Furry judgment 〜海行ってから家でバイハザした〜
この小説を取っていただきありがとうございます
本作品は、本編の話に登場するキャラクターを使用しているため、キャラクターを予め把握していない場合は先に本編をご覧ください(* ॑꒳ ॑* )⋆*
ほのぼの注意です!! 本編とのギャップがすごい
ですけど、見てください!
【注】作者の都合により、前書きの登場人物紹介は省略させていただきます。
「……はぁ〜」
今日は学園が休みだ。この学園に来てから2週間は経ったと思う。未だに移動教室は迷うし、クラスメイトの名前も覚えきれていない。元々何かを覚えるのが苦手なのだ。しょうがないだろう。
ベッドから気だるそうに起き上がり、自室をウロウロと歩き回る。今までの休日は何をしていただろうか。本を読んだりとか、明希乃に勉強を教えてもらったり…とか。
生憎この学園には、寮生の共有スペースにしかテレビを置いていないので、自室には机とか本棚、あと衣装ケースぐらいしか置いていないのだ。
だからといって、共有スペースに行くのも気が引けるなぁ……。
今日も明希乃に勉強漬けされると思うと逃げ出したい気分だ。むしろ活字を目に入れたくない。
部屋の真ん中に置かれた透明なガラステーブルに突っ伏し、ガラスを通して床のフローリングを眺める。
窓辺から空を見上げれば、嫌になるほどの晴天だ。
勉強したくないなぁ。
憂鬱そうに、着替えるか、と立ち上がり衣装ケースに向かう。
そういえば、私の着替えって家から持ってきたとか言ってたっけ。家、かぁ……。
家に帰りたいなぁ。お兄ちゃんとの思い出が詰まった大切な場所なんだよなぁ…。
最終的には、やっぱり勉強はしたくない、と思ってしまったが、家に帰りたいというのは本心だ。
「あ、おはようございます。失礼しまーす。」
「……どうしたの」
今心臓止まるかと思った。
いつもは嵐が過ぎるように、無断で部屋に突入してくるからわかりやすいけど、今日はなんかすごい普通に入ってきた。
「小町さん、ちょっと。」
「はい?!」
ニコニコしながら狂気の笑顔で攻め寄り、両手で片腕をがっちりホールドされ、挙句の果てには部屋から連れ出されてしまった。パタパタと裸足で寮の中を走り回る。
せめて靴を履かせてよ?!
と思ったが、時すでに遅し。あっという間に明希乃の部屋の前まで来てしまった。これから何が起こるのかもわからないし、明希乃のあの恐怖を感じる笑顔も嫌な予感しかしない。
強引に部屋に入れられ、部屋の中に押し込められる。
何だと聞いても応答がないため、恐怖は増すばかりだった。
だが部屋の中にいたのは意外な人物だった。
「よっ! 小町」
「……?! 水琴さん?!」
そこに居たのは黒いスーツ姿の水琴さんではなく、白地の花の刺繍の入った、何とも可愛らしい、夏の暑さを吹き飛ばすような涼し気なワンピース姿をした水琴さんだったのだ。肩からは何か大きな鞄をかけ、いかにもどこかお出かけする雰囲気だった。
だがふんわり笑いかけると、一瞬で悪魔のような笑顔になった。
「さ、始めるぞ……」
「ええ……!!」
前方には水琴さん後方には明希乃。挟み撃ちにされ、何も出来ない。しかしお構い無しにゆらゆらと蠢きながら迫り来る2人は、恐怖そのものだった。
「うわぁぁあ?!」
私は、その恐怖に身を屈め、頭を抱えた。
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「なんで最初に言ってくれないんですか。」
「ごめん、サプライズしたくて……」
水琴さんはガックリ肩を落とし、正座で床に座っている。同じく明希乃も同じ様子だ。2人を責める気にはなれないが、こっちにだって怒る権利ぐらいある。
腕を組み、イラつきながら足を床にリズムよく叩きつける。
この2人は、一緒に海に行く、と言い出したのだ。
全く……しょうがないなぁ。
「って、それはいつ行くんですか。」
「今からです。」
流石に堪忍袋の緒が切れる。少し笑えるほどだ。
だがやっぱり怒ることは出来なかった。はぁ、と溜息をつき片手で顔を押さえる。
「……わかりました。いいですけど、私、水着とか持ってないですからね。」
「その点はご心配なく」
2人とも真剣な顔でどこからか水着を取り出してきた。水琴さんは、黒いsexyなビキニを手にし、明希乃はカラフルな猫柄の比較的布の面積が広いものを手にしている。そして2人とも目を輝かせ、どっちがいい、と水着を私に突き出してきた。
「選べ、と?」
「もちろん、このsexyな水着よね?」
「いや、年頃の女の子がそんな、布の面積が狭いものを着てはいけません!」
「お前はオトンか。」
明希乃にツッコミを入れたあと、水琴さんがチョイスした水着を見るが、なかなかそっちもツッコミがいがあるというものだ。どう考えてもウケ狙いだ。
この人たちには困ったものだな…。
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いや聞いてない。せめて行く前に言ってよ。
なんで荒狼君や剣水君まで?! それに相馬さんとか雄太君もいるし!! 因みにそんなに関係ない耀さんと今田さんと柳原さんまでいるよ?!
