レイナ
レイナ(レイナ視点)
たまにおもうのだけど、
お母さんはたまに頭がおかしい。
感情で行動を簡単に決めてしまうのだ。
感情でお父さんと離婚して、秋人の嫁になった。
じゃあ私はどうかというと、
打算的だ。
直ぐに損か得かで考えてしまう。
秋人のお嫁さんになったのも、それが得だと思ったからだ。
秋人は強く、お金も沢山もっている。
まぁ、そんな事より私には他に行き先が無いという事が大きいのだけど。
というのは、私の肌が浅黒いため、差別を受けるからだ。
この村で同世代の話し相手なんて居ないし、友達と言える人も当然居ない。
じゃあ、私は母の祖国に行けば差別を受けないかというとそうでは無い。
一度母に連れられて母の祖国に行ったのだが最低だった。
思い出したくも無い。
何処にも行き先が無い私は母に付いて家を出た。
父の所に居れば今まで通りの生活は出来ただろうけど、
お母さんを蛮族と呼んだお父さんとは私はもう一緒に生活をする事は出来なかった。
しかし、私は既に15才。
この国では15才から成人と見なされるので家を出た以上は働かなくてはいけないのだが。
今まで全て使用人に全て任せていた私に働く事なんて出来そうに無かった。
だから私は秋人のお嫁さんになって養って貰おうとしたのだけど、、、。
甘かった。
私の打算は大きく宛を外していたのだ。
秋人はお金持ちだし、秋人のお嫁さんになれば自分の身の回りの事は誰かがやってくれると思っていたのだが、、、。
どうやらそれではダメな様だった。
秋人のお嫁さんは全員自立していた(私以外)。
エルザさんは冒険者ギルドの受付嬢をしていて、
ドニーさんはドニーさんのお母さんが経営している宿をお手伝いしている。
ユリナさんは言わずもがな、孤児院を切り盛りしている。
サーシャさんはヘンリエッタ様のメイドを続けるそうだし。
皆が皆働く事をやめない。
ちなみにお母さんはというと秋人がお客さんに入れ墨を彫ってる間、シタールという3本の弦のある楽器を弾いている。
こんな事になるならシタールの弾き方を習っておくんだった。
お母さん曰く、シタールが弾けるというのは、女性としての当然の嗜みなんだそうだが、私は億劫に思って触ったことすら無かった。
絶対に椅子に座ってシタールを弾いてる方が楽だ。
「ちょっと!待ってよ!」
私は大声を出して子供を追いかけていた。
動き回る子供達に服を着せるのは至難の技だ。
しかし、カナリアちゃんはそんな子供達に次々と服を着せていく。
カナリアちゃんはまだ10才なのにすっかり手慣れてる。
それに比べて私は全然ダメだった。
でも、前より大分楽になったらしい。
それは秋人のおかげらしい。
秋人が此処で彫り師として開業してから、いろんな人が孤児院に来るようになったからだ。
これで今まで孤児院に無関心だった人達に、孤児院に来て、入れ墨を掘って貰う時に孤児院の実状を見て貰う事で、
孤児院に寄付をして貰えたり。
孤児を引き取って貰える様になったからだ。
秋人が此処に来るまでは皆、生活がギリギリでかなり貧しい生活をしていたらしい。
実際、貧しさからカナリアちゃんは、『秋人が来てくれなければ私は死んでいたよ』ってカナリアちゃんは言っていた。
そんなカナリアちゃんは秋人事が大好きだ。
いつも秋人を見ているし、
秋人へのアピールも凄い。
だから、最初私とは仲が悪かった。
横から、ポッと出て来て秋人のお嫁さんに成ったのが、カナリアちゃんは気に入らなかったのだ。
でも、今は違う。
「いいよ。私に任せて?」
カナリアちゃんが私から子供の服を取って、私が追い掛け回していた子供に手早く着せる。
「いつもゴメン」
私がそう言うと、カナリアちゃんは笑って顔を左右に振る。
私が此処に来たときは全然笑った顔を見せてはくれなかったのだけど、今ではこうして自然な笑みを見せてくれるようになった。
それは、私が秋人のお嫁さんじゃあなくなったからだ。
私の年齢が15才だと分かった秋人は、
「ダメじゃん!!未成年じゃん!」
とよく分からない事を言って、私との結婚を保留したのだ。
私としても、秋人と結婚しても、身の回りの事を誰かがやってくれる様になるわけでもないし、メリットも無いのでとりあえず結婚はしない事になった。
それからカナリアちゃんとは仲良しになった。
少し年下だけど、カナリアちゃんは今まで友達の居なかった私に出来た初めての友達だ。
他愛もない会話から恋の話まで、私とカナリアちゃんの間で隠し事は無しだ。
周りの急激な変化と思わぬ友人に恵まれての孤児院での生活は、意外と楽しいものだった。




