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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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バルザックといっしょ

バルザックといっしょ



バルザックと狩りに来ていた。

狩りの相手は俺の希望通り、ブラックウルフだ。

ブラックウルフは文字通り真っ黒で、ゴブリンの何倍も強くしたたかだ。まず、どうしても最初に囲まれる。こっちの気づかないうちに仲間を集め、俺らの前後左右を固めると一斉に襲い掛かってくる。

だから俺とバルザックは常に離れずに移動し、来ると分かった瞬間背中合わせに立った。

右と左からと襲い掛かってくる、左に踏み込み顎めがけて切り上げる。そのまま右へ降り下ろす。どちらも傷は浅く二匹は下がって行った。後ろからは『ドサッ』と音が二度してバルザックが二匹仕留めたことを知る。


「右だ」


どっちの?誰の右?と一瞬思うが、バルザックの右、俺の左へと走り出す。ビンゴ。バラバラになって戦う意味が無い。出来るだけ死角を減らさなければいけない。

走り込み斬り伏せる。俺れらを囲む輪がどんどん小さくなる。輪から出来るだけ逃げる様に立ち回った。


「まだまだだな」


全滅させるとバルザックが呼吸が落ち着けてから言った。


「そうだな」反省点はいくつかあった。

「最初の二匹は確実に仕留められてよかった。もうコンマ一秒引き付けて、顎じゃ無くて首を斬っていくべきだった」

「分かってっから」


お前は俺の後ろを見てたよな?なぜ分かる?


「あと、背中を預けているんだ、もっと俺の動きを察してくれ」

「そんな余裕ねぇし!大体お前、『右だ』って言ったけどどっちの右だよ。俺の右か?お前の右か?」

「そ、そうか。そうだな。わ、悪かった。でも分かっただろ?」

「分かるかバカ!山勘だ山勘!」


バルザックの頭を叩く。

バルザックは明らかに変わっていた。以前のバルザックなら最初に囲まれたままジリジリと戦っていただろう。それでもなんとか勝てただろうが積極的に仕掛けられる事が出来るようになって、いい結果が出せている。

それでもお互い文句を言い合う。結局俺は集団戦に慣れていないからね。俺はもちろん、バルザックも集団戦にご無沙汰だったので戸惑っているような感じ。

それから入れ墨に使う血を採取する。

召喚印に使う血は心臓から採取できる。胸骨の下に有る

『命』のチャクラが関係していると考えられている。心臓から血を抜き取るとブラックウルフの、死体は空間魔法でしまう。皮を剥いだほうが買い取り額アップだがこれからはあまりお金には困らないだろうしいいいだろう。そのまましまう。

召喚印を彫る上でもう一つ条件ががる。俺が止めを刺すか、彫られる人がブラックウルフを倒す必要がある。多分、ブラックウルフの魂も関係していると思われる。

だから今回の場合は彫りに使えるのは俺の倒した8匹分のみ。バルザックの倒した12匹はバルザックになら彫れるが他の人には彫れない。保存用の保栄瓶もそんなに余裕は無いので、俺が倒した8匹の心臓から血を抜いておしまい。

カロイラ村の西の橋を渡って北西の山の麓に来ていた。

この林では、ゴブリン、オーク、トレントなどが出没した。

ゴブリンは言うまでもなく。オークは体こそ大きいがあまり群れない。多くても三匹ぐらい、感知のスキルのお陰か相手より大体先に気付けるので、俺の魔法の練習台になっている。

魔法はこの世界に溶けた神様の分だけ種類がある。十二種類あると言われていて。


地、水、火、風、輪、魂、光、重、空、時、邪、天だ。


それぞれ第一階位、第二階位、第三階位、四、五、六、七、と続くらしい。この国でも何処まであるかは把握していないし。実際第四階位以上はほとんど研究が進んでいないそうで、なんか色々有るらしい。ぐらいにしか分かっていない。そんな訳で第三階位以下が広く普及している。

