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第21話 女騎士セミラミスは好戦的である(1)

「ちっ――」

 俺はベッドから起き上がる。

 会食は、マリーがずっと泣いていたせいで自然と終わった。

 大失敗だ。

 俺は何のフォローもできなかった。

 女性経験のある奴だったらあそこで何か気の利いた一言ぐらい言えたかもしれない。

 だが、俺は何も言えなかった。

 気まずいまま自室に戻った。

 サリヴァンに説教されるかと思ったが何も言われなかった。

 逆に罵られた方がスッキリしたっていうのに。

「眠れない……」

 会食の前に寝てしまったせいもあって、さっきから寝られない。

 ベッドに横たわって一時間以上経っている気がする。

 目蓋を瞑ると、マリーが泣いていた姿が蘇るのだ。

 寝ようと思っても寝られるはずがない。

 すると――コンコン、と部屋のドアがノックされる。

「誰だ?」

 こんな時間帯に誰かが部屋に訪れるのは珍しい。

 控えめにノックしてきたってことは、俺が寝ているのを考慮したってこと。

 そんな可及的速やかな行動を期待しているわけじゃないってことは、大事じゃないってことか。

 俺はドアを開けると、驚きのあまり固まってしまった。

 予想だにしない人物がそこにいたからだ。

「セミラミスか……」

 俺のことが嫌いなはずのこいつがわざわざ訪ねてくるなんてな。

 セミラミスとマリーは長旅で疲れているということもあって、この城に一泊することになった。

 だから彼女が夜中に城にいるのはおかしくない。

 だが、一体何の用だ。

 敵意剥き出しに睨み付けてくるのはいつものことだが、なんだか微妙に違う。

 瞳からはいつもよりも深く重い感情を感じる。

「どうした?」

「私と決闘しろ」

「……なに?」

 聞き間違いか?

 決闘しろと聴こえた気がしたが。

「私はお前と姫様が過去にどんなことがあったのか詳しくは知らない。だから口出しすべきじゃないことは分かっている。だがな……それでもお前のことは赦せないんだよ。どうして姫様のことを泣かせたんだ」

「セミラミス、お前……」

 姫様大好きのセミラミスがあの時何の口出しもしなかったからおかしいとは思っていた。

 だが、まさか決闘まで考えているとは思わなかった。

「私と戦え。貴様だけは赦せないんだ」

 いつもだったらのらりくらりとかわすだろう。

 そこらのチンピラと戦うのとは話が違う。

 セミラミスのような実力者と戦うとなるとシャレですまない。

 俺だって手加減なんてできない。

 血が流れる戦いになるだろう。

 セミラミスがこうして、俺が一人になった瞬間を狙って訪れたのは邪魔が入らないようにするためだ。

 本当だったら食堂ですぐにでも剣を俺の喉に突き立てたかっただろう。

 それを我慢したのは、誰の介入もなしに戦いたかったからだ。

 それだけ俺のことを叩き斬りたいらしい。

 愛しの姫様を泣かせた奴だからな。

「ああ、いいよ。戦おうか」

 本来ならばここで大声出すなり、走り回るなりして、人を集めた方がいい。

 そうすれば、セミラミスと言えど剣をおさめるしかなかった。

 ここで適当にあしらえば、やる気も削がれるだろう。

 だが、俺はそうしたくなかった。

 あのままただ悶々としているだけじゃ、眠れないところだった。

 いいタイミングで来てくれた。

 ただ八つ当たりをするためだけに、俺はセミラミスと決闘することを選んだ。

「だが、場所は代えさせてもらう。ここじゃ誰かに見つかる。そうしたらすぐに止められる。それは、セミラミスにとっても嫌だろ?」

「意外だな。やる気になってくれるとは思わなかったぞ。私はお前がその場しのぎで作り笑いが死ぬほど嫌いだったんだがな。どうやら、今回ははぐらかしはしないらしい。少しは見直してやってもいいぞ」

「別にたまにはいいだろ。それとも止めるか? 今なら冗談で済ますことができるぞ」

「そんなわけないだろ。場所は貴様が決めろ。私は今すぐ貴様を切り捨てることができればどこでだっていい。どこで戦うんだ?」

 どうやらやる気満々のようだ。

 まあ、今更止めると言い出しても興ざめだったので、こちらとしてはありがたい。

 ここからさほど遠くなく、そして誰の邪魔も入らない場所となると限られてくる。

 打ってつけの場所となると、あそこしかない。

「地下の訓練場だ。あそこなら誰にも邪魔できずに決闘ができる」


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