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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
龍人
58/66

憲兵達の底力。

憲兵の底力。




この村は二年前の魔物の大発生の時に、憲兵全員の命を失った。

俺達はその後釜として派遣されてきた。

その時一緒に派遣されてきた彫師だったギリーとは持ちつ持たれつの関係でやってきた。

このギリーという男は、素行が悪く、いつも問題を起こしていた。

俺達はそれを誤魔化したり、無かったことにしていた。

その見返りとしてギリーは、

相場の五倍の金額で入れ墨を彫ると、その一部を俺達憲兵に渡したてきた。

俺達はその金をありがたく受け取ると。ギリーの指示した帳簿にいつもサインをしていた。

そしてある日、ギリーは帳簿と一緒に消えた。

そのギリーは殺された、との噂があった。

もし本当にギリーが殺されたのなら、ギリーの帳簿はギリーを殺したやつが持っているって事になる。

そして、ギリーを殺した奴を教える通報があった。

この村の新しい彫師の秋人って男がギリーを殺したらしい。

そいつが歩いていったという方向へ歩いていると、調度用事を終わらせた帰りなのだろうか、向こうから1人で歩いて来るのが分かった。

どんどん近付いてくる。

俺達五人は今武装していて、威圧感があると思うのだが、秋人は歩くスピードを落とす様子がない。誰かが唾を飲み込むのがわかった。

ガレットに目で合図を送ると、ガレットが小さく頷いた。

ガレットは人のステータスを見ることを許された憲兵だ。

人のステータスを見る事の出来るその法印は厳しい試験を乗り越える事で左手に彫る事を許された。その左手を目の前に翳すと対象のステータスが見ることが出来る。

「どうだ?」

と、俺が聞くと、ガレットは顔を青くして左右に振った。

「どうなんだよ?!」

その男はどんどん俺達の方へと歩いてくる。

ガレットは顔を青くしたまま黙っている。

ガレットの様子に気付いた仲間の足が止まった。

秋人って男が俺達の前に来ることで、その男を俺達が囲んだような格好になった。


「なんのようだ?」冷たい声が頭に響いた。

「俺らはこの村の憲兵だよ、お前が秋人だな?」

「そうだよ」


秋人は俺達に囲まれているというのに、薄く笑いながらゆっくりと手をポケットから出そうとする。

ガレットの顔を見ると、額からは汗が吹き出ていて、顎をガチガチと震わせている。

この時俺は自分の『死』をイメージした。

この手がポケットから抜かれた瞬間に俺は死ぬ。

体を硬直させたその時、


「で?何の用なの?」


と、秋人って男が言った。

この瞬間俺はギアを入れ換えた!!

よいしょだ!

よいしょしかない!


「いやぁ~!こりゃあびっくりしたぜ?!」俺はこの瞬間の『よいしょ』に命を掛ける!「こんな良い男だとはなぁ!なぁ、皆!」


俺の言葉に仲間が頷いた!


「いゃあ、本当だ!」ガレットが俺の意図に気付いて乗っかる。


「だよなぁ!評判以上の男前だぜ!そうかい、いゃあ一度会ってみたかったんだよ!」


秋人って男は何が起こったのか分からないのだろう驚いている。

しかし、俺の『よいしょ』は止まらない!

俺はこのよいしょの力で憲兵長になった男だ!!


「こりゃあ、女が放っておかねぇわけだよ!羨ましいぜ!」

「いゃいゃ、そんな事は無いって」


秋人が謙遜した。

ここからが勝負だ!


