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第27話 女騎士セミラミスは好戦的である(7)

 視界が光に塗りつぶされる。

 ぶつかり合った衝撃の余波が、闘技場に貼られていた不可視の防護壁を貫いた。

 もしも一方だけの力だけの衝撃がまともに防護壁にぶつかっていたら、闘技場の原型はなくなっていただろう。

 それほどまでの破壊力だった。

 優秀な人間達によるスキルを重ね掛けされた防護壁だったが、二人の一撃によって完全に破壊されてしまった。

 ガラス片のようにバラバラにされた防護壁が薄ら可視化されている中、俺は膝をつく。殺しきれなかった衝撃によって、壁に激突していた。服が所々破れていたり、出血している箇所もあるが、その肉体的ダメージよりも、中身のダメージの方が甚大なものになっていた。

「かはっ!」

 呼吸が苦しい。

 全力全開でのスキルを使ったので、身体が言うことを聞かない。

 もしも、またあのパーソナルスキルを使われたら負けるのは俺の方だ。

 また相殺できるとは限らないのだ。

 巻き上がる白煙が、霧のようにどんどん晴れていく。

 ごくり、と自然と喉が鳴る。

 戦闘態勢はまだ解くわけにはいかない。

 初めに見えたのは鎧――その欠片だった。

 地面に砕けた欠片が散乱している。

 その次に見えたのは剣。

 近くに主人がおらず、まるで墓標のように地面に突き刺さっている。

 罅割れていて、今にも自壊しそうだった。

 地面が抉れていて、クレーターみたいになっていた。

 これだけの惨事を見ても、俺は心のどこかでこう思っている。

 セミラミスはまだ戦える、と。

 常人ならば死んでいるだろうが、あのセミラミスがこのまま負けてくれるとは思えない。

 あれだけの覚悟をもって俺に戦いを挑んだのだ。

 人影が見えた。

 その影は俺に向かって駆けてくる。

 スキルを使い切って身体が動かないのは一時的なもの。あと一呼吸付かせてもらうだけでまともにスキルを使えるようになるのだが、そんなの相手が待ってくれる訳もない。

「くそっ――」

 先手を打たれた。

 もう駆け引きも糞もない。小細工を弄するほどの体力など残っていない。あとは気力の問題だ。どれだけ意地を張れるかどうかによる。

 俺は立ち上がって真正面から戦うことを選択する。

 絶対に勝ってやる。

 そう思って拳を握ったのに、俺はその拳をすぐに開いてしまう。

「あっ――」

 体力が尽きたわけではない。

 もう戦う必要が無くなったからだ。

 俺が手を伸ばしたのは、差し伸べるためだ。

「……セミラミス……気絶しているのか?」

 セミラミスは俺に向かってきた。

 だが、既に消耗しきっていたのだ。

 パーソナルスキルを発動した時に、とっくに限界を迎えていたんだ。

 そして、限界を超えたセミラミスは俺に向かってきた。

 気絶したまま、身体だけは動いたってところか。

 体当たりするように倒れてきたセミラミスを、抱きしめるようにして俺は支える。

 柔らかい肌には、傷がついている。

 きっと、ずっと姫様のために戦ったきたのだろう。

 セミラミスはマリーの幼なじみでずっと一緒に過ごしてきたらしいからな。

 二人は本当に仲が良くて――ん? 柔らかい肌? 待て待て。なにかがおかしくないか?

 視線を下にやる。

 そこにあるのは尻!! それも完全に見えちゃっている!! 服を着ていない!! しかもほぼ全裸だ。着ていた甲冑はぶっ壊れてそこらに散乱しているが、服が破けている。それも微妙に残っている服が大事なところを絶妙に隠しているせいで逆にエロい!!

 ある意味全裸よりもエロいんだが。

 しっかし、尻から脚の曲線がエロいんだけども。安産型とかいうやつか。やはり肉体を鍛えているだけあって、アシュラなんかとは比べ物にならないほどに大人の身体というやつだ。

 どんな感触なのか触って確かめたいけど、そういうわけにもいかなよな、と思っていたら油断した。

 ズルリ、と俺の手が滑ったせいで、セミラミスが地面に叩き付けられそうになる。身体に触ることに遠慮して力を抜いてしまったせいだ。

 俺は慌ててセミラミスをつかむ。

「んあっ」

 艶っぽい声がセミラミスから漏れる。

 わざとじゃない。

 わざとじゃないんですけど、お尻をついついつかんじゃいました。

 今ので完全に覚醒しちゃったかな? と思ったけど、まだ大丈夫だ。

 目を覚ましていない。

 というか、あれ?

 すんごいハリがあるんだけど!!

 鍛えているだけあって、引き締まっている。

 偶然にも尻を両手でつかんだしまったせいで尻の感触が手のひらから伝わってくる。しかも、しかも、だ。俺の手は今痙攣してしまっている。くっ……。本当はこんなことしたくないのだが、戦闘の疲れかしらないが手が勝手にわきわきと動いてしまっているのだ。

 臆病者だから積極的には動かせないが、むちゃくちゃいいな。

「あっ、んっ……」

 尻なんて男と大差ないと思うんだけど、なんだか凄い興奮する。このシチュエーションがそうさせるのだろうか。

 セミラミスには隙がない。

 勝ち気で常に男を寄せ付けないようなセミラミスが、今は全裸で俺に寄り掛かっている。この闘技場には誰も人は来ない。二人きりだけの空間で、セミラミスは気絶している。

 つまり、俺は今なんでもできるのだ。

 セミラミスに何をしようがバレようがない。

 なんてパラダイスだ、これ。

「はあ……はあ……」

 セミラミスの熱い吐息が耳にかかる。

 起きていないんだよな? これ?

