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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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異世界の日常

異世界の日常



異世界での暮らしも、大分慣れてきた。

お客さんからも初日の一件のお陰か親しまれているようだ。

だるまさんだか、やっぱり名前はセリアさんで良かった。一回だるまさんと言ってしまい、なんの事かは分からなかった様だけどめっちゃ怒られた。

ドニーとはいい感じだ、夜のお仕事の後は夜のお勉強会を開いている、、、。とは言っても、いかがわしい事は何一つせず、俺が算数を教えて、ドニーが俺に文字を教えてくれるだけなんだけどね。

エルザさんは優しい。宿の朝の仕事を手伝ってからギルドに行くのが日課になっていた。



ギルドの書庫に篭っているとエルザさんが入ってきた。


「おっ今日もせいが出るねぇ」ギルドの仕事は落ち着いたんだろう。「今日はなに読んでるの?」エルザさんは俺の肩を揉みながら言った。

「法印の本だよ」

「もうそんな難しい本読めるの?」


そんなに難しくはなかった。


「やっぱり記憶が無かっただけだからかなぁ簡単だっよ」


言葉が分かるから辞書を引けばどうにでもなるし、漢字の様なものも無い。発音とそれに合わせて文字が有るだけ、難しくはなかった。


「ふーん」


エルザを見ると俺を白い目で見ていた。

やっぱりまだ疑ってんな。これだけ記憶は無いと言っているのに。


「どう?上手く彫れそう?」


エルザはそう言って俺の隣に座った。


「まあ、彫る分にはね。ただの入れ墨にならなきゃ良いんだけど」


彫ってみました。魔力通りませんでした。じゃあ洒落にならん。たたの入れ墨だ、地球ならいいんだけどさ。


「まぁ、でも試して見れば良いじゃん」

「入れ墨で試すって、、、。誰に試せと」

「いや、紙で、、、。あれ?知らなかった?」

「知らないんですけど」


慌てるエルザをじっと見る。


「ごめんごめん、だって何が記憶くがあって何が無いのか分かんないんだよ」


まぁ、そりゃそうか。


「んで、何でためしてんの?」

「神木の樹液と墨と紙」


紙以外は彫るときと同じ物でいいみたいだ。


「魔力を込めて筆で紙に神字を書いて、それが乾いたら。魔力を込めながらイメージして、イメージ通りの魔法が放てれはオッケー」


ずいぶん簡単だ。


「じゃあイメージ通りにならなかったり発動しなかったらもう一度紙に書いて試せばいいわけだ」

「そう、あとは、魔力を込めながら彫るだけ。そんなに気にしなくて大丈夫だと思うよ」


まあね。風呂で毎日彫りを見ている限りかなり皆いい加減だし。大丈夫なのだろう。


「でも、前にも言ったけど秋人自身にあんまり彫らないでね」


そうだ、沢山彫ると魔人になってしまうのだ、俺も魔人にジョブチェンジはしたくない。


「そうだね、俺も討伐されたくないし」

「あと、体のみえる所、服で隠れない部分の彫りは避けてね?」

「なんで?」


エルザが眉にシワを寄せている。


「外道彫師って言われてるんだけど。たくさん法印を彫るのは危険って言われてるでしょ。でも強くなりたいからたくさん彫っちゃう。そうして、最後に顔まで法印を彫っちゃう人がいるのそういう人を外道彫師って呼んでるの」


ふーん、多分外道なんて言われたくないから顔はあんまり彫らないんだな。それでも彫っちゃえってか。


「その人達は気は狂わないの?」

「結局、彫る人と彫られる人によるみたい」

「ふーん」

「だから、わかんないじゃん」

「まあねぇ」

「彫った人も彫られた人も、魔人にはならないって分かってるかもしれない。けど、それは他の人は分からないから。法印をたくさん彫った人を見ると魔人になりそうな人がいるって、もしかしたら魔人に町を壊滅させられるかもしれないって思っちゃう」


町を壊滅させたのかよ!