どの魔法も、第一階位は体から出るだけ。水の魔法の第一階位の神字を書くと書いた指先からじょろじょろと水が出てくる。

それが第二階位だと、出したい所からじょろじょろと出てくる。岩の上からだったり、木の根元からだったり。足の裏だったり。

第三階位になると、圧縮というか、威力が上がる。水魔法だと、ウォーターカッターみたいな事が出来るようになる。威力や量はMPを込めた分だけ上がる。

あと大事なのはイメージだ。どれぐらいの量の水をどんな形で何処から出すのか。イメージがしっかり出来ないと魔力を必要以上に消費したり、魔力が散って発動しないことがある。

火魔法でもそうだ。第一階位を唱えて、手から火炎放射機のように炎を出すか、松明の様に灯すのか。

第二階位まで唱えて、火の壁を作るのか、火の矢を放つのか、それを二本放つか、三本放つのか。

俺が今良く使っているのは水魔法の第三階位だ。オークがいるのを感知してから神字を宙に書く。オークがこっちに近づいてくるのを見計らって、唱える。

俺の手から吹き出た水はオークの体を『シュバ』と音を立てて真っ二つにする。オークの死体は特に換金出来る部位は討伐証明以外に無いので、討伐証明部位の左耳を切り落とすと土魔法で土に返した。


「お前、どれだけMPあるんだよ?」バルザックが聞いてきた。

「え?まあ、ぼちぼちね」


こういう時どれだけ情報を出していいか分からない。とりあえず全部秘密、スキルは絶対だ(なんとなく)!


「だって今の第三階位だろ?」

「ううん、まあ、そんな感じかな?」

「しかも何回唱えてる?三回は唱えてるだろ?それだけ唱えようとしたらレベル10でも足りない」バルザックが生意気にも睨んでくる。

「ん?イメージが悪いんじゃないの?」

「イメージの違いでここまで違うか?」

「そうだよ、イメージだよ」バルザックのくせにうぜーな。

「どんなイメージしてんだよ?」

「えぇ?」面倒だなコイツ。「空中に水があるだろそれを集めて放つ感じだよ」

「空中から水って、なんだ?真面目に教えろよ」

「真面目だよ、そんな事も知らないのかよ?お前はバルザックじゃなくてバカザックか?」

「いいから教えろよ」


バカにされているのは分かるだろうがバルザックは気にしていないようだ。


「めんどくせぇな!お前は汗を掻くだろ?それは乾いて何処へ行くんだよ?空中に決まってんだろ?」


バルザックは眉を寄せて考えている。

もしかしてこっちの世界では常識じゃあ無いのか?


「水を火にかけて沸かすだろ、そうすると湯気が出る、それだよ。湯気は目には見えなくなっていくけどしっかりあるわけ。分かった?」バカザックには難しいか?

「何となく分かった」

「はいはい、良かったですね」


何でだと聞かれても分からないけどね。一応納得したみたいだ。


「それにしても、お前記憶無いんだよな?なんでそんな事知ってるんだよ?」

「えぇ?いいだろ別に何を覚えてようが俺の勝手だろ?」


舌打ちしたくなるが抑える。バカザックのくせに疑いやがって。


「まぁ、そうだな」


あっさり引き下がりやがった。バカザックごときに嘘だとばれたらおしまいだ。


「そんなことより、レベル上がったみたいだ、そろそろ帰ろうぜ?」

「そうか、良かったな。帰るとするか」


村に向かって歩き出す事にした。ちなみにバルザックは林まできて早々にレベルが上がってレベルは6になっていた。ほぼゴブリンのみで良くここまで上げたよ。


「バルザックはブラックウルフの法印を彫らなくて本当に良いのか?」歩きながら後ろのバルザックに聞く。

「いずれはもっと違うものを彫りたい」

「そりゃそうか、便利だけどな」


召喚系統の法印は複数入れるのが難しい。例えば、ゴブリンの法印とオークの法印を彫ると。ゴブリンの法印はほぼ使い物にならなくなって、オークの法印も能力が落ちるらしい。ブラックウルフの法印をを彫ったら他に入れたい法印を彫りたいときに彫れないかもしれない。


「それにお前がいればな」


まぁ、一応分かるけど。

なにコイツ、お前がいればいい的な?


