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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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彫ってみました。

彫ってみました。



今日も書庫で調べものをするためいそいそと冒険者ギルドへ。

今日はレベルについてだ。別に冒険者メインの生活を送るつもりも無いのでレベルが上がりにくくても別に良いのだけど。何故こんなにも上がらないのか。とは思ってしまう。

ギルドの入り口でエルザに合う。エルザは別の冒険者と話しているようなので目が合うけど手だけ挙げてバイバイ。暇になればそのうち来るだろう。

少し埃っぽい書庫に入って、さあ。と思ったら、何処を探せば良いかいまいち分かんない。とりあえず冒険者用の本棚へ行く。エルザ早く来てくれないかなぁ。と思っていると後ろのドアが空いた。こっちに向かって歩いてくる。

最近エルザと書庫で会うのが密かな楽しみだった。エルザはちょっとエロいお姉さんって感じ。

足音は俺の後ろで止まる。いつもは、肩を揉んでくれたり、後ろから覗き込んでくるとエルザの顔を近くで見れたり。今日は後ろからさ抱き着いて来たりしてむふふ。

なかなかアクション起こさないなぁと思っていると。


「おい」


いきなり太い声が聞こえて思わず体が『ビクッ』とする。

後ろを見るといたのはバルザックだ。


「殺すぞ?」真剣にむかついた。

「す、すまん」

「男が無言で俺の後ろに立つんじゃねぇ!」ゴル○さんじゃ無くても怒るわ。

「悪かったな」

俺は本を閉じる。「なんだよ?」

「いや、、、」バルザックは言いにくそうにしている。

「なんだよ」

「いや、お前こそ何してるんだ」


話したい事は他に有りそうだけと話しに乗ってやる。


「レベルの上がり方に人それぞれムラがある理由を調べようと思ってな」

「それなら、ここじゃない」


バルザックはそう言って入り口の方を指差した。


「サンキュッ」


そう言って教えてくれた当たりまで行くと、バルザックが指で指して教えてくれる。


「これと、これが分かりやすかった」

「悪いな助かったよ」そう言いながら手を伸ばす。「そっかぁ、お前も同じ苦労をしてるんだもんな」

「まあな」バルザックの言葉から苦労がにじみでてる。

「ん?じゃあお前はこれを一通り読んだ訳か?」

「そうだ」


スパコーンとバルザックの頭を叩く!


「お前は馬鹿か!じゃあかいつまんで教えろよ!」


バルザックはポカンとした顔をして。

「そ、そうよだな。すまん」と言った。


二人で仲良く椅子に座ることにした。

バルザックには説明がスッゲー下手くそだったので簡単にかわして説明するとこんな感じ。

何故かはわかっていない。

分かっているのは、他のどの魔物も1/99とか16/99など、レベル99が限界。ゴブリンもオークも。人間もエルフも。

レベルは殺した相手の魂を吸収して上がるもの。だから殺さないと手に入らない。逆に、人間でも殺せばちゃんと吸収出来るそうだ。そして、ある一定以上吸収すると、レベルが上がる。魂のランク、格と言われるものが上がり、恩恵として体の身体能力が上がったり、魔力が上がるらしい。

その限界が99。

レベル99を越えると神になれるという噂があるが本当かどうかは分からない。

そもそも、なれないから。

しかし、その噂が出てきた理由は解る。

この世界の成り立ちがその理由になる。

この世界は雌雄同体の神様ヘルマプロディートスが創ったとされていて。要はこんな感じ。

ヘルマは一人ぼっちで寂しかった。よし!二人に分かれよう!

分かれた。二人になった。

まだ寂しい。分かれよう!

四人になった。でもまだ寂しい。


『よし!世界を創ろう!』


一人目の神様が空間を創り。

二人目の神様が天地を創る。

でも出来た世界は自立しなかった。変化の無い荒涼とした星だった。月みたいな感じかな。そこで。

三人目の神様がそれが自分達の力で繁栄、変化出来るようにした。

四人は更に12に分かれてこの世界の柱となると、砕けてこの世界に溶けた。これがこの世界の成り立ち。

それで、最初に戻るけど、この世界に溶けた魂がこの世界の生き物に備わっている。それを集めると言うことは事は、神様に近づく事に違いない!って感じ。

レベル100になれないかっていう研究もしてるらしいが、良い結果は出てないみたい。


「レベル99の奴っているの?」


とバルザックに聞くと。


「いる。例えば隣の国の王がそうだ」

「へぇ」熊みたいな王を想像する。「スゲーな、やっぱ強いの?」

「いや、弱い」

「えっなんで?」

「トレインだよ」

「何だつまんねぇ」


イメージは熊から豚へ変更される。

この世界は何をするにもMPが必要になる。だからといって女性がゴブリンを殺しに行く訳にはいかない。だから魔物を弱らせて連れてきて止めを刺させてレベルを上げる。これをトレインと言っていた。