「なるほどね、ようはキャパによるんだな。たくさん彫って大丈夫な人、少しでも危険な人」

「そうそう」

「でもそれは分からないから皆で彫りすぎには気を付けましょうってなってるわけだ」

「そういうことです」


エルザ先生が胸を張って言った。


「ちなみに彫りすぎると投獄されるからね」

「まじかよ」俺あんぐり。

「外道彫師に彫っても投獄だからね。でもそういう人って誰も彫ってくれないから大体自分で彫ってる。まず頼まれる事はないと思うんだけど」


そりゃそうか。こえーな異世界。


「私には彫ってね」エルザが言う。

「はいよ」お世話に成ってるしね。

「ふふふ、自信満々じゃん!」エルザがからかってくる。

「まあね」この村の法印を見ていたら誰だって得意げになる。

「何処に彫って貰おうかなぁ、胸とかぁ」


と言って胸の谷間をみせてくる。最近こうやってエルザは俺をからかってくるのだけど、正直免疫の無いチェリーは反応に困るのですよ。


「でも、彫るときは体型の変わんない所がいいよ」

「分かってる、お腹回りとかに入れるなんて勇者よね」

「そうそう」本を置いて背筋を伸ばす。「ちなみにどんな法印を入れるの?」

「召喚印かな。犬の」

「召喚印か」


召喚しようとすると凄く魔力を食う。多分エルザには召喚は出来ない小さなものでいいのだろう。その犬の法印を彫ると、自分に敵意が有る人や、危険をその法印が吠えて教えてくれるというものだ。ちなみにこれはこの村の特産だった。

召喚の法印を彫るときには召喚したい対象の血が必要になる。さっきから犬と言っているが実はウルフだったりする。

エルザの希望を叶えるためには、ブラックウルフの血と神木の樹液、墨が必要となってくる。


「じゃあ今度狩りに行かなきゃな。専用の瓶が必要何だっけ?」

「そう、時間を止める魔法のかかったね。これも必要な物はこっちで一式揃えるから心配しないで」

「ほんと悪いな」


エルザとギルド長に感謝。


「紙とペンちょうだい」


とエルザに言うとエルザは部屋を出ていった。

本当は彫師ギルドに入らなければそういった物は手に入らなかったのだが『面倒くさい』と言うと、必要な物はいくらでも揃えると言ってくれた。金額も実費でいいらしい。面倒をかけて申し訳ないが、彫師ギルドに入るには誰かの弟子にならなきゃいけないらしくそれは真っ平ごめんだった。俺はじいちゃん以外を師匠と崇めるつもりはない。しかもこの村の人達腕悪いし。良いものを彫ろうという心意気が無いし。


「おまたせ、どうするの?」紙とペンを持ったエルザが言う。

「デッサンだよ、デッサン」

「デッサン?」

「どんなワンコがいいか教えて貰おうかな」


ワンコをデフォルメして可愛いイラスト調のものと、写実性の高いものも書く。モデルは柴だ。


「どっちが好き?」

俺がそう言うとエルザは戸惑っている。

「えっ、どっちも好きだけど、、、」

「んーと、エルザの体に彫るものだから好きなものは好きってハッキリ言って?逆に嫌いなものもしっかり言わないと」

「じゃあこっちかな?」


そう言ってイラスト調のポップなイラストを選んだ。


「オッケー」


俺はそう言ってポップなイラストをいくつか書く。それぞれ違うものを4つ書いた。


「さあ、この中だとどれがいい?」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って?」エルザが慌ててる。

「どうしたの?」


慌ててる理由は何となく分かるけどからかってもやる。


「、、、選んでいいの?」エルザは慎重にそう言った。

「もちろん、普通は選ばないの?」

「うん」


やっぱりか。


「こういうのは彫ってくれた人の作品だから、選んだり、注文したりするのはタブーなの」

「そっか、こっちではそれが普通かもしれないけど俺が彫るときは全部言って。これが気にくわないとか、もっとこうして欲しいとか。エルザにこれを彫った時から一生一緒にいるものだからちゃんと考えてね」

「はい!」


エルザは嬉しそうにそう言った。


「じゃ、この紙もって帰ってもいい?」

「もちろん」


俺がそう言うと、いきなりエルザが抱きついてきた。むむむ、胸が、、!俺はチェリーだというのに!


