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1.罪
雨が降っていた。
流れ出す血が、激しくなる雨に洗い流されていったのを憶えている。
師の体から薄っすらと湯気が立ち上り、降る雨に冷やされていくのを、彼は身じろぎもせずじっと見つめていた。
流れ出す血は雨に洗われ、割れているのだろう頭の傷は正面からは見えていない。しかし虚ろに開いた師の瞳からは既に生の光は失われ、彼が取り返しのつかない罪を犯した事を雄弁に物語っていた。
恐怖より、罪の意識より先に、漸く手にしたばかりの未来が瞬時に砕け散った深い喪失感が彼を襲う。
仏に仕える僧の身であっても、師殺しの大罪を犯したからには死罪は免れないだろう。
晒し場に身を晒す己の姿が、ありありと目に浮かんだ。
遠く、誰かが異変を報せる声がする。
進退窮まって、彼は咄嗟に衣桁から腰紐を取り、庭へ降りた。
手早く輪にしたそれを手頃な枝に掛け、己の首を差し入れる。
寺内の騒めきを聞きながら、彼は首に掛かる一本の紐に身を預けた───