「でもよくトレインでそこまで上げたな」

「ドラゴンだよ」

「へぇー」やっぱり居るんだな。

「最悪だった。俺はこの村にはまだ居なかったがな」

「何が?」

「んー」


バルザックは説明が全くの苦手なので、簡単にまとめると。

ドラゴンを殺すのは基本タブーなのだそうだ。

何故ならドラゴンや幻獣を殺すとほぼ確実に魔物の大量発生が起こる。ドラゴンをトレインするためにたくさん死んで、さらに大量に発生した魔物でたくさんの人が死んだ。

ちなみに、ドラコンを殺したのが2年前で、この村で魔物が大発生したのも2年前だった。

この村の東の山脈を越えると隣の国だそうだ。


「なるほどね」窓を見ると丁度東の山脈が見える。「賠償とか有ったの」

「無いな、いや、国同士で取引はしたかもしれんが」


バルザックも、東の山脈を眺めて言った。


「そういやぁ何の用だよ」バルザックを見て言う。「色々教えてもらった代わりに何でも聞いてくれよ」


この世界のことなど何にも知らないけどね。


「あぁ」俺がそういうとやっと要件を言い出した。「お前は彫師なのか?」

「あぁ、そうだよ」


一応秘密にてたけど、きっとエルザから聞いたんだろうな。エルザには誰にも言うなって言ってたのにバルザックはに漏らすなんて。やっぱり二人は付き合ってたか、凹む。


「お前の言う通りブレイブを彫ろうかと思うよ」

「はいよ、って言いたいけど彫りの道具以外が無い」

「いや、エルザが今日全部届くって言っていた」

「そうか」やっぱ付き合ってんだな(涙)。「じゃあ何処に彫る?」って聞くと、


『どこでもいい』


って言うので強めに頭付きを食らわした。

それからも、説明を続けて、話すたんびに考えることを止めて『オススメで』を繰り返すバルザックをひっぱたきながらデザインと彫る位置を決めるとエルザが入ってきた。


「ごめん、捕まっちゃって」エルザは荷物を持っている。「あれ?バルザックさん?もしかして話しちゃいました?」


エルザがムカついてるのが解る。


「ああぁ、書庫に入ってくのが見えたから」バルザックが気圧されながら言う。

「私が話してから話して欲しいって私!言いましたよねぇ!?」エルザの額に青筋が見える(気がする)。

「ごめんごめん」慌てて二人の間に入る。「こいつエルザを待ってたんだろうけど、モジモジしてるからひっぱたいて俺が無理やり喋らせた」


俺の前で痴話喧嘩なんてやめてくれ。


「ごめんね?」エルザが俺に向かって言った。

元のエルザに戻っている、一応納得したらしい。

「いいよ、じゃあ彫る?」とバルザックに聞くと。

「彫る」と言った。

「じゃあ彫るか」あっ、大事な事を決めてない。「金額どうしよ」


エルザをちらりと見ると。うーんと唸りながら言う。


「私も彫って貰うし、安く言いたい感情はあるけど。一応、この国の相場は手のこぶしの大きさで金貨一枚」

「結構高いね?」

「うーん。材料も高いし税金もあるし?」

「そっか」

「ちなみにこの村の相場は金貨5枚」

「じゃあ金貨1枚だな。一文字につき銀貨1枚ってとこか?」

「あたり、国の相場だとね」


エルザが答える。この村なら5枚か。

彫りに必要な道具を受けとってどれが何なのか説明をエルザから受ける。バルザックに飯を食べて、今から2時間後に俺の宿へ来るように言った。

この村の彫師達とは出来るだけ衝突したくない。こっそりやりたかったけど、そうは行かないかもしれない。歩きながらそう思った。



法印には種類がある。

1、魔法を放つためのもの。

2、自分の能力を上げるためのもの。

3、召喚印。


それぞれルールがある。

まずは魔法を放つ為の法印だけど、出したい所に彫る必要がある。お腹に彫ったらお腹から出ちゃう。だから大体皆手に彫っている。お腹から火が出るとか、昔の超合金ロボみたいでカッコいいけどね。

