第24話 女騎士セミラミスは好戦的である(4)
「パーソナルスキルだと!? ……まさか! 選ばれた者しか習得できないはずだ!!」
俺は腕に力を入れて、パーソナルスキルを発動しようとする。
だが、今までとは全く違う速度で肉薄するセミラミスにたじろぐ。
「はや――!!」
「どんなパーソナルスキルかは知らないが、それを使わせるほど私はお人よしじゃない」
身体能力向上系のスキルを使い、足の速度を引き上げた――なんて茶々なものじゃない。瞬きする時間に懐に入られていた。
これは『縮地』だ。
たったの一歩で数メートル、数十メートル以上の距離を無にすることができるスキル。上体を倒すことによって足に重心を集め、前へ進むエネルギーを増幅させる。そして足のつま先に気を溜め、一気に放出する。
それは闇雲に使われる身体能力ではなく、まさに技術の集大成。
高度な戦いの中で必ず使われるスキルの一つ。武術スキルを極める人間が『縮地』なしに、スキルレベル100を相手にはできないだろう。ポピュラーなスキルの一つでありながら、使い手は限られる。実際目にしたのは久しぶりだ。
「はあっ!!」
剣を振るわれる。
移動時間を縮めることだけが『縮地』の利点ではない。
一瞬で距離を詰めることができるために、相手の虚を突けることができる。
俺も一瞬のことなので、防御も攻撃もすることができなかった。
どんな力も技術も、圧倒的な速さの前では意味をなさない。
――そしてそれは、セミラミスにも同じことが言える。
「え?」
空振りしたセミラミスは惚けたように立ち尽くす。
まさか――と小さく呟くと、がばっと視線をこちらに向けてくる。
数メートルは離れている俺の方へ。
「なんだ今のは? まさか私と同じ『縮地』か!? そんな馬鹿な! 貴様のスキルレベルでは到底扱えない代物だ!! どうして使える!?」
「さあな」
「くっ!!」
恐らく、武術スキルの一つである『心眼』を使ったのだろう。
相手のスキルレベルを確認することができるスキルだ。
情報を持つことは戦いにおいて有利となる。
セミラミスがまた消えた。
きっと『縮地』を使ったのだろう。
だが、今度は真正面から向かってこなかった。微かに聞こえる蹴り音で分かる。恐らくは死角から攻撃してくるつもりだ。
つまり、背後からの攻撃だろう。
落ち着きを失った人間の行動パターンは自ずと決まってくる。先が読めるのはいいが、攻撃のタイミングが読めない。
攻撃してくるタイミングがつかめない以上、俺も『縮地』を使って距離をとると一瞬だけ剣を振るうセミラミスが見えた。俺の残像を斬りつけているセミラミスに向かって、俺も『縮地』を使うが、セミラミスが姿を消した。そんないたちごっこが何度が続く。お互いが超高速で動き続けられる『縮地』の使い手だと一撃を与えることさえ難しくなってくる。
こうなってくると焦って、適当に魔術を放ちたくなる。当たればいいが、外れた時に攻撃される隙が生まれてしまう。なるべく素早く動いて相手の隙を気長に待つのがベストだろうが、もっとセミラミスの心を乱したい。
ズザザザ――と、ブレーキをかけて立ち止まる。
どこにいるかもわからないぐらいの素早さで動く相手への有効手段はただ一つ。
全方位に攻撃を放つ範囲攻撃による迎撃。
「『震脚』」
相撲の四股に似たモーションによって、地面に衝撃を伝える武術スキル。
地震のような揺れを一時的に起こすことができる。
確かに『縮地』は有効なスキルではあるが、弱点がないわけではない。
必ず地面に足をつけなければ発動できないということ。
いきなり起こった揺れに対応できずに、つんのめる。
「ば、馬鹿な! これも上位の武術スキルだぞ!!」
姿勢を崩していては、まともに防御できない。
だからこちらは安心してスキルを発動できる。
「『バーンフレイム』」
俺の掌から火球が飛び出す。
威力は低いが、速度は一級品である『フレイムボール』のようなスキルだが、それでは終わらない。
火球はセミラミスと衝突した瞬間、馬鹿でかい火柱に変化する。
「くああああああああああ!!」
ただの火柱ならばタイムラグが発生するが、まずはじめに速度のある火球を当てることさえできればより威力の高いスキルが発動するというスキルだ。
「な、なんだ、この魔術スキルは? まるで『フレイムボール』と『ファイヤーウォール』を掛け合わせたようなスキルだ。こんなの、知らないぞ……。これが、お前のパーソナルスキルか?」
「ああ、そうだな。だが、これは俺のパーソナルスキルであり、それと同時にパーソナルスキルじゃない」
「……どういうことだ?」
別に謎かけじゃない。
そのままの意味だ。
「なあ、セミラミス。俺のスキルレベルはどう見えている?」
