もしも町内会が電子化したら
久しぶりに書けました。
(2037年1月5日。お正月ムードも終わりつつある頃、昼間のワイドショーにはこんな番組が放送されていた。全国各地の変わった街を巡る番組。今日は90分のスペシャルバージョンだ。)
皆さんこんにちは。今日も「この街発見」をご覧くださってありがとうでーす。ナビゲーターの、倉持茉莉です。
(まだ20代前半の、テンションが高い派手な感じの女子アナが番組の進行を務める。)
2037年初の「この街発見」、今日は30分延長して、90分のスペシャルバージョンでお届けしま~す。今回お邪魔する街は、神奈川県横川市赤白区にあります、「桃ケ丘」という街です。
(画面には日本地図が現れ、神奈川県を指している。画面は町中にいる茉莉に切り替わる。山の上の住宅街。なんの変哲もない街。空が暗くなり、今にも雨が降りそうだ。)
桃ケ丘は600世帯程の小さい街ですが、ここの町内会がすごいんです。なんと日本初、町内会の電子化に成功した町なんです。
(茉莉は200段くらいある長い階段を上りながら、レポートする。)
この階段長いですね。この街は高齢者の方が多いそうですが、この階段の上り下り大変そうですね。後ろのカメラマンさん達息を切らせてます~。
(階段の中腹に、二階建ての小さな一戸建てがある。「桃ケ丘町内会館」という木の看板がドアの横にかかっている。)
では早速町内会館にお邪魔したいと思います。
こんにちは、この街発見で~す。町内会長さんいらっしゃいますか?
(茉莉とスタッフは、町内会館の扉を開けた。)
(玄関の隣には下駄箱があり、玄関の先はフローリング。通路をふさぐように会議机があった。その机の上に、タブレットパソコンが三台。タブレットスタンドに立てかけてあった。戸惑う茉莉とスタッフにまた不審物が現れた)
「え? 町内会長さんって……!」
(茉莉は思わず、口にした。茉莉たちの目の前に現れたのは、人間の膝くらいの背丈で青白い軟体生物だった。)
「スライムなんですか?」
「スライム? あれ?」
(タブレットから声がした、少し歯の抜けたような話し方をするおじいさんの声だった。)
「会長、画像が違いますよ。テレビの取材なんですから、しっかりしてくださいよ」
(タブレットからまた別の声がした。今度は、女性の声。)
「ああ、こっちだったか。どうもパソコンは苦手だな」
(歯の抜けたおじいさんの声がして、スライムが消えた。代わりに現れたのは、ポニーテールの女子高生。身長は平均的女性の身長がある茉莉と同じくらいだ。)
「こんにちは、私が町内会長の桃ケ丘ユズナございます。只今、町内会館をご案内しますので、少々お待ちください」
え? スライムが消えて、こんなかわいい女の子が町内会長?さっき会長と呼ばれた方は、年配の男性の声でしたけれど、今は明るい女子高生の声ですね。でも、なにか変ですね。
(会館の中は、フローリングの部屋。会議机一つといすが並べられている。部屋の隅に扉があって、もう一つ部屋がある。もう一つの部屋から、慌てた様子で机を片付ける男性と女性が現れた。男性女性ともに白髪頭で背が低い。机は畳んで隅によけられた。机を片付けた男性女性は、足早にもう一つの部屋へ去っていった。)
「お待たせしました。どうぞ靴を脱いでお入りください」
(会長はにっこりと笑い、茉莉達を案内した。机の真ん中には、タブレットスタンドに立てかけられたタブレットが3つ。スタッフと茉莉は机の周りにいる。会長は机の前に立っている)
「いや、すまない。取材の時間を間違えていまして、準備ができてなくて失礼しました」
(会長が言った。見た目は女子高生なのに、話し方がおじいちゃんのようだと茉莉は思った)
「ではどうぞおかけください」
(会長は手を差し出して茉莉に椅子をすすめた。茉莉は椅子に座ろうとして、会長にぶつかった)
「あ、すみません」
(茉莉はとっさに謝ったが、会長に触れた感覚がないのを不思議に思いながら椅子に座った)
「大丈夫です。これ、ホログラムですから」
(会長は、茉莉に触ろうとして手を伸ばしたが、茉莉に触る事が出来ずにすり抜けていく)
「副会長はいるか」
(会長が奥の部屋に向けて言うと、若い男性が二人現れた。二人とも会長より背は高い。一人は黒い髪を短く刈上げて、眼鏡をかけていてスーツを着ている。もう一人は金に近い茶色の髪をたなびかせ、ワイシャツのボタンを二つ開けていて、ネクタイはなく黒いカーディガンを羽織っている。会長を間に挟み、男性二人が立った)
「副会長の桃ケ丘マサユキです」
(黒髪眼鏡男は表情を変えずに淡々と自己紹介をした)
「同じく、副会長の桃ケ丘タクヤだよ。取材なんて、キンチョー。ごめんね、時間間違えるオオボケ会長で」
(茶髪男はヘラヘラと笑いながらあいさつをした)
「もしかして、こちらの副会長さんも……」
(茉莉は副会長に手を伸ばすが、すりぬけてしまう)
「そうで~す。ホログラムです」
(タクヤは笑いながら答えた)
すごいですね、会長さんも副会長さんも、ホログラムなんです。ほら。
(茉莉は会長や副会長に手を触れようとするが、すり抜けてしまうところを視聴者に見せる)
どうして、ホログラムになっているのですか?
