アズルト
アズルト
「こんにちは」
彫師だと言った男はニコニコして。愛嬌のある印象だ、声のイントネーションも明るい。
「俺は新原秋人だ。ファミリーネームが新原だから、秋人って呼んでくれればいい」
「僕はアズルト。アズで良いよ」
俺とアズは握手をした。
アズはこの村に来た彫師だそうで、領主代理に呼ばれて来たそうだ。
「良いのか?こんな所に来て?」
憲兵や領主代理は俺の事を良く思っていないはずだ。
その憲兵と領主代理に呼ばれたのなら、俺とは敵対関係にあるはず。
そして、俺の前任の彫師は相場の五倍の金額で入れ墨を彫って一部を上納金として憲兵と領主代理に納めていた。
もちろん俺はそんな事はしない。
そしてわこいつはワザワザそんなもの払うのか?
「なんか領主代理は色々言ってた気がするけど、関係無いよ。領主代理や憲兵は自分達の思い通りに進めたいみたいだけど。ギルドが現体制に意義を正面だって唱えたみたいだし。もう無理だね」
へぇ、そんな事になってたんだ。
ギルド長がいざこざは任せておけと言っていたけど。一応仕事をしてたんだな。
「僕が入れ墨を彫るにしても、君は村人からの信頼も厚いみたいだし。憲兵と領主代理の関係者に彫って終わりかな」
少し照れる、一応出来る限りの仕事をしているつもりだ。
「それに」アズはニコニコしている。「憲兵に君を殺せるとは思えない」
アズがそう言った瞬間に殺意をアズに飛ばす。
「そんな事ねぇだろ」
アズを睨み付けるがアズはニコニコしたままだ。
食えない男だ。
「何の用だ?」
「お近づきになりたいだけさ」
「なってどうする?」
アズは自分の背中を指差した。
「僕の背中を彫って欲しいんだ」
「嫌だね」
アズを睨み付けるが、アズはニコニコしたままだ。
食えねぇ男だ。
「で?何が望みだい?」放っていた殺気を納めて再度聞く。
「いや、背中に彫って欲しいんだけど」
アズは変わらずにニコニコしている。
「嘘だろ?」
「いや、本当に彫って欲しいんだけど」
アズは初めて困ったような顔をした。
「本当は自分で彫りたいんだけど背中だけは自分じゃあどうにもならないからね」
俺の背中には入れ墨が既にあるから、あんまり考えた事が無いけど。確かに彫師にとって、背中の入れ墨を誰に彫ってもらうかは切実な問題なのかもしれない。
「じゃあ、何を彫れば良いんだ?」
「まぁ、それはおいおいで。今すぐ彫りたい訳じゃないんだ、正直秋人の彫りを見たことが無いしね。親睦を深めつつって所かな?あっ、僕は秋人が良ければ、いつでも秋人の背中を彫らしててもらうけど?」