「ありがと」


俺を離すと俺の手を握って言った。嬉しそうに下から見上げるようにして言ってきた。もう、可愛いんだから。

しかも近いし、むくむくしちゃうよ。

全く、エルザは、バルザックさんという人がいるのに、勘違いしそう。


「じゃあ、飯でも食べに行こうかな」

「どうしよ、私今日お弁当あるんだよね」


でもなぁ、と言っている。


「今日も飯のあとゴブリン祭りだからあんま食べないよ?」

「じゃあ、いっかな」


俺が少ししか食べないのにエルザがたくさん食べるというのは絵ずらが悪いらしく、エルザは気にしていた。


「よし、じゃあ、行ってくるかな」


そう言って立ち上がって書庫を出る。


「今度ご飯誘ってよ?」エルザが後を付いてきて言う。

「うん」


うーん、本当に勘違いしそうだ。後ろを見ると残念そうにしてるエルザがいた。


「じゃあまた後で」


そう言ってギルドを出た





サンドイッチとお茶を買う。お茶は水筒に入れてもらった。

ここカロイラ村は小さな川に囲われている。真ん中に村がある、中央には役所やギルド、領主の館も此処にある。

その回りに商店や屋台やら民家やらがある。そのさらに外側が農地といった具合。玉ねぎを想像して欲しい。一番外の皮は川。大き な川が北から流れている、それが村の上部で二つに分かれその中に村がある。その皮の中の皮は農地。その中の皮は屋台やら民家やら。そのさらに中の皮は役所とか神殿とか大事な施設。

んな感じ。

今目指しているのはその川の外だ。魔物は川を越えてはあまり入ってこないけど、夏になって川の水位が下がったり、冬に川が凍ると村に魔物が入ってくる。そういった事態に備えるためギルドでは魔物の間引きをクエストとしてあげていた。これは常設でいつでも受けられる。というか、討伐証明さえ持っていけば報酬が支払われる。

川には橋が2本かかっている。東と西に一本づつ、今日はというか、いつも東の橋だ。この世界でも太陽は東から登り西に落ちていく、夕方遅くなる可能性を考慮して東の橋を渡ることにしていた、西に往くよりも30分は長く日が差す。

橋までで来るといつものおっちゃんがいる。

橋を魔物が渡って来るのを防ぐためいつも二人から三人で詰所に詰めている。交代で外に立っているのだがあんまり魔物は来ないし来てもゴブリンなので気楽なもんだった。


「よう!今日も遅いな」


おっちゃんが言う。


「まあね、今日もゴブリンだからね」

「おいおい、もっと奥まで行ってたまにゃあオークでも狩ってこいよ」


おっちゃんは暇なんだろう必ず話しかけてくる。


「いいよ、別に生活に困ってないし」

「はぁー、そんなんでいいのかね?もっといい生活したいてか無いの?」

「十分いい生活してるよ?」

「欲が無いねぇ、おねぇちゃんの店でイイコトしてやろうとかさぁ、ないわけ?」

「えっ、あんの?」


ノーチェックだった!


「あるよ?あたりまえじゃん」

「こんな田舎に?」

「こんな田舎だってそりゃあるさ、たくさんは無いけどな」

「じゃあちょっと頑張るかな」

「おっ、やる気になったか?」

「ちょっと多めに狩ってくる」

「オーク狩りには行かないんだな、、」

「まあね、今日はもう午後だし」

「まぁ、そうだな。一応午前中に出たほうがいいな」


いつもこんな具合でアドバイスをくれる。

じゃあと言って手をふると橋を渡った。空間魔法でサンドイッチを取り出して食べる。レベルも2に上がって魔力も少しだけど余裕が出てきた。ほっとけば回復するのである程度は使っていくことにしていた。

大体、レベル2になるにはゴブリン10匹必要で、レベル3になるならさらに50匹ぐらい狩らないとダメだと言われてた。

しかし、もう100匹は狩っているんだけどなかなかレベル3にはならなかった。でも特に不満は無い。十分いい生活は送れてるし、レベルは低いがスキルのおかげで自分が弱いとは全然思えなかった。ただ、レベルが上がりにくいと他の冒険者にバカにされる傾向にあって、それがうざいのが問題なぐらい。ちなみに、バルサンもレベルが上がりにくいらしく、絡んでくる奴らをうざそうにしている。

いつもゴブリンが出てくる所まで来ると空間魔法で西洋剣と皮の装備一式を出して装備する。

ゴブリンの攻撃が当たったことは無いのだけれど慣れるために着けていた。まぁ、突然オークが出てくるかもしれないしね。

でも皮の装備は日本の剣道の防具より全然動きやすい。動きやすいって事は当然守ってる部分が少ないって事なんだけどさ。

林の中に入ると早速出てくる。少ないな3匹だ、ちなみにこいつらにもレベルがある。どいつもレベル1。緑色の肌に、俺の胸の下ぐらいの身長。棍棒とういスタイル。

こいつらはあんまり知能は高くないようで、ほとんど連携という事をしない。てんでバラバラに襲いかかってきて。囲んで来るとか、一回逃げて仲間を連れてくるということもない。