「なぁに、聞いてるぜ?嫁さんが三人もいるんだって?」

「いや、キツい嫁がだよ?本当にきっついんだから」

「なぁに!そういう女に限ってベットの上じゃあ可愛いもんだよ!な、そうなんだろ?」


秋人は満更でもない顔をした。


「それでよ、今日はちょっとだけ話をさせて欲しいんだ、なぁに!悪いようにはしねぇからよ。話だけさせてくんな」

「話って?」

「いやな、この村の人間の奴でな、あんたの事を『外道彫師』かもって、言ってる奴がいるんだよ」これは本当だ。

「え?俺が?」

「そうなのさ、まぁ。そいつの勘違いだろうけどよ。だからちょっと話をさせてくんな?悪いようにはしねぇからよ」


秋人が小さく頷いた。


「なぁに、なんの心配も要らないよ。あんたはすっかりこの村の顔だぜ?!そんな人間に色々しやしねぇ」


俺は満面の笑みを浮かべて言った。





思っていたのと全然違った。

憲兵達は凄く気の良い奴等だった。


「そうかい、じゃあ。彫師ギルドの会員じゃあ無いんだな」

「そうそう、そうなの」

「でも、まぁ。国選彫師になれたんだろ?」

「そうだよ」

「そいつはすごいぜ!?成りたいって言ってなれるもんじゃねえ」


マットさんが『うんうん』と頷きながら言った。

他の憲兵も感心した様子で話を聞いている。

机の上には茶菓子とお茶が出されている。


「じゃあもう一個。お前さんは精神系の法印を彫ったことはあるか?」

「『精神系』?」

「そうだ、バルザックって奴の肩に『ブレイブ』の法印が彫ってあったらしい。それでな、、」

「あぁ、それなら俺が彫ったぜ」

「そうかい」マットは少し困ったような顔をした。「一応な、精神系の法印を彫るのは違法なんだよ」

「え?そうなの?」

「そうなんだ、危険だとされてんだ」


まぁ、確かにな。

下手をすると、バーサーカーになっちまう。


「その二つだな。彫師ギルドの会員じゃあ無いこと、精神系の法印を彫った事で、あんたを『外道彫師』だって言ってる奴がいるんだ」

「え?俺ってヤバイ?」

「ちょっとな、精神系の法印を彫るのは、、、。

でもまぁ、大丈夫だ。

その前に少し別件で相談したいことが有るんだが良いか?」

「ん?何?」


マットは躊躇うような顔を少し見せる。


「そのぉ。俺達はちょっと、探し物をしていてな」

「はぁ。何を?」

「俺達はギリーって奴に弱味を握られていてな、そのギリーって奴が持ってた帳簿をだな、、、。ずっと探していたんだ」

「帳簿?」

「そ、そうなんだよ!帳簿、いや!

お前さんに聞くのはどうかと思ったんだが、念のため聞いてるだよ。念のため。

なぁに、何かの手違いで、ちょっと、ちょっと、人の荷物が手元に有るなんて良く有る事さ!