結局あの後30分くらい迷って、というか議論して、何とか猫柄の方を着させてもらえた。
2つの車に別れ、片方は相馬さんが運転している。確かあっちの車には、明希乃と女子3人。私は水琴さんの方に乗ったのだが、雄太君、荒狼君と剣水君となぜか男子が固まっている。
普通逆じゃないか? ちゃっかりハーレム作っちゃってるしさぁ…。
私なんて今にも死にそうなんだが。なんでその順番になったかはわからないけど、左に荒狼君。右に剣水君。私はその間で、雄太君は水琴さんの隣の助手席に乗っている。このポジションは、雄太君なんじゃないだろうか。というか、今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気なんですけど。
「小町ー、顔色悪いけど、大丈夫?」
バックミラー越しに水琴さんが心配してくれているが、本当に大丈夫じゃない。心做しかさっきから頭痛いし、ちょっと気持ち悪い。これは酔ったかもな、と困り果てる。
「ねぇ、剣水君、酔い止めとか持ってる?」
「あ、持って」
「おらよ」
剣水君が酔い止めを差し出す前に、先に荒狼君が投げてよこしてくれた。目線は前を向いたままだけど、私が不思議そうに顔を覗き込むと、めっちゃ不機嫌な顔になった。
「んだよ?!! いらねぇのかよ?!」
「あ、ごめんごめん、そういう事じゃなくて。なんか意外だったから、つい、ね。」
「僕も同感だな。君が酔いそうには見えないし、そこまで繊細な気配りができる性格ではないだろ。」
「っせぇな!!! たまたま鞄に入ってたんだよ!」
その苦しい言い訳を聞いたあと、私と剣水君は何も言えずに黙り込んだ。ただ2人はずっと笑いを堪えてたが。前を見ると、雄太くんなんてもう堪える気がないのか、普通に笑い出してしまう始末だ。水琴さんもクスクス笑いながら、荒狼君をバックミラー越しに見ている。
その生温い雰囲気が嫌だったのか、荒狼君は1度こちらを睨みつけたあと、すっかり黙り込んでしまった。
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私達は、3区方面の海岸に来ていた。浜辺には海を見に来たカップルやファミリーがいる。かなりの広さがあるわけだし、何千人とはいかないが、きっと何百人かはいるんだろうな、と頭の中で推測する。
相馬さんの車から、レジャーシートやパラソルを運び出し、なるべく人がいない方に設置した。水琴さんの車から、バーベキューセットと食材を取り出し、日の当たらないパラソルの下に置く。
「よし、それじゃあ海に入っていいよー!!」
みんな最初から水着を着ていたようで、服を脱ぐと海に走って行ってしまった。私も行こうとしたが、何となくまだ入りたい気分じゃなかったため、パラソルの下に入り、レジャーシートに腰を下ろした。予め持ってきていたスマホを手にし、ゲームを始める。
「暇野ちゃんは行かないのかい?」
「…ええ、まだ入らないです」
隣に腰を下ろした相馬さんは、クーラーボックスから飲み物を取り出すと、私に差し出してくれた。私もそれを受け取り、プシュ、という空気が抜けるような音を立てて、喉に流し込む。鼻から抜けるこの感じがなんとも言えない。
レモンスカッシュ、と表記されたペットボトルを眺めながら、物思いに耽る。
夏だなぁ…三井さんとの夏は、楽しかったなぁ。
2人で外に出て山でキャンプしたり、川で魚釣りもした。あと遊園地のウォータースライダーとかも滑ったな。もう、一緒に行くことはできないのかなぁ。
「こーまーちーちゃーん!! おいでよー!!」
名前を呼ばれてハッとする。その方向には耀さんと今田さんと柳原さんがいた。3人でビーチボールをかわりばんこに打って遊んでいるらしい。ふと荒狼君達が何しているのか気になった。
「……うわぁ……」
このうわぁは、驚いた時のうわぁだ。別に引いているわけじゃない。なんで驚いたかというと、少し離れたところで、男子3人は自分達と同じくらいの大きさの砂のお城を建てていたからだ。あそこまでいくと職人レベルだと思う。
