1.煤口白夜の趣味は深夜徘徊である
俺、煤口白夜の趣味は深夜徘徊である。
別に何かやましいことがあってのものではない。ただ普通に、元気な爺様婆様が昼間に散歩をするように、ただ夜の街を散歩するだけだ。といっても、じゃあお前は昼だけでは飽き足らず夜まで散歩してるのか、と言われればそうではない。
センチメンタルなジャーニーの16歳は平日は学校に通っているし、休みの日と言えば、大抵昼過ぎに起きて、そんでもって日が落ちるまでゲームをしているか、ネット徘徊しているか、漫画を読んでるかに限られる。そしてそのいずれかをしているうちに飽きてきて、寝落ちして、気づけば深夜帯。
と言った具合だ。
真夜中の街はいい。普段見ている景色も時間がたがえば全くその表情を変える。音はなくなり、光は消える。見慣れた日常が急に非日常へと変質するのだ。
もっとも、あらゆる音が絶たれ、全ての光が死に絶えるわけではない。静寂が支配する世界だからこそ、ほんの僅かな音が世界に満ちる。無音の世界では木の葉は暴風によって巻き上げられ、池にはクジラが跳ねる。うん……。ちょっと誇張が過ぎた。
まあそれくらい、あらゆる事象がこちらの神経を強く刺激する。それが深夜徘徊の醍醐味でもある。
夜の街の住人は風や魚だけではない。実に珍しいことではあるが、この深夜徘徊中にも俺ではない誰か他人の気配を感じる事がある。
ここで俺自身が勝手に決めたルールを一つ紹介しよう。それは「徘徊中に誰か他人に見つかってはならない」というものだ。
何故、そんなルールを作ったか。深夜の街を徘徊するやつを指すに相応しい言葉がある。
「変態」だ。
考えてもみろ。
何か理由があって深夜に街をうろつく奴が居るとする。人に見られてはまずいことをやろうって奴だ。
変態じゃないか。
じゃあ何も理由もなしに深夜に街をうろつく奴。そういう奴も稀にだが居たりする。
よっぽど変態じゃねえか!
そんな変態共に関わってみろ。最悪、生命の危機まであるぞ。え?俺は違う、変態じゃない。例外だ。
別のパターンで、深夜の街を徘徊する変態じゃない奴もいる。いるが、そいつの名前は「おまわりさん」と言う。この場合も関わった際には補導という危機が待っている。
どの道、徘徊中に他人と関わって碌なことにはならないだろう。
こう、改めて考えてみると、昼間の刺激のない生き方に心のどこかで辟易して、その反動で刺激を求めて身体が外に向かうのかもしれないな。
まあそんなことはどうでもいいんだ。ここでは俺の趣味が深夜徘徊であるということだけ伝わればいいだけのパートだから。