表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
リーザオ
65/66

王都へ

王都へ(カナリア視点)



王都へと行く秋人を見送りに孤児院を出た。

今日の秋人はいつもの数倍ゲッソリしている。

原因は分かっている。

ユリナお姉ちゃん達がしたお別れパーティーのせいだ。

そのお別れパーティーとは、村に残る、

エルザさん、ドニーさん、ユリナお姉ちゃん、

そしてお母さん、それに男の秋人を加えた五人でしたパーティーで。

まぁ、なんというかエッチなパーティーだ。

きっと朝まで続いたんだろうな。

秋人の目の下には深いクマが出来ている。


「じゃあ」


と言って、手を上げる秋人にはあからさまに元気が無い。

そして、この村を出る秋人の隣にはもちろんセロンさん。

それに、ヘンリエッタ様と、秋人のお嫁さんになったサーシャさんと、その二人の護衛を勤めるフェタさん、レベックさんがいる。

そして、バルザックさんだ。

バルザックさんは、この村を出て、この国の国王の近衛騎士になるのだそうだ。


「気に入らなければ即辞めて村に戻ってくるがな」


と言ったのを聞いて、レイナちゃんは目をうるうるさせていた。

多分これからはなかなか会えないだろうから。


バルザックさんは、近衛騎士はなったらきっと高給取りだから、

王都からは仕事以外で出るなんて事無くなって、

奥さんも選び放題だろうから、

秋人みたいにたくさんのお嫁さんに囲まれるんだろうな。


なんて妄想をきっとレイナちゃんはしてるな。

うん。

絶対してる。

でも、人を笑ってる余裕は私にもない。

私も秋人としばらく会えないからだ。

寂しさから思わず秋人へと走り、


「えい!」


と言って抱きつく!

秋人の服に顔を埋めて、


「早く帰って来てくださいね」


と、お願いするが。

秋人は私の思ってもみない事を言った。


「レイナの事を頼むな」


私はその言葉にイラッとする!

しばらく秋人に会えないのに!

何でそんな事を言うの!?今は私の心配をしてよ!

そう言いたくなるが、単純な私は次の一言で笑顔になってしまう。


「いつもカナリアには負担を掛けてすまないな」


その言葉に笑顔になった私は、


「良いよ、大丈夫!レイナの事は任せて!」


と言った。

訳も分からず快諾したが、

その秋人の言葉の意味を理解したのは秋人がこの村を出てしばらく経ってからだ。

その時、秋人はレイナのお母さん、レラトさんに向かって頷くと、

レラトさんも大きく頷いた。

後で思ったのだけど、秋人は大人だ。

孤児院の事を、

沢山いるお嫁さんの事を、

私の事も、

しっかり見てて、必要ならば必ず手を差し伸べてくれる。

もちろん、レイナちゃんも、

アッシュもだ。


いつもアッシュの事はからかう様な口調で、

『アッシュなんかどうでも良い』

なんて言っているけど、アッシュの事もいつも気に掛けている。

体調はもちろん、

入れ墨をいつ彫ってあげるか、

アッシュは将来何に成りたいか、

何に成れるか。

そしてもちろん、アッシュの引き取り手、里親にも気を使っている。


孤児院で里親が見つかるのは、

大体幼い子供だけだ。

私や、アッシュほど大きくなってしまうと、まず里親は見付からない。

というのは、里親の多くは子供の居ない夫婦なのだけど、

その子供の居ない夫婦が孤児院から里子として子供を引き取る理由はもちろん。

自分達の子供として育てる為だ。

物心付く前から自分達の子供として育てたい。

そこへきて、私や、アッシュの様な物心のしっかり付いた子供は全然引き取り手が居なかった。

もし、いたとしても、

子供を労働力としてしか見ていない大人で、

引き取られたら、奴隷の様に働かされるのが想像できた。


秋人もそれが心配だった様で、

孤児の引き取り手に、前年の納税額の提示を義務付けた。

これで、引き取り手の収入が分かる様になった。

子供の労働に頼らない生活を出来る事を子供の引き取り手の条件にした。

収入の低い、子供を労働力として必要としている家庭には孤児を引き取る事を困難にしたのだ。

しかし、その反面。

お試し期間を設けた。

収入の少ない夫婦には、お試しとして、孤児と同居する機会を設け、

例え、収入が低くても、両者が納得出来るなら、

収入の低い夫婦でも、子供を引き取れる様にしていた。

この場合、週末は孤児院に戻る事が義務付けられ、

この時に、家族関係を解消したければ一方的に解消出来る様にしていた。


それでももちろん私とアッシュの里親は現れない。

そもそも私は、

例え今日から一人で生活をしろと言われても、一人で生活出来るから、私達にとってはどうでも良いのだけど。

アッシュだって、冒険者ギルドから紹介される仕事をこなしていれは十分生活出来る。

だからアッシュは里親の事を気に掛けた事は無かったんだろうけど。

アズルトさんが現れて、アッシュに里子の話が出て来た。


私とアッシュは死んでしまった両親の事をよく覚えてる。

はっきり言って他の誰かを、

お父さん、お母さんと、呼ぶ気にはなれなかった。

これはアッシュも同じだと思う。

でも、アズルトさんが現れた。

今もアッシュはアズルトさんの隣にいる。

アッシュがアズルトさんになついているのは誰の目にも明らかだし。

アズルトさんもアッシュの事を可愛がっているのが分かった。

アズルトさんは私を気絶させて利用しようとした人だけど、

悪い人では無いのは何と無く分かる。

どちらかというと善人で、悪を憎んでいる。

悪を憎んでいる、そう聞くと善人にしか聞こえないが、

『アズルトは何人か殺してるかもしれねぇ』

とユリナお姉ちゃんが言っていた。


「どうして?」


と、私が聞くと、


「アズルトさんがこの村に来る時によ、1つの家族と一緒の馬車に乗ったらしいんだけど、その家族の男が自分の子供を殴っていたんだと。それを見たアズルトさんはその隣に男をぶっ殺して、その家族にお金を渡して、王都に帰してやったんだってさ」


「なんて言うか、、、」


「とにかく、それからアズルトさんは、その殺した人に成り代わって、彫り師としてこの村に来たんだとよ」


「はぁ。まぁ、子供には優しい人だし、良い人なのかな?」


との私の問いにユリナお姉ちゃんは、『多分な』って言った。



アッシュはアズルトさんが、養子に来いと言ったら行くのだろうか?

アッシュの方を見ると、大きく秋人に向かって手を振って、


「秋人兄ちゃんが帰って来るまでに、兄ちゃんより強くなってやるからな!!」


と言った。

秋人お兄ちゃんは、『ハイハイ』って感じで背を見せて王都の方へと歩きだしだ。

なんというか、秋人お兄ちゃんより強くって、、、。

いくらなんでも難しいんじゃ。

せめて、バルザックさんよりとか、

エルンストさんより強くとか、、、。

秋人お兄ちゃんはなんというか、全然違うのだ。

それも、強い弱いだけじゃなく。

細かい気遣いがあったり、

優しさがあったり。

そういう所も大事なんだけどな。

アッシュは秋人の強さに目が行っているようだ。

そして、アッシュは秋人より強くなって私に良い所を見せたいんだろうけど、

私は秋人お兄ちゃんのお嫁さんに絶対になるから、

正直に言うと、

『ごめんなさい』

って感じなんだけど、なかなかアッシュに言う機会は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