第11話 元奴隷であるアシュラの親代わりになりたい(5)
俺達は城に戻った。
城に戻ると、すぐさまサリヴァンが来た。
サリヴァンに色々と説教を受けていたが、すぐにアシュラの様子が変だと気がついてすぐに解放された。
そして、風呂場へと至る。
お風呂といっても、日本のような小さな湯船で入るわけではない。
まるで銭湯のような大浴場だ。
まだまだ風呂に入る時間ではないが、スキルで一気にお湯を張れることができる。
アシュラは既に入っている。
裸を見られるのを嫌ってか、最初に入りたいといいだした。
着替えを見られるも禁止で、結構待たされた。
一緒に旅を続けていたので、アシュラの裸ぐらい見たことあるんだけどな。
「入っていいよ」
「……ああ」
意外に緊張している。
最初に会った頃は一緒に入ったことだってあるが、最近は全然だ。
俺から冗談で風呂に入ろうか、と誘ったことはあるけど、汚物を見るような視線で観られただけだった。
それなのに、アシュラからまさか誘ってくれるとは思わなかった。
他に人はいない。
二人きりの風呂。
密室。
一体何を言われるのやら。
「ちょっと、ジロジロみないでくださいね」
「ああ、悪い悪い」
アシュラは、しっかりタオルで身体を隠していた。
それはそうか。
俺だって一応タオルを腰に巻いて、下半身を顕わにしないようにしている。
アシュラの裸が見られないのはちょっと残念だ。
どう成長したのか見たかった。
親としてな!
決してエロイ意味じゃない。
「ふー」
木製の椅子と風呂桶を準備する。
シャワーはまだ製造途中なので、風呂場から直接お湯をくむ。
電気で動かすよりかは、水の魔術を駆使したシャワーを造ることを計画しているのだが、まだうまくいっていない。
「……どうしたの?」
ぴと、と背中に手を当てられる。
「いっ――」
「こっち見ないで」
振り向こうとしたら、手で無理やり首を回された。
な、なんだ、いきなり?
「背中洗って上げようと思って」
「え?」
「か、勘違いしないでくださいね! さっき助けてもらったお礼ですから!」
……逆にそれ以外の理由で、背中を流してくれるがあるんだろうか?
何も思いつかないんですけど。
どう勘違いしろと?
訳は分からないが、拒む理由などどこにもない。
娘に背中を洗われるのは、きっと父親の夢だから。
それぐらい嬉しい。
「じゃあ、お願いします」
ゴシゴシと洗ってくれる。
タオルもあるはずだけど、手で直接石鹸を泡立てて洗ってくれる。
幼女の手は柔らかくて、すべすべしている。
「……気持ちいい」
「そう……ですか?」
「うん」
ほとんど独り言に近い。
それが自然に出るぐらい夢心地だ。
「娘に身体を洗ってもらうってこういう気持ちなのかな」
「どういうことですか?」
「え? どういうことって、そういうことなんだけど」
他に何かあるか?
「……もしかして、あれだけサリヴァンさんに結婚を勧められても首を縦に振らないのは、もういい人がいるからですか? こ、こ、子どもをつくる予定の人が……」
「な、なんでそうなるんだよ! みんな! 単純に、親代わりとしての気持ちだよ!!」
「そう、ですか……」
沈んだ声になる。
「どうし――」
言葉を続けることができなかった。
アシュラが抱きついてきたのだ。
「ちょ、ちょっと、どうした?」
「親子ならいいじゃないですか。たまには甘えても」
「そ、そうだな……」
胸が当たっているんですけど。
風呂に入っていないのにのぼせそうだ。
小さいけどちゃんとした膨らみが背中に当たる。
アシュラは俺の娘みたいなものだ。
そう思わなきゃいけない。
「だって、ユウシはずっと他の人と一緒にいるから。だから、少しぐらい、今、この時ぐらいは独占したい……」
「アシュラ……」
いじらしさに、胸が苦しくなる。
俺はアシュラの手を握ってやる。
「ごめんな、寂しい思いさせて……。こんなことだったら国王になるの引き受けなきゃ良かったかな」
「いいえ。難しいことはよく分からないけど、平和のためにはそうするしかなかったんですよね? 抑止力としてユウシがトップに立たなきゃいけなかったんですよね? だから、今のは私のわがままです……」
アシュラも本当に大人になった。
でも、そのせいで我慢してしまうようになった。
そうさせているのは俺だ。
平和になれば何もしなくて済むと思ったけど、思っていたよりもやることは多い。
旅に出ていた他のみんなは散り散りになってしまった。
みんな、忙しいのかな。
元気でやっているのかな?
「くしゅん」
アシュラが寒いのか、くしゃみをする。
あまりの可愛らしさに笑いが込み上げた。
「風邪をひくといけないから湯船につかろうか」