「俺はノンケだからね?」


そう言いながら右手方向に違和感を感じて、慌てて反対方向に飛び下がると、木の枝が『ヒュン』と音を立てて俺のいた空間を通り過ぎる。トレントだ。トレントは倒木の様に倒れたまま枝を振ってくる。バルザックが俺とトレントの間に入って剣を振った。


「早く唱えろ!」バルザックが言う。

「はいよ」


俺は水魔法の第一階位から書き始める。

トレントは枝を振り降ろしながら立ち上がった。バルザックは剣で降り下ろされてくる枝を次々に払う。

そして第三階位まで書ききった。


「どけ!」


バルザックが目の前から消えてトレントが良く見える。全長五メートルほどだろうか。縦に二本魔法を放つと枝のほとんどが下へ落ちる。トレントが沈黙すると根元をもう一閃。

ただの木になったトレントが地面に『ガザガザ』と他の木の枝に引っ掛かりなから倒れた。


「お前の感知のスキル、イマイチだな」

「うるせぇな!余計なお世話だよ!」


そう言いながら残りの枝を剣で払う。


「成る程、、、。感知のスキルが有ることは否定しないわけだ」


こいつ、バカザックのくせに俺にかまをかけやがった。ちょっと大きく振りかぶって枝を落とすと勢い余って後ろのバルザックに当たりそうになる。


「チッ、悪いな」残念当たらなかった。

「お前!今狙ったよな?舌打ちしたよな?」

「狙ってねぇよ。してねぇよ。気の小さい奴だ」


空間魔法でトレントをしまう、トレントはまだ若く、幹も細いが建材てしても弓の素材としても良い値段で売れる。このまま売れるので討伐報酬は無い。


「今空間魔法でしまったけど、第一階位までしか唱えてないよな?」

「さぁ、どうですかねぇ」ムカつくので無視だ。

「これもイメージの違いなのか?」

「さぁ、どうですかねぇ。私は簡単にかまをかけられて引っ掛かるバカですから、良くわかりません」


村向かって再び歩き出す。


「なんだ、気にしているのか?小さい奴だ」


無視だ無視。まったくバカザックのくせに。


「感知のスキルレベル1の奴でもトレントなら大体気付くぞ」

「へぇ」

「ブラックウルフは無理だけどな」


やっぱりな、あの囲い込みは忍者クラスだよ。忍者に囲まれた事無いけど。


「あんまり向いていないんだろうな」バルザックが独り言を言っている。「他のスキルは相性良いのかもしれんな」

「スキルに相性なんてあんの?」

「ある」


ふーん。相性ねぇ。俺に何でこんなスキルがあるのかも良くわかんねぇしどうでもいいや。


「あと、空間魔法で何でもバンバンしまうのも良いが、死ぬ時気を付けろよ」

「何でだよ?」

「死んだ瞬間に空間魔法でしまっていたものが全部放り出される」

「最悪だな」


カピカピのパンツとかヤバイな!


「そうだ、前に建物の中でいきなり死んだ奴がいて、そいつ魔物を討伐した後だったんだが。死体が部屋に溢れかえってその時部屋にいた二人が圧死した」


エロ本とかもヤバイぞ、この世界そんなもの無さそうだけどな。

林の終わりが見えてきた。林を抜けた先に村が見える。茶色い屋根の家々と手前を流れる川。少し立ち止まって眺めると再び歩きだした。




橋の出前まで来ると装備一式を空間魔法で空間魔法でしまう。普段着になって、橋を渡るとおっちゃん三人組に合う。朝と同じメンバーだ。東のおっちゃんより少しお爺ちゃんに近い。


