そして再び村へ。
そして再び村。
ヘンリエッタ様は機嫌がかなり宜しいようだ。
秋人様に書いて頂いた絵をずっと眺めていらっしゃる。
ヘンリエッタ様はその絵をとても気に入った様子で、
「この中から選ぶなんて無理だよぉ」
なんておっしゃている。
秋人様の描いた絵はヘンリエッタ様の心を掴んだのだけど、掴んだのはヘンリエッタ様の心をだけでは無かった。
私の心もだ。
彫師という職業に良いイメージが無い。
偉そうにして、『彫ってやっている』という、あの態度が許せないのだ。
それに比べて秋人様は、最初ヘンリエッタ様を子供扱いした時は困ったが。
物腰も柔らかく、事細かに気を使ってくれた。
ヘンリエッタ様だけでない。
私や、王と王妃に対してもだ。
私や、王と王妃は、ヘンリエッタ様の体に入れ墨を彫るのに反対だった、出来るなら入れ墨は止めて欲しい。
そんな気持ちがあった。
そんな私達の気持ちを秋人様は汲んでくれた。
目立つ所に彫りたがるヘンリエッタ様に、私達の思いを伝え、妥協点を導きだしてくれた。
秋人様が進めてくれた彫る場所は、耳の後ろめたという少し変わった場所だったけれど。
言われてしまえば納得。
耳の後ろというのは見せたり隠したりがとてもしやすい所だった。
服で隠したり、見せたりするのは調節が難しい。
服で隠せる場所に彫ろうとすると、どうしても夏は薄着になるので入れ墨が出やすいし、冬は厚着をするのでほぼ隠れてしまう。
耳の後ろに彫る。
これならば不適切な場面で入れ墨が露になるなんて事にはならないはずだ。
夏の晩餐会で無駄に着込んで隠す必要も無い。冬場に入れ墨を見せようとしてヘンリエッタ様が薄着になる心配も無い。
これは体の弱いヘンリエッタ様のメイドをさせて頂いている私としてもとてもありがたかった。
そして、そのヘンリエッタ様の体の弱さ。
秋人様はヘンリエッタ様の体が弱く、傷の治りが遅い事を言い当て、治療をしてくださった。
『治るかどうかは分からない』と言ってはいたが。
治療をしてくださっただけでも十分。
国の医師達、神殿の者達は皆、原因不明と言って、あっさりと諦めたのだから。
秋人様が『彫る前にカウンセリングをする』そう仰っていたと、聞いたとき『彫師風情が何を大袈裟な』そんな事を思った。
しかし、秋人様がしてくださったのは確かにカウンセリングだった。ヘンリエッタ様だけでなく、私もカウンセリングしてくださり、ヘンリエッタ様のお体まで心配してくださった。
その上での提案は、とても心暖まるもので。
王都から出て来てずっとザワついていた、私の気持ちを落ち着かせてくれた。
私を側女として置いて貰えないだろうか。
ふと、そんな想いが沸き上がるが、頭を振ってそれを散らした。
・
「とう思う?」レベックに聞いた。
「フェタさん、本当に真っ黒でしたよ」
「よく今まで問題にならなかったな」
「恐らく、王都側にも、、、」
この村の、カロイラ村の領主代理と憲兵達が領民達に根拠の無い追徴課税迫っていると冒険者ギルドからの情報があった。
それを調べるため、ヘンリエッタ様への従者を兼ねてこの村に来ていた。
「どうします?全員捕らえますか?」とリドが聞いてくる
「いや、それは本隊の仕事だ」
俺がそう言うとリドは不機嫌になったようだ。口を尖らせている。
子供の様だ。
今は宿へと戻ってきていた。
「ヘンリエッタ様はどうしてる?」レベックに聞いた。
「ご機嫌ですよ、あの彫師が描いた絵をずっと見てるみたいですね」
「サーシャさんは?」
「サーシャさんもです」
「あんなに入れ墨に反対していたのに?」
レベックは頷いた。
ヘンリエッタの両親、ようは王と王妃はヘンリエッタ様が入れ墨を入れるのに反対しており、入れ墨を入れるお目付け役に、サーシャさんを指名したのだった。
「サーシャさん、『私も彫って貰おうかしら?』なんて言ってましたよ?」
「嘘だろ?」
サーシャさんは彫師があまり好きでは無いと、言っていたはずだか。
「ヘンリエッタ様のお体に針を指して良いのは『秋人様だけ』だそうですよ?」
「へぇ、信頼が厚いな」
村人達に秋人という彫師について聞いてみるとどこでも評判が良いようだった。
確かに、孤児院の子供達の面倒も見ているのは、大きな好印象に繋がるだりう。
最初秋人に会った時のイメージが強く、秋人にはマイナスイメージが俺にはあるが、そうでもないのかもしれない。