「……あ」
その光景を見ていると、3人の女子が集まって来た。どうやら逆ナンされているらしい。まあ、雄太君も荒狼君も話さなかったらイケメンだからなぁ、納得していた。誘ってきた女の子達もかなり美人だ。あれで断ったら、私が代わりにあの子達と遊びたいくらいだ。
でも、なんか嫌だな。
よくわからないけど。
私がぼんやり眺めていると、荒狼君がチラとこっちを見てしっかり目が合ってしまった。驚いて思わず視線を逸らす。気を紛らすかのように、レモンスカッシュをいっきに流し込む。でも器官に入ってしまって、堪らず噎せた。
「おい。」
「うわ?!」
もう1度視線を戻そうかとした時に、目の前にはもう荒狼君が立っていた。相馬さんに助けを求めようとするが、隣に姿はもうなかった。海の方から声がしたのでそっちに目をやると、女子3人とビーチバールで遊んでいるようだ。
またハーレム作ってるし……。
私が呆れ顔をして海を見ていると、隣に荒狼君が何事もないように座った。だから私も何も言わなかった。
海風がほんのり冷たくて、涼しかった。荒狼君の方をなるべく気づかれないように見ると、いつも通り不機嫌そうな顔で海を見ている。でもどこか穏やかで表情が明るく見えたのは、多分気のせいだろう。
「んだよ。」
「ふぇ?!」
やっぱり気づかれていたようで、じろりとその三白眼で睨まれる。そしてまた目を逸らすが、もう1度荒狼君の姿に目線を戻す。
「……!!」
ガッチリとした体つきが、水着を着ると余計目立つ。最初は怖い、と思っていたが、今では少しカッコイイと思ってしまう。どうした小町。気が狂ったか、と首を振り、また荒狼君の顔を見た。
「だから、なんだよ。」
「いや、なんでも、ない」
「なんで顔逸らす。」
「なんでもない」
今すごい顔が赤いなんて言えない。というかこの顔は見せれない。何とか正気を保っているけど、今すぐ走って海から取った新鮮なナマコを頭に乗せて聖書を読みたい気分だ。それ位頭が今熱い。血が昇って、ショートしたコンピューターみたいになりそうだ。
まぁ、これは暑さのせい。
全然、男子の半裸を見てカッコイイとか思ったからとかじゃないし。
ちょっと荒狼君がカッコイイとか思ってないし。
いや、ないないないない。
「これ、飲んでいいのか。」
「あ、うん、いいよ。」
大して確認もせずに、なんとなく返事してしまったこの時の私を殴りたい。
荒狼君の飲んでいるレモンスカッシュ、あれれ、ここに置いてあった私のがない。
「ね、ねぇ、荒狼君」
「あ?」
「それ、どこから取ったの」
「は? ここに置いてあったやつだけど。」
はい、終わりましたー。お疲れ様でしたー。
私これから死にますねー。はーい。
「おま、まさか」
私が顔を真っ赤にして蹲ると、荒狼君は何かを察したらしく、荒狼君も耳まで赤くしたあと私に1発拳骨をかまし、怒って海の方に歩いて行った。多分今までで1番強かったと思う。やはり荒狼君はどこまでも容赦がない。
「…はぁ…」
荒狼君が置いていったレモンスカッシュのペットボトルを手に取り、1口飲んだ。フタを閉める前に手を滑らせ、クリーム色の浜辺の砂の上に盛大にこぼしてしまった。あ、と言った時にはもう遅かったのだ。伸ばした手は、また中途半端なところで止めてしまう。躊躇った、という方が近いかもしれない。
楽しく、ないなぁ。
せっかくみんなで来たのに、私だけはまだ海にすら入ってない。スマホのロック画面を見ると、もう12時を過ぎていた。お腹だけは空いたな、と少し虚しい気分になった。水平線を眺め、楽しそうに海ではしゃぐ子供みたいなみんなを見ていると、獣人を裁く兵隊達にはとても見えない。サークルで海に来た大学生ぐらいに見える。
「ありがとう、……」
私を助けてくれて、道を示してくれて。
本当に、感謝しきれない。
「どういたしまして。」