「たくさんの狩れたかい?」おっさんが聞いてくる、

「んー、ゴブリンとオークとトレントとブラックウルフもね」

「そりゃいい。ブラックウルフは最近この村の彫師は全然狩らないから増えて増えて」


お困りだったようだ。ブラックウルフは正直一番やりにくかった。近寄ってくるのを感知出来ないし、いきなり囲まれる。一番やっかいな理由が、知能にある。まさしくハンター、自分達の5分の1以下の敵にしか絶対に襲いかからない事だ。だからあいつらをを倒そうとするならば、少人数で林をウロウロして向こうに気付いてもらうよりほかない。大人数でウロウロしようものなら一生合う事が出来ない。


「彫師以外に、冒険者とかは狩らないの?」と俺が聞くと。

「狩らん、狩らん」とおっちゃんが返す。「最近の冒険者はリスクの高い魔物は全然狩らん!」


まぁ、そりゃそうか。


「確かにオークのほうが」


楽だ。ブラックウルフの毛皮はそこそこ良い値段で引き取ってくれるが、彫り師じゃないとうま味が少ないか。冒険者がブラックウルフを狩ってその血から法印を彫るにしても、バルザックが彫りたがらないように冒険者向きでは無いのも理由たな。やっぱり彫りたがるのは非戦闘員だな。可愛い感じの彫ろっと。

ブラックウルフの血は20個の瓶にそれぞれ入ってる。一つ金貨1枚として、、、。とりあえず宿のお手伝いは辞めだな。狩って、彫って、狩って、彫る!

おっちゃん達と別れて市内へ向かう。

おっちゃん達との距離が離れた事を確認して、勇気を出してバルザックに聞くことにする。今の俺なら何とかなるかもしれない。


「なあ、この村にちょっとエッチなお店とかあるの?」金なら有る!

「ああ、あるよ」

「へぇ、どうなの?」


平静を装って聞くが心臓はバクバク。


「んー、ベテランが多いな」

「そうかぁ、ベテランかぁ」


テクニシャンですかぁ。ん?


「え?何歳ぐらい?」

「結構高いぞ、四十とか五十とかだな」


市内へ近付くにしたがって畑が少なくなってくる。


「なんだ、行きたいのか?」


綺麗な町並みだ、日本は外国の文化を取り入れる習慣が強くって日本らしい家屋というものがとても少なかった。


「行きたいなら場所教えるぞ?」


しかし、この村は素晴らしいの一言に尽きる。


「どんな店が良い?」


また、歴史を感じる作りなのも良い。何年も何年も、、、。


「なあ、ほんば、、」

「うっせぇな!」


俺は切れる!


「俺のテンションが下がってるのわかんねぇの?もう忘れたいの?分かる?」

「そ、そうか、悪かった」


バルザックは慌てて謝るが全くダメだこいつは!


「謝ってすむなら憲兵はいらねぇんだよ!」


さっき林の中でぶった斬るべきだった!


「そ、そ、そうだな。どうしたらいい?」

「俺のテンションを上げろ!上げろよバルザック!」


ある意味上がってるけどな!


「まて、まて、落ち着け」


これが落ち着いてられるか!俺は二十歳前だぞ!それが四十だと?!俺の倍生きてたらもうそれは母ちゃんだよ!物心ついたときにはいなかったけどな!俺の地雷を踏んだ罪は重い!死ね!


「分かった、分かった」


バルザックは俺の殺気をビンビン感じているのだろう。俺に向かって両手を付き出している。


「ギルドの買い取りの人分かるか?」

「オラさんがなんだ!」

「オラさんが誰かは分からんが、毛の多い人だ」


オラさんの事だ。


「オラさんがどうした!ええ!」

「あの人は奥さんが三人いる!」


無意識の内に切っていた鯉口を戻す。


「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。奥さんは三人だ」

「それは、、、。良いのか?」

「良いんだ!」

「良いのか?」


なんてこった!合法ハーレムか!この世界は合法ハーレムの世界だったのか!


