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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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異世界でウェイターになる

異世界でウェイターになる



エルザと昼食を食べてから身の回りの物を一通り揃えると、エルザと別れた。服装は黒と茶色の地味なものにした。それに合わせて皮の装備を一式と、刀ぐらいの長さの西洋剣を買った。

ちなみにそれらはリュックと一緒にエルザの教えてくれた空間魔法で仕舞った。MPを大分消費したけど、スリや置き引きの心配が無くていい。


「おーい!」ドニーの宿に戻ると大声をだした。

「なんだい!」


奥からだるまさんが出てくる。


「さぁ、何する?出来ることなら何でもするよ?」

「じゃあ、皮剥きでもしてもらうかね」


だるまさんは仮眠をとっていたのだろうか眠そうにしてる。


「はいよ」


厨房はキレイだった。木のまな板と良く研がれた包丁。

じゃがいもらしき物体を指差すので包丁を使って皮剥きをする。じゃかましいの芽らしきものを見つけると。


「ちゃんと芽を取るんだよ!」


と言われた。こりゃ、じゃがいもだな。

黙々と剥く。じいちゃんとの二人暮らしだった、もちろん炊事、洗濯、掃除はこなしてきた。


「上手いじゃないか」だるまさんが後ろから声をかけてくる。

「合格かい?」

「まあね」


だるまさんは、ふん!と鼻息を吹くと手から火を出して鍋を暖めだす。

やがて、 ドニーが厨房に入ってくるとなにやら準備を始める。そろそろ忙しくなるのかもしれない。


「客が来たら外に出とくれよ」だるまさんがしゃべった。

「はいよ」

「注文を取って言われたテーブルに持っていけばいい」

「あっ、そういえば、臨時収入があってさ、部屋に泊まる事はできる?」

「出来るよ!そういう事は早く言うんだよ!」


だるまさんに怒られてしまった。


「後で大銅貨4枚だよ!」


それから徐々に客が入り始める。だるまさんが料理を作り、ドニーがドリンクを作り、俺が配膳になった。

元は二人で回していたのだろう、問題なく進む。客は酒が進むと段々荒っぽくなってくる。


「おい、兄ちゃん!兄ちゃんも良いけど!姉ちゃんがいいなぁ、あの乳のでっかい姉ちゃんと代わっててくれや?」

「あの乳は俺んのだよ。俺の尻でも揉んでくれ」

「げはははは、そうすっかぁ!」


本当に揉まれた。

酔っぱらいの相手は女性には大変かも。冒険者が多いからか、皆荒っぽいし。

会計はドニーがした、暗算は苦手なようでそろばんの様なものを弾いている。

会計を頼まれると、金額を大声で伝えてから取りに行く。慣れた客はドニーが取りに行く前に大声で必要なお釣りを伝えていた。

ドニーはドリンクと会計と厨房が落ちつくにつれて段々忙しくなる。そしてまた、奥のテーブルから会計を頼まれると金額を大声で伝えた。


「お釣りは要らないよ!」


奥のお客さんがそう言って店を出ていこうとする。エルザはそれを見て慌てて席まで行く。どうせちょうどだと言って足りなかったりするんだろう。

ドニーがお金を数えて戻ろうとしたその時。


「きゃ!」


ドニーが声を上げた。

「おいおい、ちょっと触ったらだけじゃねえか?」ドニーが側にいる客を睨み付ける。


「どうした?あぁ、足りねぇか?もっと揉んでやるよ、近くへ来な?」


ドニーは胸を隠して後ろへ下がる。若い男だ、ちなみに俺の尻を揉んだのと違う客だ。


「サービスが悪りぃなぁいいだろ?」


そう言ってドニーへ手を伸ばす。


「しょうがねぇ。いいぜ、金なら有るいくらだ?」


そう言って懐から財布をだすと銀貨を床へ転がした。

他の客も飲む手を止めて見ている。

これをなあなあにしたらこの商売はやっていけないな。おさわりパブになっちまう。

ドニーとその客の間に入る。その客の頭の上には6の文字が浮かんでる。バルサンより一つ上の数字だが、バルサンより強く見えない。


「その女一晩借りるぜ」

「出てけ」


俺がそう言うと6は一瞬力を抜いて肩を下げる。そこから一気に殴りかかってくる。

不意討ちのつもりだろうか?あえてもらう、ただし頬骨でだ。


『ごっ』


という音がする。剛体ってば優秀。ほとんど痛くない。

お返しに下がろうとする6の顎を打つ、簡単に当たった。6はふらふらしながらも何とかして立っている。


「出てけ」

もう一度言う。

「客にこんなことして良いと思ってんのかよ!」


みたいな事を言っている上手くろれつがわまってない。


「てめぇみてぇな奴客じゃあねぇ!今すぐ会計を済ませて出てけ!」


店の中が静まりかえる。6が俺を睨み付けてくる。

しかし、どここからか笑い声が聞こえる。


「兄ちゃんそこは普通『金は要らねぇ!今すぐ出ていけ!』じゃねぇの?」


これはさっきの俺の尻を揉んだおっさんだ。


「いや、金は払わなきゃダメだろ?」


俺がそう言うと店の中が笑いで包まれた。

結局6はごねたが、尻揉みのおっさんが睨みをきかすと金を払って出ていった。

これからしばらくこの店では『今すぐ会計をすませて出ていけ!』が流行語になった。 そして俺のあだ名が『しまりの無い兄ちゃん』になった。これは俺の尻は揉んも良いと言ったのも原因だった。反省。俺ノンケなのに。