 大丈夫だよな。

 今起きると大変まずい。

 だって、俺鼻血ドバドバだもん。

 戦闘での傷によるもの……だよ……な? まさか、裸の女性を見て興奮して鼻血が出たなんて、今時小学生でもやらないようなことを俺がするわけがない!

 だが、興奮しているのは事実。

 尻でこれだけ興奮するってことは、他の部位は? そう、もっと詳しくいうならば、胸を見た場合どうなるんだろうか?

 俺の分身体が、おはようと起きてしまうのだろうか。

 そう。

 とても重要なことだが、俺はまだセミラミスのお胸をまだ拝見していないのだ。

 あまりにも肉薄しすぎていて、角度的に死角になってしまっているのだ。

 盛り上がっているお胸の上部分しか見えていない!

 山に例えるならば山頂部分が見えないのだ!

 ギリギリ!

 昔の、多分偉い人は言った。どうして山に登るのかと訊かれた時、そこに山があるからだと。

 俺は子どもの頃、それを聴いてピンとこなかった。

 なんか哲学っぽいこと言っているけど、特に理由を思いつかなかったから適当なこと言っているんだろ? と馬鹿にしていた。

 だが、今ならあの名言の意味が分かる。

 まだ頂上が何たるかを経験せずにいられない。

 理屈抜きに頂上を目指すのは男の性なのだ。

 ロマンなのだ。

 他の誰かに馬鹿にされても貫き通す信念なのだ。

 他人に理解されなくともいいと思えることなのだ。

 それが分かったということは、俺は大人の階段を上っているのだ。

 つまり、胸を触ってもいいんだ。

 ……ってだめだろ!! 危ねえ!! 何を正当化しようとしているんだ!! 今までの行為は誰がどう考えてもセーフ!! だが、ここから先は違う。

 事故ではなく、自らの意志で触るのだ。

 意識のない相手にそんな卑怯な真似できないよな。

 俺は起こさないようにして、そっとセミラミスを身体から引き剥がそうとすると、

「どうしましたか!?」

「え?」

 階段を大急ぎで降りてきたらしい、マリーが汗をかいていた。

 だが、その汗が俺達を見て一気に引く。

「マ、マリー?」

 なんて間の悪さだ。

 今度は俺が汗をドッとかいてきた。

 闘技場にかけられていたスキルによる防音機能は、さっきの衝撃で壊れてしまったのだろう。そうでなくても、あれだけ揺れたのだ。何かあったと思って駆けつけてくるのは必至。だが、何もこんなタイミングでこなくともいいんじゃないんだろうか。

「ゆ、ゆ、ゆ、勇者様これは? その格好は? それに、どうしてセミラミスの、その、あれから血が?」

 血?

 それって俺とセミラミスとの戦闘によって流された血のことか?

「……がっ!」

 いや、違う。

 セミラミスには血が滴り落ちていたが、それは彼女自身の血だけではなかった。

 俺の鼻血の血も落ちていた。

 しかもだ。

 俺は尻に釘付けになっていた。

 無意識に前かがみになって尻に顔を近づけていたせいで、俺の鼻血は彼女の尻に落ちた。それが太ももまで流れていたんだけど、それが初体験的なアレに見えるんだよね、これが。女性の大切なものを奪った的なあれね。

 セミラミスは半裸だし気絶しているし、こんなん俺が意識ない相手に無理やり変態行為をしたとしか思えないよね、これは。

「待て待て、これは本当に誤解で――」

 ドタドタと複数の足音が聴こえてきたと思ったら、マリーに遅れながらアシュラとマサムネとサリヴァンがやってきた。

「最悪……」

「男ってやっぱりケダモノだな」

「やりましたね! 既成事実です! セミラミス様とこのまま婚約しましょう!」

 軽蔑したような眼で見られる。

 なんか一人だけ喜んでいる人がいるけど、それは無視しておこう。

「大きな音がしたのでなにかあったかと思ってみんな駆けつけてきたんですが、これはどういうことですか? 勇者様」

 ゴゴゴゴ、とマリーからスキルを使う空気が。

 自分で発動するというより、感情に呼応して勝手に発動しているという感じ。

 だが、それでもこれだけの覇気を感じるなんて。

「いや、これは誤解だよ、誤解」

 セミラミスは確かに強かった。

 だが、彼女の魔術レベル自体は極端に低かった。

 だから、ドッカンドッカン特大の被害を出せるわけではない。

 しかし、マリーの魔術レベルは限界まで引き上げられている。

 つまり大規模な破壊を引き起こせるということだ。

 膨れ上がった魔力が暴発し、光の奔流に呑み込まれた。

「ちょ、シャレにならならいって今の状態じゃ防御がああああああああああ!!」

 そして。

 マリーのスキルによって、闘技場は完全にぶっ壊れた。


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