アズルト2
アズルト2
『ガキィン!!』
耳の横で大きな音がした。
俺の振り下ろした剣は、
アズルトを袈裟斬りに、
胸から大きく血が吹き出す。
アズルトはゆっくりと後ろへと倒れた。
俺は自分の首に手を当てるが血が出ていない。
確かにアズルトの剣は俺の首を捉えたが、、、。
倒れたアズルトを見ると、吹き出す血が止まっている。
『神癒』では無いが、なにかしら応急措置をしたんだろう。
しかし、HPがどんどん減っていく、
腑に落ちない事が有るけど、
一応俺が勝ったらしい。
「グフ!」アズルトが口から血を吐いて、「助けて欲しい」
か細い声で言った。
「助ける訳がねぇだろ?!ボケ!」
俺はそう言って、アズルトの傷口を踏みつけた。
アズルトの顔が苦痛に歪む。
「子供を拐ってさ、しかもドラゴンの子供を殺す?!お前らがどんな価値観を持ってるか知らねぇけど、そりゃあ、筋が通らねぇよ。それに、ドラゴンを殺して魔物が大発生させて?どうすりゃあ俺はお前を許せんの?」
アズルトを踏む力を強めた。
アズルトのHPがどんどん減っている。
「子供のドラゴンを殺しても、魔物は少ししか発生しない」
ん?え?
そうなの?聞いてないよ?
「持ってる魂がそんなに多くない、ゴフ!」
アズルトは再び血を吐いた。
どうしよ、そろそろ死にそうだよこいつ。
でもな、俺よりこいつ強いしな。
さっき勝てたのはラッキーだと思うし、、、。
「大丈夫だ、お前には絶対に今後手を出さない、だから、頼む」
俺はため息を吐いてから結局アズルトに、『神癒』をつかった。
それからカナリアを迎えに行って。
村へと歩きながらアズルトから話を聞いた。
アズルトはカラータイマーが点滅してるような状態だが、なんとか付いてくる。
そして、アズルトから色々聞けることが出来た。
アズルトはやっぱりアズルトじゃあ無かった。
こいつはこの村に来る途中、同じ馬車に乗った同じくこの村に向かっていた派遣彫師のアズルトって男を殺して成り代わったらしい。
この元のアズルトって男は、自分の家族に暴力を振るっていたため、カッとなって殺してしまったらしい。
そのアズルトの家族には路銀を渡して馬車ごと王都に返したらしい。
そして、アズルトに成り代わった。(めんどくさいのでこいつの事は引き続きアズルトって呼ぶ事にした。)
それからは大体俺の把握してる通りだ。
領主代理に挨拶に行って、領主代理に『ピンはねしたい』と言われ、憲兵にも『ピンはね』したいって言われ。
それから孤児院に来て、俺達に合い。
カナリアと俺がドラゴンに触ったと聞いて、カナリアをサ拐ったらしい。
それで、どうしてドラゴンの子供を殺したいのかも言った。
仇討ちだ。
自分の子供の仇を取りたいらしい。
そのアズルトの子供を殺したのは『イャン』って男らしい。
その男は隣の国の『リーザオ』って国の王をレベル99にした立役者で、かなり強いらしい。
何でそんな男が、アズルトの子供を殺したのかというと、
イャンは、戦闘狂だそうだ。
戦闘の資質の高い奴に会うと、その家族を殺して憎しみを買うんだそうだ。
そして、そういったリベンジャーを返り討ちにするのが趣味らしい。
めんどくせぇ男だな。
そして、殺した男の血で背中に入れ墨を、召喚の法印を彫るらしい。
魔物を殺して、その血を使って入れ墨を彫るとその魔物を召喚出来るのだが、それは人間の血でも出来るらしい。
なんとも恐ろしい話だ。
そのイャンを殺す為に強くならなきゃいけないらしい。
アズルトにはドラゴンを殺してその血で、ドラゴンの法印を彫りたかったそうだ。
「でも、殺さなくても良いんじゃあないのか?血を貰えば良い」
「いや、それだとレベルが上がらない」
ふーん。
まぁ、そりゃそうだけど。
「レベルが強さを表してる訳じゃあないのは分かるよな?」
「まぁな」
俺はバルザックと同じレベルだけど、俺のHPとMPはバルザックより高い。
「レベルとか階位と呼ばれているものの正体は器がどれだけ埋まったか、それだけだ」
「どれだけ魔物を殺して魂を奪ったか、じゃあないんだろ?」
これは何となく分かっていた。
ドニーのお母さんの(俺のとってもお母さんになった訳だけど)、セリアさんも、
『私もレベルが上がりにくかった。ただし、他の他人の倍は魔法を出してられる』
