レラトとレイナ2
レラトとレイナ2
皆で建物に入るとアッシュが突進してきた。
「秋人兄ちゃん!俺に剣術教えてよ!」
と、でっかい声で迫ってくるので襟首を『ムンズ』と掴むとアズルトに向かって投げる、アズルトはアッシュをしっかりとキャッチした。
「アズ兄ちゃんに教えてもらいなさい。あと、アズはそれ以上立ち入り禁止だから」
当然のように付いてこようとしていたアズルトは、また肩を落として、ガッカリのポーズ。
アッシュに手を引かれて外へ出ていった。
「ヘンリエッタも、夕方また来たら?」
と、聞いたのだがヘンリエッタは首を左右に振った。
さっき、領主代理の話を聞いたときからヘンリエッタは黙まったままだ。
水戸◯門ごっことか止めてくれよ?
金さんとか角さんとか俺はやらないよ?でも、はち兵ぐらいなら良いかな?
リビングに到着すると適当な椅子に座る。
どれも子供用なので体に対してちぐはぐな感じがするが、ヘンリエッタだけ違和感が無い。
レラトさんは背筋を伸ばして座っていた。
「まずはこれまでの事をお詫びします」
レラトさんは深く頭を下げて、隣に座るレイナちゃんも頭をペコリと下げた。
「あんた達はねぇ!私達がどんな気持ちで一日一日を過ごしているか分からないんだよ!」
「本当に申し訳ないです」レラトさんは頭を下げたままだ。
「この子だって死にかけてたんだよ!」
ユリナはお茶を運んできたカナリアを指差して言った。
カナリアは一人一人にお茶を置いていく。
「ごめんなさい」
レラトさんはカナリアの目を見てから、深く頭を下げた。
「大丈夫ですよ。気にしないでください、秋人お兄ちゃんが助けてくれましたからね」
「そうだったんですか?」レラトさんは俺を見て、「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
そもそも分からないことがある。
「その、そもそも領主代理は孤児院に対して何をしたの?」
「金銭の要求だ」
ユリナが言った。カナリアの命が危なかった時を思い出しているのか、涙ぐんでいる。
「孤児院に?」
「そう、この建物の使用料として月に一回、金貨一枚を払うように言って来たんだ。秋人が来てからは払うの止めたけどね」
ユリナが顔を歪めながら言った。
「そうだったの?」
「そう、領主代理が難癖付けに来たら秋人に殺して貰おうと思っていたんだけどな」
「おいおい!」
まぁ、来たら殺してたと思うけど、、、。
「お母さんが一生懸命止めたんです!『そんな事はしないでで!』って!」
レイナちゃんが声を出した。
きっとお母さんがずっと謝っているのに耐えられなかったんだろう。
「そんなの当たり前だよ」ユリナは冷たく言った。「私だって、秋人が間違った事をするなら当然止める。ここの子供達が間違った事、身の丈に合わない事をしたら叱る。そんなの当たり前だ」
レイナちゃんは下を向いて黙ってしまった。
「分かった、謝罪を受け入れるよ」
「秋人!」
俺の言葉にユリナが怒った。
「まあ待て、謝るべきなのは領主代理だろ?この二人じゃあない。それをこうして謝罪に来てくれただけ良いじゃん」
しぶしぶといった様子でユリナは座った。
「でも、何でわざわざここへ?」
と俺は二人を見て言った。
領主代理と切れたと言っても、そのまま実家に行くなり別の所に住むなりすればいい。
「信じられないかも知れませんが、領主代理がこうして得たお金でご飯を食べるのは心が痛みました」
「その割には肌艶良いじゃないか」ユリナが言った。
「心を尽くし出してくれた料理を私は残すことが出来ません。申し訳なかったです」
レラトさんは再び頭を下げる。
ユリナは自分も料理をする人間として納得したのだろう。黙った。