自分の能力を上げる法印はチャクラの上に彫る必要がある。人間の体にはチャクラという魔力溜まりがある。その上に彫ると魔力を込めなくても常時発動するようになる。


人間のチャクラは六つ

一つ目は頭の上にある『天』

二つ目は額の真ん中にある『眼』

三つ目は喉仏『魔』

四つ目は胸骨『命』

五つ目は臍の下『体』

六つ目は尻の下『地』


筋力を上昇なら『体』のチャクラ臍の下に彫る。魔力上昇なら『魔』に彫るだから喉仏の上だ。そうすると常時能力上昇の効果が得られる。

今回のバルザックの希望する『ブレイブ』だか、これを額に彫ると常時喧嘩腰のバルザックが完成する。性格が変わるわけだ。

俺は別に良いのだけど、国で禁止している。魔物と戦うのも勇気が必要だけど、人を殺すのも勇気が必要だからね。肩がぶつかった相手を殺してやったぜ!へへへ。とか問題だ。

それに顔に彫ったら外道彫師になっちまう。

だから、ブレイブの法印を彫るなら額以外に彫って、戦闘の前に魔力を込めて発動させるのだそうだ。

ちなみに天と地は空中なので法印は彫れない。

必要な物を買って宿に着くと早速準備に取りかかる。出費がかさむがバルザックから十分回収出来る。

じいちゃんの手彫り道具を煮沸で殺菌する。本当は張をその都度針を替えたいけど今は無理。C型肝炎とかこの世界有るのかねぇ。

この世界では術後にケアを一切しないらしい。というのも、大体最初に自然治癒能力上昇の法印を彫るため問題ないらしい。

念のため用意した、術後のケアのためのガーゼと軟膏を手に取った。

ケアがナクテモ大丈夫なのだろうが、いい加減なものだ。俺はそれでも念のためエルザに準備してもらった。

次に、神木の樹液と、墨、紙を出す。紙は本当に魔力が通って上手く発動するか確認するためだ。

樹液は瓶に入っていた。一応神聖な物で雑菌が繁殖したり、変質したりはしないらしい。墨と樹液を硯で磨る。

筆を取ると紙に神字で『ブレイブ』の法印を書いては唱える。実際の動作を確認するためだ。

確認の途中で何度かドニーが走り込んできた。勇気100倍ア○パンマンになって大声を上げてしまったせいだ。

勇気を100倍な俺はその度にドニーに襲いかかりそうになるのを必死で押さえた。ドニーに事情を説明すると、何故か飛び込んで来るたびに服装が大胆になっていた。本当にやめて欲しい、勇気に負けそうだ。

何度か大声を上げた所で、バルザックが到着する。エルザも一緒だった。う~むお暑いな。

エルザが見学したいと言うとドニーも見学したいと言った。バルザックに確認すると構わないというので見学してもらった。二人とも俺が彫るしね。

バルザックには口頭でもう一度確認する。

これから彫るものは一生一緒だという事。

大事にして欲しいという事。

彫る場所と彫る内容。

あと、俺は記憶が無くて、多分魔力を込めた彫りは経験が無いと伝えた。それでも出来るものを出来るだけしっかりと彫ると伝える。

術後に軟膏を塗ってガーゼで隠すようにお願いして。風呂とアルコールも控えて貰うし事にした。銭湯でたまに術後のケアが悪かったと思える彫りが有ったためだと言うと納得してくれた。