一応囲まれるような位置を避けつつ近付く。

襲いかかりにくそうにしているので、襲いやすくしてやることにする。

剣を持つ手を少し前に出してやると案の定、俺の手をめがけて棍棒を降り下ろしてくる。手を引いて棍棒をかわしながら体を左前に移動させて、ゴブリンの手をめがけて切り上げる。


「ギャ」


っとゴブリンが叫ぶ。今度はゴブリンの首めがけて切り下ろす。

次のゴブリンも構えを解いて襲いやすくしてやると簡単に誘いに乗ってくる。基本疑う事が無いよね。純粋なのかな。首に突きを放つ。

最後の1匹はわざとゆっくり上段に構えてから降り下ろす。ゴブリンは棍棒で防ごうとするが、そのまま押し込んで袈裟斬りにした。

3匹それぞれのゴブリンの心臓辺りを差し、ちゃんと死んでいるのを確認して左耳を切り落とす。耳用の袋に仕舞うと腰にさげた。

最初はなかなか出来なかったけど、しっかり慣れてしまった。今はゴブリンの肉を切る感触も吹き出す血も気にならない。

最初バルサンに付いてきてもらった時は、「お前なぁ」とあきられてしまった。さっきみたいに手を切って血が出るのを見たら止めを差せなくなってしまったのだ。それから何とか止めを差し、嫌々耳を切り落とすと。「お前やってけんの?」と言われてた。

ちょっと最初は迷惑をかけたけど、今では問題無しだ。

3匹を集めて土魔法を使う。空中に魔力を込めた右手で文字を書き、ゴブリンの死体が土に返るのをイメージして、3匹を触ると腐臭を伴って崩れていく。

魔力が少なかったか、肉が残ってるけど見えないことにする。

まぁ、十分でしょ。

ギルドの指示通り死体を土に返す。これが意外と大事で、これをおろそかにすると魔物があんまり減らない。この死体を別の魔物が食べちゃうからだ。そうしてバンバン繁殖する。

ちなみに、ゴブリンはゴブリンを食べる。想像するとちょっとホラー。

うろうろする。見つける。倒す。耳の回収アンド土に返す。

これを繰り返し、耳を20個集めたあたりで体が軽くなった。


「おっ、レベルが上がったかな?」


俺はもう一生レベルが上がらないのではないかと思いはじめていたけど、何とか上げることが出来たようだ。

嬉しくなったのでさっさと帰ることにする。目標には届かなかったけどまぁいいや。

詰所のおっちゃんに。「早くね?」と言われてたけど!スルー。大体ゴブリンを狩るのに飽きちゃったんだよね。

ちょっと今度は違うのを狩ろうかな。オークはちょっと恐いけど。


ギルドに帰ると受け付けにいるエルザに手を上げる。


「よっ」

「お帰り、どうだった?」

「いつも通りだよ、あぁ、レベルが上がったかも」


まだ時間が早い事もあってギルドは空いている。


「部屋空いてる?」最初エルザにギルドカードを発行してもらった部屋だ、チェックルームと書かれた札がぶら下がっている。

「空いてるよ」どうぞどうぞと手で勧められる。「私も一緒に入ろうか?」

「いや、大丈夫」

「入ろうか?」エルザの顔がちょっと怖い。

「あっ、うん、じゃあお願いしようかな?」

「オッケー」


エルザがそう言って一所に入ってきた。

早速手をかざすと、文字が浮かんだ。読み方の分からない無い文字は特にない。



3/99

HP210/210

MP62/68

力 57

敏捷48

体力55

魔力52


「スキルはあいからわらずで変化無しだけど」


俺はそう言って、エルザをちらりとみる。


「どう?」


能力値が他の冒険者より低いかどうか気になるからだ。


「ん、分かんない」

「分かんないのかよ!」


エルザはレベル1の段階では他のレベル1の冒険者の能力値より高いと言ってくれたのだが。


「うん。だって皆教えてくれないんだもん」


じゃあなぜ、、、。


「まぁそうだよね」


冒険者は自分の持つスキルや能力値を皆秘密にしている。


「でも、多分高い方だと思う」


エルザの目を見たらエルザは目をそらした。自信ねぇなこいつ。


「でも、なんというか」エルザは言いにくそうにしている。

「なかなか上がらなかったな」レベルの事だ。

「うん、結構倒してるのにね」

「まっ、でも本職は彫師だし」

「だね!」


エルザが嬉しそうにいう。彫るのを楽しみにしてくれているのだろう。


「でも、彫師になるってあんまり言わないほうがいいかも」

「何で?」どのみちあんま言ってないけど。

「彫師ギルドに入ってないから、彫師ギルドの人に嫌がらせを受けるかも」

「ちっちぇえな!」


ヘボイ墨しか掘らないくせに。まぁ、ヘボイから気にすんのかな?