上を見上げると、照りつける太陽を遮るように私の顔を覗き込む水琴さんがいた。海に目線を戻すと、みんな海から出て浮き輪やビーチボールを持って、こちらに歩いてきていた。
ええ、こちらこそ。
どういたしまして。
そう心の中で呟くとスクと立ち上がり、大きく伸びをした。
「お腹空きました。ご飯を食べましょう!!」
多分今日一番いい笑顔を見せてると、水琴さんはクスと笑い、そうね、と一言言った。そしてみんなを呼び昼食の準備を始めた。女子3人が水琴さんのあとをついて行くのを見て、私もその後ろを追いかけた。
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今はもう帰りの車の中だ。行きと同じメンバーで乗車し、やっぱり気分は良くない。でも、私は今とっても複雑な気持ちなのだ。だって2人とも私に寄りかかって眠ってしまっているのだ。きっとたくさん遊んだんだろう。全然起きる気配がない。でも撤回しよう。気分はあまり悪くない。少し重いというのが困りものではある。しかし、私はどうしょうもなく、安心してしまっている。平和ボケして、こんな日が毎日続けばいいと思ってしまっている。窓の外に目を向けると、日が沈みかけている。
「…雄太君」
「……何さ」
助手席で外を眺めてついる雄太君に声をかけた。いつもより声が低くて落ち着いている。相変わらず人を食ったような顔をしているのが今は心地良い。目を瞑り、今までの全ての出会いを記憶のページを捲って駆け巡る。あの時、助けてくれたから、今の私がある。ここに存在している。
「ありがとう」
それしかなかった。こんな大人数でどこかに来たことも、それが楽しいと思えるようになったのも、みんながいたから。手を差し伸べてくれたから。
「どういたしまして」
私の言葉が伝わったかどうかは定かではない。そんなこと、どうでも良かった。ただいつもより落ち着いた声で、どこか遠くを見つめながら、でも後部座席の私にもしっかりと聞こえるような声で、ポツリと呟いた。雄太君の顔は見えない。見ても多分、何を考えてるかなんてわからない。また笑って誤魔化すだけなんだろう。それでもかまわない。
その一言が、私の心を救った。
泣きたくなるほど嬉しかった。
ずっと、このままでいたいな。
剣水君と荒狼君の腕に自分の腕を通し、2人の腕を優しく掴む。荒狼君も剣水君も全然起きる気配がなくてちょっと可笑しかった。
でも、あと少しだけ。
このままでいさせて。
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「それは俺のだ!!」
「違うこれは僕のだ!!」
また始まった。目を覚ました2人は早速喧嘩勃発。相馬さんを見ると、ちょっと困った顔でクスクス笑っている。見上げるほど大きいビルの最上階のある一室。ここは相馬さんの家でもある高級マンションなのだ。実は海に行く前から、相馬さんの家に泊まることが決まっていたらしい。私は全然聞いてないけど。因みに女子3人は先生に伝えてないそうなので、帰ったらしい。私も伝えてないけど。
水琴さんと明希乃特製のゴマきなこの鍋をみんなでつついている。最初はきなこの風味が強く、その後に来る柔らかいゴマの風味が、昼にバカ食いしたお腹には優しい。豆腐を4つに分け、その一つを口運ぶ。じんわり体が熱くなってきて、こたつに入っているような錯覚がした。
少し大きめな丸机を囲んで、みんなで鍋をつつく。三井さんや少人数で食べたことはあるが、こんなに騒がしい夕食は初めてだ。今日あったことを話して笑いあったり、食べ方が汚いって怒られたり出来るのも、ここなら実現する。私にも両親がいたら、恐らくこんな感じなんだろう。
あぁ、そうか。
_____私にとってこの人達は、家族と同等の価値があるんだ。
一瞬、騒がしいと思えるこの雰囲気も悪くないと思えた。楽しい、とさえ感じたのだ。冷めきっていた感情も、失いかけていた優しさも、取り戻せた。まだまだこれからも修復作業は続くだろう。だが、どのくらいかかろうとも、何歳なろうが、私はいつまでも私を取り戻そうと足掻くだろう。