しっかりとケアをしてくれれば彫りの保証をしている。出来る範囲で彫りの追加も出来ることはする。これはこれから払ってもらう銀貨5枚に含まれると言うと。

保証をしている彫師はいないらしくありがたいと言っていた。何処に行っても、例え王都に行っても基本ノークレームだそうだ。

それからバルザックにはうつ伏せになってもらい左の肩の後ろに『ブレイブ』を彫った。

彫りはあっという間に終わった。五文字だしね。清潔な布で血を拭き取り軟膏を塗ってガーゼを当てて、じいちゃんの道具ケースに入ってたマスキングテープで止める。

「よし!服着て外に行こうか!」俺がそう言うと三人はボケッとした顔をした。「魔力の通りを確かめる」

やっと理解した三人が後を付いてきてそてに出るとバルザックを囲んだ。

「じゃあ魔力を込めてみて」そう言って念のためギルドからくすねてきた木剣を空間魔法で出す。

エルザとドニーに下がる様に手で合図する。

バルザックが両手を下へだらんとたらし、下を見ている。集中してしているのだろう。


「どうた?」しびれを切らして聞く。

「あぁ、大丈夫だ」

「じゃあ、そのまま込める魔力を少しづつ増やせるか?」

「やってみる」下を向いたまま言う。「ダメだ込められない」

「そうか、これでいいか?」木剣を空間魔法でしまう。

「あぁ、いい」


エルザとドニーが『何が?』って顔をしている。バルザックは言葉が少ないんだよね。


「ダメって言ってたけといいの?」しびれを切らしたエルザが言う。

「あぁ、いいんだ」


バルザックが答えるが全く答えになってない。

ドニーとエルザが俺を見ている。うん、そうなるよね。


「結局精神への法印は難しいんだよ。危ないし、いきなり仲間がバーサーカーになったら嫌だろ?とてもそんな奴とパーティーなんて組めないし。だからしっかり彫ってない。魔力をいっぱい込めても抜けるようにしてある」


バルザックがそうそうとうなずいている。


「それにバルザックは剣士としてかなり完成されている。あんまり色々弄るべきじゃあない『ブレイブ』だって少しでいいんだ。少しのきっかけで十分、たくさん魔力を込めて、たくさんの勇気を得る必要は無いんだ」


そうだよなって、バルザックを見ると少し照れていた。

バルザックからお金を頂戴しておひらきになった。早くジャガイモを剥かねば。



気持ちのいいやつだ。

俺の事を年上と敬う事がなく、俺の名前を大体呼び捨て。俺の顔へ唾を吐き。ダメ出しをしてくる。バカだのアホだの言ってくる。

なのに気持ちが良い。唾を吐かれて気持ちいいとか変な事を言ってると確かに思う。

でも気持ちいいのだ。

貴族の五男。家に金が有ればそれなりに大事にされただろう。でも、残念ながら貧乏貴族の五男だった。誰にも見向きもされない。でも、俺はまだ有望視されているほうだった。

剣の腕が有ったから。12才の時点で兄弟の中で誰よりも強くなった。父親にもたまに勝つことがあった。剣が強ければ士官の道がある。オレも当然士官の道へ進めると思っていた。そんな俺は甘かった。





俺が「行くぞ」と言うと仲間が付いてくる。

ゴブリンの討伐に向かっていた。俺が家族と一緒にゴブリンを退治したと友達に言うと俺も俺もと、皆退治したいと言い出した。

俺としては気が乗らなかったのだが友達に頼み込まれると断れなかった。早くレベルを上げないという気持ちも分からなくはなかった。俺らは皆貧乏貴族の三男だの四男だので、皆仲良くレベル1だった。どの家もトレインでレベルを上げることなんてする余裕は無い。むしろ金が無い家ほどトレインで長男だけのレベルを上げたがった。

しかし、そんなに気にする必要は無かった。貧乏貴族の親は子供が成人する前、十五歳を過ぎる頃には大体一緒に狩りに行ってレベルを上げてくれるものだ。

でも金のある貴族は金を使ってトレインして、十歳そこそこの子供のレベルを上げさせる。そういう子供は大体剣術が弱かったりする。授業で、喧嘩で勝てなくて、親に泣き付くのだ。そして、トレインでレベルを上げて、授業で、喧嘩で勝つ。

それが貧乏貴族には我慢ならない。

そこにきて俺が家族とゴブリンを倒したと話してしまったわけだ。なんて事はない。俺が迂闊だったんだ。

五人でゴブリンの生息地域まで行くと予定通り二人一組で二組斥候に出る。ゴブリンに合ったら大声を出しながら俺の所まで戻り五人掛かりで倒す。そんな予定だった。

俺が一人で待っているとしばらくして、


「ゴブリンだ!」


と言いながら仲間が走ってくる。

俺は先導に立ちゴブリンを迎え撃つ。ゴブリンは6匹、一列になってこっちへ向かってくる。俺もゴブリン向かって走り出す。最初の一匹の手首を切る。二匹目は太腿、三匹目は胴、四匹目、五匹目、六匹目とゴブリンの体に斬り付けながら通り過ぎる。

