連れ込み宿へ。
連れ込み宿へ。
セロンをなんとか落ち着かせると、孤児院を出てドニーの宿へと向かった。
ドニーはお母さんのセリアさんと二人で宿屋を営んでいる。
日本からこっちの世界に来た時にはとってもお世話になった。
得体の知れない俺を二人が住み込みで働かせてくれたおかげで、何とか食い繋ぐ事が出来た。
それから冒険者として収入を得られるようになり、彫師としての仕事を孤児院で始めると、ドニーの宿にはすっかり行かなくなっていたが、ドニーが俺の嫁になると、3日に一度はこうして宿に顔を出して、セリアさんとの三人でご飯を食べてから、ドニーを連れ込み宿に連れていくのが恒例になっていた。
「お疲れ様!」
そう言って宿に入ると机にうつ伏したアッシュが手だけ上げて答えた。大分疲れているようだ。
「まだなれないのか?」元気の無いアッシュに声をかける。
「ガラスのコップを割ってお母さんに怒られたんだよね」
俺の質問に答えてくれたのはドニーだ。大きな胸をユッサユッサさせながら近付いてくる。
「ガラスは高いからな」この世界に百円ショップなんて無い。
「給料から引いとくってさ」
アッシュは机にうつ伏したまま言った。
「全く!」
大きな声でお盆を持ったセリアさんが大きな体をユッサユッサさせながら来た。お盆の上には料理が乗っている。
「あれだけ気を付けて運べって私は言っただろう!」
「え?アッシュはいくつ割ったの?」
ドニーが手を『パー』にして見せた。
5つも割ったのか、、、。
「無理もするんじゃあ無いって!私はそうも言ったよねえ!」
セリアさんの怒りはなかなか収まらないようだ。
アッシュはちじこまっている。
セリアさんとアッシュは放っておいて料理を頂くことにした。
セリアさんの料理は冒険者向けの『ガツン!』とした料理が多く、体をいっぱい動かして疲れた日に食べたくなる。そんな料理だ。
「全く!秋人はここで働いていたときに物を壊したり割った事なんて一回も無いよ!」
早速俺は肉に手を伸ばす。
塩コショウと香草でシンプルに焼いた物だが、油がしっかり付いていて美味しい。多目の塩がこれまたたまらん。
「それに!ジャガイモ!あれだけ芽を取れって言ったのに!」
付け合わせのジャガイモにのばした手を止めた。
「忙しい時に一々ジャガイモの芽が付いてないか確認しながら料理するこっちの身にもなってごらん!」
ジャガイモの芽が付いてないかはチェックはしたみたいなので再度ジャガイモに手を伸ばした。
それからもセリアさんのお説教は続き。俺とドニーがお腹いっぱいになるころお説教が終わった。
残りの肉はセリアさんが独り占めにして、アッシュはそれを恨めしそうにしていたがセリアさんは無視した。
「セリアさん、ご馳走さま。美味しかったです」
と言ってお金を出した。
「おカネなんて、いいんだよ!」セリアさんはお金を俺に返そうとする。「娘の旦那から巻き上げるほど落ちぶれちゃあいないよ!」
そう言ってくれたのでありがたくご馳走になった。
今度王都に行ったらガラスのコップでも買ってこよ。
「じゃあ」と言ってドニーと宿を出て連れ込み宿に移動する。
セリアさんは『この宿の空いてる部屋を使えば良いじゃないか!』と言うのだが『それはちょっと、、、』というのが俺とドニーの意見だった。
「お母さんって、本当に無神経なんだから」とドニーが言って、俺は思わず苦笑した。
「そんなに壁も薄くはないんだけどね」
これから一緒に行く連れ込み宿は壁も厚いし、それに声を聴かれたところでやってることも一緒だ。 それに内風呂が付いているのが良い。
した後はさすがに風呂に入らないとね。男はまだ良いけど女性はね。
それに、特にドニーは。
「そういえば、バルザックさんになに彫るかは決まったの?」
バルザックはドニーの宿に入り浸っているためすっかり顔馴染みになっていた。
「あぁ、金が無いみたいで沢山は彫らないけどね」
「そりゃそうよ。だって、スッゴい食べるんだよ?それも高い物ばっかり。お酒も沢山呑むし」
「貧乏だった時の反動らしい」
俺とパーティを組む前は一人で延々とゴブリンばっかり狩っていたらしい。
ゴブリンは煮ても焼いても食べられない上に、薬にもならない。
