幕間 それは俺の宝だ
まさか、宝の目前で死んでしまうとは思いもしなかった。
*
俺はいつも通り宝を狙って遺跡の内部を駆け巡る。それなりに場数もこなし、実績もある。そう、いつも通りの仕事の筈だったんだ。仕掛けてあるトラップを解く手段を持ち合わせてていたし、徘徊する魔物から逃げる手段も身につけていた。それ故の慢心だったのだろう。遺跡の最奥の部屋、まさに宝の山を見つけた俺はいつも通りと決めつけ宝に向かって進んだのだが。それが失敗であった。
一つ目の仕掛けの毒矢は容易に避ける事は出来た、何度もそれを見てきたから。ただ、それで終わらなかった。天井から剣の雨が降り注いだのだ。不意をつかれた俺はそこで串刺し。血まみれになって死んでしまった。
嗚呼、悔しかった。この程度で死んでしまう事を。
嘆いた、宝を己が物にできなかった事を。
死してなお、俺の魂は尽きる事なくここにとどまった。
*
魂となってからは永遠と宝の山を眺める日々が続いた。煌めく金銀の財宝に装飾を施した煌びやかな剣など見ていて飽きる事はなかった。
*
俺の宝は永遠に美しい。
これはもう俺のものだ。魂になったとはいえ最初に辿り着いた俺のものだ。
誰にも奪う事はさせない。
手に取る事が出来ぬのなら。せめて、この目の届く範囲に留まらせる。
*
死んで何年経ったのか、既にわからない。
いやそんな事などはどうでもいい。俺はこの宝さえあればいつまでも。
*
今日も宝は美しい。
心が洗われるような感覚。だが物足りない。
何かが欠けたのか。どれほどの時間欠けたままなのか。
満たさせる感覚を忘れるほどに。
*
ついにこの時が来てしまった。
嘆かわしい事に俺の宝を狙ったトレジャーハンターが現れた。
憎い。
触れられる事が。
憎い。
我が財を汚される事が。
憎い。
それは俺の宝だ。
*
負の感情が止めどなく溢れ、その憎しみは魂をも穢す。
囚われた魂が現世へ干渉することを渇望した時、それは具現化する。
宝に囚われた哀れな魂は魔へと染まる。
奪うものを許さず、その手で断罪を続ける。
満たされることは決してない。
その欲望の果てに、救いがある事を。
*
男は見た、その禍々しい姿を。
男は見た、その狂気を。
本能が逃げろと脳内で警鐘を鳴らす。
あれに関わってはならない。
あれに触れてはならないと。
しかし、腰が抜け足腰に力が入らず立つ事すら出来ない。
見てしまったのだ、そこに血の池があるわけを。
赤く染まった禍々しき狂気は静かにこちらを見据える。
ヒィ!と情けない声を出し地べたを這って無様に逃げ惑う。
どれだけ必死に逃げたのだろうか。気づけば立っており眼前には陽の光が照らしている。
安堵とするとともにあの光景がフラッシュバックし、贓物が口から飛び出るのではないかと思うほどの吐き気に催される。
吐けるもの全て出し切り、水を喉に注ぎ込む。
そしてようやく生の実感を得ることができた。
*
ああ、俺は生きて伸びる事ができたのが、だがあそこの遺跡はもうダメだ。
魔族が産まれ落ちてしまった。