「これでも私は、子供を持つ身として、子供を餓えさせてまで、ご飯を食べたいとは思いません。しかし、子供を餓えさせてまでご飯を食べてきたのは事実。いつか謝罪にはお伺いしたいと。そして、その孤児院を救って下さった秋人様がどんな方なのか興味がありました」
「こんな冴えない男だけどね」
俺は肩をすくめて言った。
「いいえ、とてもお優しそうで。私、実はもっと男っぽいといいますか、トロールのような人を想像しておりました」
「ふん!見くびるんじゃあないよ、秋人はこの村で一番強いんだからね!」
「そうなんですか?!凄い!」
「まぁな」
ユリナが誇らしそうに言ったけど、、。
そんな事無いからね。
「それで、二人はこれからどうするの?」
「それが、私の実家へは距離がありまして、それに、恥ずかしながら私達に金銭的な余裕が無く」
「領主代理からぶんどってくれば良かったじゃないか!」
ユリナが言った。
「あの人が集めたお金にはもう触れたくありません」
「え?じゃあ、もしかして金が無いなら、行き先も無いんじゃあ無いの?」
レラトさんは俺の質問に、『お恥ずかしながら』と言いながら頷いた。
しかし、そんなんで、よく領主代理の所から出てきたな。
「じゃあ、これから二人はどうするの?」
「どうしましょう」とレイナさんは言った。「住み込みで働くか、それとも、ねぇ」とレラトさんはレイナちゃんを見る。
「誰かに養ってもらうか?」
とレイナちゃんは俺をチラチラ見てくる。
「そうねぇ、本当は、秋人様がとても素敵な方だとお伺いしていたので、秋人様に貰ってもらおうと思っていたのですが、、」
ユリナが二人を睨んで、「ダメだよ!」と言った。
「そうですよね。ユリナさんが羨ましいですわ、こんな、素敵な旦那様がいらっしゃって」
「へっ、まあな」
「秋人様って、強くて、お優しくって。とても穏やかでしょう?」
「そうなんだよ。でもな、今は『なよ』って顔をしてるが、いざって時には結構鋭い目をするんだぜ!」
「あら、ぜひ見てみたいわ!」
「だろ!?凄いカッコいいんだ!」
「やっぱり、ユリナさんが羨ましいですわ」
「でも、悪いが嫁にはしてやれないぜ?」
何故かユリナが断る。
「わかってます、こんな素敵なお嫁さんがいらっしゃるんですもの!私達なんて、、」
「そ、そんな、俺なんて全然対したことねぇよ!」
ユリナはそう言いながらも顔を赤くしてもじもじしている。
ちなみに俺的にも嫁はもう十分だ。これ以上嫁が増えたら体が持たない。
「本当にユリナさんはお綺麗ですし、、。秋人様がお嫁さんにしたくなる気持ちもわかりますわ」
「そ、そんな!俺なんて、全然綺麗なんかねぇよ」
「ううん、いいんですの、いいんですの。とってもお似合いのお二人ですわ」
「そ、そうかなぁ」
ユリナは照れている。
「本当にお似合いですよ?だから、私達の近くに入る場所なんて無さそうですね?」
とレラトさんはレイナちゃんを見ていった。
レイナちゃんは小さく頷く。
「ではそろそろ、おいとましましょうか、行き先なんて何処にもありませんが、ここに何時までも居るわけには、、、」
レラトさんがそう言って立ち上がろうとした時、
「そんな水くさいじゃあねぇか」とユリナが言った。「行き先が無いなら此処にいろよ!部屋なんていくらでも空いてるしよ!」
ユリナは乗せられたのに気付いていないようだ。
「でも、良いんですか?」
とレラトさんは俺を見て言う。
「うん、良いんじゃない」
「な、秋人もこう言ってんだ、そうしろよ」
「では、申し訳ありません、少し此方にご厄介になりますわ」
とレラトさんは微笑んで言った。
あぁ、昼寝をしている時間は無くなったな。
そんな事を思っている秋人の隣で、ヘンリエッタとサーシャさんが酷く凹んだ顔をしていたのだが誰も気付かなかった。




