいつは自分のためではなく、大切なものを守るために戦っている時が強い。

 攻撃的よりも、防御的なスキルの方が取得率は高いはずだ。

 全てはマリーを守るため。

 だからあれは本気の勝負じゃなかった気がして、あんまり勝った気にはなっていない。

「あっ!」

 危険な話をしていたから、突然声を上げたマリーに驚いた。

 横を見やったマリーの視線を追って、俺は横を向いた。

 その瞬間、頬にチュッと短くキスをされた。

 唇が当たった箇所が熱い。

 顔から火が出るようだ。

 あまりにも短くて、決定的場面を見ていなかったせいで気のせいかと思ったぐらいだ。

「え?」

「すいません。私にはどこか遠慮した態度ばかりなのに、セミラミスとは本気で向き合っていたからつい嫉妬しちゃいました」

「遠慮って。嫉妬って」

 遠慮じゃなくて、あまりにも神々しいから気軽に接することができないだけだ。俺とは釣り合わな過ぎるし、嫉妬されるほど上等な人間じゃない。セミラミスは俺のことをぞんざいに扱うから、俺も素で相手できるだけの話だ。

「だから、これはただの意趣返しです。それ以外の意味はありませんので気にしないでください」

「き、気にするって、こんなの」

 はにかみながら俯くマリーに、俺は動揺を隠せない。

 だって、震えていた。

 恥ずかしくてここから逃げ出したいようにも見える。

 それが。

 とてつもなく可愛かったから。

 だから。

「こんなの忘れられないって」

「そう、ですね。私もきっとキスしたこと忘れません。いいえ、忘れられません」

 スカートの裾をギュッと握る。

「たとえ好きな人に好きな人がいたとしても、それが諦める理由にはなりません。だって、ずっとそうだったから。私はずっとあなたが好きです。そのことは忘れないでください」

「……ああ、もちろん」

 こんなに強烈な刺激を与えられたら、忘れようにも忘れられない。脳裏にしっかりと刻まれた。……そうだよな。

「きぃ、さまあああああああああああああああああああああああ!!」

 おーう。

 どこからともなく怒りの声が聴こえてきた。

 ドドドドド!! と迫り狂う足音は段々と大きくなっている。

 チャキン、とか剣が鞘から抜かれる音もしていますけれど。

「姫様の無垢なる唇をおおおおおおお!! うらやま――けしからん!! 叩き斬る!!」

「理不尽すぎるだろおおおおおおおおっ!!」


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