アズルト
アズルト
「カナリアが!カナリアが居ないんだ!」
ユリナがそう言った瞬間に右手の法印に魔力を込める。
『万象』
を発動させて周囲を探る。
一気にたくさんの情報が頭の中に詰め込まれて、痛みに顔を歪めた。
が、見付けた!!
手に持っていた荷物をユリナに押し付けると地面を蹴る。
万象で探った時、カナリアはぐったりとしていた。
頬に何かが伝ってくるので手で拭って、見ると血だった。
目から血が出てきていたらしい。
万象の範囲を広げすぎたか。
左手の法印に魔力を込めて『神癒』を発動させて、自分の頭を触る。
すると頭から痛みが消えた。
ぐったりとするカナリアと一緒にいた奴がいる。
アズルトだ。
二人の方向へと全力で地面をひたすら蹴った。
チッ!
誰かが俺の跡を付けてやがる。
担いでいる、カナリアを抱え直した。
ドラゴンを殺すためには生きた状態のカナリアが必須だ。
下ろして俺単身でドラゴンの所に行くわけにも、カナリアを殺して空間魔法でしまって持っていくわけにもいかない。
何としてでも、ドラゴンを殺してその命を手に入れたいのだが、ドラゴンは常に障壁を張っていて通常ドラゴンに近付く事は不可能だった。
しかし、カナリアはドラゴンに触ったと言っていた。
つまり、カナリアはドラゴンの障壁をすり抜ける能力を持っているか、ドラゴンがカナリア相手には障壁を展開していない。
そのどちらかの可能性があるが、恐らくカナリアというより、その時一緒にいたという秋人の影響だろう。
ドラゴンがカナリアが障壁の中に入る事を許容したのだと思う。
そのカナリアと一緒に居れば俺も障壁をすり抜けられるはずだった。
そして、ドラゴンの巣へと行き、産まれたと思われるドラゴンの子供を殺す。
しけし、このまま障壁を抜けてドラゴンの巣にたどり着いたとしても、もし俺の跡を追って来ているだろう、『あの男』が来たら、それを関知して大人のドラゴンが帰ってきたら。
その可能性を考えるとこれ以上先に進むわけにはいかない。
カナリアを下ろして寝かせた。
俺を追う気配がどんどん近くなってくる。
どうやって俺の位置を調べてるんだ?
こんなスキル聞いたことが無い。
俺より感知の範囲が広いという事になる。
間もなく俺を追って来ている男が到着するだろう、
その近付いてくる気配に、『やはりな』と独り言を言った。
秋人だ。
カナリアを寝かした場所から少し移動する。
これからの戦闘にカナリアを巻き込む訳にはいかない。
俺が少し移動すると、秋人もそれを考慮して移動する。
秋人はカナリアと俺の位置をかなり正確に把握しているようだ。
俺とカナリアの間に秋人が入った格好になる。
そして秋人が現れた。
・
アズルトが移動するのを止めてカナリアと距離を取った、
俺はアズルトとカナリアの間に入るように移動する、アズルトからの妨害は無かった。
右手の法印『空』に魔力を込めて空間魔法を発動させる。
じいちゃんの形見の仕込み刀を取り出すと抜き身にして再びしまった。
空が段々暗くなってきている。
明るければ光魔法の第三階位、『閃光』でアズルトが多少俺より強くても殺れる自信が有るのだけど。
駄目だったら重力魔法の第三階位だな、
実用した事は無いが。
「ご機嫌そうじゃん、アズルト」
剣を持ったアズルトがいた。
いつもの様に笑みを浮かべてはいない、
鋭い目付きで俺を睨んでる。
右手で宙に空間魔法の神字を書いて空間魔法を発動させる。
そこらからさっきの形見の仕込み刀じゃあ無くて、王都で買った方の刀を出した。
「俺の場所をどうやって探った?」
アズルトが冷めた声で聞いてきた。
「お前が何でカナリアを拐ったのか言ったら教えてやるよ」
アズルトの右耳には確かにピアスが付いている。
あれがガレットの言っていたステータスを隠蔽するアイテムなんだろう。
あれを取ればあいつのステータスが分かる訳だ。
「ドラゴンの子供を殺す為だ、カナリアが居ればドラゴンの造る障壁を抜けてドラゴンの所まで行ける」
「おいおい、ドラゴンとか玄獣を殺すと魔物が大発生するんじゃあ無かったっけ?」
俺の言葉にアズルトは首を傾げて答えた。
だったらどうした?
といった所だろう。
「どうやって俺の位置を調べた?」
「スキルだよ、スキル」
俺には感度は悪いけど、感知のスキルがある。
「確かに感知のスキルは有るようだがレベル2ではそれほどの範囲は探れない」
アズルトはそう言って俺を睨んでくる。
俺が使った魔法、『万象』は内緒にした方がいいよな。
まぁ、いいや。
「しょうがねえな。特別だぜ?」
俺は左のポケットに入っている札に魔力を込める。
と、同時にアズルトに向かって襲いかかる!
アズルトが剣を構えたその時、
辺り一面が真っ暗になる!
そして、
『閃光!』
一筋の光がアズルトの死角から襲いかかる!
が、
光はアズルトの頬を焦がしただけだ、
そこをアズルトに斬りかかる!
「チッ!」
ダメだ。
俺の刀はアズルトのピアスの付いた耳をピアスごと切り落としはしたがもちろん致命傷にはならない。
光が全然集まらなかった。
やっは夕方はこの魔法は厳しいな。
そしてピアスが外れた事でアズルトのステータスが露になる。
そして、
軽口を叩こうとして開いた口を閉じた。
アズルトのステータスは。
レベル38
HP1542/1542
MP 521/ 580
俺の四倍程のレベルと三倍程のHP、
何だこいつ。
俺、勝てねぇんじゃね?
良くて相討ちか?
「俺を索敵した方法と、今の魔法について教えたら今なら見逃してやるぞ」
「いやぁ、そんでお前はカナリア連れてドラゴンを殺すんだろ?」
ドラゴンを殺して魔物が大発生すれば麓の村にも被害が及ぶだろう。
村には嫁と可愛い子供達と、
それなりに知り合った気の良い奴等がいる。
さてと。
魔力に余裕も無い、
ソッコーだ!
右のポケットの札に魔力を込める!
重力魔法、第三階位、
『グラビティ!』
『ドン!!』
と、音がして、
アズルト膝が『ガクンッ!』と曲がるが、
アズルトは倒れない!
そこに一気に畳み掛ける!
右手に彫った、『重』の法印に魔力を込めて剣を振るう!
何倍もの重さになった刀がアズルトを襲うが、
『ガン!』
アズルトは何倍にも成った重力の中、
剣を振って俺の剣を防いだ!
剣の感触が良くない!
この刀はもう駄目か?!ヒビが入ったかもしれない!
刀も駄目、魔力もねえ!
このままじゃあダメだ!
奥義で終わらす!!!
再びアズルトの顔面目掛けて刀を振り下ろす!
それをアズルトは剣で弾く!
その瞬間、俺は持っていた刀を失策を装って手放した!
俺の手から落ちる刀、
それを見たアズルトの浮かべる笑み、
アズルト大きく剣を振りかぶって、
その瞬間右手の『空』法印の法印に魔力を込めて、
さっきしまった抜き身の仕込み刀を取り出す!
アズルトの顔が驚愕に包まれるが!
『おせぇ!
俺も死ぬが!お前も死ね!!』
アズルトの剣が俺の首へと近付いてくる!
そして、俺の刀もアズルトの体へと吸い込まれていく!!
その時、
『ガキィン!!』
と大きな音がした。




