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第1話 メイドのサリヴァンが世話を焼いてくる(1)

「くっ……ころ……」

 まるで、女騎士がオークに襲われる時のような発言。

 だが、それを言い放った女は騎士ではない。

 むしろ真逆の存在。

 全てのモンスターを支配下に置き、世界を恐怖のどん底に突き落とした張本人。

 勇者の天敵にして、世界の敵。

 魔王。

 ラストダンジョンである魔王城にて、俺は魔王を追いつめた。

 彼女は虫の息で、動くことすらできない。

 魔王を殺しさえすれば、世界は平和になる。

 それは全人類の本懐。

 魔王討伐をすれば、俺は地位も名誉も金も、望むもの全てが手に入るだろう。

 だけど、そんなもの何の価値があるのか。

「いいや、俺はお前を殺さない」

「私はこのままでは死ぬ!! だから……せめて、せめて、最期は貴様の剣で殺してくれ!!」

「………………」

 魔王の身体からは光の粒子が飛んでいる。

 魔力で形成されている魔物――モンスターは、死ぬ瞬間に魔力が光となって消えるのだ。

 肉体が透けはじめていて、彼女言うとおりあと数分もしない内にこの世界から完全に消滅する。

 だが、俺はどうしても魔王を殺す気になれなかった。

 魔王だけが悪ではないと知っているから。

 俺の揺るがない決心を感じ取った魔王は、最期の力を振り絞って攻撃を仕掛けてきた。

「そうか……。なら、私と一緒に死ね!!」

「なっ!!」

 どこにそんな力を残していたのか。

 ビュルルルッ!! と鞭のようにしなった触手が伸びる。

「くそっ!」

 油断しきっていた俺は触手を避けきれず、身体にまきつかれてしまった。

 ねちょねちょと湿っていて、それでいて生温かい感触。

 普通、触手で縛られるのは女騎士の役目。

 男である勇者が亀甲縛りされてどうなる。

 サービスシーンどころか、グロ映像を流されているのと変わらない。

 こんなの需要があると思えない。

 悲惨な光景だ。

 あれ?

 なんで俺こんなに冷静なんだ。

 魔王が攻撃してきたのに。

 ……そもそも、魔王はこんな攻撃してきたか?

 いや、できたか?

 魔術で使い魔を召喚したにしても、こんな卑猥な攻撃してこなかった気がする。

 おかしい。

 俺にはこんな記憶はない。

 だとしたら、嘘と真が混じったこの曖昧な記憶は?

 ああ、そうか、これは夢か。

 実感した瞬間。

 空間が歪んでいった。

 俺は現実世界へ戻った。

 まあ。

 現実世界といっても、現代日本ではなく、異世界にだが。

「…………ああ」

 見慣れた天蓋が見える。

 異世界に作られた、石造りの城。

 その城の一室に俺は眠っていた。

 豪奢なベッドは、俺の身体の何倍もの幅がある。

 明らかに一人用ではない。

 側室などと一緒に寝る用に造られたものらしいのだが、生憎と俺には縁がない話だ。

 昨日もいつも通り一人寂しく寝たし。

「うわー」

 大量に流れている汗のせいで、背中と寝間着がくっついている。

 この汗は悪夢を観たせいだろうか。

 さっさと着替えたい。

 早く着替えないと、メイドの誰かが入ってきて俺の世話をしようとする。

 それが嫌なのだ。

 着替えぐらい一人でできると口を酸っぱくして言っているのに、誰一人話を聴いてくれない。

 嬉々として服を着せようとしてくる。

 そして、隙あらば俺の身体を触ろうとする。

 世界を救った勇者が物珍しいのだろうが、むにゅっと、こんな風に触られたら、身体が色々反応しそうになるから辞めて欲しい。

 ……ん?

 なんだ、この感触は。

 柔らかくて、指に吸い付くような感触。

「あっ、あんっ。ああん……」

 俺以外の悩ましげな声がする。

 むにゅん、むにゅん。

 気持ちいい感触に思わず揉んでしまうけど、なんだこれ?