「んじゃ、みんなでバイオハザードやろっかー」
「え? 相馬さんの家って、ゲームあんの? てか、バイハザとか意外だね〜」
夕食を終え、満足気な雄太君が乗り気でテレビの下に手を入れ、専用のゲーム機を取り出した。まるで自分のものかと疑うほど、手慣れた手つきで電源を入れる。そして、2個ある操作機の電源を全て入れ手早く近くに座っていた私と水琴さんに渡す。
「それじゃ、2人とも着いてきてね」
その目は、獣人を狩る時の「狩人」の目だった。
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「いやぁぁぁぁぁ?!!」
「うわぁあぁああああああああ?!!!」
私も水琴さんもバイオハザード未経験者なので、ステージ構成とか操作キーも知らない。最初に雄太君がふんわり教えてくれたけど、とっくの間に忘れて、今じゃ適当にどこかのキーを連打している。
「違ぇ!! そっちじゃねえ!! ほら、そこのアイテム取れ、!!」
「いや、あの、ちょ、」
「あー!!! もう貸せ!!!」
荒狼君は私から強引に操作機を奪い取ると、驚異の速さで敵にダメージを与え始める。それを見て雄太君も一瞬動きが止まったが少し笑みを浮かべたあと、満面の笑みでまた敵を倒し始めた。
あ、これだ。
1番、みんなが楽しそうに笑う時だ。
直感的に感じ取り、ほんの一時、私は自分の世界に入ったような気がする。そして周りを見渡せば、みんながいる。荒狼君も笑ってる。剣水君も笑ってる。みんな笑ってる。たった今、喧嘩して、いがみ合っていた2人が肩を並べて協力しあっている。形はどうであれ、私にはそれがとても嬉しかった。
楽しい、嬉しい。
今日初めて感じることが出来た。誰かと一緒にいると、こんなにも安心できるものなのかと。
私もつられて笑った。嘘偽りではなく、本心で。
今この瞬間が楽しいなら、それでいいや。
そう思った。
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「ふふふ、みんな寝ちゃったわね。」
「そうですね……」
どうしてもクリア出来ないステージがあるとかで、剣水君と荒狼君と雄太君で作戦会議を始めたのだが、どうやら眠気には勝てなかったらしい。床に広げた作戦を書いた紙が散らばっている。雄太君なんか鉛筆を持ったまま寝落ちしてしまったらしい。3人とも床に寝転がったまま安らかな寝息を立てている。幼稚園でたくさん遊んだ園児が、お昼寝している光景に似てて、ついつい写真を撮ってしまった。
「ちょっと、それ見つかったら、怒られるわよー?」
「……ふ、大丈夫です。というか、撮るタイミング、今しかないと思って。」
「あ、確かに、うちも撮っとこ。」
スヤスヤと眠る3人の顔を写真に収めると、満足げに微笑む水琴さん。とても楽しそうだ。
本当に、楽しかったなぁ。
ぼんやりと今日のことを思い出す。
海には最後少し入った。
バーベキューのお肉が美味しかった。
ゲームが楽しかった。
心の底から満足し、ゆっくり目を閉じる。すると私は躊躇いなく眠りつく。3秒後には気持ちよさそうな寝息を立てた。それを見た水琴さんはソファの上のタオルケットを広げ、私とほかの3人もかかるように被せ、自分もソファの上で眠りについた。
「みんなー、何か飲む、って……」
すっかり静まり返ったリビングルームに、相馬さんがが風呂から帰ってくる。そして全員寝落ちしてしまったことに気づくと、いつもの困り顔をした後、優しく微笑んだ。
「______本当に、困った子達だなぁ。」
その笑顔が、誰にも届くことはなかった。
だが、私はきっと。
いつまでもみんなと笑い続けたい。
そう思ったに違いない。
この小説を最後までご覧頂きありがとうございました\\\\٩( 'ω' )و ////
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