3.煤口白夜の望月磐座で少女と出会う
正面入口の案内板から西に延びる道に沿い、しばらく歩いて十数分。
おそらく地図で見れば公園の敷地内でも端の方に来ていると思われる。その証拠に、と懐中電灯で足元を照らす。
歩道はすでに舗装されておらず、歩道とその外とを境界づけるレンガの縁だけが、申し訳程度に「ここが歩道!」と主張するのみである。
直接開けた土肌には、ところどころ落ち葉がへばりついている。
向かって右手には、この先にあるであろう池へと流れて行くのか、浅めの沢がさらさらと流れている。全体的に水はけが悪いのか、地面も見た感じしっとりと水分を多く含んでいるようだ。
周りの風景も、入り口と比べ木々が生い茂り鬱蒼としはじめている。
いいね。
いい感じにスリルが出てきた。
移り変わる風景にやや胸を高鳴らせながら、磐座を目指し歩を進める。
歩道に沿ってややも進むと、苔生した石造りの鳥居が見えてくる。鳥居から先はこれまた歴史を感じる石階段が、磐座のある広場のある小高い丘へと伸びているようだ。
だが、ここで一つ問題が発生した。
鳥居が封鎖されている。
封鎖といっても、単に人が通らないように紙垂の飾られた麻紐が柱に渡されているだけではあるが。
近づいてみると張り紙もある。
荒々しい筆書きで
「一切ノ立入ヲ禁ズ」
あちゃ。
さてどうしたものか、
普段だったらわざわざリスクを冒してまで徘徊することなんてないんだけど……。
いや、まあいっか……。入っちゃえ。
何故か、理由はわからなかったが、体は自然と麻紐をくぐり抜けてしまっていたのだった。
四、五十段ほどの石段を抜けると雑木林を少し切り開いた程度の空間に「それ」はあった。
望月磐座。
遠目に見ても、想像していたより随分と大きい。さっき「小さな石コロ」だなんて言ってすみませんでした。直径は……どうなんだろう?十数メートルはありそうな、まさに巨岩という言葉がふさわしい。
太いしめ縄を携えた巨岩が、丁度今夜の満月を背景に神秘的に佇んでいるのだった。
そして、更にもう一つ目に入る場違いな影。
巨岩の上に腰掛ける、一人の少女の姿。
見間違いかと思って目をこするが少女の影は消えてはくれない。こちらには背を向けているのでその表情までは窺い知れないが、小柄な少女が確かに磐座の上に座っているのだ。
一際目を引くのが、月の光の、その美しさだけを反射してるかのような真っ白い長い髪だ。巫女服に身を包んだ少女の、神秘的なまでと言える圧倒的な存在感に、俺は目を奪われてしまっていた。
その美しさに当てられてしまったから、としか説明はつかないのだが、「なぜこんな所に、こんな時間に?」という当然の疑問も忘れ、自分で決めた「人に見つかってはならない」というルールはどこへ消えてしまったのか。
「月の綺麗な夜ですね」
よせばいいのに、声の聞こえる距離まで近づいて、気がつけばこんな歯の浮くような言葉を投げかけてしまったのだった。