って言ってたしな。
そしてそれは俺も実感してる所だ。
レベル以上の強さが俺にはある。
「お前のレベルは11、だけどこれは、あとどれだけ他の生き物の魂を吸収できるか、それを表してるに過ぎない」
極端な話、魔物を殺して100の経験値を得たとする。
それでレベルが1から2に上がるのが一般人だとして、
俺は、魔物を殺して、200の経験値を得ないとレベルは2にならないが、経験値を200得てレベルが2になってる分上昇率が違う。
そして、レベルが99になったときにどれだけの経験値を得ているかというと天と地ほどの差が出切る事になる。
って訳だ。
レベルが上がりやすいのはメリットじゃあ無い。
「そして、俺がドラゴンを殺そうとした理由がコレクションだ」
「コレクション?」
「お前は人を殺した事は無いか?」
こいつ、答えずらい質問を、、、。
「まぁ、有るけど」
「レベルが上がらなかったんじゃあないか?」
そうなんだよな。気になっていた、俺の殺したギリーって男はレベルが15あって殺したんだけど、レベルが一つも上がらなかったんだ。
「同じ魔物を殺ろして得られる経験値は一定じゃあない。どんどん減っていくんだよ」
「経験値が減る?」
「そうだ。恐らくだがな。だから強くなろうとするのなら出来るだけ、違う魔物を殺す必要がある」
「なるほどね」
「人が人を殺してもレベルが上がらなかったとしたら、原因は二つ。
一つは、同じ人間だから。
当たり前だが、人間なら人間の魂は持ってるからな。
もう一つは、同じ魔物を殺してたからだ。
例えば、秋人はこの村周辺の魔物を殺してるだろう。だけど俺もこの村の周辺の魔物は殺して経験値を得ている。だから俺は秋人を殺してもレベルが上がらない。逆に秋人は俺を殺せば経験値が入ってレベルが上がる」
なるほどな。
俺も嫁の夜の攻めがきつくって体力を上げたいのだが、このままじゃあレベルは上がらないって訳か。
「じゃあ、レベルなんかより、その器?どれだけ魂を吸収できるかの量と、どれだけ経験値を得たのかの方が大事だよな」
「HPを見れば、何となくだがどれだけ経験値を得たかは分かる。あと、レベルも大事だ。
レベルが99になって、器が一杯になった時に魔物を殺すと。その命は吸収されずに宙を漂ってまた同じ魔物になる。幻獣やドラゴンを殺して魔物が大発生する理由がこれだ」
隣の国で、リーザオ王国で国王がレベルを99にしたくて、ドラゴンを殺したら魔物が大発生したが、理由がこれだったわけか。
リーザオ王国の国王は魂を吸収しきれなかった訳だ。
「俺が子供のドラゴンを殺しても魔物は大発生しないと言った理由もこれだ」
「ふーん」
なるほどね。
確かにそうなってくるとレベルは大事かもしれない。
魔物を殺したくて殺したのに、その後にまた同じ魔物が現れるって事は、、、。
下手したら無限に戦い続けるってこと?
ヤバくね?
意味が無くね?
「じゃあさ、そのお前が殺したい、イャンって奴をお前が殺したらどうなんの?」
「恐らく魂を吸収しきれないだろう。アイツのレベルにも寄るがな。後は、イャンを殺す時に出来るだけ回りに人間を立たせておけば俺が吸収出来なかった魂はそいつらにある程度は吸収される」
じゃあ、どうしたって魔物が発生する可能性は捨てきれないってわけか、
「なあ、仇討ちは必須かい?」
「当たり前だ!!」
アズルトの声が一変した。
「許せるはずがない!!殺された魂は殺したのもも物になる。これがこの世の摂理だ!だけど!だけど!それを許せるはずがない!!俺の子を殺したアイツが!あの子の魂を今も持っている!取り返したいんだよ!!せめて解放してやりたいんだよ!!」
アズルトの目からは涙が流れていた。
「そうだよな、悪いことを聞いたな」
「出来たら抱いてやりたい、せめてあの子の魂だけでも」
「そうだな。きっと抱いて欲しいだろうな。でも、うちも孤児院をやってるんだ。解ってくれ。
アッシュ、お前になついてるんだよ」
アズルトは俺の言葉に驚いた様で、
俺をポカンとした顔で見ている。
「アイツをお前の子供として育ててみないか?」
アズルトは流れていた涙を拭いて、目頭を押さえた。
「すまない、少し考えさせてくれ」
俺はアズルトの肩を叩いてから村へと足を進めた。