なっ、で、もしかしたらその帳簿を持ってたりはしないよな?」


他の憲兵も、『そうだ、そうだ。良く有る、良く有る』なんて言っている。

そう言われてみれば、心当たりが有る。

ギリーを殺した時に出て来たアイテムを全部回収していた。


「んーと、まぁ、人の荷物が手元に滑り込むなんて良く有るよな」

「そうそう!有る有る!」マットは大きく頷きながら言う。

「じゃあ念のため、見てみようなかぁ」

「そうそう!念のためでいいんだよ!助かるぅ~」


空間魔法を使い、ギリーの荷物を掴んで出した。


「あっれぇ~、もしかしてこれがそうかなぁ~。何で俺持ってるんだろう?」

「あぁ~。これこれ!」


マットがギリーの荷物の中から一冊の本を取り出した。

他の憲兵達が手を叩いて喜んでいる。


「いゃあ~。落とし物をわざわざ届けてもらって、ありがとうございます!」


マットはそう言って俺に敬礼をした。

他の憲兵もそれに倣う。


「それで、俺のぉ、、、」


違法だったという、入れ墨の件を、、、。


「あぁ、良いんだよ!こんな市民の鏡である秋人様に処罰なんて有るはずがねえ!なあ皆!」


『おう!』と他の憲兵が言う。


「この村の憲兵の権限において『不問』とさせてもらうぜ!」

「って事は?」

「無罪放免!他の土地でも、もし問題になったら、この村の名前を言って『不問』になってると言ってくんな!それ以上は何を言ってきても無視して大丈夫からよ!」



それから一応と言って、書類を目の前で書いてくれる事になった。


「一回不問になっちまえば、後で再び問題にするのは難しいんだよ」


そう言って渡された書類は大切に空間魔法で、ポイとしまって、憲兵の建物を出た。

良い奴等だった。終始持ち上げられて、ちょっと首が痒くなったけど。

手にはお土産として持たされたお菓子が有る。

子供達も喜んでくれるだろう。


「ちょっと待ってくれ!」


後ろを振り替えると、ガレットと呼ばれていた男がいた。

ガレットは俺の所に駆け寄ってきた。


「忠告と、プレゼントがある。

まず、俺は取り締まりの為に、人のステータスを見ることを許されている」

「え?!マジ!」キョドってしまう。

「まぁ、まて。大丈夫だ、秋人の事はどうこうしないさ、出来ないしな」


ガレットは手を振って言った。

まぁ、どうこう出来るとは思わないけど、、、。

法印を体に彫ると、スキルを得る事が出来て。

確か、法印をたくさん彫りすぎると『魔人』になっちゃうらしくって、国では危険視してる。そんで、下手をすると捕まっちゃうんだよな。

そして、エルザが言うことには、俺はべらぼうにスキルが多いらしい。


「それで、忠告なんだけど、一応これ以上法印を彫るのは勧めない」

「だよね。

えっ?じゃあ憲兵の皆も俺のスキルの事を知ってるの?」

「いや、知らないよ。一応犯罪が確定しないと俺は喋っちゃあいけない事になってるから」


良かったよ。

冷や汗が流れる。


「で、プレゼントだ。これを身に付けると他人にステータスを見られないように出来る」


ガレットはそう言ってピアスを二つ出した。

ピアスって事は、、、。


「持ってるだけじゃあダメなんだよね?」

「あぁ。付ける場所はどこでも良いがな。1つで効果は出るから、バルザックって男にも付けさせると良い」

「ありがと。助かったよ」


俺はそう言って、ガレットと握手した。


「それで、孤児院の皆にも今まで悪かったと伝えて欲しいんだ。今度謝罪に皆で行くよ」


ガレットが申し訳なさそうに言った。


「分かった。言っておく。俺は感謝してるから気にしないで良いけど、ユリナは怖いから、覚悟して来いよ」

「分かった」


ガレットは頭をポリポリと掻いて言った。


「そういえば、1つ気になったんだが。

このピアスでステータスを見れなくなるって事だけど、アズルトって奴はどうだった?」


俺も少しなら他人のステータスを見る事が出来たのだが、アズルトは全然見る事が出来なかった。


「あぁ、アズルトな。見れなかった。右耳にそれと同じピアスを付けていたよ、不気味な男だ」


それから、少し歩きながらガレットと話をした。

アズルトは憲兵長がつてを使って連れてきた彫師で、悪い意味で良い感じの男だったらしい。

何と言うか、前のギリーの様な男という、ふれ込みだったらしい。

しかし、きた男は、話しと全然違う、愛想の良い男で。

他の憲兵達も、『あれ?』って感じに。

そもそも、聞いていた容姿とも違うそうで、今は、その憲兵長のつてに確認中らしい。

やっぱりアイツ胡散臭い。

アッシュは大分なついていたみたいだから気を付けないとな。

ずいぶん遅くなってしまった。

太陽が山にかかろうとしている。

トボトボと歩いていると孤児院の方からユリナが走ってくるのが見えた。

俺もユリナの方へと小走りで近付く、

「秋人!何処に行ってたんだ!?」

「ごめんごめん、憲兵達に捕まってた」

「憲兵に?」

「そう、いい人達だったよ。もう大丈夫」

「そ、それじゃあ、カナリアは?」

「カナリア?」


ユリナの顔が青くなる、


「カナリアが!カナリアが居ないんだ!」

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