その日はそうそうに店を閉めることに、片付けているとだるまさんが話しかけてきた。


「あんた、さっき殴られてたけど大丈夫なのかい?」心配してくれた。

「大丈夫。頬で受けたからね」

「そんなもんなのかい?」

「そんなもん、素手の攻撃を体の硬い部分で受けるのは良くあるんだよ」

「ふーん」

「例えば頭を素手で殴ったら骨折するには素手の方だし」顎で受けたらダメだったけどね。

「でも痛かったろう?」


スキルがあったから痛くは無かったけど


「全然痛くなかったよ」スキルは隠したい。「それに、先に殴られておけば後で何か言われても大丈夫でしよ?」


既成事実ってやつだ。


「そんな事、、、、。次は問答無用で殴るんだよ」


やっぱり荒っぽいな。


「でも、あの子の乳はあの子のもんだからね!」


聞いていたか、、。釘を刺されてしまった。

ドニーにもお礼を言われた。でも、本当は自分で殴りたかったらしく。余計なことすんなとも言われた。一通りグチグチ言ったあと、俺の部屋を用意するから風呂に行けと言われた。実はドニーが小屋に藁をひいといてくれたらしく舌打ちされた。だからだるまさんがさっき怒ってたのね。

それから出してくれた夕飯は野菜のスープと、バターの香りする肉のソテー、付け合わせは茹でたじゃがいも。シンプルだけど美味しかった。肉は豚っぽかった。

お風呂はこの宿には付いていないので、入るなら隣の銭湯に行けと言われた。下着の代えは空間魔法で仕舞ってあるので手ぶらで銭湯へ行く。

やっぱり日本人、肩までしっかりお湯に浸かりたいので有りがたい。しかも!日本だと入れ墨が入ってると銭湯に入れさせて貰えないので実は一年ぶりの銭湯だった。

建物は、でっかい煙突が有る以外他と同じレンガ作りますだった。入り口で小銅貨を2枚払うと脱衣場で真っ裸になる。空間魔法で、着替えと手拭いを出すと、手拭いを持って風呂場へ入る。

日本と同じ仕様の様だ、湯船と洗い場が有る。洗い場は蛇口をひねればお湯が出るらしい。この辺も一緒だ。

さてさて、まずは一通り洗うとするか、、、。ふと、他の客を見るとやはり入れ墨をいれている人が多い。ってか、皆体のどっかに入れている。文字みたいなのから、絵のようなものまで、、、。ってか、ださっ。えっ、ひどい?スッゲー雑!

あまりジロジロ見るのは悪いので体を洗いながらチラチラ見る。きっと、デザインを一切決めないで彫ってるな。

かわいそうに。体を洗って湯船に浸かるとじい様が話しかけてきた。


「いい墨が入ってんな、若いの」

「分かる?」

「高かったろ?」

「いや、師匠にいれてもらったからさ」

「そうかい、そりゃよかったな」じい様にもいい墨が入ってる。「何て彫師だい?」


じい様の両腕と背中に法印が、背中には鳥も彫られてる。これはどちらもしっかり彫られてる。


「それが、記憶が無くってさ何か色々分かんないんだよ」


記憶喪失の設定めんどくせぇな。


「ほう、そうかい、長く生きてるけどそんな奴初めて見たよ」

「俺もだよ」

「んな事より、じゃあおめぇさんも彫るのかよ?」

「出来たらね」

「あぁ、記憶が無えしなぁ」じい様はシワのある頬を撫でている。「難儀だなぁ」


じい様は60代ぐらいで体には切り傷がいくつも刻まれている。しかし、体は鍛えられていて体だけ見るなら年を感じさせない。


「おめえさんは普段何処だい?」

「一応、隣の宿屋で世話になってるよ」

「セリアさんのとこかい?」


だるまさんのことか?


「あぁ、娘さんはドニーって名前だけど」

「そうそう、でっかい乳のな」有名らしい。「この街はいい彫師が少ねぇ、大変かもしれんががんばっとくれよ」じい様が湯で顔を洗う。「そういゃあ、お前さんの名前はなんだい?」

「秋人だ」

「俺はクロードだよろしくな」


じい様はそう言うと湯船から上がって体を洗いだした。

おいおい!コラ!ジジイ!体を洗ってから湯船だろ!入ってから洗ってんじゃねぇ!

俺は体をもう一度洗ってから風呂を出た。チッ、いい気分が台無しだせ!

