領主代理
領主代理
領主の仕事とは、それは華やかなものなのだ。
国王が開く晩餐会や、ティーパーティ。
それらは珍しい食べ物、希少な酒が並び、参列者もそれに見会った格好をする。
天井から吊るされた大きなシャンデリア。
楽団の奏でる音楽。
その中で妻と踊るのはなんとも言えぬ幸福に包まれるのだ。
自分が選ばれた人間であると実感できる悦び。
自分が搾取する側の人間であると実感できる悦び。
それを実感できる晩餐会で、私は負けたのだ。
権力闘争に。
晩餐会は華やかだが、同時に恐ろしい場所でもある。
口元を隠す扇の下で繰り広げられる情報戦。
当時の宰相様の右腕に付いていた私は、宰相様が失脚したと同時に私はこの村の領主代理へと左遷された。
領主は、領主という仕事柄どうしても王都に行きっぱなしになる。その領主をサポートするための役職が領主代理だ。
領主に変わってこの村を統治するのが役目で。
簡易裁判に、刑の執行。
近隣の村への訪問。
議会をまとめ。
これらは結局は、ただの雑務。
こんな田舎でただ雑務をこなす。
こんな生活をいつまでも続けるのは御免だ!
少しでも早く脱却して王都で返り咲きたい。
そう思って金を集めていた。
集めている金で宰相様ともう一度、今度こそ!
第二王子様を国王に押し上げ
あの場所へ返り咲きたかった。
それが、
王都から来た兵士達がこの村の事を嗅ぎ回っているとの情報があったのだ。
気付かれたかもしれない。王都に戻るための活動資金を、その金を集めている間に王都の人間に目を付けられてしまうとは。
そもそも、領民からより多くの税を集めて何が悪い!
どこの村でも大なり小なりやっていることだ!
私だけでは無い!
「ニード様」
「なんだ!」
妻のレラトに向かって怒鳴った。
「私はこの村が好きですよ?のどかで。
この綺麗な山々を窓から眺めているととても幸せな気持ちになるのです」
「こんな村!何処が良いんだ!お前はもう忘れてしまったのか?!あの晩餐会での日々を!」
「私は今の生活の方が好きです。料理長の作ってくれるお料理もとっても美味しいわ」
「は!あんな田舎臭い食べ物がか!?あんなものブタのエサだ!」
俺がそう言うと、レラトは目を細めて俺を睨んできた。
「なんだ!文句があるのか!」 俺は語気を荒立てる。
「じゃあ私はブタなのですね?」
「そんな事は言っておらん!!」
レラトは俺を、じっと見てくる。
レラトとは晩餐会で知り合った。
褐色がかった肌から漂うオリエンタルな雰囲気に引かれ、異国の貴族だったレラトを必死で口説いて自分の伴侶となってもらった。
レラトは普段は大人しく、俺を立ててくれるのだが、いったん怒ると一歩も引く事は無かった。
「分かってくれ!お前ともう一度あの晩餐会で踊りたいんだ!まさか、忘れてしまったのか訳じゃあ無いだろう!」
「覚えておりますとも、貴方が愚かにも嵌められた、あの晩餐会を!」
「まだ言うか!」
「何度でも!貴方は嵌められたのです!嵌められたので無いと言うのなら、何故あの元宰相は現宰相の右腕になど収まっているのです?!茶番だったのですよ!」
元宰相様を筆頭に反第一王子派が出来上がった。
俺はそのまとめ役を担った。
身に余る役目だったが、私を蔑んでくる連中を見返すため奮闘した。
仲間はなかなか集まらなかったが、それでも集まった仲間と共により大きな権力を得るために立ち上がったのだ。
そして、宰相様のお声の元計画を進め、いざ決行するその時に皆捕縛されたのだ。
情報は第一王子派に全て筒抜けだった。
誰が情報を漏洩したのか?
そう聞かれれば確かに宰相様はあやしいのかもしれない。
現宰相の右腕になっているのだから。
しかし、それを言うなら俺だって刑が軽すぎる。
『国家転覆』を狙った重罪人として死刑になったものだっているのだ、その中で私や元宰相様の罪は確かに軽かった。
レラトは、元宰相様が反第一王子派を一網打尽にするために、私を使って第二王子派を纏めさせ、それを一度に叩いたと。
そう思っているのだ。
「元宰相様への刑罰は確かに軽かった!でも私だって、罪が軽いぞ!主犯なのにな!」
「そんなもの!貴方が相手にするほどの価値が無いからに決まってます!ただのお飾りだったからですよ!」
「なんだと!」
『ペシ!』
レラトの頬をひっぱたいた!
レラトの方が身長が高いため上手く力が入らない。
「誰の為に頑張っていると思っているのだ!」
「ご自分のためでしょう!!」
「お前達により良い暮らしをさせてやるためだ!」
「そんなこと!私もレイナも頼んでません!この村の生活に満足出来ます!」
「そんなもの!王都の方が良い暮らしが出来るに決まっている!」
「良く回りを見てみてください!良くご自分を見てみてください!貴方にはこの村の領主代理ぐらいが丁度良いのです!領民から尊敬される領主代理になってください!」
「ぐらいだと?!領主代理ぐらいがだと!ふざけるな!出ていけ!蛮族の女など、めとるべきでは無かったわ!」
「蛮族?!」
蛮族というのは肌が茶褐色の民に向けて使われる別称だった。
レラトの目に涙が貯まる。
しまった!
「では、出て行きましょう。私の事は蛮族でブタに見えるのでしょうね。レイナと共に此処を出ます」
「待て!」
慌てて手を伸ばして止めようとするがレラトは部屋を出ていってしまった。
クソ!!
何でこんな事になった!