だからゴブリンを殺すと討伐証明の左耳を切って冒険者ギルドに行くのだが、耳一つにつき小銅貨二枚にしかならないので、沢山狩らないと生活は出来ない。
ましてや、一日中ゴブリンを探して会えるゴブリンは二十体と少しといった所か。
ゴブリンに遭遇出来ない可能性も考慮すると、バルザックは多分その日暮らしみたいな生活をしていたのではないだろうか。
「あと、秋人の気にしていたご一行様の泊まっている宿、分かったみたいだよ」
「おっ、ありがと」
セリアさんは宿屋ギルドの重役みたいで、宿屋ギルドを通じて調べ物をしてくれるのだが、分からない事の方が少ないようだった。
ましてや、宿を利用する冒険者などは素行だったり金の有る無し、といった情報は筒抜けだ。
「一応この村で一番良い宿に泊まっているみたい」
「へぇ、領主のいる舘じゃあ無いんだ」
「そうそう、ご一行の一番若い『リド』って男が酔っ払って洩らしてたらしいんだけど。
この村に来た目的は三つ。
一つ目は、お姫様の『わがまま』これは秋人が彫るって言っていた入れ墨の事ね。
二つ目は、ドラゴンの動向を視るための先見隊として。
三つ目が、領主代理と憲兵の実態を探るため。
この三つみたい。お姫様が入れ墨を彫ったら、すぐ帰って報告して。その報告によっては本隊が来来るかもしれないし、来ないかもしれない。そんな感じみたいよ」
リドか、多分『模造刀君』の事だな。
べらべら喋って本当にあいつはダメダメだな。まぁ、俺は助かったけど。
「ありがと、あともう一つ調べて欲しいんだけど」
と俺は言ってアズルトの事を伝えた。
職業と、姿に容姿、喋り方も。
「珍しいわね」
「何が?」
「黒目に黒髪で目が細くって鼻が引くくって、肌の色も秋人に近いんでしょ?」
「そうそう」ようは、アズルトは日本人顔だ。
「その顔立ちでアズルトかぁ」
「何か変なの?」
「うん、アズルトって名前はこの国だとわりとポピュラーな名前なんだけど、今聞いた特徴の顔って隣の国に、リーザオ王国に多い顔立ちなんだよね」
「リーザオ王国かぁ」セロンが昔住んでいた国だ。
「この国が出来たときに、リーザオ王国からも人が沢山入ってきたから変と言うほどじゃあ無いんだけどね」
ドニーとテクテクと歩く。ドニーは寒いのか俺の腕を取ると自分の腕を絡めてきた。
「お母さんに聞いとくね」
「ありがと、なんだか裏の有りそうな男でさ」
「そうなの?」
「ニコニコ、ニコニコしてるんだけど、違和感があるというか。それに、レベルとかHP、MPも見れないし」
俺のスキル『龍眼』は対象のレベルとHP、MPが分かるというものだが、アズルトのそれは視ることが出来なかった。
これはちなみにセロンの村にいた『犬神様』もだ。
人の言葉を喋ることが出来るというお犬様で、狼ほどの体躯を持った白い毛の犬なのだが、セロン曰く、とてつもなく強い上にとっても永く生きらしい。
そして、犬神様は『幻獣』とも呼ばれ。
殺すことが厳禁なのだそうだ。
何故なら、ドラゴンと幻獣は殺すと必ず魔物が大発生してしまうからだ。
現に隣の国でリーザオ王が2年前にドラゴンを殺した時にはこの村でも魔物が大発生して沢山の人が死んだらしい。
沢山の冒険者や、ドニーの父親、ユリナの前任のシスターもだ。
だから国としても敏感にならざるをえないのだろう。
ヘンリエッタの従者といった形で先見隊寄越してきた。
そして、そのドラゴンを見たいと沢山の人がこの村に集まっているが、身なりのよい貴族と思われる人達に混ざって、明らかにカタギではない人もちらほら居る。
ドラゴンの強い力は色んな人を引き付けていた。
その中にはアズルトのような得体の知れないし人物までも居た。
「はい!難しい顔はここまで!」
ドニーがそう言って俺を見上げる。
いつの間にか連れ込み宿に着いていたようだ。ドニーに腕を引っ張られ宿屋の中へと入る。
ドニーはその時に顔を近付けて、
「いっぱい出してね?」
と言った。
ドニーは俺が出すあの液体が大好きな様で、体に塗りたくったり、ペロペロ舐めたりするのだ。
どうやら、前に付き合っていた男はかなりの遅漏だったらしく(ぶっ殺す!!)。
俺の速攻ぶりがむしろ良いと、嬉しいと言っていた(涙)。
「今日こそ秋人のあれでお風呂をいっぱいにして欲しいんだけど?」と真顔で聞いてきた。
「いや、それやったら俺死ぬよね?」