それからエルザにギルドカードを更新してもらい。チェックルームを出て換金所へ行く。換金所にはちらほらと冒険者がいた。

カウンターの上にゴブリンの耳を置く。


「おっちゃん、換金」

「はいよ~」


間延びした声がしてカウンターの奥のドアが開く。

毛むくじゃらのオッサンが出てくる。服を着たオラウータンをイメージしてもらえばいい。


「ギルドカード見せて」


オラさんに更新したギルドカードを見せる。

オラさんは俺のギルドカードをチラ見すると、ゴブリンの耳の数を数えて大銅貨を4枚をカウンターの上に置いた。

大銅貨を受けとると、バルサンを探す。レベルの上がった俺の力を見せてやる!

バルサンを探すとすぐに見つかる。こいつは大体ギルドでニートしているのだ。

話しかけようと近づいて行くと絡まれているようだった。そいつらを無視して話しかける。


「おい、バルザック。練習場行こうぜ」


バルサンは絡んでる奴らを腕で退けると俺の方へ歩いてくる。


「お~い、また新人にいじめられに行くのか?」


俺の審査を見ていたやつがいて、それをそいつがあっちこっちで吹聴した。

バルザックが俺に負けたのを皆知っていた。でも、剣士としての力はバルザックのほうが断然高い。だからこうして頼んで練習場へ連れていくのだけど分からないやつがいた。


「ゴブリンキラーのお二人さ~ん。頑張ってくださいね~」


ゴブリンキラーは俺とバルザックの蔑称だ。バルザックもゴブリンをメインに狩りをしているらしい。あとはギルドで審査員を請け負っている。


「あの時」


練習場を目指して歩きながらバルザックに話し掛ける。


「俺が木剣を落とした時。ノータイムで俺を斬りに来ても、バックステップで下がって様子を見てもバルザックの勝ちだった」


練習場に着くと木剣を取りに行く。


「ブレイブかクールダウンの法印を彫れよ」木剣を持って軽く降ってみる。「お前は考えすぎだ」


木剣を何本か降って手に一番馴染まないやつをバルザックへ投げる。


「お前は、、、。俺より年下だよな?」そう言ってバルザックは木剣をふるとやっぱり手に馴染まなかったようで、自分で取りに行く。「敬語使えよ敬語」


あぁ、そのスキルは持ってなかったな。


「ノータイムで踏み込みたかったならブレイブ。一歩引いて様子をみるべきだと思ったならクールダウン」素振りをする。「前衛ででガンガン行くか、後衛でバシバシ行くか」


「なぁ、人の話し聞いてるか?」

「良し!やるか」


「絶対聴いてないよな」バルザックが疲れた顔をしている。「確認した俺がバカだった」


「そうそう!」

「てめぇ殺す!」バルザックが構える。「ちなみに、次に唾飛ばしたら真剣に持ち変えるからな」


昨日戦った時も唾は無しとか言うので、『おっけー!』って言っておいてソッコーで唾を飛ばした。そしてまたあっさり勝ってしまった。


「一応お前のためにやってんだよ?」


俺がそう言うとバルザックが斬り込んでくる。

バックステップでかわし、跳ね上がる木剣を木剣で弾く。


「だって、お前イレギュラーに弱いんだもん」


バックの口がモゴモゴしている。唾をためているのだろうけど、、、甘いな。

おれはじいちゃんから学んだんだよ!

上段から斬りかかる。バルザックは受け流して手首を狙って斬りかかってくる。手を引いてかわすと、そこから突きを放ってくる。踏み込んで回避すると。

「ブッ」バルザックが唾を顔に飛ばしてくる。

ハイハイって感じ。唾を無視して俺の木剣振り上げると、バルザックの喉に木剣が触れる。


「俺に効くわけ無いじゃん。ばっかじゃねえの?」


もちろん俺の顔にはバルザックの唾が点々と付いている。


「バルザックはさ、そういうの向かないよ。正面から攻めたほうが全然動きがいい。レベルさえ上がれば対人戦ではそうそう負けないと思うよ?」

「うるさい!」


バルザックが俺の木剣を弾いて斬りかかってくる。

うーん。分かっているのだろうか?