「あぁ、そうだ」


バルザックがほっと息を吐いて言う。


「どうしても男のほうが少ないからな」

「そうか、男の方が少ないんじゃあしょうがないよな」

「そうだ、国でも進めてる」

「進めてるのか!」

「あっ、ああ」


俺の上がったテンションにバルザックが引いている。


「収入が多い人ほど出来るだけ多くの女性を養い子を育む事は国益に伴うそうだ」

「そっ、そうか、国が進めてるんじゃあしょうがないな!」

「テンションは上がったか?」

「上がったよバルザック君!君は有能だ!」


バルザックの肩を叩いて誉める。


「良かったよ」


バルザックは『はぁ』と大きく息を吐く。


「オラさん?は結構収入が良いんだよ」

「へぇ、そうなの?」

「あぁ、冒険者として実績がなければやりたくても出来ない」


確かにな、『冒険者がアイテムを持ち込みました。何なのか分かりません』じゃあ話にならないよな。


「一人は奴隷だったそうたがな」


な、な、な、何と?今何と言ったバルザック君!


「奴隷?」


「ああ、昔はそこそこあったらしい、パーティーメンバーに奴隷を使うってのは、危険な仕事を全部任せて自分は安全な後衛で危なくなったら自分だけ逃げる」

「そうなのか」


なんてこった!


「あぁ、金が掛かるから余程の金持ちじゃなきゃ無理だがな」

「そうなのか」


ヤバイ!エロい展開しか頭に浮かばねぇ!


「ああ、最近は最高金貨100枚付いた事が有るらしい」

「むむむ!高いな!」しかし!仕方ないか。

「そうだ、だから普通にパーティーメンバー集めるにしてもギルドで探したほうがいい」

「でも俺ら仲間外れにされてんじゃん!」

「まあな、どうしてもと言うなら王都に行けばいい。でも戦闘奴隷は難しいかもな。どうしても死亡のリスクのある仕事だし、さっきも言った通り奴隷側からにしても、もしも雇い主だけ逃げられたらって思うとな」

「へぇ」


まあエロい目的でしか行かないからその辺はどうでもいいがな!ちゃんと説明しよう。エロ目的ですって。

今まで生きてて良かったよ、異世界って良い所だな。


「空間魔法のイメージを教えるよ」

「いいのか?」

「勿論だよバルザック君、僕と君の仲じゃあないか、隠し事何て無いよ」そう言ってバルザック君の肩を叩く。「それでMPの消費が抑えられるかは保証出来ないけどね」

「構わない、頼む」

「質問は禁止だからね」


ビッグバンなんて上手く説明出来ねぇよ。

畑から住宅街に入り人がちらほらいる。人に聞かれないように少し小さな声で話す事にした。



村の中心部に入るころやっと説明が終了した。結局何度か質問され答えていた。


「何でそんな事を知っているのかは聞かないほうが良いんだろうな」

「そういう事、分かってきたじゃないかバルザック君!」


小腹が空いてきたので焼き鳥を買う事にする。


「おっちゃん!二十本!」


俺はそう言って大銅貨1枚財布から取り出す。空間魔法で装備をしまう時に懐に入れておいた。ちなみにこっちにきて十円玉と焼き鳥を交換してもらった店だ。

おっちゃんが袋に入れてくれるのを待っていると。


「スリよ!助けて!」


と女性が声を上げた。

そう言えば前に俺がスリに会ったのもこの辺だったな。駆け寄って走り去ろうとする子供の足を引っ掻けると、子供は派手に転ぶ。うつ伏せで倒れてる子供に近づいて首を掴んだ。