 低反発枕みたいな感覚。

 そんな高性能の枕なんて俺の寝室にはないはず。

 そもそも温かい。

 まるで人肌のようだ。

 まさか。

 血の気が引きながら、俺は勢いよく起き上がる。

「ああああああんっ!」

 手に力を込めて起き上がったせいで、ぐにゅん、と今までで一番強い衝撃を与えてしまった。

 それは、胸。

 たわわに育ったメロンのような女性の胸を、俺は揉んでしまっていた。

「うあああああああああっ!!」

 勢いよく後ろずさったせいで、後頭部を壁にぶつける。

「いって!」

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

 カーテンから差し込んでくる日光が、彼女の金髪の髪の毛から反射してきて眩しい。

 零れ落ちそうな果実を支えているとは思えない、しなやかな肢体をしている。

 屋内にいるのは多いせいか真っ白い肌は綺麗で、傷一つない。

 当たり前だが、大人の体つきをしている。

 思わず唾を呑み込んでしまう。

 俺は、あの胸を揉んでいたのか。

「おはようございます、勇者様」

「おはようございますじゃなくて! 何やっているんだよ!! サリヴァン!! 勝手にベッドに潜り込むなって言っているだろっ!!」

「申し訳ありません。つい、寂しくなってしまって……」

「そ、そうか……それなら仕方ない……か……?」

 魔王との戦いで大勢の人間が犠牲になった。

 その中にはサリヴァンの知人がいてもおかしくはない。

 そのせいで寂しくなってしまったのかも知れない。

 金髪巨乳美女のサリヴァンは、この城にいるメイドの一人。

 その中でも一番付き合いが長いので、俺の世話係としてずっと俺の傍に付き添っている。

 しつこいぐらいに。

 ついてこなくてもいいと言っているのに、気がついたら背後にいたりする。

 ほとんどストーカーじゃないかって思う時がある。

 年上なのだから、もう少し落ち着いて欲しい。

 寝る時は確かに一人だった。

 つまり、俺が寝ている間にベッドに忍び込んだってことだ。

 相手がいくら美人だといっても、断りもなしに寝ている間に人が隣にいるのは恐怖しかない。

「……というか、なんか、俺の身体異常にベトベトしてない?」

「汗、じゃないですか?」

「そうか?」

 まるで犬に舐められたかのように、体中がベタベタしているんですけど。

 あんな触手まみれの夢を見たのは、どこかの誰かさんが俺の身体を舐めまわしたせいじゃないのか?

 いやいや、まさか。

 いくらサリヴァンが常識なくとも、そんなことするはずない。

 何か証拠が残っていないものか。

 彼女はいつも通りトレードマークであるメイド服を――あれ、メイド服を着ていない。というか、そもそも――服着てなくない!?

「なんで裸!?」

 垂れ下がった金髪が奇跡的に乳首とか大切なところを隠しているけれど、それでも眼に毒なのは間違いない。

「申し訳ありません。つい、寂しくなってしまって……」

「どういうこと!? 寂しいって言ってれば、俺が納得すると思っているだろ!!」

「……バレましたか。ですが、これは必要なことなのです」

「必要なこと?」

 そうか。

 必要だったらしょうがないな。

「これは将来、勇者様が必ずなさるであろう夜伽の予行練習です。勇者様のお側付きとして、その役を他のメイドに譲ることなどできません」

「全然必要なかった!! というか、そもそも俺は結婚する気はないんだよ!!」

「いいえ。勇者様には必ずどなたかと結婚してもらいます。ほら、こんなにも求婚者がいるんですよ。将来のためにも今すぐ子孫を残す準備をしてもらいます」

 ベッドに女性の写真が並べられる。

 全員服の装飾にこだわりがあるのか、キラキラしている。

 高そうな宝石のついた指輪を何個もしている人だっている。

 化粧が濃すぎて、顔が真っ白だ。

 きっと、貴族とか、王族とか、そっち関係の高貴な身分なお方たちだ。

「絶対に嫌だ! だって、どうせ政略結婚だろ? サリヴァンだってこの国の繁栄のためにやってるんだろ?」

「いいえ、国のためではありません。私の出世のためです」

「最悪だああああああっ!!」

 剣持勇士けんもち ゆうしは世界を救った。

 異世界召喚され、勇者として魔王をこの世界から消し去った。

 人間とモンスターとの戦争を終結させた英雄の、長い旅の物語は終わった。

 そして世界は平和になりました。

 めでたしめでたし。

 と。

 そこで物語の幕は下りるはずだった。

 だが、物語は終わらなかった。

 これは終わりから始まる、平和になった後の世界のお話。


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