バルザック木剣を弾くと後ろへ下がった。


「仕方がない、お前に俺とお前との格の違いを見せてやろう」


奥義を出す時がきたようだ。

右手は木剣を構える。左手は人差し指でバルザックの飛ばした唾を取る、人差し指の先っぽにはバルザックの唾が。バルザックの頭のうえには?の文字。

舌を出してゆっくりとバルザックの目を見ながらバルザックの唾を舐めようとする。

すると。


「やめろおおおお!」


何をするか察したバルザックが無防備に襲いかかってきた。

愚かな。木剣をかわして後頭部に木剣を軽く当てた。


「な、お前向いてないだろ?」


バルザックは膝から崩れ落ちる。


「あぁ、そうたな」

「これくらいで焦んなよ。あと、勝つっていう目標だけをみたほうがいい」

「あぁ、そうだな」


急に素直になった。


「何で負けたか分かる?」

「あぁ分かったよ。俺がバカだったんだ」

「、、、、んーと、、まぁいいか」


バルザックはうなだれたままだ。

あんまり実感出来なかったけど体の動きが良くなっている。MPも大分増えたので少しづつ戦闘の中でも使っていって良いかもしれない。今までは空間魔法で荷物しまったり、ゴブリンを土に返すのでMPを消費していてなかなか戦闘の中では使えなかった。


「今度ブラックウルフ一緒に狩りに行こうぜ」

「あぁ、いいよ」バルザックはそう言ってフラフラと立ち上がる。「今日はもう帰る」


ダメージは大きかったみたいだ。すれ違う冒険者と片が当たるが、俯いたまま出口へと歩いていく。


「おい!」肩の当たった冒険者が怒鳴る。「あれ、新人キラーさんじゃあないですか。また新人さんにボコられたんですか?」


バルザックは無視してドアから出ていった。

ここ数日で分かったことがある。 バルザックは強い。

特に対人戦ではかなりのものだ。そもそも、ショボいけど貴族の五男にあたるらしく、しっかりとした剣術を学んでいたらしい。指南免許も持っているらしく、ギルドで審査員を請け負っているそうだ。そんなんで、新人を相手にするのだが、もちろん負け無し、コテンパンにする。そして、当然負けた冒険者はバルザックめ!このやロー!って思う。んで、リベンジをするがなかなか勝てない。じゃあ、陰で笑ってやるか。と、今こんな感じ。

まぁ、バルザックもやりすぎたのかもしれないけど、勝てないからって笑い者にするのは良くない。良い気がしない。

しかも、バルザックに俺も勝っているものだから俺と模擬戦をしてくれない。俺もゴブリンキラーと呼ばれる始末。

レベルの高いやつはそんな事気にしないのだけど、相手にしてくれなかった。

そうすると、必然的にバルザックとばっかり模擬戦をする事になる。これも切実な問題だった。やっぱりいろんな奴と戦わないと、バルザックに勝てても、他の奴に負けるようじゃあ意味がない。

バルザックに悪態を付いていた奴に目星を付ける。頭の上には7の文字。


「おい!俺と模擬戦やてくれよ」遠くにいるため大きな声で言った。

「ふざけんな、ゴブリンとやってろよ」案の定断られる。

「そう言うなよ。お前がゴブリン以上の所見せてくれよ」


7の所へ近づく。


「ふざけんな、俺はオークだって狩っているんだぞ!」

「すげーじゃん!ゴブリンより強いんじゃん、じゃあやろうよ」

「やらねぇ!そう言ってるだろうが!」

「はいはい、分かったよ。お前がオークに殺される前にやりたかったんだけど」


そう言って引き返えそうとする素振りを見せる。後ろへ振り返えようとするその時7の右手が強く握りしめられているのをが見えた。視界から7が消えると案の定後ろから木剣を振り上げる気配がする。

