第18話 王女マリーとは深い因縁がある(4)
俺の城にはダンスホールがある。
必要ないものだと思っていたけど、活用する時が来たな。
日本ではあまり馴染みないかもしれないが、異世界では社交ダンスをするのが当たり前だったりする。
だから広い城には必ずと言っていいほどダンスホールを設けているのだ。
ちなみに俺は日本でのダンスの経験はほとんどない。
異世界召喚されてから、多少手ほどきを受けただけで幼少期から踊っていた方々とは比べるまでもないぐらい下手だ。
だから、あまりダンスは好きではない。
かといって、お姫様の要望を突っぱねられるほど、俺は偉くないのだ。
「なんでいきなりダンスなんか」
「だって、私とは踊ってくれなかったじゃないですか」
「まだ覚えていたのか……」
昔、お姫様とダンスを踊れる機会は確かにあった。
だが、俺はあの時断って別の女の子と踊った。
でも、しょうがないだろ?
お姫様と、ただの一般人が踊ったことが知られたら打ち首ものだ。
できるはずがない。
だけど、今ならできるってことか。
「そうです。今なら、私と踊ってくださるでしょう?」
「まあ、な」
こっちだって悪い気はしない。
マリーと踊るのは願ってもないことだ。
でも、やっぱり慣れないのだ。
今の日本の子ども達は、学校でダンスが必修になっているらしいけど、俺はその世代じゃない。
選択授業ならあったけど、選択しなかったしな。
できるかどうか不安しかない。
「お手を」
「あ、ああ」
手を取り合う。
二人一緒に呼吸を合わせてダンスホールの真ん中へと歩く。
横にはピアノが置いてあり、サリヴァンが座っている。
サリヴァンは結構器用だし、教養もある。
勉強や料理もできるが、ピアノの腕も一流だ。
彼女に任せておいて大丈夫だろう。
すぐ傍には睨み付けているセミラミスがいるけど、それは無視しておこう。
「踊りましょう」
「ああ!」
二人でステップを踏みながら踊る。
どんな踊りかは打ち合わせなんてしていない。
ピアノだってどんな曲を弾けるかなんて聴いていない。
無策に踊りだした。
普通はうまくいかない。
だけど、自然に踊りだすことができた。
ピアノも俺達のゆったりな速度に合わせた曲が流れだした。
聴いたことがない曲だ。
異世界の曲なのかな。
だけど、いい曲だ。
合っている。
俺がリードしながら踊りだしているせいなのかな。
やっぱりダンスはうまい人が合わせてくれる方が上手くいく気がする。
日本にいる時はダンスをやっていないせいか、あまり好きではなかった。
そんなに大嫌いというわけでもないが、興味が持てなかった。
でも、いいな。これ。
女性と接近したまま、ぶっちゃけ胸当たっている気がするんだけど。
恥ずかしいんだけど。
そんな気持ちもあるけれど、どんどん薄れていく。
俺がダンスの種類が知らないせいか、反復行動になって頭が空っぽになっていく。
お互いの動きが溶け合って、噛み合っていく。
二人の一体感を頭でなく体で感じることができる。
それがいいな。
ダンスも意外に楽しいもんだ。
「フフ……」
「どうした?」
「少し、学生時代を思い出しただけです」
「学生って、学校行ってたんだ? お姫様が」
「失礼ですね、私にだって学はあります」
「いや、そういうことじゃなくて、家庭教師とかかなと、普通は。みんなと一緒に勉強する姿が想像できなくてな」
「親には大反対されました。でも、ずっと城の中にいるのは億劫でしたから。知り合いになるのは大人だけで、同世代の子達とは会えませんでした。だから、会って仲良くなりたかった。友達になりたかった……」
それもそうか。
お姫様となると、大人に会わせられるのは当然。
権力者に顔見せしなければならない。
今の俺でさえ面倒だと思うのだから、子どもの頃のマリーはもっとだろう。
自分の立場を利用しようとする輩だっているかもしれない。
そんな世界から解き放たれたい。
自分も普通の子どものように遊びたい。
そんな考えになるのは当たり前か。
学校なんて勉強を強いられる場所としか思えなかった。
集団行動も苦手だったし、学校には行きたくなかった。
だけど、学校に行きたい人だっているんだな。
「でも、親の言うとおり学校には行かない方が良かったかもしれませんでしたね」
「え?」
「学生の頃、一年に一回ダンスパーティーがありましたけど、誰からも誘われませんでした。男性からしか女性を誘ってはいけないルールでしたから、私からは誘えませんでした。だから、私は踊れませんでした……」
「会場に行かなかったのか?」
そうだ。
例え相手がダンスパーティーまでに見つからなかったとしても、会場で見つければいい。
急な用事や病気で来られなくなった人だっているはずだ。
アイドルのコンサートだって、当日チケットを譲ってくれる人で溢れているというし、そういう機会を見逃していたのだろうか?




