みぃちゃんとあのこ
「でっ、龍はどこにいんの?」
「それがさ、ちょっと、わかんないんだよね。」
ネッラはそう言うと、上を向いて口笛を吹く。
「ぴゅっ。」
「ぴゅっ、じゃない!!!」
みぃちゃんがネッラの腕をはたく。
「困りましたね。」
トゥーが言う。ぼくも困ったねえと繰り返した。その時だ。ネッラの着ている白いポロシャツの胸ポケットの中で何かがうごめいた。
なっ、なんだろう。ぼくはまじまじとネッラの胸を見つめた。
ぴょこん。
とポケットから顔を出したものがいた。それはジャンガリアンハムスターだった。
「トマトー、生きてたのーーー!!!」
そう叫んでみぃちゃんはネッラのポケットからトマトをすくいとった。
すりすりすりすりすりすり、ジャンガリアンハムスターを両手で抱えて、みぃちゃんは頬にトマトをあてていとおしそうにした。
「これで、宇宙に行けそうだな。」
ネッラはそう言うと、ニヤリと笑った。
だけどぼくはなんでポケットにトマトが入ってたんだろうかと思っていた。ネッラが気づかないわけもないし。ぼくは不思議でたまらず、ネッラに聞いてみたくなった。
聞いてみたくなったんだけど、ネッラはあんまりににやにやして気持ち悪いから、ぼくは黙っていたのだ。
「えっ、トマトで宇宙に行けるの?」
みぃちゃんが言う。
「ああ、行けるさ。なんせトマトは龍の血を引いてるからな。」
「えぇぇぇぇぇーーー。」
みぃちゃんとぼくと、よく事情を知らないトゥーまで感嘆の声をあげた。
「あれ、言ってなかったっけ。」
ネッラはとぼけた顔でそう言った。
「聞いてないし、言ってないよっ。」
みぃちゃんがムッとして言ったら、トゥーもそうだそうだとうなづいてる。もしかして、トゥーもみぃちゃんのことが好きなのかな。
「まあまあ、そんな怒んないでさ。宇宙に行こうぜ。」
ネッラがそう言うと、みんな二つ返事で同意して、宇宙に行くことになったん。
なったんて。
「あっ、でも私、キャンボジアの父のところに帰らなきゃいけません。」
トゥーはそう言うと、少し寂しそうにした。
「そうなんだ。もう帰っちゃうんだ。」
ネッラも寂しそうに言う。
「えぇ、父と母を見捨ててはいけないのです。」
「それなら、仕方ないね。」
みぃちゃんはそう言うと、トマトを両手で包んで、息を吹き掛けた。
ぐんぐんとトマトが大きくなっていく。
全長五百めーとるにはなったであろうトマトにみんなで股がった。
「バイバイ、トゥーさん。ありがとねー。」
トゥーさんに、お礼を言ってぼくたちは空に浮かび上がった。
次第に小さくなるトゥーさんを見ながらぼくは思う。遠くはなれても、ぼくたちはみんな宇宙で素粒子でつながってるんだ。
「そうでしょ、みぃちゃん。」
「うん、みんな宇宙で素粒子で繋がってるんだよ。」
そう言ってみぃちゃんは一粒の涙を頬に伝えさせた。