第1話
ついに書き始めてしまいました。
異世界転生か。
俺も夢見ていた時があった。
見たこともない世界で英雄として巨悪と戦う王道ファンタジー的な運命に巻き込まれるとか。
明らかに雑魚モブっぽいモンスターに転生しちゃって成り上がるとか。
元の世界の知識を使って異世界サバイバルなんていうのもあったな。
そういう話を読むたびに、俺も漠然と憧れるようになっていった。
毎日コンクリートに囲まれた場所で、決まった人たちと決まった事だけをやりとりする、つまらない日常では絶対に味わう事の出来ない大冒険。
ゲームや空想の中でしか存在し得ないような世界での、非日常の塊みたいな大立ち回り。
考えるだけで胸が踊るね。
でも、大して好きな事もない、大して勉強もしてない、大して運動も出来ない、そんな俺みたいな人間が実際に異世界に行ったらどうなるかな?
きっとチート能力の一つでも貰わないと絶対に生きていけない。
いや、仮にそんな大層な能力があったとしても、きっと使いこなせずに死ぬか、いいように利用された上で死ぬと思う。
そういう考えが、きっと頭のどこかにあったからだろう。
いざ、俺が転生する機会を得た時、俺は人間ではない体を求めた。
だってほら、魔族や魔物に転生出来れば人間のしがらみ的なものから抜け出せるイメージがあるだろ?
俺にはあった。
弱い魔物の代名詞みたいな奴らになったとしても、進化の幅があるというか、将来性はあるはずだ。
正直、人間としての俺から決別したいという気持ちが強いから、そう願わずにはいられなかったというのもあるんだけどな。
次は人間じゃない何かとして生きていきたい。
そう強く願った。
そして、その願いは聞き届けられた。
「よし、ここは終わりだ!
次に行くぞ!」
俺は今、深い森の中に巨大な城を建てる仕事をしている。
明らかに毒とわかる瘴気のたちこめる中での作業だが、不快感はない。
現代日本では体験できないロケーションで、昼夜を問わず進められる仕事は何というか……とてもエキサイティングだ。
しかし今の俺は無事に転生を経て魔物となった身だ。
異世界の流儀を持ち込むのはお門違いってもんだよな。
「キビキビと動け!しっかり働け!」
ちなみに、この怒鳴り散らしてるのは俺じゃない。
大きな耳に粗野な服装、そして緑色の肌。
いくつものファンタジー作品で下級モンスターとして出てくるあいつ。
ゴブリンだ。
そして、ゴブリンの下で働いているのが俺だ。
ファンタジー作品ではモンスター側の先鋒というか、使いっ走りにされるような奴にすらも、良いようにされているのが今の俺なのだ。
まあ、仕方ないね。
俺、マタンゴに転生しちゃったから。
頭のなかに転がっている設定をまぜまぜしながら、のんびりペースで書いていこうと思います。
宜しければおつきあい願います。