そのまま一気に回って7を正面に見据え、俺目掛けて降り下ろされる木剣を俺の木剣防ぐ、『ガッ』っと音がして7の木剣を叩き落とすと、喉目掛けて切り上げる。

俺は回避されるとだろうと予想した一撃を7はポカンと見てる。

やべ。当たる。

止めようとするが空しく喉へと木剣は吸い込まれ、嫌な感触が手に伝わる。

やってしまった。


「ゴホゴホ!」7は激しく咳き込む。

「ご、ご、ごめんね?」慌てて謝る。「いや、だってさ急に後ろから襲い掛かってくるからさ、俺ビックリしちゃって」事態を察した他の冒険者が駆け寄ってくる。「しかもまさか避けられないなんて思わなくて」救護班らしき人も駆け寄ってきた。「オークも倒したこと有るって言ってたからさ、これぐらいって思ったんだよ!」


7はやっと咳が止まるとこっちを睨み付けてくる。


「あっ分かった!わざと当たったんだ!なら納得。おかしいとおもったんだよ」


喋られないようだし丁度良い。『じゃあ』と言ってこのまま立ち去ろうとするがもちろん止められた。

そのあとはありがたいお説教と一緒に、色々教えてもらいました。怪我をしても簡単に魔法で直せると思っていたのですが。大変申し訳無いことに、魔法で治せるのは治せるのですが、その魔法は神様がこの星や人間を創った時の魔法『天地創造』の下位バージョンの魔法でして。それは、専門の術者で三人から四人でやっとこさ使うのだそうです。だから、めっちゃ高いのだそうです。そんなわけで大体のヒトは、自然治癒能力を上げる法印を体に彫ってあって、それで治してるらしいです。

ちなみにエルザが言った審査で怪我をしても治療すると言っていたのですがそれは、打撲にはシップ的な物を貼ったり、骨折には添え木をしたりするという意味だっようです。

思い込みってダメですね。


たっぷりと絞られてから宿へ戻る。何時もより遅くなると、セリアさんに怒られた。だるまのような体をプルプルしていた。いつものジャガイモの皮剥きをやろうとすると包丁の横に茹でたジャガイモがある。食べろという事だろう。ありがたや。ありがたや。

高速でジャガイモを剥きディナータイムへ突入。最近ではドニーとのコンビネーションにも磨きがかかり。文字の読み書きが出来るようになってきたのも大きいだろう。伝票を書けるようになり、店をスムーズに回せるようになってきた。もともと二人で回してたお店だしね。

客も大人しくしている。初日にしっかりと対応して良かった。初日の対応のせいでいまだに俺の尻が揉まれるのが不満ではあるが。

ドニーにセクハラした客の6だが、実は今日も来ている。結局ドニーが好きなんだろうな。俺は金が有るって所を見せようと店の良い物を頼んだり、大きな声で俺は強いって話をしたりする。それで女がなびくと思っているんだろうね。

お前の愛し方はダメだぜ。なんっって。

でも、酒はダメだと学習したのだろう。ちびちびと飲んでいる。酔って店に迷惑をかけたがかける事はしなかった。十分良い客だ。ドニー目当ての客なんて珍しくもない。ドニー目当ての店員がいるぐらいた。

店が終わると片付けて銭湯に行く。体を洗わないで湯船に入ろうとするじい様を叱って、『最近の若いもんは』って言われる。

そして、夜はおたのしみの夜のお勉強会だ。何でも『夜の』って付けるとエロくなるよね。夜の蝶、夜の花、夜の机、夜のドニー。

そう、夜のドニーが最近エロいのだ。言葉だけじゃなくって。なんか上目遣いで見てきたり、胸のとこの空いたシャツを着たり。何か近かったり。ドキドキしてしまって困る。いや、困らないのだが。二人きりの部屋、感じる体温、そして高まる二人!


