第14話 元奴隷であるアシュラの親代わりになりたい(8)
「セミラミスか。久しぶりだな」
「久しぶり――とか挨拶をしている場合じゃないだろうがあ! 貴様、やはり姫様にはふさわしくない! そんな幼子と、ま、まぐ――あんなんやこんなことをしていただろうがあ!」
「あー」
やっぱり、勘違いしてしまったのか。
セミラミスは女でありながら騎士の称号を与えられている。
世界広しといえど、女性の中で剣の腕前は世界最強クラスといわれている。
そしてあの姫殿下の傍に仕えることが許された女騎士。
それがセミラミスだ。
尊敬できる人ではあるが、剣の道に生きてきたためにそれ以外のことをあまり知らない。
融通が利かずに、誤解したまま暴走してしまうことがかなりある。
「セミラミスさん?」
「アシュラ、もう大丈夫だ。私が来たからにはもう大丈夫だ。その不埒な男をわが剣の錆びに変えてやろう」
「その、誤解なんです」
「誤解だと?」
「は、はい……。そのマッサージしてもらっていただけなんです。だから、ユウシは何も悪くないんです……」
「……それは本当か?」
「はい……」
「それは、すまなかった……ほんとうに、すまなかった」
自分が悪いと思ったら即座に謝る。
こういう素直なところはあるんだけどなあ。
もうちょっと凝り固まった考えをどうにかすれば、きっともっと他人から慕われるのに。
かなりの美人だしな。
「まったく、お騒がせなやつだな」
「うるさい! 元々は貴様が悪いのだ! 姫様との連絡を再三にわたって無視したせいで、姫様自らわざわざここまで来てやったのだぞ! それなのにこんな時間から湯あみしていると聞いたから、様子を見に来たと思ったらこれだ!」
「いや、俺のせいじゃないだろ!」
「いいや、貴様のせいだ! あんな長時間嬌声を聴かされたら、誰だって貴様がアシュラによからぬことをやっていたと勘違いするだろうが!」
「長時間……?」
「なんだ、剣持勇士?」
「長時間っていったか? 今? もしかして長時間ずっと盗み聞きしていたのか?」
「へ? あ? それは?」
「ははーん。なるほどなるほど。やっぱり堅物である女騎士さんでも、そういうことに興味があるんですねえ」
「なっ、何を言うか! 私がそんなことに興味なんて……」
とかいいつも、セミラミスの顔は風呂に入っていないというのに真っ赤だ。
男の噂などまるでない。
むしろあまりの強さに男が、セミラミスには近寄ってこない。
だからこそ、異性に飢えているんじゃないんだろうか。
「でもセミラミスさん、あなた私達があんなことやこんなことをやっていると勘違いしていたんですよねえ。それを分かっていながら長時間盗み聞きしていたってことは、聴きながら興奮していて止められなかったからじゃないですかねえ」
「うぐっ! そ、それは違う! 私は興奮などしない! 私は姫様を守るために剣の修行をしてきたのだ! そんなよこしまな感情など私には存在しない!」
「へー。そうかなー。剣の修行しかしてこなかったからこそ、他の人よりも興味がでるし、他人の行為を盗み聞きするなんて変態な行動をしちゃったんじゃないんですかねー」
「ぐっ……!」
反論の言葉も尽きてしまったのか黙りこくってしまう。
はい、論破!
「ちょ、ちょっと! ユウシ! 言い過ぎですよ!」
「あ、悪い」
「なんでいつもセミラミスさんにはそうやってつっかかるんですか!」
「あっちからいつもつっかかってくるんだよ!」
それにからかったら面白いし。
それに、小学生の男の子が好きな女の子をからかってしまうことってあると思う。
それと同じだ。
出会ったら口喧嘩ばかりしているし、きっとセミラミスは俺のことを蛇蝎の如く嫌ってはいるだろう。
でも、俺はセミラミスのこと結構気に入っているんだよな。
「ああああああああ! やはりお前はくたばれえええええええええ!」
ぷっつんと、何かが切れてしまったセミラミスが剣を持って突っ込んでくる。
やばい、からかいすぎた!
「ちょ、シャレになってないって!」
俺はアシュラを庇うようにして逃げようとする。
「あっ!」
だが、水に浸かった脚が動きづらいせいで滑ってしまう。
俺は口を開けたまま、アシュラめがけて倒れこんでしまう。
「ひやあ!」
俺の唇と、アシュラの胸と突起物が偶然当たってしまう。
それどころか、口に含んでしまったせいで、アシュラが悲鳴を上げる。
俺は弁解の言葉を言えないまま、二人して水しぶきを上げながら浴槽にダイブした。