着流しに着替えて宿に戻ると、銭湯に行くドニーとすれ違いになった、部屋は二階に上がってすぐの部屋だった。天井から糸でガラス玉が吊るされている。それにエルザに教えて貰った光魔法で部屋に光を灯す。部屋は4畳ほどの広さでほとんどベッドでスペースが埋まっている。小さい机と椅子。クローゼットっぽい物も有るけど入れる物も無い。

やることも無いので閂を閉め着流しのまま寝ることにした。

やべ、明かりの消しかたわかんねぇ。

あきらめて布団を頭からかぶる。やはり疲れていたらしい。どんな法印を彫るか考えているとあっという間に眠くなった。



男は希少だ。

男は出生率は高いのだが、小さいうちは体が弱く大きくなる前に死んでしまう事が多い。しかも、どうしても危険な仕事は男任せな所があって、どうしても死んでしまう。二年前に魔物が村に入った時にただでさえ少ない男はさらに少なくなった。

だから大体男は横柄だ。村は男が守ってるって思ってる。二年前魔物に村が襲われたとき子供を置いて逃げたような男でさえ。前から横柄だった男達は男が減ると、さらに横柄になった。

目の前の男もそんな男の一人だ。十代だろう、黒目、黒髪のなよっとした男は、冒険者になりたいと言いながら、私の胸をガン見してきた。

思わず出す声がきつくなる。これでも顔にも自信がある方だ。キレイだと良く言われる。顔を見ないで体ばっかり舐めるように見られて嫌な気持ちにならない訳が無い!

舌打ちしたい気持ちを抑え隣の部屋に案内する。男は後ろから付いてくる。だから自分から男の姿は見えないのだけど、何故か私の体を舐め回すように見ているのが分かる。

冷静を装って手続きを進める。

手続きを進めるとどんな男か分かってきた。その男は変な男だった。

親の居ない子供の心配をしたり、実は記憶くが無いというバレバレの嘘を言い。背中には大きな彫り、レベル1とはいえ、異常な量のスキル。そして、私が背中をペンでなぞると指でなぞったと勘違いし首を赤く染めていた。しかも、からかっても怒らなかった。これぐらいの年だともう女だからと、なめて来るのが普通なのに。からかったら普通怒りだす。照れて顔を赤くするとか、 あり得ない。

訓練所では凄かった、スキルがあるからどうかと思ったんだけど、まさか勝つとは思わなかった。レベル1とレベル5は全然違う。レベル50とレベル55なら大差ないけど、レベル1の人間がレベル5の人間に勝つなんて。

ちょっと卑怯だったようだけど、倒れてるバルザックさんを介抱して、どうだったか聞いてみると。


「おとなしいそうな顔のわりに野犬のようだった」と言っていた。「俺があまかった」


とも言った。卑怯だとは思わなかったみたい、そういうもののなのだろうか。

夕方までは暇なので買い物に一緒に出るとお昼ご飯をご馳走してくれた。定食と一緒に飲み物も。色々教えてあげつつ、色々愚痴も聞いてもらった。装備など揃えるのを手伝ってあげると、最後に小さなイヤリングを買ってくれた。

最初は体を舐め回すように見てきたのに一回話し出すと体はあんまり見てこなかった。

優しいし、話しやすい。気前も良い。彫師になるなら収入もかなり期待出来る。


「優良物件だ!」


私はそう言ってギルド長の部屋へ入る。


「ノックをしろ」ギルド長が言う。「そんなんだから行き遅れるんだよ」


そんなに広くない部屋に大きい木製の机、その上に書類が乱雑に積まれてる。

うっせー、ジジイ!て言いたいが今日は機嫌が良い、我慢だ。


「クロードさん、優良物件、、、。じゃ無くて、彫師に成りたいって言ってる男がいまして」


クロードさんが机の向こうから顔を上げる。


「ほぅ、それで?」

「それが何だか、記憶が無いらしく、でも彫りかたは覚えているようなんです」


言葉にすると不自然さを強く感じる。


「じゃあ、彫師ギルドの事は知らんな」

「はい」

「じゃあ、渡りに船。その子で行こうかの」クロードさんは白髪頭に手を突っ込むとボリボリとかいた。「ちなみにその子は、、、。上手く彫ってくれるかな?」

「多分、その子の背中にはドラゴンが彫られていまして」

「良かったか?」

「かなり、彫ったのはこの国の五指の誰かかとかと思います」


丁寧に彫られたドラゴンを思い出す。


「あれが背中にあって彫師になりたいと言うので、、、」

「そんなまずいもんは彫らんか」

「はい、あと彫ってくれたのが師匠で秋人のおじいちゃんらしいです」

「もし本当に五指の弟子で孫なら何か有ってからじゃいかんな」


もし、死んでしまったらごめんなさいでは済まない。彫師ギルドからも、国からも責任を問われる。


「何処に行けば会えるかはわかるか?」


クロードさんからの質問に『はい』と答える。


「彫師ギルドともめるかもしれないと伝えたほうがいいですか?」

「いや、いいじゃろ。今聞いた通りの人物ならどのみち彫師ギルドには入らんだろうし」


そうですね、とエルザは答えた。

婚活の標的を秋人に狙いを定めるエルザだが、秋人はエルザはバルザックと良い仲だと思っている事を知らなかった。

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