(会長は茉莉の質問に答える)
「それは、萌えです」
「え? どこかが火事なんですか?」
「会長、それじゃあわからないですよ。私が代わりに説明しましょう」
(マサユキが説明を始めた)
「最近、全国的に町内会の加入率が下がってきています。非加入の理由として、役員が面倒、とか町内会活動に魅力を感じない等があげられます。そこで、桃ケ丘町内会では町内会活動の電子化にしました。活動を簡略化し、住民の皆さんにわかりやすい活動にしました。先ずは、桃ケ丘町内会に加入する全世帯に、こちらのタブレットパソコンを配布しました」
(マサユキはタブレットを操作しながら説明を続ける)
「月一回、市から配布される広報紙をこのようにタブレットで見ることができます。また此れまであった回覧板もタブレットで配布され、回覧済のサインもタブレット上で行います。そうすると広報紙や回覧物のセットや、配布の手間が省けて、紛失もなくなります」
(タブレット画面に広報誌や回覧板が映される)
最近タブレットも安くなりましたから、一人一台は持っていますよね。広報や回覧物の電子化は進めている町内会も出てきています。
「他の町内会でも、広報や回覧板のアプリを使用している処はあります。ただインターネットを使ったアプリですので、外部から傍受される事があります。桃ケ丘町内会ではイントラネットを利用し、会員同士連絡を取り合えるようにしました。電話ですと、時間が合わなくてつながらなかったり、時間を聞き間違えたりしていましたが、このツールですと、時間が関係なく会員同士メールができます。声で操作もできるので、パソコンが苦手な方でも抵抗ないようです」
「あ、そうそう、会計や書記はこちらのパソコンがやっています」
(タクヤが部屋の隅にあるデスクトップのパソコンを指した。)
「パソコンだから間違えなくて、いいんですよ。役員の成り手もなかなかいないから、自動化できるところはやっています。」
すごいですね。でもどうしてホログラムに?
「これは住民の皆さんに、町内会活動に関心を持ってもらおうと、多くの人のデータを解析し、男性の好む女性の顔の平均と、女性が好む男性の顔の平均を作り出した虚像です。実態はー」
(ホログラムが消えた。奥の部屋の扉が開いて、年配の男性が二人、妙齢の女性が一人現れた。茉莉達が町内会館へ入ったとき、慌てて机を片付けていた人達だった)
「どうも、町内会長の柚村でございます」
(歯の抜けたような声の男性が名乗った。続いてもう一人の男性は副会長。妙齢の女性も副会長と名乗った)
え? 会長は桃ケ丘ユズナさんではなくて?副会長も、タクヤさんでもマサユキさんでもない違う名前でしたけれど、どうなっているのでしょうか?
「ユズナはハンドルネームで、女子高生姿の会長はアイコンだと考えてください」
え~。びっくりです。ボイスチェンジャーで声まで変えているなんて!
「これから、もちつき大会の準備をすぐ近くの公園で行うのですが、そちらもご覧になりますか?」
会長さん、いいんですか? お願いします。では会館を出て公園に向かいます。公園はこの階段を上り切ったところにあるそうです。しかしこの階段大変ですね。
「ええ、だからあまりこの階段を使わないように、打合せはタブレットのチャットで行う事が多いですね」
着きました。ここは町内のイベントを行う公園です。
(公園は坂の上にある。ブランコ、砂場があるが、ブランコにはロープが貼ってあり、砂場はシートがかけられていて使えない状況になっている。テニスコートくらいの大きさの広場の中央にやぐら、隅に桃ケ丘町内会と名前の入ったテントが建てられている。テントの中には、会議机と椅子が並べられている。公園には5名ほどの人が、掃除をしたり、道具を並べたり餅つきの準備をしている)
皆さん、お疲れ様です。あれ、雨が降りそうですが、大丈夫ですか?
「大丈夫ですよ」
(会長はポケットからリモコンを取り出して、何やらボタンを押した)
え?公園に屋根ができましたね! 普通の小さい公園のように見えましたが、こんな仕掛けがあるとは!!!!
「行事が雨で中止にならないから、町内会の仕事もスムーズにできます。このやぐらやテントもボタン一つで地下にしまう事ができるんです」
すごいですね。行事のお手伝いの人数が少ないみたいですね。
「そうなんです。前は完全に行事の準備も業者に委託した事もあったのですが、費用的な問題もあったのですが、何より住民の親交は深まらないんですよね。行事を通して、町内の皆様と知り合って災害時に役に立つ事もありますから」
あ、もう時間ですね。今日は神奈川県横川市赤白区にあります、「桃ケ丘」にお邪魔しました。桃ケ丘の皆様ありがとうございました。
「あれ、これ生放送? スライムも全国に…?」
(会長がうろたえるのをバックに番組が終了)
茉莉は、「もしも幼稚園が在宅だったら」の運動会でレポートをしていました。ちなみに青先生、倉持蒼の妹です。どうでもいい設定です。