それを見ていた友達は俺が走り抜けるのを見て歓声を上げると、俺の後に続いた。手負いとなったゴブリンは囲まれて次々と命を落としていく。俺は二匹に止めを指した。

皆ゴブリンに止めを刺すと。俺を誉めながらこのまま続けようと言った。まぁ、続けるのは問題なかったと思う。ただ、場所は変えるべきだった。

ゴブリンから流れ出る血が魔物を呼んだ。

二回、三回とゴブリンを連れてきては殺すを繰返しもう少しでレベルが上がると思ったその時、斥候の一組が、


「オークだ!」


そう声を上げながら走ってきた。現れたオークは一体で、そのオークの身長は俺らの倍はあった、オークだと叫んだ声の主はオークの棍棒の一撃で動かなくなる。


「バルザック!頼む!」


戻ってきた斥候の一人がそういうが俺はどうしていいか分からなかった。

また一人棍棒で殴られる。しかし、自分より倍以上ある敵との戦いかたなんて教えて貰った事がない。

どうやって戦ったらいいのだろう?そう考えている間にもう一人もう一人と死んでいった。

俺だけになった時、重い体が動き出した。

棍棒をオークが振り上げた瞬間に、オークの左足を斬り付けながらオークの後ろへ回る。オークの棍棒は地面へと落とされ、その隙に俺はオークの左足を斬り付ける。オークの棍棒を再度避けると、後ろから肋骨の隙間から心臓を狙って付きを放つ。

確かな手応えを感じるとオークは動かなくなった。

家に帰ると家族に折檻された。

当然だと思う。友人を失い自分だけが生き残り、罰を受けないなんてあり得ない。

そして、何より、誰より折檻を望んだのは俺だった。このままここに留まりたいとすら思った。でも、家族は俺に対して好意的だった。行きたいと言い出したのは他の家の子だと分かったからかもしれない。折檻をしたのも外聞の為だった。

でもそれは俺がザルだと解るまでの間までの事。

ザルというのは、レベルが上がりにくい人間の事を指す。

神様の恩恵を、魂を集めても集めてもレベルが上がらないのは、いくらゴブリンのを倒してもレベルが上がりにくいのは、俺という器に穴が開いているかららしい。

俺がザルと解ると一気に厄介者になった。

ザルは士官出来ない。

15才になると王都を離れ冒険者になった。俺の事を知っている人のそばから出来るだけ離れたかったからだ。それでも、俺には剣の腕がある。冒険者として大成するという夢を持てた。でもその考えは甘かった。

俺は不慮の事態の弱い。奇襲されたり、思わぬ敵と遭遇すると体が固まった。いくつものパーティーで迷惑をかけてもこの癖は抜ける事がなく。結局俺はパーティーを組まずにソロで戦っていく事にした。

ソロではゴブリンばかりを狙う。ゴブリンキラーとバカにされるが、もうどうでもよかった。

ゴブリンを狩り、新人の適正を見る。それだけで生活に困ることは無い。

いつも通り審査を頼まれて訓練場へそこで秋人と初めて会った。明らかな挑発的な態度、ふてぶてしい顔つき。まぁ、いつも通りで良いだろうと、軽い気持ちで木剣を打ち合わせると、『ガッ』と強い当たりを感じて込める力を強めて新人の木剣を弾く。

レベル1だと聞いていたのだが明らかにそれ以上の力と速さだった。本当にがレベル1なのだとしたら、法印しかあり得ない。金持ちが道楽で冒険者になる。いい気なもんだ。

少し痛い目にあわせてやろうと木剣を強く握る。しかし、最後に立っていたのは俺では無かった。

エルザに聞くと俺の敗因はイレギュラーに弱い事だそうだ。そんな事知っている。俺の敗因はずっとこれだ。

でもそれを新人に言われるとは思わなかった。

冒険者を辞めるそんな選択肢が頭に浮かぶ。

次の日ギルドに行くと秋人に会った。秋人は馴れ馴れしく俺を練習相手に誘った。断るのは昨日の負けを認めるようで出来なかった。秋人はリズムを崩したり、フェイントを多用して。俺は出来るだけ秋人の悪いところを教えるように打ち込むようにする。

秋人の良い所は思い切りが良い所だ。一か八かの手を躊躇わず打ち込める。まぁ、俺の悪い所でもある。

悪い所はリズムを崩したり、フェイントを入れ過ぎる所だ。フェイントだと分かってしまっては意味が無い。正しい動きの中でこそフェイントは生きる。

その日も秋人に訓練場へ誘われる。時間もある、稽古を付けてやるつもりで誘われるまま付いていく。その時ちょうどめんどくさい連中に囲まれていたので都合が良かった。

訓練場に行きながら話をするが、こいつは人の話を聞かない。俺にあーしろ、こーしろと言ってくる。

ブレイブか、クールダウンの法印を彫れと言ってくるが、精神系統の法印はそもそも彫れない、人相手に彫っても発動させても罰せられる。国から精神系統の法印を彫るにあたって警告が出ている。ブレイブの法印は唱えてバーサーカーになる可能性があり。クールダウンの法印を唱えて、戦闘後に自分がパーティーには必要ないと自殺した例があったそうだ。