「はあ? そんなの、魔術スキルレベル50と武術スキルレベル50に決まっているだろ? まさか総合スキルレベルが100だから私と対等であるつもりじゃないだろうな? 中途半端なスキルレベル50と世界最高峰のスキルレベル90じゃ天と地ほども差があるぞ」
「そうじゃない。錬金術スキルレベルを見てみろ」
「そんなの確認するまでもない。0に決まって――――なっ、なんだこれは!?」
そうだよな。
驚くよな。
セミラミスは、魔術スキルと武術スキルの二つを確認したのだろう。
そう、それで終わったのだ。
総合スキルレベルの限界値は100なのだ。
わざわざ視認するまでもなく0に決まっている。
そう。
それがこの世界の常識。
この異世界の人間は必ずその枷をつけている。
「錬金術スキルレベル50!? ば、ばかな!! 私の心眼スキルがおかしいのか!? それとも何かしらのスキルを使って、自分のステータスの幻を見せているのか!?」
「いいや、合っているよ。俺のスキルレベルは、魔術スキルレベル50、武術スキルレベル50、錬金術スキルレベル50の、総合スキルレベル150だ」
「あ、ありえない!! どんな人間であろうと絶対に総合スキルレベル100を超えることなどできるはずがない!! それがたとえ異世界の人間であろうとだ! この世界の絶対的な法則を超えられるはずがない!! それがこの世の理!! 常識だ!!」
「常識は覆るためにあるんだよ。まっ、俺だって世界の常識を知っていたら三大スキルをバランスよく上げようとなんて思わなかったけどな。だけど、この世界の住人じゃない俺だからこそ、この境地までたどり着いた。前人未到の総合スキルレベル150にな」
「ど、どういうことだ」
「お前は……いや、この世界の誰も知らないだろうが、複数のスキルレベルを均等に上げていった時に上限が発生するのは50からだ。だから俺も50からレベルを上げることができない。だが、最後にもらった経験値を三大スキルに均等に振り分け、その瞬間に三つのスキルレベルが上がった場合のみ、総合スキルレベル150に到達することができるんだ」
「そ、そんなことできるはずがない!!」
「できるかできなかいの議論の意味はないだろ。実際に俺がこうして総合スキルレベル150になっているんだから」
「くっ!」
推理小説のトリックのように、どんな複雑な謎だって解明していけば単純なものだ。
俺はゲームのレべリングは、バランス重視でプレイするタイプだった。
それがたまたまレベル上限突破の方法だったと言うだけの話。
この世界の常識を知らぬが故に起こった偶然だが、ここまで来ると運命とさえ思える。
「だが、貴様、そのことを普通に私に話してもよかったのか⁉ これは世紀の大発見だぞ!? 他の人間が真似をしたらどうする!?」
「スキルレベルを上げることはできても、下げることはできない。だから、誰にも実現できない。仮に今レベルが低い人間が俺の真似をして均等にスキルレベルを上げたとしても、総合スキルレベル150にいけるとは限らない。……なぜなら、俺のパーソナルスキルの条件が、恐らく総合スキルレベル150になることで得られるからだ」
「なに!?」
俺が再び足を上げる。
このモーションは先ほど発動した『震脚』と同様の物。
セミラミスは危機を察知して、鞘を使って跳躍する。
「『浸透脚』」
だが、今回の震動は地面だけじゃない。
鞘に伝わって、セミラミスへと衝撃がいく。だが、それで終わりじゃない。身に着けている鎧を素通りして肉体そのものにダメージを与えた。
「ぐっ!! こ、これは!? 武術スキルの『震脚』と『浸透勁』を合わせたような武術スキル!? ま、まさか!? これが!? 他人のスキルをコピーすることができるのが貴様のパーソナルスキルか!?」
「少し違うけど、いい線いっているよ、セミラミス」
「何!?」
「それじゃあ、今までセミラミスが見たことのないスキルを使っている説明にならないだろ? 俺のパーソナルスキルはコピーするスキルじゃない。それより次元が違うパーソナルスキルだ」
「そんな――ま――まさか!?」
「そうだ。これが俺のパーソナルスキル。錬金術スキルの一つである『合成』を、俺はスキルに使うことに成功した。つまり、習得していないスキルを、習得しているスキルをかけあわせることによって、それに近いものを使うことができる。もしくは、全く新しいスキルを『合成』によって生み出すことのできるスキルだ」
三大スキルを節操なしに鍛え上げた俺だからこそたどり着いたパーソナルスキル。
ある意味、これこそがパーソナルスキルの極致だ。
二兎を追う者は一兎をも得ずというが、俺は三兎を追って三兎を得た。
「『スキル合成』――組み合わせ次第で無限にスキルやパーソナルスキルを生み出すことができる。それが俺のパーソナルスキルだ」