『わおーん!』


と、狼になりたいけどなれない僕はチェリー。


「何か彫って欲しいものはある?」


ドニーに聞く。


「何だろ、普通に火の法印と水の法印かなぁ」ここ数日で言葉もだいぶ砕けた感じになっていた。「お母さんの仕事を手伝うならやっぱりね」


どっちも宿の仕事での法印の定番だ。鍛冶家なら火と風だろうし、畑なら土と水だろう。この世界では魔法とが生活とが密着していた。


「犬の召喚印は?」


エルザとも話した法印だ。小さいもので召喚は出来ないが危険を察知してくれる。セクハラ野郎にも反応するはずだ。


「ブラックウルフの血は?」

「取りに行く、血の入れ物はギルドで手配してくれるって」

「、、、この間の、エルザって人?」

「うぅん、そう」ドニーはエルザの話しになると不機嫌になる。

「うぅん、ってどっちだよ?はいか、いいえどっちだ」


普段は可愛いんだけど、、、。


「はいそうです」


正確にはギルドなんだけど、そう言うと怒る可能性が高い。


「ふーん。エルザも犬を彫るって?」

「はいそうです」


ドニーはお母さん似だ。絶対尻に敷かれる。でもこの胸になら敷かれてもいい。


「じゃあ、私も犬の召喚印にしよ」


可愛いドニーに戻った。

いくら貰うかも考えなくっちゃな。地元の彫師の仕事を奪うわけにも行かない。その土地土地で相場ってもんがある。それを外から来てしっちゃかめっちゃかにしてはダメだろう。それに、あんまりたくさんは俺も彫れない、薄利多売なんて真っ平ごめんだ。

それからいくつかデッサンを見せた。デザインを選んで良いよと言うと驚いた顔をする。


「入れ墨はドニーが死ぬまでずっと一緒なんだ。だから、どんなデザインがいいかしっかり悩んで」

「ほんとにいいの?」

「もちろん、何度でも書き直すから気にくわなかったら言って?」

「じゃあ」


とドニーは言ってしっかりしおらしくなった。

デザイン画を渡すと今日はバイバイ。ドニーが名残惜しそうに出ていった。あんまり遅くなってだるまさんが転がり込んできたらたまらない。

異世界に来て二週間ぐらいたったろうか。

驚く事も多いけど問題なく過ごせている。いきなり異世界なんて!って思ったけど、よく考えてみればどの道じいちゃんが死んだ時点で天涯孤独。異世界に来た事も人生の仕切り直しと思えば悪くはない。それよりも、ドニーとエルザ、バルザックも、少しづつ友人と言える人も増えた。体を洗わないで湯船に入ろうとするじい様だっている。まるでだるまな女将だって。

悪くない。彫師としても楽しみに溢れてる。

天井から吊るされているガラス玉に魔力を込めて残っていた魔力を散らすと灯りが消えた。



「ほぅ、これは犬かい?」


ギルド長の部屋へ来ていた。


「そうです」

「これは。女、子供が好きそうな絵じゃの」


クロードは秋人の書いたいくつかの絵を見ている。


「ダメですからね」

「何がかな?」

「このデザインは私の物ですからね!」

「そんな事を言っても、、、のぅ」


確かにクロードさんの言いたいことは分かる。確かにこのために秋人を彫師にしようとしているのだ。しかし、秋人が考えてくれたデザインを他の人が使うのが許せなかった。

そもそも、ここの彫師達が酷すぎるのだ!彫りもいい加減、態度も悪い。この村で好き勝手にやっている。どの村どの町でも彫師は生活の要だ。

魔物なんているから怪我や病気が絶えない。だから10歳ぐらいになると、自然治癒能力上昇率の法印を彫る。高い金を払って神殿に行き治してもらうなんて出来るわけがない。でも、この村の彫師達は気にくわない人達の彫りを拒んだのだ。

そういう拒まれた人達は、自然治癒能力上昇の法印がある人より仕事を休む事が多かったりする。そうなると雇って貰えない事が多かった。

そうして、この街の彫師達は我が物顔でこの村を歩いてる。彫師に睨まれるのが怖くて言われる事を聞いているのだった。

彫って貰えない人達は今もいる。

問題はこれだけでは無い。冒険者の質の低下だ。良い彫師がいないと冒険者は村を出て行ってしまう。当たり前だ、子供の書いたような絵を体に彫りたい人間なんていない。今いる冒険者達も例えお金が有ってもこの村で彫りはしないそうだ。

他にも問題はある。ブラックウルフの血で彫る法印は裕福層に人気だった。裕福層がこの村に来て、その入れ墨を彫るため滞在して村にお金を落としてくれたがそれも無くなってしまった。

確かに秋人のデザインなら皆に好かれるだろう。また、この村に来てくれる裕福層も増えるだろう。皆この犬を彫って欲しいと言うだろうだけど。誰にも彫って欲しくない。

クロードさんが困った顔で私を見ている。


「少し考えてみようか、秋人にも相談してみような」クロードさんはそう言ってくれた。「あと、秋人と中の良い冒険者はいるかのう?」


それから段取りを決めてギルド長室を出る。


「はぁ」


と、ため息が出た。

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