「盗んだもん出しな?」


穏やかな声で、しかし、首を掴む手は強めだ。

子供がそっと出した手には財布らしき物が握られていた。


「助かったよ」


後ろから声をかけられて振り向くと声を上げた年配の女性がいた。


「財布と中身確認して」


俺がそう言うとその年配の女性は財布を取り上げると中身を確認している。バルザックを見ると困ったような顔をしていた。


「中身は大丈夫みたい」

「こういう時はどうしてるの?」バルザックに聞く。

「本当は憲兵に付き出すところなんだかな」

「そうなのよね、どうしようかしら」


おばちゃんとバルザックは二人で悩んでる。

なんだよ、俺だけ蚊帳の外かよ。


「取り敢えずなんか事情が事情があるわけね?」


二人が頷く。


「じゃあ俺がこいつ預かってもいい?」

「いいけど」とおばちゃんが言う。

「じゃあ」


俺はそう言って子供を立たせる。子供は男の子で赤い髪の毛、ブラウンの瞳、きっと栄養がしっかりすれば良い男になるだろう。その子の頬をひっぱたいた。『バチ!』と大きな音を立てると子供は再び倒れた。

「預かってくね」そう言って子供を担いで焼き鳥を受け取り立ち去る。

後ろからおばちゃんが『あんまり手荒なことはするんじゃないよ!』と声がするので手だけ振ってそれに答えた。おばちゃん、優しいじゃないか。

担いだ子供は軽かった。あばらも浮き出ている。


「どういう事だ?」バルザックに聞く。

「孤児だ。二年前に魔物が村に入った時に親をなくし、貧しく腹が減った。あと、以前は孤児院の子供には、回復能力上昇の法印は無料だったんだがな新しい彫師達はそれを拒んだんだよ。だから彫師と仲が悪いんだが、彫師と憲兵は仲が良いんだよ。だから憲兵に出すのは可哀想。そんな所だろう」

「孤児には回復能力上昇の法印を彫るべきだ!みたいな法律は無いの?」

「無い」

「俺が無料で彫ってもいい?」

「いいんじゃないか?昔は無料だったし、怒るのは彫師達と憲兵と領主代理だけだろ」

「ふーん」


だけって言ったけど結構いるね。

ギルドに着くが受付にエルザは居ない。今日はお休みだ。

子供を担いだまま買い取りカウンターを目指す。途中子供がもぞもぞしだす。気付いたようだ。

カウンターまで来ると子供を降ろして、本日一番会いたかったヒトを呼ぶ。


「おっちゃーん。買い取りのお願い!」


俺が大きい声を出すと、カウンター奥のドアが開く。

出てきた人はやはりどう見てもオラウータン!厚い胸板!太い腕!胴長にして短足!そして猫背!顔はもう、毛むくじゃら!口の回りは前に出て、鼻は低い!そしてこっちを睨む鋭い目!

この人が嫁さんが三人いるだと!