ブレイブの魔法を戦闘前に唱えようと考えた事はある。でもバーサーカーに成るかもしれない。そんな事を言われて出来るわけがない。

訓練に使う木剣を秋人が選んでいる。俺に向かって『使えよ』と親切かの様に木剣を投げて寄越すが、これは必ず重心のぶれた使い勝手の悪い物なのだ。

「次に唾を飛ばしたら真剣に持ち変えるからな」秋人にそう言ってきかす。

こいつは昨日も唾を飛ばしてきた、毎回これでは教えてやる気も下がるというものだ。

「一応お前のためにやってんだよ」

そう秋人に言われて、かっとなって斬りかかるが、あっさりかわされて掬い上げた木剣も弾かれる。

「だって、お前イレギュラーに弱いんだもん」

そのあと俺のとった行動は自分でもよく分からない物だった。秋人の真似をして唾を飛ばし、あっけなく返り討ちにあっう。その後、秋人の俺の唾を舐めようとする様を見て取り乱し、またもや返り討ちにあった。

俺は何がしたかったのだろう。訓練場を出る。出口で絡まれるがどうでも良い。やけに、リズムを崩したりフェイントを多用するとは思ってはいた。でもまさか、稽古を付けてやっているつもりが稽古を付けて貰っていたとは思いもしなかった。

やはり冒険者は向いていないと実感した。しかし違う仕事を考えるが剣の以外に自分の取り柄なんて無かった。いくら考えても剣術を教えるか、審査員を続けるぐらいしか思い付かなかった。

次の日も宿を追い出されると、ギルドへ行った。他に行く所も特にない。

いつも通り入り口から入るとエルザに呼び止められた。


「バルザックさんって秋人と仲がいいんですか?」

「いや、別に」間髪開けずに答える。

「そ、そうですか」


あまりの速さにエルザは驚いたようだ。


「そのぅ、昨日秋人が相手のある訓練で、相手を傷付けまして」


相手を聞くと昨日の去り際に俺に対して絡んできた奴のようだ。


「それでどうした?」

「あのう、もしかして、秋人はあなたを庇ったのかなぁなんて、それで、もしそれが本当で、二人の仲が良かったら、相談させて頂きたい事が、、、」

「仲は良くない、だが他に適当な奴もいないだろう?」


ザルの俺とあいつは仲の良い奴なんて居ない。


「、、、そうなんですよね」


それからエルザは事情を説明した。

秋人をこの村の彫師として押して行いきたいという事。

その為に秋人に実績作りたいという事。

その為に彫師ギルドに睨まれる可能性があるというものだった。


「分かった」


と俺が言うとエルザは『本当に良いんですか?』と言いながら感謝の言葉を口にした。





秋人は尊敬に値する。

彫師なりたいという秋人の腕をからかってやろうというような気持ち、やけっぱちのような気持ちで依頼した。しかし秋人の部屋に入ると、部屋にたくさんの紙屑が転がっていた。どれも俺の入れ墨のための下書きだった。普通下書きは1枚すれば良い方だ。無いことのほうが多い。そして、秋人が俺に彫った法印は俺の事を良く分かっていた。俺以上に俺の事を分かっていた。

俺に向かって言う、『イレギュラーに弱いんだもん』という言葉を嫌みにしか俺は感じていなかった。秋人の真似をして唾を飛ばして、むいてないと言われて、かっとなったり。秋人が俺に絡んできた奴とトラブルを起こしても気にもせず。仲がいいかと聞かれ、『仲は良くない』と言った。秋人は俺の事を見ていたのに。俺は俺への助言を気にもしていなかった。助言とすら思っていなかった。俺を心配しての言葉も気にもかけていなかった。

俺は秋人の事を何も考えていなかった。

だけど、秋人の彫った入れ墨は俺の事を良く考えて彫られたもとだった。

この秋人の姿勢は俺に入れ墨を彫ると決める以前からの物だ。

俺は恥ずかしくなった。

俺は忘れない。秋人は俺の事を完成されていると言った事を。ブレイブは少しでいいんだといった事を。そして何よりこの羞恥心を。


この日を境にバルザックはスヴェン王国を代表する剣士として頭角を露にしていくがそれはまた別のお話。


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