この世界は希望と夢に溢れてある。あぁ、涙でそう。


「何の用だよ!」


呼んだまま放置したらオラさんが怒った。


「あっ、買い取りお願いします」


思わず敬語になる。嫁が三人もいると聞けば敬う気持ちも溢れるていうものだ。

ゴブリンとオークの耳を出す。


「トレントとブラックウルフがあと有るけどここに出して良い?」


トレントは良いけどブラックウルフは、ちょっとスプラッタ&床を汚してしまう。


「ブラックウルフか珍しいな」オラさんの目が鋭くなる。「奧だ」


そう言ってオラさんは奥の部屋に消えた。いつもオラさんが出て来る部屋だ。俺とバルザックと後を追う、子供がボケッとしてるので手を引く。

奥の部屋は殺風景な部屋だった。只し、床は石で出来ていて少しひんやりしている。部屋の隅に大きな机と椅子があり、オラさんは普段そこにいるのだろうと推測する。

少し生臭いな。


「出してくれ」


オラさんがそう言うと魔物の死体を空間魔法で出す。全部で四十五匹のブラックウルフの死体があるはずだ。


「いくつか汚い物もあるが大体綺麗だな」


剣で何回も切っているのが俺の倒した奴で、綺麗に首の頸動脈を切っているのがバルザックが倒したやつだ。


「トレントも小さいが捻れていない」


枝を先に落とすと真っ直ぐになって、加工に向くので高価買い取りしてもらえると、バルザックに教えてもらっていた。


「金貨1枚と銀貨4枚だ」


オラさんがそう言うとバルザックが小さくガッツポーズを取った。


「じゃあ、銀貨7枚づつだな」


俺の提案にバルザックが頷く。


「おっちゃん?コイツに解体依頼してもいい?」


子供を指差して言う。


「アッシュかいいぞ、やった事は無いな?」


この子供アッシュっていうのか?アッシュは頬が赤く腫れている。強かったか?

「全部やれば銀貨1枚だが」


「やる!全部俺がやる!」


アッシュはテンションが上がったみたいだ。

スリなんてしてるから楽して稼ぎたいタイプかと思ったら、働きたいけど仕事が無い系だったのかな。ちょっとほっとして、俺が食べようとしていた焼き鳥10本を袋から出してアッシュの前に出す。


「二度とするな」


アッシュは焼き鳥を俺から奪うと俺を睨み付けてくる。


「知ったことかって顔をしてるが、困るのはお前の仲間だぞ」


ふてぶてしい顔をしている、納得出来ないようだ。


「お前がスリをすればするほど、孤児院が村から白い目で見られる。お前は自分が殴られるぐらい全然平気だと思っている様だが、お前の代わりにお前の友達が殴られるかもしれない。分からないか?現にあのおばさんはお前が孤児院の子供だと気付いていたぞ。でもスリをしたのはどの子なのかは分かるのか?」

「そうだな、気絶するほど叩かれて腹が立つかもしれないが」


バルザックが話に入ってくる。


「あそこで強く叩いておかないと、誰かが憲兵に言い付けたかもしれないな」


アッシュは黙って下を見ている。納得いかないのだろう。


「おっちゃんは何でアッシュを知ってんの?」

「ん、孤児院の子供らには解体頼んでるからな」予想通りの答え。

「仕事は少ないの?」

「いや、そんな事は無いはずだぞ?」

「じゃあ何でスリ何てやってんだよ?」アッシュに聞く。

「孤児院で風邪が流行ってんだよ。回復能力上昇の魔法唱えるけど、、、」

「体力使うもんな」

「いくら食べても間に合わないんだよ」


魔法で回復能力を一時的に上昇させても直ぐ効果は切れる上に腹が減る。あくまでこの魔法、法印もだが、回復能力を上昇させるだけなのだ。それに使う体力を増やしてくれる訳ではない。例えば、血をたくさん失った時、この魔法を使えば勿論造血が早く進むが、それに必要な水やたんぱく質など造血に必要な物が体内に無ければ造血出来ない。有れば有るだけどんどん使って治すが、無くなればそれ以上は治らない。色々便利だけど、万能では無い。


「今日は頑張って解体して飯を買って帰ってやれ。そしたら明日俺孤児院に行くからベット作っておいてよ。条件を飲むなら全員に回復能力上昇の法印を無料で彫ってもいい」

「マジで!兄ちゃん彫師なの?!」

「そうだよ」

「じゃあさ!身体能力上昇の法印彫ってよ!あいつらをぶっ殺すんだ!」


めっちゃ嬉しそうに言っている。世も末だな。


「お前、孤児院に住むのか?」

「分かんないけどね」


バルザックの問いに気のない答えを返した。


「ふーん」

「シスターは多分、てか絶対に良いって言うよ」


シスター?!善し!これ絶対来た!巨乳美人薄幸シスターとのイチャイチャ展開!


「じゃあ今日はこれで帰るよ」


宿に戻ってエルザに入れ墨を彫る予定だった。

オラさんから銀貨7枚受け取り、尊敬の眼差し向けてくるアッシュに手を振って別れた。

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